2016 デトロイトショー

プレミアム市場を牽引する“ジャーマン・スリー”の存在感

メルセデス・ベンツが新型「Eクラス」を発表

2016年1月11日~14日 開催

 リーマン・ショックのあと、地元“デトロイト・スリー”の地盤沈下もあって、デトロイトショーは華やかさにかけていたが、2016年はいくぶん活気を取り戻した感がある。原油価格がバレルあたり30ドルを切り、景気も回復しつつあるといった社会情勢が背景にあるのは間違いない。ガソリンが安くなって、経済的な見通しがつけば「アメリカ人は高級セダン、大型SUV、スポーツカーが好きなのだ」ということを肌で感じるショーだった。

 実際、近年稀にみるほどスポーツカーが花盛りだった。レクサス「LC500」とアキュラ「プレシジョン・コンプト」が競うように登場。ホンダ「リッジライン」と日産「タイタン」といったミドルサイズのトラックが久々に刷新され、大型トラックも堅調でフォードは売れ筋の「F-150」に4ドア版の「ラプター・スーパークルー」を追加した。

 それらの車両の詳細は別の記事に譲ることにして、ここではプレミアム市場を牽引する“ジャーマン・スリー”に集中してリポートしよう。

メルセデス・ベンツの目玉は新型「Eクラス」

メルセデス・ベンツ「Eクラス」

 最大の話題は、メルセデス・ベンツ「Eクラス」の発表だ。恒例となったダイムラーが独自に開く前夜際では、CEOのディーター・ツェッチェ氏が登壇。「2015年にはサーキットでも、市場でも、メルセデス・ベンツは大活躍しました。グローバルで13%の成長を果たし、NAFTA(北米自由貿易協定)全体でも5.2%もの成長をしました」(ツェッチェ氏)と、2015年は「GLS」「Sクラス」「メルセデスAMG GT ロードスター」といった競争力のあるモデルを含めて9種類の新車を投入したことを紹介した。

 2016年は年初早々に、ダイムラーの屋台骨を支える新型「Eクラス」を市場に送り出す。初めて「Eクラス」の名を冠した「W123」から数えて5代目、事実上の系譜となる「W120/121」のポントーン・メルセデスから数えて10代目となる新型の開発コードは「W213」となる。

 先に登場した「Sクラス」や「Cクラス」と同じ“メルセデス・ベンツ顔”となり、クーペ風のスタイリングと併せて、同社のサルーンに共通する印象を得た。ボンネットからドアハンドルを通して、リアエンドへとつながるキャラクターラインと凹面の組み合わせが疾走感を演出している。全長が+43mmの4923mmへ延長されて、ホイールベースも+65mmの2939mmに伸ばされた一方で、オーバーハングが短いため、よりスポーティな印象を得た。

 2種類のフロントビューのうち、ベースグレードにはトラディショナルなグリルとボンネットの上にスリーポインテッド・スターが備わる。上級グレードのアヴァンギャルドとスポーティなAMGラインには、横桟のグリルの中央に巨大なスリーポインテッド・スターが鎮座する。

 水平方向に分かれた室内のデザインは、Sクラスを強く意識したものだ。「クラシック」「スポーツ」「プログレッシブ」の3種の内装が用意されており、「Sクラス」で好評だったマッサージ機能はシートの座面にモミ玉が加わり、プログラムにも改良を施されている。室内で最大のトピックスは、ステアリングホイール上の「タッチ・コントロール」で、メーター類や12.3インチ大型ディスプレイの操作がすべてできることだ。

 パワートレーンのハイライトは、2機種の新型パワートレーンが追加された点だ。自社製9速ATと電気モーターの組み合わせを初めて採用。また、CO2排出量102g/kmの「E 220 d」ディーゼルが設定される。

 このうち、「E 220 d」はアーヘンの学会で発表された「OM654」で、フォルクスワーゲンの排ガス問題で話題の実走行時に排出されるNOxやCO2にも配慮する「リアル・ドライブ・エミッション」への対応も盛り込んだという。低圧と高圧の2種のインタークーラーを採用し、耐久性と排ガス処理能力を両立。CO2排出量はわずか102g/km、燃費にして3.9L/100kmと驚きの環境性能だ。

 また、「E 350 e」は9Gトロニックに電気モーターを内蔵し、直列4気筒 2.0リッターエンジンと組み合わせたPHVを積む。システム出力で286HP/550Nmを発生する。2.1L/100kmと低燃費を誇り、CO2排出量は49g/kmとなる。

 その他、既存の直列4気筒 2.0リッターガソリン(184HP/300Nm) とV型6気筒 3.0リッターディーゼル(258HP/620Nm)が揃う。

「E 350 e」に搭載されるプラグインハイブリッドシステム

「Sクラス」や「Cクラス」のADAS(先進運転支援システム)から一歩進んで、128km/hまでならレーンキープや車線変更まで含めて自動で行なう機能を持つ次世代ADAS「ドライブ・パイロット」を搭載する。外観と内装に加えて、快適性や安全性の装備も最上級モデルの「Sクラス」に準じたものとなった。

メルセデスベンツブースではF1に関する展示も実施

アウディはSUVラインアップを拡張。BMWへの包囲網を固める

 アウディは、CEOのルパート・シュタトラー氏がプレゼンテーションを行なった。VWグループとしての責任ある行動を約束し「A7」「Q8」などにPHVを揃えると宣言した。加えて、EVのSUVの登場も示唆した。

 また、新型「A4」に「オールロード クワトロ」が追加された。「A4 アバント」をベースに車高を高め、バンパーやタイヤを大型化してSUVルックに仕上げた。最低地上高が+34mmとなったのは、オフロードでの走破性を高めるためだ。パワートレーンは、ガソリンとディーゼルの直列4気筒 2.0リッターと7速Sトロニックの組み合わせだ。

「A4」シリーズにSUV風の外観と本格的なオフロード性能を持つ「オールロード クワトロ」が追加された。「A4 アバント」をベースに車高を高め、バンパーやタイヤを大型化。最低地上高を+34mmへと高め、オフロードの走破性を向上させた。心臓部は、ガソリン/ディーゼルともに直列4気筒 2.0リッターとなり、いずれも7速Sトロニックと組み合わされる

 加えて、「e-トロン クワトロ」の燃料電池版である「h-トロン クワトロ」を発表した。600kmの巡行が可能で、燃料電池スタックのみで最大150PSの出力を発生する。必要に応じて、リチウムイオン電池からの出力を追加し、前90kW/後140kWと最大550Nmのトルクを発生し、モーターで4輪を駆動する。

2014年のロサンゼルスショーでアウディが燃料電池のコンセプトカーを発表したのは記憶に新しい。今回発表された「h-トロン クワトロ」は、フランクフルト・ショーで発表された「e-トロン クワトロ」の燃料電池版であり、2014年当時と比べてさらなる進化を果たしている。1回の給水素で最大600kmの巡行ができ、燃料電池スタックのみで最大150PSの出力を発揮する。リチウムイオン電池からの出力を追加すれば、最大550Nmのトルクを発揮する。駆動方式は、アウディらしく前90kW/後140kWのモーターで4輪を駆動する”クワトロ”となる
h-tron クワトロ

 実のところ、アウディの「Q」シリーズ、メルセデスの「GL」シリーズと、どのドイツ車メーカーもSUVのラインアップを拡張することを示唆している。これは“BMW包囲網”ともいえるものだ。

BMW、ファン待望の「M2」を公開

 BMWはグループ全体として約225万台を販売し、+6.1%の成長を達成した。なかでも北米では、プレミアムSUVの「X」シリーズを生産して好調に販売を伸ばしている。他のジャーマン・スリーがプレミアムSUV市場を狙うのも当然だ、対するBMWも“駆け抜ける歓び”を強調し、クーペスタイルの「X4 M40i」でスポーティなイメージを印象づけた。

ファン待望の「M2」が、ようやくベールを脱いだ。370PS/465Nmを生む直列6気筒 3.0リッターターボにより、4475x1855x1410mm(全長×全幅×全高)の小ぶりなボディを加速する。日本では7速DCTのみとなる予定だが、本国では6速MTも用意。オーバー・ブースト機能により、500Nmを発生することもできる

 続いて、ファン待望の「M2」が公の場でベールを脱いだ。1960~70年代にレースシーンで活躍したスポーツモデルである「2002」の後継として位置づけ、スポーティなDNAを持つことを強調した。フロントに積まれる直列6気筒 3.0リッターツインパワー・ターボ付きユニットは370PS/465Nmを発生し、後輪を駆動する。オーバー・ブースト機能により、500Nmを発揮することも可能だ。4475x1855x1410mmの小ぶりなボディを加速させ、0-100km/hをわずか4.3秒でこなす。組み合わされるトランスミッションは、6速MT/7速DCT(日本は7速DCTのみ)が揃う。

 2008年のリーマン・ショック以降、往時の勢いを取り戻せずにいたデトロイト・ショーだったが、景気の回復と原油安を受けて、大きくて立派な高級車が復権しつつある。アメリカにおいてプレミアム市場を牽引する”ジャーマン・スリー”の存在感がますます強まっている印象を受けた。

川端由美