北京モーターショー2016

【インタビュー】マツダ「CX-4」の小泉チーフデザイナーに聞く

魂動デザインの次なる進化に向かおうと作り上げた

マツダ「CX-4」とチーフデザイナーを務めた小泉巌氏
2015年のフランクフルトショーで初公開されたコンセプトカー「越 KOERU」

 2015年のフランクフルトショーで初公開されたコンセプトカーの「越(KOERU)」。その後の東京モーターショーでも展示されていたので、実車を目にしたことがある人もいるはずだ。発表した当時は、このコンセプトカーが市販モデルとして導入されるのか明確な回答はなかったが、ほぼコンセプトカーのデザインのままで「CX-4」として市販化されることになった。

 コンセプトカーのボディサイズは4600×1900×1500mm(全長×全幅×全高)だったが、実際のCX-4のボディサイズは4633×1840×1530~1535mm(全長×全幅×全高)となった。全幅はショーカーらしいワイドボディから実際の使い勝手を考慮したサイズに収った。それでも全幅は1840mmあるので、同セグメントとしてはボリューム感があるほうだ。また、全長はわずかに長くなり、全高は高くなっている。

CX-4のボディサイズは4633×1840×1530~1535mm(全長×全幅×全高)

 外観のワイドでローな出で立ちはコンセプトカー譲りで、エクストリームさを感じさせるデザインもほぼそのまま。内装については、コンセプトカーのときには披露されていないが、CX-4はエクステリアと同様に独自性のある仕上がりとなっている。

 では、コンセプトカーに引き続きチーフデザイナーを務めた小泉巌氏に、CX-4のデザインの特徴について伺った。

――まず、エクステリアデザインですが、越(KOERU)のときにも伺いましたが、現状のラインアップモデルとはやや異なる面構成や表現方法だと感じるのですが、デザインテーマの“魂動”をどのように解釈しているのでしょうか?

CX-4のチーフデザイナーを務めた小泉巌氏。1982年に東洋工業(現マツダ)に入社し、エクステリアデザイナーとして初代フェスティバ、ユーノスコスモ、ユーノス500、ユーノス800、RX-01などの量産モデルからコンセプトカーを担当。1998年からチーフデザイナーとなり、先代アテンザ、マツダスピード・アテンザ、CX-7、ビアンテなどを生み出した。現行ラインアップの新世代商品群では一括企画のデザインを取りまとめを行ない、現在のCX-4のチーフデザイナーに至った

小泉氏:魂動デザインの理念そのものは変えていません。魂動デザインで目指しているリズミカルな動きの表現を、小さいクルマには小さなクルマのリズム、大きなクルマにはエレガントなリズムを与えてきましたが、このCX-4ではネクストジェネレーションに向けて、新世代商品群を一旦完成させるという意味を込めています。そのため、リズム感にスピードを加えて、次の進化に向かおうと作り上げました。

 現行のラインアップを作り上げるときに、エクステリアのボリューム感によって自動車が本来持っている動きの魅力を出したいという思いがありました。けれども市販モデルなのでいろいろな制約があり、それぞれの商品カテゴリーに入れていくと、デザイナーが想像する理想的なボリューム感を示すことはできません。

 しかし、CX-4みたいに既存の商品カテゴリーに入れなくてもよいモデルになると、全幅はCX-5並のボディサイズでありながらキャビンスペースはマツダ3(日本名:アクセラ)程度でもいいのです。そうすると、ものすごいデザインのための自由度が生まれるのです。合わせて開発陣にも新世代商品群のコンポーネントをうまく使いながら、デザインする余裕を稼いでもらいました。

――越(KOERU)のときにも聞いた、プランビューでのボリューム感や抑揚というのは、CX-4だから実現できたということですね。

小泉氏:はい。サイドラインなどはあえてシンプルにし、その分、フェンダーの張り出しなどでボリュームを表現できました。これはCX-4というパッケージだからこそだといえます。

サイドからみたCX-4
CX-5とCX-4の比較、キャビンスペースをコンパクトにすることでデザインで表現できる幅を広げた

――外観の進化とともにインテリアも素材、デザインなどさまざまなチャレンジが感じられますね。

小泉氏:内装のコンセプトはバイタライジングインテリア。つまり、お客さんの生活に活力を与えることに注力しました。そのため、先進性と豊かさの表現をしています。これまでにあるプレミアムカーというのは、オーセンティックな自然素材を使いながら伝統的な印象のものが多いですが、CX-4ではオーセンティックな自然素材を使いながら先進性を狙っています。ターゲットカスタマーもスマートフォンなどの新しいテクノロジーに敏感な若い人たちを想定しています。

 インテリアの開発目標として具体的な項目は3つあり、空間、雰囲気、質感に目標となる指標を立てて開発しました。そのなかで、空間と雰囲気についてですが、ドライバーオリエンテッドを主眼にしました。全体の空間の流れは、左右方向への広がりと前後方向の流れを、各所に配置した素材や質感、革のしっとりとしたなめらかな風合いにより視線誘導するよう雰囲気作りをしています。

 空間に関しては、後席の快適性も重視していてトルスアングル(シートバックの角度)がちょっと寝ています。座りやすい上に、もともと重心が低くてロール感が少ないので後席がかなり快適です。

 質感についてですが、これが一番進化したところだと思っています。インパネに使っているアルミ素材はマツダとして初となる本アルミで、本アルミの加飾パネルを採用しています。それからシートも進化していて、これまでオーセンティックな風合いを出すのが得意でなかったのですが、中国のサプライヤーに頼ることで、例えばプリーツを使いながらショルダーのあたりを含めて3次元的でしなやかな面を作ることができています。今回、中国のサプライヤーとは初のタッグだったのですが色々と挑戦することができました。

インテリアのデザインもベースは他のモデルを踏襲している。だがCX-4オリジナルとして、本アルミのパネルやウッド調のパネルを採用。オーセンティックさを演出したインテリアになる
シート表皮は専用デザインを用いている。座り心地やデザイン性など細部までこだわりが感じられる仕上がり

――中国のサプライヤーと組むことで実現できた部分もあるのですね。外装パーツについても、中国のサプライヤーを使っているでしょうか?

小泉氏:そうなります。例えば、リアゲートにはメッキの加飾がありますが、テールランプの上に配置されています。これまでの日本のやりかたであると、テールランプが組み付けられないといってメッキ加飾に切れ目を入れて部品を分割するという話になっていたはずで、通常なら制約があるところを“このデザインで作りたい”と伝えると、すんなり生産までこぎつけられるほどサプライヤーの技術力は高いのです。現地生産工場においてもフェンダーの抑揚についてはプレスで行なっているのですが、かなりボリュームがあり難しいはずですが、問題なく作ってもらっています。

リアのパネルはテールレンズにまで伸び、独特なリアビューを演出するのにひと役買っている。手間と生産工程からいえば、通常ならばあり得ないデザインだというが、中国のサプライヤーにより実現した

ヘッドライトは全グレードでLEDを採用した。LED化することでヘッドライトユニットが小型化でき、デザインの自由度が高まった
内外装ともに本アルミのパネルを装備。メッキ本来の質感や輝き方を忠実に再現できている。本アルミを採用するのは、マツダ車では初となる
ホイールのサイズとデザインはこだわった点の1つになる。同セグメントではかなり大径となる19インチを装備。削り出し感のあるデザインも特徴的といえる

――冒頭の話で、新世代商品群を一旦完成させるという言葉が出ていました。モデルラインアップ的にも次世代の商品へと橋渡しをする役目を持っているのでしょうか?

4輪にトラクションが掛かるようすをボディパネルのハイライトで表現したイメージスケッチ

小泉氏:魂動デザインの表現は、それぞれの車種で追求していて担当のデザイナーも新しいものを作る意欲があります。それを消してしまうと進化は止まってしまいますし、進化がないと魂動デザインは単なるスローガンになってしまい、感動を呼ばなくなってしまいます。

 東京モーターショーで公開したRXヴィジョンは、マツダがいつか実現したい夢と言っています。あのようなデザイン表現も将来的には当然あると思いますが、あれは真のスポーツカーであって「凛」と「艶」があるとすると、艶の表現が強くなっています。一方でもっと凛としたセダンの動きの追求も必要で、CX-4はどちらかといえば凜を強めていて、4輪にトラクションが掛かる姿を表現しています。

 コンセプトカーというのは、エクスペリメンタルな部分が多いので魂動デザインの表現を実験しているわけです。これは越(KOERU)にも言えることですが、コンセプトカーで表現したトラクションが掛かる姿をどうスピードに置き換えていくか、まだまだ考えることは際限なくあります。CX-4のデザインが足がかりや土台になって、これができるんだったら、次は違うステップを踏んでみようと思案している最中だと感じてもらえればと思います。

サイドビューの抑揚や勢いのあるラインは控えめだが、フェンダーの張り出しなど縦方向のプランビューでアグレッシブさを強調している


 次世代モデルと現行の新世代商品群の間を埋める存在となるCX-4。どのカテゴリーに属さなければならないという規定がないために、デザインはこれまでのラインアップよりも自由度が高く、独自性の強い表現が可能となった。ただ、共通していえる躍動感あるリズミカルな動きや4輪にトラクションが掛かったようすなどキーポイントは踏襲している。その中でも次世代へとつながるヒントは入っているはずで、CX-4のデザイン表現が今後のラインアップに影響を与えることは間違いないようだ。

真鍋裕行

1980年生まれ。大学在学中から自動車雑誌の編集に携わり、その後チューニングやカスタマイズ誌の編集者になる。2008年にフリーランスのライター・エディターとして独立。現在は、編集者時代に培ったアフターマーケットの情報から各国のモーターショーで得た最新事情まで、幅広くリポートしている。また、雑誌、Webサイトのプロデュースにも力を入れていて、誌面を通してクルマの「走る」「触れる」「イジる」楽しさをユーザーの側面から分かりやすく提供中。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。