2015フランクフルトショー

【インタビュー】マツダ「越 KOERU」チーフデザイナーの小泉巌氏に聞く

“生命力”と“品格”によって魂動デザインがさらに進化

2015年9月19日~27日(一般公開)

独フランクフルト Messe Frankfurt

「魂動」の真髄である“生命力”と、日本の伝統的な美意識にも通じる研ぎ澄まされた“品格”の表現にチャレンジしたというクロスオーバーコンセプト「越 KOERU」。どのような存在で、デザインにどのようなメッセージを込めたのかなどを、チーフデザイナーの小泉巌氏に伺った

 フランクフルトショーでワールドプレミアされたマツダのクロスオーバーコンセプト「越 KOERU」。2012年に販売が始まった「CX-5」からスタートした新世代商品群は、今年の5月に販売された「ロードスター」で6車種が出揃った。機能面ではエンジン、トランスミッション、シャシーなどに「SKYACTIV TECHNOLOGY」と呼ばれる最新技術を取り入れたこと、デザイン面では生命感や躍動感を強く印象づける「魂動(こどう)デザイン」を採用していることが、新世代商品群の大きな特徴になっている。SKYACTIVと魂動デザインの強力なコラボレーションにより、マツダの新世代商品群はグローバルでも高い評価を得ていて、フランクフルトショーの会期中に行われたドイツ自動車デザイン賞では、3つの分野の賞を獲得した。

 そんな魂動デザインの最後発として発表されたのが、デザインコンセプトの「越 KOERU」になる。ボディーサイズは4600×1900×1500mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2700mm。全幅や全高はショーモデルなので、仮に市販化される場合には修正が加えられるだろう。ホイールベースの2700mmはCX-5やアクセラと同様になる。デザインを見る限りはCピラー以降が寝かされていて、いわゆるクーペフォルムに仕立てられている。デザインコンセプトといえども、新世代商品群のCX-5やアクセラと同様のシャシーを使っている「越 KOERU」なので、市販化を想定していないはずはない。

 では、コンセプトカーの「越 KOERU」は、どのような存在なのか。そしてデザインに込められたメッセージは何なのか。チーフデザイナーを務めた小泉巌氏に話を伺った。


「越 KOERU」のボディーサイズは4600×1900×1500mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2700mm。ロー&ワイドを強調したスポーティなデザインが特徴的
今回お話を伺ったマツダ デザイン本部 チーフデザイナーの小泉巌氏は、1982年3月に東洋工業(現マツダ)に入社。初代「フェスティバ」(1986年)や「ユーノスコスモ」(1990年)、「ランティス(セダン)」(1993年)、「プレマシー(初代)」(1998年)などのエクステリアデザイナーを務めたのち、「アテンザ」(2002年)や「CX-7」(2006年)、「ビアンテ」(2008年)、さらに新世代商品群(CX-5、アテンザ、アクセラ)のチーフデザイナーを務める

──まずは「越 KOERU」の概要について教えて下さい。

小泉氏:「越 KOERU」は、コンセプトカーの中でも役目としてはデザインスタディモデルになり、魂動デザインの進化を考えて作ったものです。すでに市販されている新世代商品群の6モデルの野性的な表現を、さらにもう一歩突っ込んでデザインしました。

──具体的には、どのようなところに突っ込んだ手法を使ったのでしょうか?

小泉氏:プロポーションをよりエクストリームに表現しています。見ても分かると思いますが、大きなタイヤやスリークなキャビンを持っています。そしてサイドビューは抑揚を抑えつつ、プランビューでは抑揚を付けています。プランビューから見ると抑揚があり、そこに生まれたハイライトがタイヤに向かっていて、魂動デザインのモデルに共通するトラクションが掛かっているように見えるはずです。無駄なボリュームを抑えつつも力感を地面に伝えることが進化であり、新しい魂動デザインの表現になっています。

──新世代商品群の市販車を担当するチーフデザイナーは何人かいらっしゃいますが、それぞれ魂動デザインの解釈や表現が異なると思います。小泉さんはどのようにお考えですか?

小泉氏:魂動デザインの共通理念で、“クルマに命を与える”ということがあります。欧米の人達はクルマを道具としてとらえていて、生き物に例えることはありません。しかし、日本人は物を作るときに命を込めようとします。例えば生け花がよい例ですが、池坊さんに話を聞くと「3次元の空間に命を吹き込みたい」というのです。これは日本文化であり、古来からの物の捉え方だと思っていて、魂動デザインのクルマにも同じことが言えます。

──スリークなキャビンは今年の3月に発売した「CX-3」でも採用されていますが、サイドビューのラインについては表現方法が異なりますね。

小泉氏:そうです。ラインはできるだけ薄くしています。その代わりに、平面の抑揚がホイールにテンションを掛けるように導いています。ロジックで理解してもらうのではなく、なんとなく感じるのだけど何故だろう? というくらいの表現に抑えています。ラインではなく抑揚やハイライトを使ったことで、これまでの魂動デザインを抜け出し、一歩ブランドを引き上げることができると思ってます。

──フロントやリアに関してもデザインに触れたいのですが、ボンネットのRのラインが特徴的です。

小泉氏:ボンネットを見てもらうとテンションが車軸よりも後ろにあるはずです。車軸より後ろにもってくることでオーバーハングのボリュームを消してくれるのと、スピード感や塊感、動感も生み出せます。サイドも同様で、テンションはオーバーハングの内側、ボリュームを持つ部分もタイヤの内側に寄せています。ティザーのスケッチで描かれている疾走感や駆動している雰囲気は、テンションとボリュームを持たせる場所がキーになっています。

──リアビューはバンパーにビルトインされているマフラーが特徴的ですが、ほかに表現したことはありますか?

小泉氏:バンパーはコーナーをプロテクトするものなので、落差がコーナーに残るのですが、「越 KOERU」はそれがありません。マフラーはショーカーならではの遊び心だと思って下さい。

──では最後に、ここ最近のコンセプトカーは何らかの形で市販されていますが、「越 KOERU」が市場へ導入される予定はありますか?

小泉氏:それは言えないことになっているので、すみません。期待に沿えるように頑張りますという言葉から感じ取ってください!!

真鍋裕行

1980年生まれ。大学在学中から自動車雑誌の編集に携わり、その後チューニングやカスタマイズ誌の編集者になる。2008年にフリーランスのライター・エディターとして独立。現在は、編集者時代に培ったアフターマーケットの情報から各国のモーターショーで得た最新事情まで、幅広くリポートしている。また、雑誌、Webサイトのプロデュースにも力を入れていて、誌面を通してクルマの「走る」「触れる」「イジる」楽しさをユーザーの側面から分かりやすく提供中。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。