長期レビュー

日沼諭史の「お父さんと家族のCX-3」

第1回:ミニバンからコンパクトSUVへ。我が家のファミリーカーに「CX-3」を選んだ理由

年次改良が施されたマツダ CX-3に乗り替えた

 30代最後の年を目前に控えた2015年末、筆者はそれまでのミニバン(ホンダ「ステップワゴン」)から、年次改良が施されたマツダのコンパクトSUV「CX-3」に乗り替えた。

 小さな子供が2人いる4人家族の日沼家にとって、おそらくは居住空間が広く積載量の多いミニバンの方が圧倒的に使い勝手は上に違いないのだが、それでもCX-3に乗り替えたのはなぜなのか。そこには、マニュアル車に対するお父さんの切なる思いがあったからなのである。

運転を楽しくしたい。なら、マニュアルにすればいいじゃない

CX-3のシフトノブ。マニュアル車が希少になりつつあるなか、マツダは比較的多くの車種にマニュアル車を用意している

 元々使用していたミニバンは趣味の都合から大きな荷物(オートバイ)を運ぶのと、いずれ生まれてくる子供のためにと考え購入した。実際に子供が1人生まれ、さらに2人目も生まれ、クルマで問題なくお出かけできるところまで成長すると、ほぼ毎週末、近隣・遠方にかかわらずクルマを使って移動するようになった(その分オートバイに乗る時間はぐっと減った)。

 自宅は、都内とはいっても最寄りの鉄道駅まで徒歩20分以上かかる東京都下であり、駅まで行くのには時間がかかる。路線バスも近くを通ってはいるが、そうそう安易に公共交通機関を使うわけにはいかないワケがあった。

 小さな子供のいる家庭ならお分かりいただけるかもしれないが、まだ歩けないうえに、ところかまわず母乳を欲しがる(しかもミルクを全く飲んでくれない)当時1歳未満の次女と、すたすた歩くことはできても唐突に座り込んで「歩けない!」などとわがままっぷりを発揮し、脈絡なくわめき散らす2歳前後の長女(3歳になった今も大して変わらないが)を公共交通機関に乗せて移動するのは、大変なストレスなのだ。

 我々お父さんお母さん側の肉体的なストレスもそうだが、どちらかというと乗り合わせている他のお客さんへ迷惑をかけてしまうであろうことと、それを考えた時の申し訳なさが精神的なストレスになってしまう。であれば、クルマを使った方が(コストはともかく)ずっと気楽でいられる。渋滞の多い都内といえど、クルマを使うメリットは決して小さくないわけだ。

 そんなこんなで、ミニバンを購入して子供ができて以来、離れたところにある遊具施設の充実した広い公園へ出かけたり、遊園地の観覧車に乗ったり、スーパーやホームセンターで買い物したり、祖母のいる鎌倉方面まで足を伸ばしたり、ツインリンクもてぎへバイクレースを見に行ったりと、休日には家族と一緒にクルマであちこち走り回った。

 しかし、その一方でそれこそ毎週のようにクルマで出かけるうちに、ドライバーである筆者は、その移動時間の長さにうんざりし、それとともに“実のない時間を過ごしているのではないか?”というもどかしさでストレスが溜まるようになってしまったのである。

 ミニバンでの移動自体は楽だ。ハンドルを切れば曲がるし、AT車だからアクセルを踏めば走り出す(当たり前だ)。ただ、率直に言って、それだけではつまらなく感じるようになった。クルマが完全に移動用のツールになってしまっている。もちろんクルマは移動手段として使っているのだけれど、車種がミニバンかどうかに関係なく、ハンドルとアクセルとブレーキを機械的に操作するだけで事が済むのなら、わざわざ自分が運転することもないのではないか。移動のみを目的とするのであれば自動運転で十分だ。早く来い、自動運転。

 でも、将来的に自動運転の時代が到来するとしても、今のところはどのみち自分で運転することは避けられないわけで、だったらせめて少しでも運転が楽しくなるようにしたい。おそらくつまらなく感じる最大の要因は、運転操作が単純で自分がなかば移動用運転ロボットと化していることだ。だったら運転が難しくなればいい。マニュアルだ、マニュアルしかない!

「カッコいい」は正義! 家族の最大の説得材料!

カッコいい写真たっぷりのマツダのカタログ

 ところがご存じの通り、昨今のクルマでマニュアルの設定があるのは本当に少なくなってしまった。ネット上には輸入車も含め、マニュアル設定のある現行車種のまとめサイトみたいなものが存在するくらいである。この時点で選択肢がかなり限定されてしまうのが悩みどころの1つだ。スポーツ車を加えればその範囲は広がるかもしれないが、さすがに家族用にスポーツ車を選ぶのは、わざわざ家庭崩壊の危機を自ら作り出すようなものだろう、たぶん。

 探してみると、ファミリーカーとしての役割をこなすであろう車種のうち、せっかくマニュアル設定のグレードが用意されているものであっても、オートクルーズや衝突被害軽減ブレーキといった“今どき”の装備がない場合もあった。“素”のマニュアル車でも運転自体は楽しいかもしれないが、1人きりで乗るならともかく、家族を頻繁に乗せることになるファミリーカーとしての用途で、近年の進化著しい先進安全装備が一切ない新車を選ぶのはためらわれる。購入の際に説得しなければならない家族、すなわち妻に対して乗り替えのメリットを提示しにくい。

 もう1つの大きな課題は、所有しているミニバンで十分に(少なくとも主な目的である移動に関しての)用をなしているのに、なぜ乗り替えるのかという点。筆者自身しか乗り替えの必要性を感じていないのだ。家族、すなわち妻に対して、先述のクルマの機能や性能以外の部分でも説得力のある乗り替えのメリットを提示しなければならない。

 そういうこともあって、最初に試乗に訪れたとあるディーラーには、妻が常々「カッコいい」と言っていたメーカーを選ぶという作戦に出た。筆者の乗り替えの理由(移動がつまらないから)に今ひとつ納得のいかない妻でも、好きなメーカーのクルマであれば多少は興味を引くだろうと思ったのだが、終始気乗りしない様子で、ついには「ロゴマークがカッコいいんであって、そのクルマが好きとは言っていない」とか言い出し、試乗車にすら乗ってくれなかった。なんだそれ。

 とはいえ、そのメーカーの車種だとマニュアル車はあっても先進安全装備などが一切ない下位グレードしかラインアップしないことがしばらくして明らかになったため、いずれにしろ選ぶことはなかっただろうと思う。その後、改めて候補を絞り直し、カタログを見せて「あれ? これカッコいいじゃん」と妻に言わしめたのがマツダ、というか、マツダのいわゆる「魂動デザイン」だったのである。

 妻の共感をある程度得られれば、話は早い。筆者としても魂動デザインはカッコいいと思っていたし、マニュアル車でも衝突被害軽減ブレーキの「スマート・ブレーキ・サポート」や「車線逸脱警報システム」、死角の車両を検知する「ブラインド・スポット・モニタリング」といった先進安全装備はきっちり用意されている。

CX-3のステアリングにビルトインされているオートクルーズ(マツダ・レーダー・クルーズ・コントロール)のボタン。こういった「今どき」な機能はぜひとも欲しかった
CX-3のトラクションコントロールやブラインド・スポット・モニタリングなどのON/OFFボタン

車室、トランクの狭さが気になるも、決め手は年次改良と維持コスト

小さいながらもベビーカーだけでなく子供用自転車も余裕で収納できる

 最後まで悩んだのはもっと基本的なところ。後部座席とラゲッジスペースの広さの違いで「アクセラ」とCX-3のどちらかにするか?ということだった。CX-3はフロントのボンネット部分の前後長を大きく取ることで独特かつ魅力的な車体デザインになっているが、「デミオ」と共通のフレーム構造ということもあって、その分だけ車室やラゲッジスペースが少し狭い作りになっている。

 子供が小さい当面の間は不自由しないだろうが、数年して身体が大きくなったら、窮屈に感じてクルマを嫌いになったりしないだろうか、と不安になる。ミニバンの時は子供2人と一緒に大人も後部座席に座る余裕があり、長時間のドライブで子供が飽きて泣き始めても妻があやすことができたわけだが、CX-3では3人掛けの後部座席に2人分のチャイルドシートを置くとそれだけで一杯だ。妻は助手席に座らざるをえず、ドライブ中に子供の面倒を見るのは難しくなるかもしれない。

チャイルドシート設置時の足下のスペース。けっこう窮屈に見えるが、妻本人が普通に座った場合はそこまで窮屈ではないとのこと。妻より10cmほど背の高い身長177cmの筆者はわりと厳しかったのだが

 ラゲッジスペースの狭さもやはり気になる。ミニバンなら3列目の座席を収納すれば荷物の運搬で困るようなことは何1つなかった。さらに2列目の座席を一部畳むだけで自転車2台くらいなら簡単に入る。一方のCX-3は、ラゲッジスペースとして控えめなサイズしか用意していない。子供とのお出かけにはまだベビーカーが不可欠だし、抱っこひも、おむつ、タオル、着替え、飲み物などなど、他に携帯すべきものも山ほどあるのだ。

 だから、当たり前だけれど、ミニバンとCX-3は同じような使い方ができないことを覚悟しなければならない。アクセラはCX-3より後部座席やラゲッジスペースがやや広めなところに惹かれたのだが、それでもミニバンから見ればCX-3とは差はないようなものだ。とはいえ、試乗の段階で少なくともCX-3のトランクにはベビーカーが問題なく収まり、必要最低限の収納スペースがあることは分かった。車室の狭さについても慣れるしかないだろう。そもそもスペースに余裕がほしいのならミニバンを乗り続けるのがベストなのだ。

CX-3のラゲッジスペース
画像では分かりにくいが、底の仕切りを落としぶたのようにして外すと収納容量を稼げる
もっと容量がほしければ、この天板を外せばさらに大容量に(背の高い荷物を置くと後方視界が遮られる場合があるので注意)

 そんなことに悩んでいた折、CX-3に年次改良が施されることと、その変化の差が小さくないであろうという情報が知らされた。(年次改良前のモデルに)試乗した際、1.5リッターディーゼルターボエンジンの加速の気持ちよさを知ってしまったこともあって、車室やラゲッジスペースについては「工夫して使えばなんとかなる」と開き直り、妻からも反対意見は出なかったので(積極的な肯定意見も出ていなかった気がするが)、最後はCX-3に決めたのである。

 一応妻に対しては、ダメ押しとして維持コストの安さについての情報も用意していた。直近6カ月で実際にミニバンに使ったガソリン代を算出し、それをディーゼルのCX-3に切り替えた場合に年間どれくらい費用に差が出るのか。ざっと計算したところでは、燃費の違いも考え合わせ、1年間で約4万円節約できることが分かった。最近でこそレギュラーガソリンが値下がりし、軽油との価格差は若干縮まったとはいえ、それでも年間数万円の単位で維持コストを節約できるのは(説得材料としては)大きい。まあ結局妻にはこの話題を持ち出すことなくスムーズに購入できたのだが。

とにかく移動が楽しいマニュアル車のCX-3。欠点を欠点と見るかは考え方次第?

 そんなわけで、筆者が記憶している限りでは、12年ほど前に実家の母の軽自動車を運転したのを最後に遠ざかっていたマニュアル車に乗り替え、今ではほぼ毎週末、CX-3での移動を楽しんでいる。文字通りの意味で、本当に移動自体が楽しい。

 同乗している家族がショックをできるだけ感じずに、どれだけ滑らかにギヤチェンジしていけるか、あるいはどの回転数、どれくらいのアクセル・クラッチの踏み込み量でギヤチェンジしていくと効率的に加速していけるのかにこだわったりするのだが、うまくできたと思う時もあれば、ドヘタな時もある。失敗した時は、次こそうまくやってやるぞと思って操作を工夫してみる。頭を使いつつ両手両足を駆使する感覚に飽きることがない。これはAT車のミニバンの時には絶対に得られなかったものだ。

 車室は狭いといえば確かに狭い。ただ狭い分、運転席や助手席から後部座席の子供までの距離もそれほど遠くない。例えば子供が鼻水をだらだら流していたら、助手席の妻がすぐにティッシュを取り後部座席に手を伸ばして拭き取れるし、運転席からでも信号停車時に少し身を乗り出してさっと対応できたりもする。泣き出した時はもうどうしようもないのだが……。

 ラゲッジスペースもそれなりに狭く、大量の荷物を詰め込むことはできないので、持って行くべきもの、クルマに常備すべきものをしっかり吟味するようになった。結果的に無駄が減るという意味では、ラゲッジスペースの狭さは一概にデメリットとは言い切れない。でも、車室内については小物を置くスペースがかなり限られているので、目下の課題はボックスティッシュやウェットティッシュをどこに置けば使いやすくて邪魔にならないか、ということ。

ボックスティッシュやウェットティッシュをこんな風にドアポケットに突っ込んでいるが、やや不格好なのでなんとかしたい

 ザッツ・ファミリーカーなミニバンから、ファミリーに求められるユーティリティ性能としては必ずしもミニバンより優れているとは言えないコンパクトカーのCX-3にチェンジしたわけだけれど、結論としては今のところ「乗り替えてよかった」と思うところしかない。なんと言っても、駐車場に停めて他のクルマと並んでいる時に、遠目に「どう見てもマイCX-3が一番カッコいい」と勘違いできるくらいには所有感がある。

 最近なんとなくクルマの移動がつまらない、そんな風に感じている人がいたら、ふらっとディーラーに立ち寄ってマニュアル車に試乗してみてはいかがだろうか。といっても、マニュアルの試乗車自体が少ないので、あらかじめ問い合わせておいた方が確実なわけだけれども。

納車時にスマートフォンで撮影した記念写真

日沼諭史