【デトロイト・モーターショー】環境対応車を多数展示した海外メーカー
電気自動車「SLS E-CELL」「ボルト」のほか、新型のアウディ「A6」やVW「パサート」がお目見え

フォードの電気自動車ラインアップ。中央がフォーカスエレクトリック、両端がC-MAXのハイブリッドとプラグインハイブリッド車、後ろがトランジット・コネクト・エレクトリック

会期:2011年1月10日~23日(現地時間)
会場:Cobo Center(米国ミシガン州デトロイト)



 北米国際自動車ショー(デトロイト・モーターショー)が、1月10日のプレスデーで開幕した。各自動車メーカーがワールドプレミアとして発表したモデルの多くにはハイブリッド車が含まれており、環境・エネルギー対応は今では当たり前のスペックの1つになったようだ。

 環境対応の傾向が色濃くなってきたのは2009年のフランクフルトショーからで、年々、ハイブリッドや低CO2化を前面に出すメーカーが増えてきている。デトロイト・モーターショーも例外ではなく、数年間まで花形だった巨大SUVは舞台から下り、低燃費な小型車やハイブリッド車、電気自動車が中心になった。

 例えばプレスデー初日の6時30分、プレス発表のトップを切ったポルシェがメインに据えたのは、ハイブリッド化したレーシングマシンの「918RSR」だった。その後、フォードが小型SUVとともにハイブリッド車や電気自動車のラインアップ4モデルを発表。アウディはワールドプレミアの「A6」にハイブリッド車を設定することを明らかにした。

 極端なのはダイムラーAG(メルセデス・ベンツ)で、発表のメインは燃料電池車が世界を旅する「ワールド・ドライブ」イベントと、ガルウイングのスーパー電気自動車「SLS E-CELL」という、次世代車に特化したものになっていた。

 今後、この流れはさらに加速していくだろう。その中で、環境性能は最低限の条件になっていくと思われる。長年、巨大SUVで利益を上げてきたデトロイトも、例外ではないようだ。

 ここでは海外メーカーの注目車種をピックアップして紹介する。

ポルシェ
 3年ぶりにデトロイトオートショーに姿を見せたポルシェは、918RSRを発表。918RSRは、2010年のニュルブルクリンク24時間レースやアメリカ・ルマンシリーズなどで活躍した911 GT3のハイブリッドシステムを移植したスタディモデル。563PS/10300rpmを誇るエンジンに加え、75kWのモーターを左右フロントアクスルに設置。最大36000rpmに達するフライホイールで制動時のエネルギーを蓄え、最大で8秒間、モーターを駆動させることができる。

918RSR

アウディ
 新型A6のパワートレーンはガソリンエンジン2種類とディーゼルエンジン3種類で、出力は177hp~300hpまで幅広い。もっとも燃費がよいのは2.0TDIの4.9L/100km(20.4km/L)。もっともハイパフォーマンスなのは3.0 TFSIで、300hp/400Nm。それでも燃費は11.3km/Lになる。

 歩行者認知や走行状況などを表示するヘッドアップディスプレイを装備するほか、Google Earthなどと連携したリアルタイム情報を取り込んだナビゲーションシステム「MMI」などを採用予定。2011年早期に市販化する予定だ。

A6

 一方A6 ハイブリッドは、155kW(211hp)のTFSIエンジンと、エンジンの後方に配置した33kW(45hp/211Nm)の電気モーターを組み合わせた、エンジンでもモーターでも走行可能なパラレルハイブリッドシステムを搭載。電気モーターだけで最高100km/hまで出すことができる。燃費は16.1km/Lで、CO2排出量は142g/km(ともに暫定値)。市販は「できるだけ早い時期」としている。

A6 ハイブリッド

ダイムラーAG(メルセデス・ベンツ)
 ゴットリープ・ダイムラーとカール・ベンツが自動車を発明してから125周年を迎えた今年、ダイムラーは新しいクルマの世紀を強調するモデルを発表した。

 その1つがSLSのEVバージョン「SLS E-CELL」で、2013年に受注を開始する予定だ。リチウムイオン電池や東レのCFRPを採用して軽量化を図っており、4輪に配したモーターは最高出力392kW(約530PS)、最大トルク880Nmを発生。ディーター・ツェッチェ会長は、SLS E-CELLに乗ることは「F4ファントムからスターウォーズのXファイターに乗り換えるようなもの」と表現した。

SLS E-CELL

 カール・ベンツがガソリン車初の特許を取得した1886年1月29日を、ダイムラーでは自動車の誕生日と位置づけている。今年の誕生日に、ダイムラーは燃料電池車の「Bクラス F-CELL」で、世界を巡る旅をスタートする。ドイツのシュツットガルトから、北米、南米、オーストラリア、中国を経て欧州に戻ってくるコースで、125日間、3000kmの走行を予定している。

Bクラス F-CELL

BMW
 1シリーズMクーペは、340PSを発生する3リッター直列6気筒ツインターボエンジンを搭載したハイパフォーマンスコンパクトカー。0-100km/h加速は4.9秒。ホイールは19インチ。1シリーズ初の「M」バッヂ装着モデルになる。2011年春以降に限定数を販売予定。

1シリーズMクーペ

 また、1シリーズクーペ/コンバーチブルがリニューアル。128iと135iがラインアップされ、エンジンは直列6気筒。

1シリーズクーペ/コンバーチブル

フォルクスワーゲン
 新型パサートは、米テネシー州チャタヌーガ市の工場で生産される。チャタヌーガ市は「全米一大気汚染が酷い都市」と言われていたが、さまざまな政策を実施したことで「全米一住みたい都市」といわれるまでになった環境都市の代表格。フォルクスワーゲンはこのチャタヌーガ市の工場を、世界最先端の環境技術を集積した工場にする。

 新型パサートのエンジンは、2.5リッター直列5気筒(最高出力170PS)と3.6リッター V型6気筒(最高出力280PS)のガソリンエンジン、2.0リッターTDI(最高出力140PS)の低排ガスディーゼルエンジンの3種類。ディーゼルエンジンは尿素(アドブルー)を使用するSCR(選択還元触媒)を搭載する。

パサート

GM(シボレー)
 GMはVOLTの市販バージョンを出展。充電ポートは、コンセプトモデルでは「VOLT」エンブレムの中に埋め込まれていたが、通常のフューエルリッドのようなタイプになった。そのほかの外見はコンセプトモデルと大差ない。

VOLT

 ソニック(ハッチバック/セダン)は、GMが今後本腰を入れて市場に出してくることを予感させるコンパクトカー。100周年を迎えたシボレーブランドの今後の方向性を示したモデルと言える。

 GMによれば、シボレー・コルベットの情熱と、小型車の使い勝手のよさ(現実性)を融合させたもの、ということになる。1.8リッターエンジン(最高出力135PS、最大トルク168Nm)に5速MTか6速AT、または1.4リッターターボ(最高出力138PS、最大トルク200Nm)に6速MTの組み合わせをラインアップ。2011年後半に市販予定。

ソニック(ハッチバック/セダン)

 ソニックのスポーツバージョンである「ソニック Zスペック・コンセプト」の詳細は発表されていないが、ブレーキはブレンボのベンチレーテッドディスク、BBSのホイール、レカロのシートなどが装備されていた。グリルやホイール、ミラーのオレンジが鮮やか。

ソニック Zスペック・コンセプト

フォード
 北米の「エクスプローラー」、欧州の「クーガ」よりも燃費向上を図ったCセグメントプラットフォームのクロスオーバーSUVのコンセプトカー「VERTREK」。フォードにおける次世代コンパクトSUVの方向性を示している。エンジンは直噴ガソリンのエコブースト、あるいはコモンレールディーゼルエンジンを想定しており、アイドリングストップ機能も採用する予定。市販時期などは未定。

VERTREK

 フォードでは、2004年における乗用車やクロスオーバーの販売比率が35%だったのが、2010年に57%まで上昇。そのため、今後は世界的な市場が見込めるCセグメントに力を入れていくとしている。今回発表した「C-MAX」や、「VERTREK」がその口火を切る。

 C-MAXは、荷室の広い5人乗りまたは7人乗りのミニバンタイプ。スライドドアを装備。エンジンはアイドリングストップ機構を備える直噴の1.6リッター エコ・ブーストと、ベーシックな2.5リッター。

C-MAX

 デトロイト・モーターショーの前週に開催されていた、米国ラスベガスの家電見本市「International CES」で発表したEV。発表時にアラン・ムラリーCEOは「フォーカスEVは単なるクルマ以上の存在になる」という主旨の発言をしている。2011年に北米、2012年に欧州で市販予定。電池はLG化学のリチウムイオン電池(23kWh)を搭載。航続距離は未公開。最高出力92kW、最高速度は約134km/h。

フォーカス・エレクトリック(写真はInternational CESで展示されたもの)

 電気系の架装や研究開発を手掛ける米アズール・ダイナミクスがパワートレーンを開発した商用車で、今年中に600台を納車予定。郵便の配送などに使用される。航続距離は約128km。

トランジット・コネクト・エレクトリックフォードの充電ステーション用充電器

 Cセグメントの「C-MAX」(5人乗り)をベースにしたハイブリッド車「C-MAX HYBRID」と、プラグインハイブリッド車「C-MAX ENERGI」。2012年から北米と欧州で販売予定。

 フォードでは、C-MAX ENERGIはGMの「シボレーVOLT」より燃費がよく、途中の充電や給油なしで走行可能な距離も長い(500マイル=約800km)としている。

C-MAX HYBRID

ベンチュリ
 モナコに本拠を置くR&D会社のベンチュリが開発したオールラウンドビークル「High Voltage Buggy」。発表済みだったショーモデルに替えて、今回は初めて実動車を展示。都市の舗装路から砂漠のようなオフロードまで、どこでも走ることができるというのがコンセプト。53kWhの電池、300PS超のモーターを車体中央に配している。市販は未定。

High Voltage Buggy

(木野龍逸)
2011年 1月 13日