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アメリカズカップ2連覇中の「オラクルチームUSA」がヤンマー製エンジンの魅力を語る

2016年11月18日~20日 開催

 福岡県福岡市で11月18日~20日までの3日間、2017年6月に開催予定の「第35回アメリカズカップ決勝戦」に向けた予選大会「ルイ・ヴィトン・アメリカズカップ・ワールドシリーズ福岡大会」が開催された。

 この大会でヤンマーは、大会のオフィシャルトップマリンパートナーを務めるとともに、アメリカズカップで2連覇中の「オラクルチームUSA」のオフィシャルテクニカルパートナーとなっている。

 この会期中に、ヤンマー 執行役員の荒木健氏と、オラクルチームUSA CEOのラッセル・クーツ氏、オラクルチームUSAのスキッパー(艇長)であるジミー・スピットヒル氏による対談が行なわれ、ヤンマー製エンジンの魅力や、オラクルチームUSAにヤンマーが提供しているチェイスボート(伴走艇)である「YANMAR1」の特徴などについて解説された。

対談中のフォトセッションで握手するオラクルチームUSA CEO ラッセル・クーツ氏(左)、オラクルチームUSA スキッパー ジミー・スピットヒル氏(中央)、ヤンマー株式会社 執行役員 荒木健氏(右)
2010年の33回大会、2013年の34回大会と連覇を果たし、今大会にディフェンディングチャンピオンとして出場するオラクルチームUSA

 アメリカズカップは、1851年に開催された「第1回ロンドン万博記念レース」が起源となる長い歴史を持つ大会。当時、新興国であった米国の「アメリカ号」がこのレースで優勝。ビクトリア女王が贈った純銀製の水差しを持ち帰った米国に対し、これを奪い返そうと大英帝国が戦いを挑んだのがアメリカズカップの始まりであり、現在も継続するスポーツトロフィとしては世界最古のものと位置づけられている。世界最高峰のヨットレースであるとともに、「近代オリンピック」「サッカーワールドカップ」と並ぶ「世界3大スポーツ競技」とも言われている。

 日本からは、1992年、1995年、2000年に「ニッポンチャレンジ」が参戦した経緯があり、今年は15年ぶりに「ソフトバンク・チーム・ジャパン」が参戦。2013年の第34回アメリカズカップで優勝したオラクルチームUSAへの挑戦権をかけて、日本、イギリス、フランス、スウェーデン、ニュージーランドの5チームが、予選シリーズ、選抜レース、チャレンジャー決定レースを戦い、2017年6月17日から英領バミューダで開催される本戦で、オラクルチームUSAに対して1対1のマッチレースに挑むことになる。

 なお、今回の福岡大会は、アジアでは初めてとなるアメリカズカップ・ワールドシリーズ(予選シリーズ)の開催となった。防衛艇として参戦するオラクルチームUSAは、今回の福岡大会を含む予選シリーズでは必ずしも勝利する必要はないが、選手によるレーシングヨットの調整や、他チームの情報収集という点で重要な意味を持つ試合となっている。

オラクルチームUSAに伴走艇として提供されているYANMAR1

 ヤンマーは2013年からオラクルチームUSAとオフィシャルテクニカルパートナー契約を締結。同チームの伴走艇であるYANMAR1などを提供してきた。

 過去10年間におけるレーシングヨットの進化は激しく、以前は8ノット程度の速度しかでなかったものが、現代では最高で50ノット(90km/h前後)近い速度が出るようになっている。エンジンを持たないヨットが、風の力だけでこれだけのスピードを実現しているのだ。

 この背景には、2013年からのレギュレーション変更でハイドロフォイル(水中翼)を有するスタイルが採用可能になり、水面からヨットが浮上して走行。造波抵抗から解放されることで、最高速が一気に上昇したという要素がある。これを受け、伴走艇でも高速性が求められるようになったことからヤンマーがオフィシャルテクニカルパートナーになり、オラクルチームUSAに伴走艇のエンジン供給といったサポートをすることになった。

YANMAR1は全長10.2m、全幅3.25mの艇体に、ヤンマーの8LV370エンジンを2基搭載。最高50ノット近い速度が出るレーシングヨットを追走する

 伴走艇は練習中や試合前後にレース艇を牽引するだけでなく、高速で航行するレース艇から遅れずに追随して、練習中や試合中の膨大なデータ収集やその解析を行なうといった作業を同時に進める。従来の伴走艇では高速化するレーシングヨットの追随に限界が生じていたことから、ヤンマーの最新マリンディーゼルエンジン 8LV370を採用することになったという。

 さらに、今回からはキャプサイズ(転覆)時のセーラー救出やレース艇の引き起こしといった作業も新たに追加されたという。

レース中などにセーラーが着用するライフジャケットやヘルメット

 また、レース艇が高速化したことにより、転覆時やクルーの落水時のリスクも大きく高まっている。セーラーはライフジャケットやヘルメットを着用。海中でもすぐに利用できるよう酸素ボンベも携行しているが、失神状態で落水すれば、セーラーの生死にも直結する問題にもなりかねない。ここでも高性能エンジンを搭載したチェイスボートが重要な役割を務める。

 オラクルチームUSAでは、ヤンマーのエンジンを搭載した伴走艇であるYANMAR1を3艇導入。そのうち、2艇を練習用、1艇をレース用に使用しているという。YANMAR1は英スコーピオンの艇体に、ヤンマー製マリンディーゼルエンジン 8LV370を2基搭載。急激なストップ&ゴーにも対応できるほか、最大で53ノットの速度が出るという。

YANMAR1の艇体後方に、V型8気筒エンジンの8LV370を2基並べて配置。1基あたりの最高出力は272kW/3800rpm
対談の様子
ヤンマー株式会社 執行役員 荒木健氏

 ヤンマーの荒木執行役員は、「海の上でエンジンがトラブルを起こすと命にかかわる問題が発生するので、マリンエンジンは信頼性、耐久性が最も重要なファクターになる。どんな海の状況でも、どんな使われ方をしようとも絶対に壊れていけない。これを実現するため、世界中のユーザーの声を聞きながら改良し、長年に渡ってノウハウを蓄積してきた。オラクルチームUSAの伴走艇に搭載している8LV370は、軽量、コンパクトでありながら、環境にやさしく、ヤンマーのドライブユニットとの組み合わせでより安心して利用してもらえる」と発言。

 また、「世界で最も強いオラクルチームUSAの伴走艇のエンジンに選ばれた技術、耐久性を世界の方々に広めることができる。ヤンマーでは2012年に100周年を迎えたのを機に、2013年夏にコンセプトモデルである『X39 EXPRESS CRUISER』を発表。このクルーザーには今回の伴走艇と同じエンジンを搭載していて、富裕層から注目を集めるクルーザーになっている」などと述べた。

オラクルチームUSA スキッパー ジミー・スピットヒル氏

 オラクルチームUSAのスピットヒル氏は、「今回のアメリカズカップは、過去の大会に比べて最もスピードが速いレースになり、40ノットものスピードを出すことになる。練習中には、設計、エンジニアリングチームが乗る伴走艇も、何時間にも渡って同じ速度を保つ必要がある。ヤンマーのエンジンは、こうした能力を実現する性能と信頼性を持っている。だからこそヤンマーを選択した。ヤンマーのエンジンを搭載した伴走艇はヨットのすぐ近くにいて、すべてのデータをリアルタイムで収集する役割と、転覆や落水などの万が一の事態が発生したときに救助するダイバーが乗船し、そこに数秒のうちに辿りつくことができる。最高の性能を持った伴走艇がいることで、スキッパーとして安心してレースや練習に臨むことができる」と述べた。

オラクルチームUSA CEO ラッセル・クーツ氏、

 また、オラクルチームUSAのクーツCEOは、「ヤンマーグループには大きなサポートを得ており、長年のパートナーシップにも感謝をしている。ハイパフォーマンスな伴走艇を、希望どおりの形で提供してもらっている。データ収集の作業を行なうときは、安心して利用できる伴走艇が必要だ。しかも、毎日伴走してもらうための信頼性も必要である。ヤンマーは、サービスを含めて安心を提供してくれている」とした。

 さらにヤンマーの荒木執行役員は、「ヤンマーは、日本では農機メーカーとしてのイメージが強いが、マリン分野においても、漁船から大型の外航船まで幅広い船にエンジンを使ってもらっている。マリン分野における認知度向上の狙いもあって、アメリカズカップをサポートしている。“海のF1”と言われるアメリカズカップは、アジアでも日本でも注目されはじめている。多くの人に『ヨットはかっこいい』『マリンスポーツはこんなに面白い』ということを知ってもらい、若い世代を中心にヨットの認知度を浸透させたい」と発言。オラクルチームUSAのクーツCEOも、「若い人たちにヨットの楽しさを広げていたきたいという気持ちはヤンマーと一緒。だからこそ、力強い絆がある。日本にも優秀なセーラーがいる。ぜひ彼らを育てていきたい」と語った。

観戦エリアの一角にヤンマーのブースを設置。前回大会でオラクルチームUSAのレース艇に使用されていた実際のラダー(舵)も展示された