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マーベル、車載ギガビット・イーサネットを実現する1000BASE-T1製品の説明会
高度な車載情報システムやADASに役立つソリューションをアピール
2016年6月23日 14:31
- 2016年6月22日 開催
米国の半導体メーカーMarvell Semiconductor(マーベルセミコンダクター)の日本法人となるマーベルジャパン(以下、両方合わせてマーベル)は、東京都内の同社オフィスで記者説明会を開催し、同社の車載イーサネット製品への取り組みに関する説明を行なった。
マーベルは、PCやサーバー向けのイーサネットなどの有線ネットワーク、Wi-Fi/BTなどの無線ネットワーク、HDD/SSD向けのコントローラ製品などに強い半導体メーカーで、PCやコンシューマ向けの機器などでも多数の製品で同社の半導体が採用されている。そうした中で同社が力を入れているのが「車載イーサネット」と呼ばれる、PCやサーバーなどの有線ネットワークで標準的に使われているイーサネットの車載向けバージョンを実現する半導体だ。
Marvell Semiconductor オートモーティブ・ソリューション・グループ ディレクター アレックス・タン氏は「我々はギガビット・イーサネットで他社に先行しており、すでにサンプルを昨年から提供している」と述べ、車載イーサネットの規格の中でもより高速な1Gbpsの伝送速度を実現する車載ギガビット・イーサネットを強力に推進していきたいとアピールした。
マイクロソフトのSurface Pro 4など一般向け製品にも採用されているマーベルの半導体
マーベルジャパン ワールドワイド データコム セールス カントリマネージャー アイラ・ホールデン氏は「マーベルは2000年の7月にNASDAQに上場し、現在社員数は約5300名で、うち4分の3がエンジニアだ。開発センターは米国、中国、イスラエルの3カ所にあり、各国に事業所を持っている」と述べ、マーベルの概要を説明した。
マーベルは1995年に設立された比較的新しい半導体メーカーで、米国などで研究開発を行ない、製造パートナーとなるファウンダリーに製造を委託するというファブレス半導体メーカーとなる。その製品ラインアップは多岐にわたっており、PCやサーバーなどのストレージとして利用されるHDDやSSDを制御するコントローラIC、IoT(Internet of Things、インターネット接続機能を持つ家電などのこと)向けのSoC(System on a Chip)、PCやサーバーで利用される有線LANを実現するイーサネット・コントローラ、同じくPCやモバイル機器で利用されるWi-Fi/Bluetoothコントローラなどの製品がよく知られている。
例えば、マイクロソフトが販売しているPC機能を包含するタブレットのSurface Pro 4などには同社のWi-Fi/Bluetoothコントローラが採用されているなど、一般消費者が手に取るような製品にも同社の半導体が採用されている。
そうしたマーベルが近年力を入れているのが、車載イーサネットと呼ばれる自動車向けのイーサネット(有線LAN)のソリューションだ。現在の自動車に利用されているハーネス(ケーブル)の多くはアナログになっており、電気を流すか、流さないかのON/OFFにしか対応していない場合が多い。もちろん、そういう単純な仕組みになっているからこそ高い信頼性を実現しているのだが、その代わりに自動車の内部はそうしたハーネスだらけになっており、自動車の重量に与えている影響は非常に大きい。
そこで近年行なわれている取り組みが、そうしたアナログのハーネスをデジタルにするというものだ。デジタルにすれば、複数の信号をデジタルケーブル1本でまとめて送ることができるようになり、その膨大な数のアナログケーブルを減らすことが可能になる。自動車の設計をよりシンプルにできるし、何よりケーブルに必要な重量を大幅に削減でき、自動車の軽量化を実現することが可能になるのだ。
しかし、公道を走る自動車に利用する以上、信頼性の確保は必須と言える。公道を走っている時に、エラーを起こして止まってしまいましたでは済まないからだ。そこで自動車業界で注目されているのが、信頼性が高く簡単でサーバーなどのミッションクリティカルな用途でも使われているイーサネットなのだ。
車載情報システムやADAS機能を加速する車載イーサネットのソリューション
タン氏は「車載イーサネットにより、例えばIPベースの4Kビデオを車内で配信したり、非圧縮の動画を転送するなどが可能になる。車載情報システムや自動運転などの実現に必要な技術だと言える」と述べ、車載イーサネットを採用することが、より高度な車載情報システムや、将来的には自動運転の実現にも役立つと述べた。
具体的にどういうことかと言えば、例えば自動運転を実現するとすると、人間の眼の代わりとして3Dカメラやレーダー・ライダーなどが接続されて、それらを自動車の中のCPU/GPUで、あるいは遠隔地にあるサーバー上で処理する必要がある。その時に、安定して大容量のデータを転送する必要があるのだが、従来のようなアナログ伝送ではそれは不可能。技術的に枯れていて、高い信頼性でかつ高速にデータを伝送できる車内ネットワークが必要であり、それが車載イーサネットだということだ。
タン氏によれば、車載イーサネットの現在の標準規格となっているのが、米国の標準化団体でIEEE802.3bwとして標準化されている100BASE-T1という規格になる。100BASE-T1は、PCやサーバーで使われている100BASE-Tをベースに自動車向けの仕様を取り入れて作られた仕様で、すでにドイツのメーカーなどが採用し始めている規格になる。伝送速度は100Mbps(12.5MB/秒、一般的なデジタルカメラで撮影した300KBのデジタルカメラの画像を1秒間に約42枚送ることができる)となる。
マーベルはこの100BASE-T1向けの製品として「88Q1010」というPHY(物理層)と「88Q5050」というスイッチの2つのチップを、自動車メーカーやいわゆるTier1(ティアワン)と呼ばれる大手パーツサプライヤー(日本で言えばデンソーのような大手パーツサプライヤーのこと)向けに出荷している。タン氏は「マーベルの強みは車載要件を満たす製品でかつ、低消費電力、より優れたEMI性能を実現している」と説明したほか、現在同社がサンプル出荷を行なっている上位規格1000BASE-T1と、フットプリント互換(同じ基板を利用して製品を構成できること)を実現できることをメリットとして挙げた。
また、タン氏によれば同社では、ドイツにACE(Automotive Center of Excellence)と呼ばれる研究開発施設を設けており、そこで車載イーサネットソリューションの研究開発を専門に行なっているという。これは車載イーサネットの採用で先行するドイツの自動産業と連携する意味もあるということで、50名の研究者が車載イーサネットの研究開発を行なっているということだった。
100BASE-T1の10倍の伝送速度を実現する1000BASE-T1でマーベルは先行するとアピール
タン氏によれば、マーベルの他社に対しての強みは、いわゆるギガビット。イーサネットと呼ばれる1Gbps(約1000Mbps)と100BASE-TXの10倍になる伝送速度を実現する1000BASE-T1という規格に対応した製品を既にサンプル出荷できていることだという。「我々は既に世界中のTier1と1000BASE-T1搭載製品の開発に取り組んでいる、現状では1000BASE-T1対応製品を提供できている唯一のサプライヤーだ」と述べ、マーベルが他社に先駆けて1000BASEーT1製品をサンプル出荷できていることを強調した。
マーベルは2015年の10月より1000BASE-T1に対応した製品のサンプル出荷を開始しており、これらを利用してTier1のパーツサプライヤーや自動車メーカーが製品を開発している段階だという。同社の発表によれば、1000BASE-T1対応PHY(物理層)となる「88Q2112」などを2015年10月から出荷しているとのこと。なお、現在のところ1000BASE-T1はIEEEで標準規格となっていないが、7月に行なわれる予定のIEEE会合で正式な規格としてリリースされる予定だとタン氏は説明した。
タン氏はこうした車載ギガビット・イーサネットにより「車載情報システムで4Kビデオを送ったり、ADAS機能の実現などに大きく貢献する」と述べ、自動車メーカーがより高度な車載情報システムやADASの機能を実装するのに役立つはずだとアピールした。