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【Suzuka10H】メルセデスAMG、カスタマーレーシング責任者に聞く

海外チームと日本チームがデータをシェアすることで全体を高める

2018年8月25日 予選

2018年8月26日 決勝

Mercedes-AMG GmbH カスタマーレーシング責任者 ステファン・ウェンドル氏

 メルセデス・ベンツのスポーツカーブランド「AMG」を展開するMercedes-AMG GmbH(以下、メルセデスAMG)は、AMGブランドのスポーツカーのほか、FIA-GT3などのレーシングカーをカスタマーに販売し、レースをサポートする「カスタマーレーシング」と呼ばれる取り組みを熱心に行なっている。

 そうしたメルセデスAMGが販売しているカスタマーレーシングカーは世界中でレースをしているが、日本もそのよい例で「Mercedes-AMG GT3」は、SUPER GTのGT300にGOODSMILE RACING & TeamUKYOやK2 R&D LEON RACINGなどから参戦しており、前者は2017年のGT300シリーズ・チャンピオンに見事輝いている。

 FIA-GT3の規格で行なわれるSUZUKA 10 HOURS ENDURANCE RACE」(鈴鹿10時間耐久レース、以下SUZUKA 10 HOURS)も同様で、GOODSMILE RACING & TeamUKYOのようなGT300に出場しているチームだけでなく、SUZUKA 10 HOURSもその一戦として行なわれているインターコンチネンタルシリーズに出走しているチームが来日し参戦している。

00号車 Mercedes-AMG Team GOOD SMILE(Mercedes-AMG GT3、谷口信輝/片岡龍/小林可夢偉組)

 メルセデスAMG カスタマーレーシングの責任者であるステファン・ウェンドル氏がSUZUKA 10 HOURSにあわせて来日したので、カスタマーレーシングの取り組みなどについてうかがってきた。

 ウェンドル氏はメルセデスAMGでは2015年からFIA-GT3車両の開発パートナーとなるHWA(DTMでメルセデスのレーシングカーを走らせているコンストラクター)と協力してFIA-GT3車両の開発に関わり、現在の同社の主力製品である「Mercedes-AMG GT3」は同氏が中心となって開発したという。その後、2017年6月から現職にあり、世界中のレースに参戦しているメルセデスAMGのカスタマーとのコミュニケーションなどを担当している。

海外のチームが持つピレリタイヤの経験・データ、日本のチームが持つ鈴鹿サーキットの経験・データはお互いにシェアして高め合う

──メルセデスAMGはSUZUKA 10 HOURSをどう捉えているか?

ウェンドル氏:ここのレースに来ることができてとても光栄だ。我々は常にSRO(筆者注:FIA-GT3の規格を作成したレースオーガナイザーで、欧州やアジアなどでブランパンGT選手権を展開している。SUPER GTのGT300のFIA-GT3のBOPもGTAの委託を受けてSROが行なっている)と考え方を共有しており、そのSROと鈴鹿サーキットがこうしたアイコニックなレースを行なうことを歓迎している。このレースはインターコンチネンタル選手権の1つのレースとして行なわれており、鈴鹿、スパ・フランコルシャン、ラグナセカといった世界に名だたるサーキットで行なわれている魅力があるシリーズとなっている。

 もちろん競争は激しく、簡単ではない。出走している車両もアウディ、ポルシェ、ベントレー、ホンダ、ニッサンと強豪がそろっている。我々にとっては現在我々のドライバー(筆者注:888号車をドライブするラファエル・マルチェッロ選手、トリスタン・ヴォーティエ選手がランキング2位になっている)がシリーズ2位になっており、チャンピオンシップで逆転して最終戦に向かうことは重要だ。

──ここ日本でも、メルセデスAMGのレーシングカーを利用してSUPER GT/GT300に参戦するなどしている。SUPER GT/GT300への取り組みを教えてほしい。

ウェンドル氏:SUPER GTのGT300は最高の選手権の1つだと考えている。特に昨年我々のカスタマーチームであるGOODSMILE RACING & TeamUKYOとK2 R&D LEON RACINGが最終戦でチャンピオンを争い、最終的にGOODSMILE RACING & TeamUKYOがシリーズチャンピオンを獲得した。今年は前戦の結果までで、BMWにリードを許しているがGOODSMILE RACING & TeamUKYOとK2 R&D LEON RACINGのどちらもこれから盛り返してくれて、2シーズン連続でチャンピオンを獲得してくれると思っている。これまでシリーズ2連覇という例はないので難しいとは思うがトライしていきたい。

──カスタマーサポートというのはどのようなことをやっているのか?

ウェンドル氏:今回のSUZUKA 10hのようなインターナショナルなレースでは独立系のチームをサポートすることをしている。そのため、クルマを開発したHWAのエンジニアにも来てもらって、各チームのエンジニアと協力してデータを共有して多くのクルマを同じレベルにする努力をしている。これはすべてのチームが同じテーブルについて、オープンにしてやっている。

 例えば、今回の鈴鹿でのレースではGOODSMILE RACING & TeamUKYOは鈴鹿サーキットでの多大な経験がある。それに対してインターコンチネンタルシリーズに参戦しているチームはピレリタイヤへの経験がある。それをお互いに出し合って、ファミリーとして協力することでより高めあうという取り組みを行なっている。

──SUPER GTのGT300クラスでは先日の富士500マイルレースで、GT300の車両の1つが大ダメージを受けてレースに出走することができなかった。今回のようにメルセデスAMGが直接サポートするような場合にはそうしたものも直せてしまうのだろうか?

ウェンドル氏:さすがにシャシーそのものにダメージが及んでいる場合にはシャシーを交換しないといけない。ただ、パーツを交換すればいいレベルであれば、必要なパーツを持ってきているので直せると思う。例えば、昨年のマカオで行なわれたFIA GT World Cupでは、大きなクラッシュが発生し多数の車がダメージを受けた。我々のカスタマーカーにもそうした車両があったが、24時間後にはもう直っていた。そうした体制で我々はカスタマーをサポートしているのだ。

──メルセデスは今シーズン末でDTMから撤退することを既に発表している。これによりGT3を利用したカスタマーレーシングの重要性が上がっていくことになるのか?

ウェンドル氏:そうは思わない。DTMはドイツローカルをターゲットにした選手権で、カスタマーレーシングはもっとグローバルな取り組みになる。メルセデスのモータースポーツは2つの種類の取り組みがある、1つはF1とDTMのようなワークスチームでプロフェッショナルが戦いそれによりブランド価値を高める取り組み、そしてカスタマーレーシングは、顧客となるカスタマーレーシングと協力しながらブランドイメージを高めていく取り組みで全く種類が違う。

 カスタマーレーシングでは我々はレースは行なわない。あくまでレースをするのは我々の顧客になるレーシングチームだ。だからこそサポート体制なども重要になるが、そうした体制を評価していただいたからこそ既に120以上のカスタマーカーが世界中のレースを走っている。我々は注文いただければ、クルマを用意するだけでなく、チームクルーのトレーニングも行なうし、ドライバーに関しての育成を行なっている。ぜひご興味があれば、我々に電話を(笑)。

──日曜日のレースはどうなると考えているか?

ウェンドル氏:レース展開に大きな影響を与えるのは気温と路面温度だと考えている。どちらも我々の当初の予想よりも熱い。また、予選も重要だ。というのはスタートの時には混乱が発生しやすいので、クリーンに1コーナーに入っていくために予選で上位に来ることが大事だ。そして、何よりも重要な事は、最初のスティントをリードすることでなく、ゴールの時の上位にいることで、それを決定するのは安定してレースを運営する力だと考えている。

──今回日本のチームはピレリタイヤを初めて使うがそこが不利になる可能性はあるか?

ウェンドル氏:不利にはならないと思う。我々のカスタマーにはブランパンGTアジアシリーズに参戦しているチームもあり、そうしたチームがデータをもっている。そして既に述べたとおりGOODSMILE RACING & TeamUKYOは、ドライバーの3名を含めてこの鈴鹿サーキットに関して膨大なデータと経験をもっている。我々のエンジニアを介して、それらはお互いにシェアしており、どちらにとってもそれは良い方向に働くと考えている。