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【SUPER GT第6戦鈴鹿1000km】NSX CONCEPT-GT開発者、松本雅彦氏に聞く

NSX CONCEPT-GTの改善点とは?

2016年8月28日 決勝開催

 鈴鹿サーキットで毎年夏休みの後半に開催される「インターナショナル鈴鹿1000km」。今年もSUPER GTの第6戦として、8月27日~28日の2日間にわたって開催されている。

 27日の予選でポールポジションを獲得したのが15号車 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GT(武藤英紀/オリバー・ターベイ組)で、タイムはコースレコードとなる1分47秒456。NSX CONCEPT-GTは、新エンジンが投入された第4戦菅生以降調子を上げており、市販車の新型「NSX」発売週に開催されたSUPER GTにおいて、最も速いGTカーになった形だ。

15号車 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GT(武藤英紀/オリバー・ターベイ組)が、コースレコードでポールポジションを獲得した

 そのNSX CONCEPT-GTを開発する本田技術研究所 GTプロジェクトリーダー 松本雅彦氏に決勝開催直前にラウンドテーブル形式でインタビューする機会を得た。以下にそのインタビューの模様をお届けする。


株式会社本田技術研究所 GTプロジェクトリーダー 松本雅彦氏

松本氏:今年は優勝できていないのですが、(第3戦の)菅生から投入した新エンジン、クルマのセッティングの考え方の変更を行ない、菅生、(第5戦)富士と上り調子になってきているので、ここ(第6戦鈴鹿)で勝てるよう我々もがんばっていきたいなと思っています。

 チームのモチベーションも非常に高まっている状態なので、(鈴鹿1000km)は6時間という長丁場で、速さだけではなくて、いろいろ難しいのですが、がんばっていきます。

──菅生から新エンジンを投入したとのことですが、どのような部分を変更されたエンジンを投入したのでしょうか?

松本氏:一番は出力特性という部分です。NSX CONCEPT-GTは今年(2016年)からハイブリッドを下ろしたこともあって、低速からの出力が不足していることがありました。

 セッティングを変更し、この低速側の出力特性、吸排気系の変更などを行ないました。また、とくに燃焼系を変えています。ノック制御という部分ですね。

──セッティングの方向性を変更したという話がありましたが、その辺りを詳しくお願いします。

松本氏:今までNSXは各サーキットにおいて、固めるセッティングを行なってきました。クルマを動かさない、固めるセッティングです。これですと、どうしても跳ねてしまう。ブレーキングのスタビリティもクリヤでなく安定性も出ない。ということで、逆方向の、すごい柔らかいセッティングをしました。

今年、それがやっとものにできて、跳ねを抑えることができました。これにより、ブレーキングのスタビリティ、めくり上がりという症状が改善されて、クルマとして非常に安定して走れるようになってきました。

 また、ジオメトリー変化に関しても、アンチダイブで減らしています。“しなやかに動くような足”を目指してセッティングしています。

──ドライバーの意見はどうですか?

松本氏:チームとしては、すべてのチームがそのセッティングで走っているのではないのですが、2通りの方向性となっています。ドライバーの好みもあるので、一概にすべてのチームが1つの方向になることはないのですが。速ければいいんじゃないかということで別れています。今、別れているのは、チームとドライバーのノウハウがどれだけあるのかによります。

──では、ポールを取ったチームがしなやか方向ですか?

松本氏:そうですね。15号車、8号車、100号車が、今その方向性です。また、64号車はタイヤメーカーが違うので、独自の方向性になります。

──ハイブリッドと下ろしたのは、ハイブリッドを活かしきれなかったということですか?

松本氏:それは厳しい質問ですね。やはり、重さというのはレーシングカーに非常に効きます。事業性を含めて、うちらはミッドシップ+ハイブリッドというレイアウトを採って参戦しているのですが、レースという限り勝たなければならない。そういう使命をおったなかで、ハイブリッドという質量と出力特性と勝つということを考えたときに、僕ら技術者としては勝ちたい。その勝つために重量ハンデ、ハイブリッドのハンデというのは非常に厳しいという判断と、あとはメーカーさんのバッテリー供給の問題があって、(ハイブリッドを)外すことになりました。

──前半戦は成績がよくなかったのですが、これはハイブリッドを外して軽量化したメリットを活かせなかったということですか?

松本氏:元々(NSX)はハイブリッドを装着するということを前提に開発してきたこともあり、スーパーフォーミュラと共有エンジンということで、上の方のトルクを重視していました。但し、GTにおいては車重が重いので、それをハイブリッドシステムで補う構成にしていました。ハイブリッドシステムを外して軽くなりましたが、改良して(菅生から投入した新エンジンを)第1戦に持ってくる時間が足りませんでした。

2基目のエンジンでその辺りを改良できたので、他車と戦闘力は同等になっているのかなと思っています。

──鈴鹿1000kmの予選では武藤選手がコースレコードでポールポジションを獲得しましたが、これは新エンジンを投入したことで想定の範囲内だったのでしょうか? それとも……。

松本氏:想定の範囲内というか(ポールポジションを)獲れるのではないかと予想していました。事前の合同テストのときですが、トップタイムを出していました。鈴鹿までにある程度ウェイトハンデを負うことを予定して40kgの重りを載せていました。

それでよいタイムを出していましたし、実際は鈴鹿までの前戦でそれほどハンデは積まれず8kgのハンデウェイトとなりました。それを考えると、取れて当然と思っていました。

──NSX CONCEPT-GTを使用する各チームがありますが、各チームでデータの共有などは行なわれているのですか?

松本氏:各チームでデータは共有しています。また、ホンダとしても得られたデータを元に各チームに適時適切なアドバイスを行なっています。

──今回の決勝は、天候が不安定な状態ですが、その辺りはどのように考えていますか?

松本氏:やはり1000kmという距離は速さだけでは勝てないものになります。どうやってチームがマネジメントを行なっていくかが大切になります。

──鈴鹿1000kmの見所は?

松本氏:やはり、GT500とGT300の混走なので、GT300をどう処理するのか。それから5回のピットが義務づけられており、ドライバー交代を伴う必要があります。今回、173ラップという周回(距離の)レースではありますが、実際には(スタートから6時間後の)18時半終了という時間で切られるレースの側面もあり、その中でどうピットを切っていくのかが戦略になり、見所にもなります。