CES 2016

BMW「i8カブリオレ」をベースにした「iビジョン・フューチャー・インタラクション」に試乗

2016年1月6日~9日 開催

BMW「i8カブリオレ」をベースにした「iビジョン・フューチャー・インタラクション」

 2015年には新社長が就任し、研究開発部門の取締役が変わるなど、大きな変化を越えて新体制を整えつつあるBMWは、2016年のCESで本格的なIoT(Internet of Things、モノのインターネット)の導入を宣言した。同時に、IT技術と高度な自動運転との相性のよさを強調し、コネクティビティと高度自動運転を重要な技術と位置付けた。

BMW 研究開発部門 取締役 クラウス・フルーリッヒ氏

 研究開発部門を率いる取締役のクラウス・フルーリッヒ氏は、こう語る。「自動車にとって、利便性と安全性の向上は重要なテーマです。そのためには、シームレスに、デジタルライフにつながるユーザーインターフェースの開発を進め、それを通じてのユーザー体験を進めていきます。自動車産業にとって新しい分野ではありますが、BMWは2007年からサブブランドである『i』の開発を通して、そうしたコネクティビティの分野についても開発を進めてきた歴史があります。すでに世界規模で、カーシェアのドライブ・ナウ、駐車場予約のパーク・ナウ、充電インフラのチャージ・ナウといったインターネットを通したサービスをスタートしています。車載テレマティクスのコネクテッド・ドライブのユーザーも、世界規模で広がっています。もちろん、自動運転の分野にも取り組んでいきます。最後に、我々はこの分野におけるコンペティションを歓迎しています」。

 実際に、7シリーズでは、車外からの遠隔で庫入れを可能にするリモート・コントロール、ジェスチャーで操作が可能なインフォテイメントシステム、タッチコマンドによるタブレット端末を後席に採用するなどしてきた。

 今回のCESでは、BMW「i8カブリオレ」をベースにした「iビジョン・フューチャー・インタラクション」なるコンセプトカーを発表し、“デジタル・プレミアム・モビリティ・サービス”を提供するとした。BMWオーナー向けに、自動車を運転中も、それ以外の時間も、インテリジェントな方法でつなぎ目なくユーザー体験を提供し、その過程で顧客の行動パターンや嗜好を学んでいくという。クラウド経由でデータがアップデートされていき、クルマを降りた後でも、パッドやスマホで情報を見られる。

 運転席に座ると、すでにスマホの予定表からカーナビの目的地は入力されていて、近隣の駐車場も予約されている。天気次第でエアコンも快適な温度に調節し、場合によってはお店も探してくれるといったことをクラウド経由でデータをやり取りしてくれるわけだ。

 実車でのデモでは、運転席に座って、ダッシュボードに埋め込まれたIRセンサーに向かって手をかざすと、助手席側にある21インチのパノラマディスプレイに表示される4つのカテゴリーから目的の機能が選択できる。ステアリングホイールの握りにボタンが埋め込まれており、光る部分を押せば、選択した機能を選べる。また、ステアリングホイール上の左にあるスイッチをスライドして自動運転に切り替えると、ステアリングホイールが前に移動して、ドライバーのためにリラックスした空間を広げてくれる。

 ジェスチャーコントロールを採用するメリットは、単に未来的な操作というだけではなく、運転席からディスプレイの距離が遠くなるため、自動運転モードに切り替えたときにリラックスした姿勢がとりやすくなる点にある。スイッチを元の位置に戻せば、運転に集中するためのドライブポジションが取れる。この際、助手席側にある大型パノラマディスプレイから、運転席の前のインストルメントクラスタとヘッドアップディスプレイへとドライバーの視点を移動させ、運転に集中できるようにドライバーの意識を喚起する。

 現段階ですでに市販車に採用しているコネクテッド・ドライブを、バイクにも展開するコンセプト「コネクテッド・ライド」もユニークだ。ヘルメットの左目側にグラスを装着して、バイクを走らせると、このグラスに速度や交通情報などの重要な情報を投影してライド支援をしてくれる。筆者は右目側だけにグラスのあるグーグルグラスをテストしたことがあるが、それと比べると、現実の世界から直接入ってくるインフォメーションを邪魔せずに、違和感のない表示がされている点が特徴だ。筆者の体験では、グーグルグラスを装着すると、視線が近くに固定される上に、少々上向きになってしまうため、視野が狭まる傾向にあった。正直なところ、歩く速度でグーグルグラスを使おうとすれば、それなりの慣れを要する。BMWのコネクテッド・ライドでは、ライダーの視線が前方の中央に向かうように、情報の投影される位置が工夫されている。

コネクテッド・ライドのコンセプトでは、専用ヘルメットにグラスを装着すると、走行速度のような車両情報に加えて、工事中などの道路交通に関する警告など、走行のために重要な情報を選んで投影する。走行のじゃまにならないように、情報の重要性を選んでいる

 IoTについては、クルマが家や家電とつながるデモを行なった。コネクテッド・ミラーを玄関に設置し、車載情報やスマホのスケジュールなどの情報を統合して表示し、室内から遠隔車庫入れの指示や充電状況を知ることもできる。例えば、オーナーが「i3」で仕事から帰宅し、家の前に止めた後、このミラーで車庫入れを指示すると、自動で車庫入れをして、非接触型充電器によって充電がスタートする。この時、スケジュール帳にある外出の時間までに通常充電で充電が完了するかなどの情報が表示される。予定が変わってより早く充電を終える必要が生じると、室内から急速充電に切り替えることもできる。

 CES会場の展示に加えて、「i8ミラーレス」に公道で試乗する好機を得た。ラスベガスのメインストリートであるストリップ通りに向かって、ステアリングホイールを切る。左右のミラー下にあるカメラと、リアガラスにあるデュアルカメラからの映像を合成して、ルームミラーに後方の視界をすべて表示する。死角がなくなることによって、安全性が高まることに加えて、空力が向上し、1%程度燃費が低減するメリットがある。

 試乗してみたところ、従来のミラーよりも検知できるエリアは広い。ベースの「i8」はお世辞にも後方視界がよいとはいえないこともあって、ミラー内側にある三角マークが光って死角を警告する機能と併せて使うことによって、ミラーレスのほうが後方視界を確保しやすいのは事実だ。ラスベガスでは珍しく雨という悪条件の中、ディスプレイには常に画像が映し続けられていた。

 ただし、現段階では、違和感があることは払拭しきれない。通常、ミラーで左右を確認するときには首を左右に向ける必要があるが、ミラーレスでは中央のルームミラーのみで確認するために違和感が生じる。特に自転車やバイクが後方から近づいてくる場合、ミラーの中では小さく映っているオブジェクトが、現実の視野に入ってきた時に、自車の脇から突然現われるように感じてしまう。各地で法整備が進みつつあり、2018年頃までに市販される可能性が高いというから、それまでに経験を積んで違和感を払拭してほしい。

 PCやプリンタのようなIT機器だけではなく、IoTによって、家やスマホや家電といったモノ(=Things)がインターネットにつながる時代になり、「モノ」の中にはクルマも含まれる。実際、サムスンのブースでは、住宅に見立てた展示の中に、BMW「i3」が家電と並んで、IoTの一つとして展示されていた。

 その一方で、IT化が高度に進んでも、BMWの目指す未来の主役はあくまでドライバーである点は強調している。そのためには、ドライバーの意志で運転することと、自動運転との間の線引を明確にし、居住空間やHMIでそのメリハリをつけることが重要だ。渋滞時のように運転しても楽しくないシーンはクルマに舵を預けてリラックスして過ごし、IoTの活用によって、駐車場探しなどの煩わしさからドライバーを開放し、クルマに乗るという体験を便利で快適なものにする。そして、いざ、ドライバーが自らの意志で運転しようという段階では、人とクルマのパフォーマンスを引き出すことができる体制に切り替える。それが、BMWの目指す、人とクルマとITの関わり方である。

ミラーに関するアメリカとヨーロッパの法規は異なっており、ヨーロッパでは4m後方まで、幅1mまで見えないといけない。一方、アメリカでは2.5m幅で、ヨーロッパより後方まで見える必要がある。ミラーによって合成される画像の視野角は80°で、死角がない
「i8ミラーレス」に搭載される3つのカメラはすべてフィコサ製で、フレーム数は通常の約2倍にあたる60fps。仰角は50°と広い。ミラーへの表示はフルカラーだ

編集部:谷川 潔

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