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豊田章男社長がいきなり発表、2022年は水素カローラに加え合成燃料使用の3気筒1.4リッターターボ搭載GR86もS耐参戦へ

記者会見で、いきなり3気筒1.4リッターターボ搭載GR86のS耐参戦を発表するトヨタ自動車株式会社 代表取締役社長 豊田章男氏

 11月13日のスーパー耐久最終戦岡山の予選日には衝撃的な発表が次々に行なわれた。トヨタ自動車 豊田章男社長、マツダ 丸本明社長、スバル 中村知美社長、川崎重工業 橋本康彦社長、ヤマハ発動機 日髙祥博社長の出席した記者会見では、マツダがバイオディーゼル使用のデミオで、スバルが合成燃料使用のBRZで、2022年のST-Qクラスに参戦することが発表された(デミオは最終戦にも参加)が、2022年はトヨタの参戦体制も大きく変わることとなる。

 現在、トヨタのST-Qクラスへの参戦は豊田章男社長がオーナーを務めるルーキーレーシングへ委託されている形になり、水素燃焼エンジンを搭載する「水素カローラ」はルーキーレーシングから参戦している。また、ルーキーレーシングでは、「GRスープラ」のGT4用先行開発も行なっており、28号車としてST-Qクラスに参戦している。

 変わらないのは、水素カローラの参戦のみで、そのほかは大きく変わることとなる。

 まず、前提としてST-Qクラスにマツダのバイオディーゼル「デミオ」が加わり、スバルが合成燃料使用の「BRZ」で加わることとなる。このBRZは2代目BRZと同じく2.4リッターの自然吸気水平対向4気筒エンジンを搭載。スバルとして水平対向4気筒エンジンのカーボンニュートラルを追求していくものとなる。

 トヨタも「GR86」でST-Qクラスへ参戦と発表されていたが、会見で豊田章男社長は搭載エンジンを「1.4リッターターボ」と発言。会場は一瞬ざわめき、記者自身も「トヨタに、今そんなエンジンあったっけ??」と頭の中がはてなマークだらけに。後ほど設定された、TOYOTA GAZOO Racing カンパニー・プレジデント 佐藤恒治氏の取材時に確認してみることにした。

サプライズだった、3気筒1.4リッターターボの発表

会見の後行なわれたスバル&トヨタ説明会。いわばディープダイブセッション。左から2人目がトヨタ自動車株式会社 TOYOTA GAZOO Racing カンパニー・プレジデント 佐藤恒治氏。ラリージャパンの発表会後、かけつけた

 TGRプレジデント 佐藤恒治氏によると、トヨタ&ルーキーレーシングは2022年のスーパー耐久に3台体制で挑むことになるという。1台は、水素燃焼エンジン搭載カローラ。これは、今シーズン改良を加えれられているが、課題も見つかっており、その解決のために2022年もST-Qクラスに参戦していくという。

 そして、豊田社長が発表したST-QクラスのGR86は、GRスープラに代わってST-Qクラスに参戦するものとなり、豊田社長の発言どおり1.4リッターターボ、しかも3気筒エンジンとのこと。

 佐藤TGRプレジデントはじめトヨタスタッフは、この会見で発表することを誰も聞いておらず、完全にサプライズの発言であったとのこと。この1.4リッターターボの真意は、「ターボ係数をかけて、2.4リッターの自然吸気のエンジンと同クラスに収まるもの」(佐藤TGRプレジデント)とのこと。つまり、同じ合成燃料を使うスバル BRZの自然吸気水平対向エンジンに対し、ダウンサイジングターボで戦うというチャレンジになる。

注目のエンジンストロークは?

 このエンジンブロックは水素カローラにも転用されているGRヤリスのG16E-GTS型エンジンを流用したものになるとのことだ。で、GRヤリス用G16E-GTS型エンジンのボア×ストロークは87.5×89.7mm、単気筒あたりの排気量は約539.1ccとなり、3気筒で1618ccと発表されている。

 このブロックを転用するとのことで、その後あれこれ聞き回ってストロークの短縮で対応することが分かった。1400ccの排気量に納めるべく逆算していくと、87.5×77.0mmのボア×ストロークであると単気筒あたり約462.8ccに収まり、3気筒で約1388.3ccになる。この辺りのストロークになるのだろうか。

 というのも、トヨタエンジンで記憶しておきたい名エンジンとしては、2.0リッターの3S-G型エンジンや、1.6リッターの4A-G型エンジンがある。3S-G型エンジンのボア×ストロークはスクエアの86.0×86.0mmと覚えやすく記憶している人も多いだろう。一方、GR86のご先祖さまであるAE86に搭載されていた4A-G型のボア×ストロークは81.0×77.0mmでショートストロークエンジンとして知られていた。一般にエンジンの回転数限界はピストンスピードが大きく関わっており、ストロークの長さはピストンスピードに影響する。4A-G型エンジンはレースでも活躍しており、トヨタには77mmのストロークに対する回転数限界ノウハウなどが蓄積していると思われるのだがどうだろうか? なにより、GR86がご先祖さまのAE86と同じストロークのピストンで走っているというのは、1つの内燃機関のロマンだろう(外れていたらごめんなさい)。

 いずれにしろ、87.5×77.0mmのボア×ストロークとなると、4A-G型を超える超ショートストロークタイプのエンジンとなる。近年はロングストロークタイプのエンジンが多く、ショートストロークエンジンをどうカーボンニュートラルにもっていくのか楽しみになる。

 そのほか現行のGR86のS耐仕様も参戦。こちらはガソリンエンジンモデルで、新型となったGR86のパーツ開発やポテンシャル開発を通じて、次期型への進化を模索していくものだ。

スバルとトヨタが用いる合成燃料は何になるのか

 注目されるスバルとトヨタが用いるカーボンニュートラルの合成燃料については検討中だという。スーパーフォーミュラとSUPER GTでは2023年から共通のカーボンニュートラルフューエルを導入することを発表しているが、それと同じかと佐藤TGRプレジデントに確認したら、「それも選択肢の1つ」という。ただ、スーパー耐久という市販車が参加するレースということを考えると、ほかの選択肢も必要とのこと。

 佐藤TGRはWRC(世界ラリー選手権)で導入されるP1というサステナブルフューエルも検討課題の1つと語っており、「その燃料を導入すると、スバルさんもWRCに復帰しやすくなりますよね」と質問を振ったところ、「おお、危ない(笑)」と質問から逃げられてしまった。

 いずれにしろスーパー耐久にふさわしい燃料を検討しているとのこと。このふさわしいには、価格面も含まれているかも知れないし、将来の市販車に導入しやすいという意味が含まれているのかも知れない。

3気筒1.4リッターターボ搭載GR86については「がんばります!!」

 佐藤TGRは、この日の午前中ラリージャパンの発表会のために愛知県豊田市で登壇。そこから軽やかに舞い戻った岡山で、豊田社長からのサプライズ発表があった。水素カローラの開発、合成燃料エンジンの開発、3気筒1.4リッターターボ搭載GR86の開発など多くの開発をものすごいスピードでこなしている。「3気筒1.4リッターターボ搭載GR86は大変ではないですか?」と聞いたところ、「がんばります!!」とにこやかに返してくれた。