【2013ジュネーブショー】

ブリヂストンはジュネーブショーでもラージ&ナローコンセプトタイヤ(LNC)」を発表

転がり抵抗を30%低減し、縦・横方向でグリップを向上

ジュネーブショーのプレスカンファレンスでトークセッションを行なう、海外タイヤ事業管掌所属 本部長・市川良彦氏(右)とコーポレート&ブランドコミュニケーション ジェネラルマネージャー・Jake Ronsholt氏(左)
2013年3月7日~17日(現地時間)

スイス ジュネーブ

GENEVA PALEXPO

 ブリヂストンはジュネーブショーと国内の2個所で、これまでのタイヤサイズの概念を大きく変える「ラージ&ナローコンセプトタイヤ(LNC)」を発表した。

 電気自動車や天然ガス車、燃料電池車など自動車メーカーは、環境性能に優れた次世代のモビリティを多数公開してきているが、タイヤメーカーとしても持続可能な社会を作りあげていくというブリヂストンの経営目標を持っており、その理念により、研究、開発された新世代のタイヤになる。

 LNCは従来品に対して、トレッド幅を狭くし、外径を大きくしているのが特徴で、空気圧も大幅に高圧化している。狭幅、高内圧によって路面とタイヤが接地する面を細くすることと、内部構造やコンパウンドなどの材質を最適化することで、転がり抵抗を大幅に低減していると言う。現在のエコタイヤと比べると、転がり抵抗は約30%ほど優れている。また、トレッドを狭くすることや専用のトレッドパターンを用いることによってウエット性能も約8%向上させた。

展示された「ラージ&ナローコンセプトタイヤ(LNC)」は、専用構造、パターン、コンパウンドと最適化技術を採用した次世代タイヤ。サイズは155/55 R19。左右非対称パターンを採用し、ブロックが大きいのも特徴で、トレッド幅が狭くなって失われる横方向の剛性やグリップを確保する
LNCのプロトタイプも展示された。開発は2008年頃から始まり、研究段階から始まったプロジェクトとしては異例の早さでお披露目されることになった

 考え方や構造、サイズなどあらゆる面で次世代のタイヤとなるLNC。そこで、開発段階から携わってきたブリヂストン タイヤ研究部の松本浩幸氏に特徴や優位性、今後の展開についてうかがった。

ブリヂストン タイヤ研究部 操安研究ユニットリーダー・松本 浩幸氏

──まずLNCのコンセプトについて教えてください。
松本氏:LNCは、既存のタイヤとしての考え方を大きく変えたもので、特徴としてはタイヤ外径を大きくし、トレッド幅を狭く、さらに内圧を高めています。

 タイヤはトレッド面と路面が接触するときにエネルギー損失が発生し抵抗が起きます。LNCのようにトレッド面を狭くすれば、必然的に接地する幅が狭くなるので、抵抗が少なくなります。また、タイヤ外径が大きいということは、小さいタイヤに比べて接地する際の変形が小さいため、こちらでも抵抗が減ります。トレッド幅、タイヤ外径の2つの点でLCNは燃費に対してアドバンテージを持っています。

──トレッド幅が狭いということは接地面積が狭くなったということですか?
松本氏:タイヤと路面の接地面積は、よく葉書1枚分と言われてますが、その形が縦長になったとイメージしてもらえば分かりやすいと思います。

 幅は狭くなっていますが、外径が大きいので縦方向には面積が大きくなっています。縦方向に大きくなったことによって、ブレーキ性能やトラクションなどを確保しやすくなっています。また、トレッド面が狭いことでウエット性能への好影響もあります。バイクのタイヤのようにタイヤが細いと、路面の水をサイドに逃がしやすいので、ウエット性能に優れているといえます。

──接地面が縦に長くなったのは分かりましたが、トレッド幅が狭くなることで横方向のグリップ力が下がることはないのでしょうか?
松本氏:トレッド幅が狭くなったので、横方向のグリップが下がるイメージがあるかもしれませんが、内圧を上げることで横方向の剛性が高まっているため問題はありません。

 また、専用のトレッドパターンは、ブロック剛性を上げているので縦横ともにグリップがアップしています。トレッドパターンは、現在のエコタイヤよりもブロックが大きくデザインされているので、スポーティなフィーリングも味わえるものです。

──内圧を高めていると仰ってますが、どの程度まで上げているのでしょうか?
松本氏:基礎研究では320kPaまで試しています。現在の市販タイヤは高くても250~270kPa程度なので、だいぶ高い設定になります。ただ、今後は自動車メーカーとの共同開発を行なうので、どのくらいの内圧になるかはクルマ側との調整も必要になります。

──タイヤの剛性を高め、内圧を上げると乗り心地は悪化するように感じますが?
松本氏:タイヤのダンピングはどうしても硬くなってしまいますが、専用のコンパウンドを使うことで構造自体を柔らかくしています。なので従来品と同等の乗り心地は味わえるよにしています。あとは、自動車メーカーがセッティングするショックアブソーバーなどとの組み合わせによって乗り心地は改良できると考えています。

──公開されたタイヤは、サイズが155/55 R19ですが、どの大きさの車両への装着を考えているのでしょうか?
松本氏:LNCはA~Cセグメントのクルマを対象に考えています。展示した19インチのモデルだとBセグメントとマッチングするようにしています。Cセグメントなら20~21インチくらいになります。それ以上大きなサイズになると、外径が大きくなりすぎてしまので、想定しているのがA~Cセグメントということです。

──今後の展開や課題を教えてください。
松本氏:LNCは、これまでのタイヤとサイズなどの考え方がまったく異なっているので、既存の車両にセットすることは現実的ではありません。ですから、今後発売されるモデルの一部として自動車メーカーとの共同開発になります。タイヤ外径が大きくトレッド幅が狭いので、新しいシャシーやフレームが必要になるためハードルは高いかもしれません。ですが、タイヤ単体で約30%の燃費向上が図れるというのは大きなメリットです。

 乗り心地やロードノイズ、グリップ、ウエット性能などタイヤ単体で追求できる性能は現状で確認できていますので、あとは共同開発によってどこまで進化させられるかだと考えています。

 自動車メーカーが想定する持続可能な社会というものをタイヤメーカーとしてもサポートし、新たに提案したのがLNCになります。お互いの考えかたがマッチすることにより、さらなる環境性能に優れたモデルが誕生すればと思っています。

現時点で、欧州の自動車メーカーと共同開発中

 LNCは、まったく新規の技術と考え方によって生まれた次世代のタイヤになる。今まで15~17インチを履いていてクルマが、19~21インチになるということは、見た目など多くの部分で変化がともなう。外形やトレッド幅、空気圧の問題で新たなプラットフォームの設計が必要なことや、小型のセグメント限定という条件など市販車への装着にはいくつかのハードルがあるが、タイヤ単体で約30%の燃費向上が実現できるというのは、大きなメリットとなる。

 現在、欧州の自動車メーカーと共同開発が進んでいるということで、それほど遠くない時期にLNCを履いた市販車が登場することになるはずだ。

真鍋裕行

1980年生まれ。大学在学中から自動車雑誌の編集に携わり、その後チューニングやカスタマイズ誌の編集者になる。2008年にフリーランスのライター・エディターとして独立。現在は、編集者時代に培ったアフターマーケットの情報から各国のモーターショーで得た最新事情まで、幅広くリポートしている。また、雑誌、Webサイトのプロデュースにも力を入れていて、誌面を通してクルマの「走る」「触れる」「イジる」楽しさをユーザーの側面から分かりやすく提供中。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。