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F1 トロロッソ・ホンダ チーム代表 フランツ・トスト氏、「近い将来にFP1でホンダの若手ドライバーを走らせたい」

現在開催中のスペインGP予選で9位に入ったトロロッソ・ホンダのダニール・クビアト選手(写真提供:ホンダ)

 本田技研工業は、2019年シーズンからF1トップチームの1つであるレッドブル・レーシングにパワーユニットを供給している。その成果として、開幕戦のオーストラリアGPではレッドブル・レーシング・ホンダを駆るマックス・フェルスタッペン選手が決勝レースで3位表彰台を獲得するなどの結果を残している。

 ホンダとレッドブル・レーシングを結びつけるきっかけとなったのは、レッドブルのジュニアチームという位置づけになるトロロッソだ。イタリア語でレッドブルを意味するトロロッソは、2006年にレッドブルが前のオーナーから買収し、それ以来レッドブル・レーシングに昇格する若手ドライバーを育てるチームとして存在してきた。

 その出身ドライバーと言えば、2010年~2013年まで4年連続ワールドチャンピオンのセバスチャン・ベッテル選手や、通算7勝を挙げているダニエル・リカルド選手、そして現在のレッドブル・レーシング・ホンダのエースで通算5勝を挙げているマックス・フェルスタッペン選手。実績あるF1ドライバーを生み出しており、成功しているプログラムの1つと言ってよいだろう。

 トロロッソ・ホンダのチーム代表を務めているのがフランツ・トスト氏。トスト氏はかつて日本に住んでいたこともあるという知日派で、日伊連合の橋渡し役として最適な存在と言える。そのトスト氏に、トロロッソとホンダの関係、そして将来の日本人ドライバーの起用の可能性に関して話をうかがった。

トロロッソ・ホンダ チーム代表 フランツ・トスト氏

日本とイタリアの橋渡し役に、トロロッソ・ホンダのチーム代表 フランツ・トスト氏

トロロッソ・ホンダのマシンSTR14(写真提供:ホンダ)

 トロロッソはイタリア語で「レッドブル」、つまり紅い牛のことを示す言葉で、その名のとおりレッドブル傘下にあるイタリアのF1チームだ。トロロッソの前身となっているのは、ミナルディF1チーム。2006年にレッドブルのオーナーであるディートリッヒ・マテシッツ氏が、前オーナーから買収して成立したのが現在のトロロッソで、現在もチームのファクトリーはミナルディの本拠地があったイタリアのファエンツアにある。

 トロロッソを長年率いているチーム代表が、フランツ・トスト氏だ。トスト氏はかつて、ミハエル・シューマッハー氏のマネージメントをしていたことで知られるウィリー・ウェーバー氏の下で働いており、その時に担当することになったミハエルの実弟ラルフ・シューマッハ氏が、1996年にフォーミュラ・ニッポンと全日本GT選手権に参戦することになった時に一緒に来日し、1年ほど日本に住んでいたことがある。

 その当時のことをトスト氏は、「1年に満たない期間だったが日本に住んで日本の文化を勉強した。それは日本の人々がどう考えて、どう決断しているのかを学習した。それが今のホンダと関係を構築する上で役立っている。我々は異なる文化や考え方を持っており、ホンダの人々とどのように協力していくか、どのようにコミュニケーションを取っていくか、日本の皆さんが西欧の考え方を学習されているのと同じように、我々の側もそれを学習していくことが重要だと考えている」と述べ、お互いに尊重し合っていることがホンダとトロロッソのパートナーシップがうまくいっている要因だと説明した。

 今シーズンのホンダについてトスト氏は「ホンダは非常によい仕事をしている。昨年から今年にかけて性能は向上しているし、信頼性も大きく向上している。サクラ(筆者注:ホンダF1レーシングの研究開発拠点)のエンジニアは日々よいパワーユニットの開発に力を注いでくれている」と述べ、今年の車の競争力は高く、今後も伸ばしていけば中段勢でいい戦いができるだろうと説明した。

 実際、両者のパートナーシップは昨年の第2戦バーレーンGPで、当時のトロロッソのドライバーであるピエール・ガスリー選手が4位に入賞し、その後も性能を向上させ続けたことが、今シーズンにレッドブル・レーシングがパワーユニットとしてホンダを採用することを決めた大きな要因となった。

2019年にF1デビューのアルボン選手と、チームに戻ってきたクビアト選手のコンビ

ダニール・クビアト選手(写真提供:ホンダ)

 今シーズンのトロロッソ・ホンダは、ダニール・クビアト選手とアレクサンダー・アルボン選手という2人のドライバーの組み合わせになっている。

 ダニール・クビアト選手は、2014年にトロロッソからF1にデビューし、2015年にレッドブル・レーシングへ昇格したが、2016年にはマックス・フェルスタッペン選手と入れ替わる形でトロロッソに戻る形になった。2017年にはチームとの関係が悪化したことで、シーズン途中でチームを去ることになった。2018年はフェラーリでシミュレータドライバーを務めてその実績が評価され、今年からチームに戻り、開幕戦のオーストラリアGPで10位に入賞するなどわるくないスタートを切っている。

アレクサンダー・アルボン選手(写真提供:ホンダ)

 アレクサンダー・アルボン選手は、イギリス人の父親とタイ人の母親の間に生まれ、タイのライセンスで走っている。タイ人ドライバーとなっているが、生まれと育ちはイギリスというインターナショナルな経歴の持ち主。今年からトロロッソ・ホンダと契約してF1にデビュー。タイ人ドライバーとしては1950年代にF1ドライバーだったビラ王子以来のタイ人F1ドライバーとなる。

 そのアルボン選手、中国GPのFP3でクラッシュしてピットレーンスタートになったが、決勝レースで追い上げて10位に入賞して初ポイントを得るなどの活躍を見せている。中国GPのFP3におけるクラッシュなどのミスはあったが、そこから盛り返してポイント圏内でフィニッシュした走りは高く評価されている。そのほかのレースでもルーキーらしからぬ冷静な走りを見せており、今後の成長が期待されている注目のドライバーの一人になっている。

 そうした2人のドライバーについてトスト氏は、「我々の今年のクルマは優れた空力を持っており、パッケージとして優れており、2人のドライバーはそれを生かすことができると期待している。ダニールはすでにF1での経験があり、スピードに関しては証明済みだ。アレックス(アレクサンダー・アルボン選手の愛称)は新人だが、すでによい仕事をしており、我々は2人ともに満足している。今年中には驚くような成績を取ることが可能だろう」とした。

予選で9位に入ったクビアト選手のSTR14(写真提供:ホンダ)

 なお、5月11日に行なわれた予選では、アルボン選手は惜しくもQ2に進めず12位、クビアト選手はQ3に進んで9位となった。クビアト選手はトップ6(メルセデス、フェラーリ、レッドブル・レーシング)に次ぐ、いわゆる中段勢の争いではハースの2台に次ぐ9位となっている。スペインGPの会場であるカタロニアサーキットは典型的なサーキットと言われており、ここでの成績はチームの戦闘力を示している。その中で中段勢でハースに次ぐ順位を得たことは、トロロッソにとっていいニュースということができるだろう。

トロロッソからFP1でホンダの若手ドライバーを走らせたい

フランツ・トスト氏(左)と中野信治氏(右)

 我々日本のファンとしては気になるのは、そうしたトスト氏が、トロロッソに日本のドライバーを起用する可能性があるのか?というだろう。

 その点に関してトスト氏は、「近い将来にFP1で日本人ドライバーを走らせたいと考えている。もちろんこれは私だけで決める話ではなくて、山本氏(筆者注:山本雅史氏、ホンダF1マネージングディレクター)をはじめとしたホンダ側の意向も関係してくる話だが、我々としてもプッシュしていきたい」と述べ、具体的な時期は明言しなかったが、それほど遠くない将来にF1グランプリが開催されている週末のFP1(練習走行1回目)に、日本人の若手ドライバーを採用したいという意向を明らかにした。

トロロッソ チーム代表 フランツ・トスト氏(左)と山本雅史氏(ホンダF1マネージングディレクター、右)

 なお、今回のスペインGPにはホンダと鈴鹿サーキットが運営しているレーシングスクール「SRS-F」の副プリンシパル(日本語にすれば教頭先生)を務める中野信治氏が参加しており、ホンダのバックアップでF2やFIA-F3に参加している松下信治選手、角田裕毅選手、名取鉄平選手というSRS-F出身のドライバー達に様々なアドバイスをしていた。

 中野氏は現在もスーパー耐久でドライバーとして走っているほか、スーパーフォーミュラ/SUPER GTの無限チームの監督を務めており、今回はSRS-Fの事実上の校長(校長の佐藤琢磨選手はまだ現役であるため、シーズン中はなかなか関われないため)として、卒業生の活動などを視察し、それを今後のSRS-Fでの在校生へのアドバイスに役立てるためにスペインGPを訪れている。

 その中野氏は、1998年にトロロッソの前身であるミナルディF1チームで走っていたことも縁もあり、トスト氏とも話をしており、今回のインタビューにも同席していた。

F2に参戦している松下信治選手(写真提供:ホンダ)
FIA-F3に参戦している名取鉄平選手(左)と角田裕毅(右)(写真提供:ホンダ)

 日本ではF1人気がなかなか戻って来ないというのは、モータースポーツファンや関係者に共通した悩みだと思うが、その最大の理由が日本人のヒーロー不在にあるということは論を待たないだろう。2014年にフル参戦した小林可夢偉選手以来、フルシーズンどころかFP1で走った日本人がいない状況では、そう言われてしまうのも無理はないところだ。

 それだけに、今年F2を走っている松下選手、FIA-F3を走っている角田選手と名取選手といった日本人選手の活躍には今後も注目していきたい。