長期レビュー
カメラマン高橋学のはたらくスバル「レヴォーグ」
第5回:雪道でのEyeSight(アイサイト)、の巻
(2015/3/19 00:00)
Car Watch読者のみなさま、こんにちは。前回の「雪道を走ってみました、の巻」を掲載したところ「雪道でのEyeSight(アイサイト)はどうなの?」という声がSNS等や筆者のまわりから聞こえてきたので、今回はその辺について感じたことを少々書いてみたいと思います。
ちなみにこのEyeSight、単一機能の名称ではなく複数の先進安全機能の総称ですので、その辺を整理すると……。
1、プリクラッシュブレーキ(ぶつからない技術)
2、全車速追従機能付クルーズコントロール(ついていく技術)
3、アクティブレーンキープ(はみ出さない技術)
4、AT誤発進抑制制御/AT誤後進抑制制御(飛び出さない技術)
5、警報&お知らせ機能(注意してくれる技術)
6、プリクラッシュステアリングアシスト(よける技術)
最新のEyeSightであるEyeSight(ver.3)でも、すべての機能を備えてない車種があるため、スバルのWebサイトでは1~5までの表記だったり1~6までの表記であったりと、多少表現の差があったりしますが、ざっと言うとこんなところです。ちなみにレヴォーグは1~6の全部入りですが、今回は雪道の話ですので1~3の話をしたいと思います。
基本となる情報はステレオカメラから
EyeSightという名前から想像できるように、この多岐にわたる安全機能は基となる情報の殆どをフロント部に設置されたカメラで得られる画像情報から得ています。結論からいってしまうと、その構造上当たり前の結果ではありますが、ドライバーが前方を確認しにくいくらいの吹雪や豪雨の時EyeSightは機能しません。
吹雪の中でのプリクラッシュブレーキと全車速追従機能付クルーズコントロール
この話の前提条件として取扱説明書には「プリクラッシュブレーキは前方の視界の悪いとき(雨、雪、霧、煙など)には作動しないことがあります」と明記されています。また全車速追従機能付クルーズコントロールについては「高速道路や有料道路など自動車専用道での使用を想定しています」と記されている上に、使用してはいけない状況として「凍結路や積雪路など滑りやすい路面」がしっかり明記されています。
それを踏まえて……。
筆者がわずかに経験した吹雪の中での走行では全走行における3割程の時間、EyeSightが前方の風景を捉えられず機能が停止しました。これはモニターで確認ができます。運わるくそういう状況下においてプリクラッシュブレーキが介入するような事態になった場合は、残念ながらEyeSightの恩恵には預かれないというわけです。
全車速追従機能付クルーズコントロールについては取扱説明書に明記されているとおり使用しないほうがよいでしょう。もちろん7割の時間は動作するのですが仮にセットできても、視界不安定で機能がONになったりOFFになったりする状態では、継続的に動作させるのは困難です。そもそも、それを監視しながら一定速度を維持しようとしたり、前方の車に追従させようとするのは自分でアクセルコントロールしながら運転するより遥かに神経を使ってしまうので疲れてしまいそうです。
率直にいって取扱説明書から警告されていようが、されてなかろうが今のところ路面のμ(ミュー、摩擦係数)が低く、それも刻々と変わる状態でアクセル/ブレーキのコントロールを機械に委ねよう(=全車速追従機能付クルーズコントロールを使おうと)とは筆者は思いません。
もちろん降雪量や風向きなど、さまざまな条件でその確率は大きく変化すると思いますが、昨年末から今年にかけて走った経験ではそんなところです。
晴天の積雪地でのEyeSight
現実的には晴天や曇天、パラパラ降り続ける程度の雪など、視界が確保されている場合、路面に雪があろうがなかろうがプリクラッシュブレーキ、全車速追従機能付クルーズコントロールともに筆者の経験では何の問題もなく動作します。人間の目では少々つらい逆光でも案外大丈夫なようです。要は前が見えなくなる程の吹雪や豪雨、濃霧でなければEyeSightはまず大丈夫という印象です。
アクティブレーンキープ
もう、ここまで読めば想像どおりだと思います。目視でハッキリ見える道路上の白線や黄色線は認識し、雪でハッキリ見えなければクルマ側も認識しません。認識していればメーター内のマークが緑に点灯しドライバーの知らせてくれるので判断も容易です。このマークが点灯していれば車線中央維持や車線逸脱抑制が働きステアリング操作に直接介入してきます。一方、点灯していなくてもかなりの確率で車線逸脱警報だけはなぜか動作します。
個人的な結論
ざっくり言ってしまうとかなり優秀です、EyeSight(ver.3)。人間の目でも前方が確認しにくい吹雪や豪雨、濃霧でなければほぼすべてのシチュエーションで本来の動作が期待できます。では「雪道でも使うか?」と問われれば個人的には「ノー」です。取扱説明書に使うなと書いてあるという理由だけではなく、やはり路面の状態が刻々と変化し、路面のミューも極端に低い雪道においてドライバーがするべきさまざまな操作を、その一部分であれ機械に委ねるのはいかがなものかと思うからです。
でも雪道でのEyeSightが無用の長物であるかと問われれば、それも「ノー」です。ドライバーが意識的にOFFにしないかぎりプリクラッシュブレーキは雪道であれ常時待機してくれている訳で、きちんと止まるタイヤと慢心しない気持ちとのセ ットで事故は相当防げるだろうと感じてます。また防げずとも、そのダメージの軽減には効果はあると思います。
雪道の話とは直接関係ありませんが、余談として……
EyeSightはプリクラッシュブレーキが作動した場合、その時のカメラの画像情報やABS、VDC、TCSの制御に関する情報をはじめさまざまな車両情報が記録・蓄積されるような仕組みを持っています。そしてその情報を今後の研究開発のためスバルおよび委託した第3者が取得、流用する可能性があると取扱説明書に明記されています。
個人情報云々って話も出そうな記述ですが筆者は大歓迎です。ここに書いたことはほんの一部ですので不安を感じる方はディーラー等に問い合わせしてみるのもよいかもしれません。
歴代EyeSightの進化は視野角などの数値的な進化はもちろん、その自然な動作こそ大きな美点だと考えています。例えば全車速追従機能付クルーズコントロール使用時に、無理な割り込みをされたり、そういう不意の、でも割とよくあるシチュエーショ ンでのEyeSight(ver.3)の自然な制御にはとても感心しています。
数ある進化の中でも、個人的には特にその辺にver.2からの進化を実感しています。EyeSight ver.2+ver.3の販売台数は既に25万台を達成しているとのこと。これからも増え続けるであろう記録された車両情報、そしてディーラーに集まる声、そしてネット等で挙げるユーザーの声、そのすべてに耳を傾け手間をかけ、この途方もないアナログ的手法でドライバーに違和感を与えないような制御の自然さも進化し続けてほしいと個人的には思います。
もちろん、その分人間が退化しちゃってその効果を相殺しちゃうような雑な判断や運転をしてしまうようであれば本末転倒ですよね。クルマ同様、筆者が仕事で日常的に使っているカメラも同じような印象です。クルマやカメラに限らず道具ってどんどん進化しています。その便利な機械を手にしたときに、“いかに付き合うか?”という判断力がユーザーに求められているように感じます。
そんなことも考えさせられる「雪道でのEyeSight、の巻」でした。
高橋 学
1966年 北海道生まれ。下積み時代は毎日毎日スタジオにこもり商品撮影のカメラアシスタントとして過ごすも、独立後はなぜか太陽の下で軽自動車からレーシングカーまでさまざまな自動車の撮影三昧。下町の裏路地からサーキット、はたまたジャングルまでいろいろなシーンで活躍する自動車の魅力的な姿を沢山の皆様にお届けできればうれしいです。 日本レース写真家協会(JRPA)会員