F1開幕目前、ティモ・グロック選手がファンイベントに来日
アムラックス&MEGA WEBでトークショーを開催

MEGA WEBに来場したパナソニック・トヨタ・レーシングチームのF1ドライバー、ティモ・グロック選手

2009年3月20日開催




 3連休の初日となる20日、トヨタ自動車の大規模ショールーム「アムラックス東京」(東京都豊島区東池袋)と「MEGA WEB(メガウェブ)」(東京都江東区青海)で、「2009 F1 グランプリ開幕直前イベント『アムラックス&メガウェブにティモ・グロック選手がやってくる!』」が開催され、F1開幕1週間前というこの時期ながら、パナソニック・トヨタ・レーシングのティモ・グロック選手が来日。1日に2カ所で行われたこのイベントだが、本記事では15時から開催されたMEGA WEBでの模様をお届けする。

 トークショーは、ティモ・グロック選手に加え、解説にモータースポーツジャーナリストの今宮純氏を迎え、司会はフジテレビのF1担当アナウンサーの塩原恒夫氏が務めるトークショー形式で行われた。ステージでは今年のF1に挑むグロック選手の豊富などが語られたほか、ファンとの時間を多めに取りたいというグロック選手の要望で、後半はファンの質問コーナーとなっていた。

リラックスした表情が物語るTF109の好感触
 トークショーで印象的だったのが、グロック選手の表情がリラックスしていて、とても穏やかだったこと。面白い質問には笑顔を見せたり、小さい子に手を振ったりと、かなりの余裕がうかがえた。グロック選手が今シーズン使用するトヨタのF1マシン「TF109」がシーズン前のテストで好調なタイム出しており、それが表情にも表れているのだろう。この時期にマシンの調子が悪かったら、ドライバーとしては落ち着かない心境だろうし、どこかで顔に出てしまうことだろう。時折ピリっとしまった表情こそ見せるが、それは質問に対して真摯に答えようとしたときであり、トークショーそのものは和やかな雰囲気で進行していった。

MEGA WEBの1階に特設ステージが設けられていた。会場はほぼ満席で、立ち見も出るほど解説はモータースポーツジャーナリストの今宮純氏司会はフジテレビのF1担当アナの1人、塩原恒夫氏が務めた

 塩原アナからの1問目は、TF109の感触についてだ。グロック選手は「とにかく、冬のテストでロングランをうまくこなすことができたということがあります。2008年シーズンの後半からすごくクルマの状態がよくなってきていますし、チーム全体もとてもよくなっていて、そのままの勢いで2009年シーズンに入れると思います。本当にチームは新しいルールに合わせた素晴らしいクルマを作ってきてくれています。ただ、(ほかのチームと比べて)どの辺りに自分たちがいるのかという点は分かりにくく、ほかのチームがいま何をしているのかということも分かりませんから、シーズンが始まってみないことには実際の順位については何とも言えません。今言えるのは、すべてがよい方向に向いているということ、マイナスの要素が見当たらないということです」と答えた。

 控えめな感じではあるが、相当調子がよいのがうかがえるのではないだろうか。今宮氏によると「例年になく、今年は『自分たちがどこにいるか分からない』と言っているチームが多いです」とのこと。「フェラーリも調子がよいし、トヨタも調子がよい。ホンダのチームを買い取ったブラウンGPも調子がよいですが、マクラーレンは少し遅れた位置からで開幕戦を迎えることになるのではないでしょうか」という分析を披露していた。

 続いては、1997年シーズン以来の復活となるスリックタイヤについて。「本当にいろいろな変更があった2009年シーズンですが、タイヤに関して私自身はカート時代からF3、GP2を通して、ずっとスリックタイヤのほうが慣れています。昨シーズン、初めてグルーブドタイヤで走ったときはとてもセンシティブで、慣れるまですごく手間取ってしまいました。スリックタイヤに対してはすぐに慣れることができて、状況はかなりよいです」とする。ただ、やはり今シーズンから導入されるKERS(Kinetic Energy Recovery System:運動エネルギー回生システム、カーズ)に関しては、グロック選手自身はまだあまり慣れていないと言う。そして、チャンピオンの決定に関しては最も勝利数の多い者という、20日のイベントの直前になって決まった新ルールについては、「ドライバーとしてはどうかと思いますが、決まったことなので」と語っていた。実際のところは、あまり賛成とはいえないようだ。ただ、このチャンピオン決定ルールについては、イベント後F1を統括するFIAから2009年は従来どおりというリリースが出ており、グロック選手もほっとしたのではないだろうか。

 次の質問は、レギュレーションでダウンフォースが大幅に減った点について。「若干ドライビングに影響はありますが、たぶんダウンフォースが削減された分はスリックタイヤのグリップ力で取り返せるのではないかと思います。もう少し走ってみないと分からないところも多いのですが、テストの数が制限されていますので、判断するのが若干難しい状況です。ただ、ラップタイムを見てみると、それほど大きな変化はないようなので、逆にスローコーナーなどでは立ち上がりで勝負を仕掛けられるのではないでしょうか。そういった意味では、それほど変わらないと思っています」とした。

 また、TF109が得意とするサーキットについて訪ねられると、「本当にどこでも勝負できると感じていますし、どこにでも対応できるよう準備もしています。ただ、その中でも序盤のマレーシアGPは昨年もヤルノ(ヤルノ・トゥルーリ選手)が調子よかったので、楽しみにしています。ブダペストGP、シンガポールGPなどもいいですね。今年は、安定してよいレースができると思っています。昨年は高速サーキットで苦戦しましたが、今年はそれも解消できています。開幕戦から優勝できるよう、それを目標にしています。本当に、いいレースをできる自信があります」と優勝宣言も飛び出した。今宮氏も「マレーシアGPは僕もかなり期待しています。今までのテストを見ると、TF109は苦手なところが減っているように見えますので、彼のコメントは非常に納得できますね。オーストラリアGPとマレーシアGPの開幕2連戦は、日本のモータースポーツ界にとってよいニュースが飛び込んでくるといいなと思っています」と補足した。

 途中から、かつてトヨタF1チームの陣頭指揮を執り、今ではトヨタ自動車モータースポーツ部長の高橋敬三氏がゲストとして登場。トヨタのKERSについて訪ねられると、「長年ハイブリッドをやって来まして、技術的に使える状態にはありますが、開幕戦のオーストラリアGPでは、今のところ使わないでいようかなと思っています。信頼性を見て、もう少し慎重にやっていこうということです。当面は使わない方向ですが、状況を見て投入していこうとは考えています」と回答した。KERSを搭載することで約6秒間に亘り80馬力ほどアップさせられるのだが、その分車重が増し重量バランスの自由度が制限されるため、ブレーキングで奥まで突っ込めず、未搭載のマシンとの勝負では抜けきれない可能性もあるという話や、搭載車両は感電する危険性があるため、ボディに大きく注意を促すための三角マークが描かれていること、メカニックは感電防止用のグローブをはめて作業をするといった話も聞けた。

 また、高橋氏がF1はもちろん、アメリカのNASCAR、国内のSUPER GTやフォーミュラ・ニッポンもトヨタ社内で管轄していることから、SUPER GTに話がおよび、グロック選手に「レクサス SC430」に乗ってみたいかどうか、という質問も出た。「今週末(21・22日)、SUPER GTのレースがあるということで、出してくれるようお願いしたのですが(笑)、ダメだといわれてしまいました。機会があったらぜひ乗りたいです」と語った。SUPER GTはF1とはかなり異なるルールのレースなので興味があると言う。

2人目のゲスト。トヨタ自動車モータースポーツ部長の高橋敬三氏グロック選手は真剣な引き締まった表情も見せつつ、真剣に今宮氏や塩原アナの質問に答えていた

 

充実していたファンとの交流内容
 後半は、ファンとのQ&Aコーナー。あらかじめ来場したお客さんが投函した質問用紙を塩原アナが読み上げ、グロック選手が答えていくという趣向。ここからは1問1答形式でその模様を紹介する。

――オーストラリアGPの目標を教えて下さい?
グロック選手:もちろん優勝です。うまくいくかどうかは分かりませんが、1コーナーをうまく切り抜けて、トップに立っていたいと思います。

――優勝したらまず何をしますか?
グロック選手:まずはメカニックのところに行って喜びを分かち合って、その次は山科さん(TMG会長兼チーム代表兼トヨタ自動車専務取締役)を表彰台に連れて上がって、シャンパンまみれにします(笑)。

――レース前に必ずすることは何ですか?
グロック選手:レースの30分ぐらい前は、小さな部屋にこもって音楽を聞いて集中力を高めていきます。ジンクスのような決めごとは、右側から必ずクルマに乗り込むということです。以前左側から入ってミラーを蹴飛ばして壊してしまったことがあるので、それ以来、絶対に右側から入るようにしています。

――僕は3歳ですが、グロック選手は何歳からレースを始めたのですか?
グロック選手:意外と遅くて、6歳の時に2輪のダートレースを始めました。8歳のときに足を折ってしまったので、そのときに親からもうバイクに乗ってはダメと言われてしまいました。カートに乗るようになったのは遅くて14歳のときです。そこからF1まで駆け上がるのに期間が短いので、すごくがんばらなければならなかったのですが、キミはまだまだ時間があるから大丈夫だよ(といって、その子に向かって手を振りながらニッコリ)。

――日本食で一番好きなものは何ですか?
グロック選手:今回日本に来て、肉料理を食べに行って、自分のお腹に付いてしまってちょっと後悔しているのですが(笑)。お寿司も食べに行きます。小林可夢偉選手がいろいろなお店に連れて行ってくれて、たくさんのスタイルのお寿司を食べることができて、楽しんでいます。可夢偉選手は、お父さんが寿司職人だけあって、とても詳しくて、連れて行ってくれるたびに「この間のお店とは(味が)違うんだよ」と説明してくれます。もしかしたら、からかわれているだけなのかも知れませんが(笑)。ヨーロッパの人はお寿司が好きではない人も多いのですが、僕は大好きです。

――休みの日は何をして遊んでいるのですか?
グロック選手:なかなか休みがないので、たまに休みが取れたときは、できるだけレースと関係がないところで、家族や友達と会っています。そのほか、できるだけF1のことを考えないようにしたいので、バイクに乗って遠出したりもします。今年はシーズンに入ると(ルールの関係で)テストがないので、去年よりはもう少し休みが取れるかなと思っています。

――子供にはどんな名前を付けてあげたいですか?
グロック選手:いい質問だと思います(笑)。ただ、まだ計画がないので考えたこともなかったのですが、そうですね……、「カムイ」なんてどうかなと思います(笑)。

――F1ドライバーで一番仲がいいのは誰ですか?
グロック選手:F1の世界で親友というのはまずいないと思ったほうがよいかと思いますが、何人か仲のよいドライバーはいます。まずヤルノとは仲がよく、レースを離れても何度も一緒に過ごしたことがあります。ロバート・クビサ選手とはF3時代が一緒ですし、ニック・ハイドフェルド選手やセバスチャン・ベッテル選手は、やはりドイツ人ドライバーとして交流があります。とくにベッテル選手とは、ドイツの自宅が近いので昔から知っています。レース終了後は、そのままサーキットに残って、夕飯を何人かで食べに行くこともありますが、どんなに仲がよくなってもコースに出たらすごく熾烈なバトルをしないとならないので、本当の意味での友達というのは少し難しいのかなと思っています。

 ファンからの質問コーナーの後は、グロック選手のレプリカヘルメット抽選会(トークショー終了後にはそのほかのプレゼントの抽選会も)が実施され、その場でグロック選手自身がサインを書いた後、当選者に手渡ししていた。

 そして最後に、来場したファンが応援メッセージを書き込んだフラッグが誕生日プレゼント(グロック選手の誕生日は3月18日)として贈呈されていた。グロック選手はそれを腰に巻き付け「こんな素敵な誕生日プレゼントをありがとうございます。メルボルン(オーストラリアGP開催地)でレースのスタートの前にクルマに(フラッグを)かけたいと思います。なかなかこうしてみなさんの前に来ることができないので、今日はこうしてお会いすることができてうれしかったです。メルボルンは本当に自分たちも楽しみにしているレースなので、序盤から優勝を目指してどんどん仕掛けていきたいと思います。応援よろしくお願いします。ありがとうございました!」と結んだ。

プレゼントの目玉、グロック選手のレプリカヘルメット抽選はグロック選手自身が行ったその場でヘルメットにサインをして、当選者にプレゼント
ファンからの応援メッセージ入りフラッグが手渡されたフラッグを腰に巻いて、最後の挨拶を行うグロック選手MEGA WEBのイベントでは恒例の記念撮影会。多くのファンが来場してのイベントとなっていた

(デイビー日高)
2009年 3月 23日