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日産など4社「カーボンニュートラル社会の実現に向けたパートナーシップ」合同発表会

2021年12月22日 開催

日産自動車、住友商事、住友三井オートサービス、スーパーシティAiCTコンソーシアムの4社による合同発表会が開催された

 日産自動車は12月22日、カーボンニュートラルの実現に向けた3件の新たな取り組みについて発表。同日にこれらの取り組みでパートナーとなる住友商事、住友三井オートサービス、スーパーシティAiCTコンソーシアムと4社で「カーボンニュートラル社会の実現に向けたパートナーシップ」合同発表会を開催した。

 同日発表されたのは「2022年度初頭より従業員向けに実質再生可能エネルギー100%電力を販売」「『スマートシティ会津若松におけるカーボンニュートラル実現に向けた連携協定』に合意」「自治体向け脱炭素化支援パートナーシップの締結について」の3件。いずれも日産が2050年までの実現を目指す、事業活動を含むクルマのライフサイクル全体におけるカーボンニュートラルに向けた活動の一環となるもの。

3つの取り組みを同時発表して本気度をアピール

日産自動車株式会社 代表執行役社長兼CEO 内田誠氏

 発表会の冒頭には、日産自動車 代表執行役社長兼CEO 内田誠氏が登壇して「本日はカーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組みとして、3つの案件を合同という形で発表させていただきます。それぞれの活動は異なるものの、目指すべき目的は1つ。『カーボンニュートラル社会の実現』です。同じ目的に向かってタッグを組む同志が一堂に会して発表することで、より私たちの本気度を皆さんにお伝えできるのではないかと思い、パートナーの皆さまのご理解もいただいて合同発表会という形を取らせていただきました」と前置き。

「どれもがカーボンニュートラル社会の実現に重要なソリューションとなる、エネルギーマネジメントに関するものです。1つ目は福島県会津若松市を舞台に、レジリエンスで美しい脱炭素都市の実現を目指す取り組みです。スーパーシティAiCTコンソーシアムさまと共に、電気自動車を核とする大規模なエネルギーマネジメントシステムの構築や、再生可能エネルギーの利活用の検証とともに、電気自動車の新たなあり方、使い方。これを共に探求していきます。スーパーシティAiCTコンソーシアムには数多くの実証事業があり、そうそうたる企業が参画しておりますが、日産もその中の1つであるエネルギー領域における実証事業の一員として参加させていただいております。皆さまとの連携を密に図りながら、ここで得たノウハウを日本全国に広げていければと考えております」。

「2つ目は自治体さま向けの脱炭素化支援パートナーシップです。住友商事さま、住友三井オートサービスさまと共に、自治体の皆さまが進めている脱炭素化の取り組みを強力に支援するものです。住友商事さまとは従来から使用済みバッテリの再生を行なう『4Rエナジー』に共同出資しており、世界に先駆けてバッテリのリサイクル事業にも積極的に取り組んできました。そのような背景から今回のパートナーシップに至っております。また、日産はこれまでに多くの自治体と、電気自動車を活用して地域課題の解決を図る『ブルースイッチ』活動を進めており、その連携の取り組みは150を超えております。そのほか、ビークルトゥホームの促進や充電器の設置など、初代『リーフ』を立ち上げた10年以上前から行なってきました。地域単位での活動をより広く、より深くすべく、3社のノウハウを融合させて、全国の自治体の皆さまと共にカーボンニュートラル社会の実現に向けて取り組んでまいります」。

「最後に、これは日産自動車単独の取り組みとなりますが、来年度初頭より実質再生可能エネルギー100%電力を、まずは従業員に向けて販売を開始します。ライフサイクル全体で脱炭素化に向けた自社での電力販売では、将来的にはお客さまに電気自動車とセットで魅力ある電力プランをご提案できるよう、検討を足早に進めていきます」。

「日産では先日、10年後のありたい姿を示す長期ビジョン『Ambition 2030』を発表させていただきました。サステナビリティを事業の中核として、信頼できるソリューションを提供することで、よりクリーンで、より安全で、よりインクルーシブな世界の実現を目指し、これを進めていくことを宣言しました。スローガンである『共に切り拓く モビリティとその先へ』が示すように、さまざまなパートナーの皆さまとタッグを組み、包括的なアプローチでカーボンニュートラル社会の実現に邁進してまいります。本日の発表は、日本におけるその取り組みの第1弾になりますが、今後の展開にもぜひご期待ください」と語り、発表した新たな取り組みの概要と目的などを説明した。

「スマートシティ会津若松におけるカーボンニュートラル実現に向けた連携」

日産自動車株式会社 ビジネスパートナー開発本部 春山美樹氏

 取り組みの詳細については日産自動車 ビジネスパートナー開発本部 春山美樹氏が解説を実施。

 春山氏はまず、日産が11月に発表した長期ビジョンのAmbition 2030を取り上げ、従来から日産では「ゼロ・エミッション」「ゼロ・フェイタリティ」という目標を掲げて脱炭素や交通死亡者数ゼロを目指した活動に取り組んでおり、「エネルギースマート」「モビリティスマート」な社会はその先にあるものだと説明。また、さまざまなパートナーと地域課題を解決して「わくわくする街づくり」に貢献したいと考えており、同日発表した2つのパートナーシップはそんなビジョンに共有する企業との思いを形にしたものだと述べた。

日産では「Ambition 2030」を発表する以前から「ゼロ・エミッション」「ゼロ・フェイタリティ」といった目標の実現に取り組んできた

 スマートシティ会津若松におけるカーボンニュートラル実現に向けた連携は、会津若松市を舞台に多くの企業と連携してそんな新しい街づくりに長期的に取り組むもの。この実現に向けた提携先となるスーパーシティAiCTコンソーシアムは、正会員42社、サポート会員27社が加盟する一般社団法人。日産もエネルギーワーキンググループに参画する会員となっており、会津若松市が持つ豊富な再生可能エネルギーを最大限に活用する試行にチャレンジしているという。

 スーパーシティAiCTコンソーシアムとの連携では「サーキュラエコノミーによるゼロカーボンシティ」を目指し、脱炭素都市を指向するスーパーシティAiCTコンソーシアムと地域に根ざした持続可能な仕組みづくりに取り組んでいく。

会津若松市を舞台に多くの企業と連携して新しい街づくりに長期的に取り組む
スーパーシティAiCTコンソーシアムでは多彩なワーキンググループで活動しており、日産はエネルギーワーキンググループに参画
「サーキュラエコノミーによるゼロカーボンシティ」を目指して活動する

 また、会津若松市は東日本大震災などの経験から包括的なデジタル化とそれによる防災サービスの実現に注力しており、日産はBEV(電気自動車)を活用した脱炭素化のアプローチと同時に、多様なニーズに応えるモビリティの提供、車両データの活用によるレジリエンスなエネルギーマネジメントの実現で貢献。日産がリーフの発売から10年間で培ってきた経験を最大限に活用。BEVによる再生可能エネルギーの最適活用、地域エネルギーの最適化を新しいビジネスモデルの構築に取り組みながら共に進めていくとした。

 活動に向けてすでに関係者との議論がすでに始まっており、中長期的に実現したいアイデアも複数出ているが、規制や技術的な準備といったクリアすべきハードルも存在してスタートまで時間がかかる部分もあり、まずは手始めとして、BEVを活用するエネルギーマネジメントの実証実験を会津若松市にあるスーパーシティAiCTビルで実施。冬期は深い雪に覆われる会津若松市が会場となることから、先進的な4WD技術である「e-4ORCE」を採用した「アリア」をカーシェア車両として活用することになるという。

 将来的には需要家ごとの電力の余剰や不足をP2P(Peer to Peer)で取引し、エネルギーの地産地消をうながす実証実験も計画している。スーパーシティAiCTコンソーシアムの活動はモビリティ以外でも医療、災害対応など多岐にわたっており、日産もエネルギー以外の領域についても積極的に取り組んでいくと春山氏は語った。

BEVによる再生可能エネルギーの最適活用など4点を中心に共同で取り組む
手始めにBEVを活用するエネルギーマネジメントの実証実験をスーパーシティAiCTビルで実施
将来的にはP2P(Peer to Peer)によってエネルギーの地産地消をうながす実証実験も計画
一般社団法人スーパーシティAiCTコンソーシアム 代表理事 中村彰二朗氏

 続いて登壇したスーパーシティAiCTコンソーシアム 代表理事 中村彰二朗氏は、この団体が2011年に発生した東日本大震災の復興事業がきっかけとなって誕生。当時の日本にはスーパーシティという構想はなかったが、復興のシンボルプロジェクトとして立ち上げたという。

 2015年からは地方創生事業にも取り組んでおり、会津若松市にあるITの単科大学である会津大学の卒業生はほとんどが東京で就職していたが、彼らのような学生が地方に残って将来の街づくりに参加していく枠組みとしてスマートシティプロジェクトが本格化していった。

 昨今のコロナ禍の影響もあり、国としても分散社会を今後は目指していくことになるだろうと中村氏は分析。日産との協業によってエネルギー分野の実証実験をさらに進め、いずれは地方都市の大きな課題となっている移動などの問題についても解決し、会津から日本全体の地方都市に広めていくことが自分たちのミッションだと述べた。

会津若松市長 室井照平氏

 公務の都合から来場できなかった会津若松市長 室井照平氏はオンラインであいさつを実施。

 会津若松市では2017年2月に策定した市の最上位計画である「第7次総合計画」において、「安全、共生のくらしづくり」を政策目標の1つに掲げ、これを実現するため地球温暖化防止対策などの環境負荷低減にも取り組んでいるという。

 BEVはこの政策にも関連して導入台数を設定して普及拡大に取り組み、市役所の公用車として日産のリーフを計7台導入。また、2013年には日産から急速充電器が寄贈されたほか、BEVの無償貸与、災害時の対応における連携協定の締結など、市の行政と密接に関わっていることを紹介。

 スーパーシティAiCTコンソーシアムも市民生活を取り巻くさまざまな分野でICTを活用し、会津若松市民の利便性向上、地域の職場づくりなど幅広い面で貢献しており、両社の連携協定はこれまでの活動を土台としつつ、それぞれの強みを持ち寄ってさまざまな実証を行なうことで、安全、共生のくらしづくり実現に向けて大きな力になると歓迎の意を示した。

「自治体向け脱炭素化支援パートナーシップ」

「自治体向け脱炭素化支援パートナーシップ」について解説する春山氏

 日産、住友商事、住友三井オートサービスの3社で取り組む「自治体向け脱炭素化支援パートナーシップ」については、春山氏が再び登壇して解説を行なった。

 春山氏は2010年に初代リーフを発売して以降、グローバルで55万台以上のBEVを販売していながら通常使用におけるバッテリ起因の事故がまったく起きていないことが自分たちにとって最も誇りとしていることだと語り、住友商事との共同出資で設立した4Rエナジーは世界でも類を見ないBEVのバッテリをリサイクルする会社となっていることを紹介。全国に約2000店舗ある日産販売会社でBEVユーザーのカーライフを支えており、10年のノウハウが蓄積されているとした。

 新たに協定を結ぶことになった住友三井オートサービスはグループ保有管理台数100万台を誇るカーリース会社であり、2010年にリーフが発売された直後から「EV推進室」を設立。以降、日産と共に“EV黎明期”を歩んできた仲間だと説明した。

 住友商事は4Rエナジーに日産と共同出資しているだけではなく、グローバルで環境保全型のビジネスを推進。国内外で再生可能エネルギー事業を幅広く手がけ、北欧では全車両BEVというカーシェア事業にも取り組んでいる。

日産のBEVに対する取り組み
住友三井オートサービスは地方自治体のBEV導入サポートなども手がけている
住友商事はグローバルで多彩な環境事業に取り組んでいる

 3社で協定を結ぶことになった理由についても説明。2050年にCO2排出を実質ゼロにすると表明している自治体は11月末時点で492となっており、対象の自治体に住んでいる人は日本の総人口の約9割となる約1億1227万人となっている。また、自治体による脱炭素シフトはこの2年で集中して起きており、一挙に数多くの「脱炭素計画」が求められる事態となっている。こうしたニーズに対し、3社が積み重ねてきた知見やノウハウが役立てられるのではないかとの考えに至ったという。

 パートナーシップではそうした知見やノウハウを持ち寄り、モビリティとエネルギーを掛け合わせることによって自治体の地産地消による脱炭素モデル実現を支援していく。実はこうした連動による取り組みはすでに複数の自治体を相手に行なっており、今後はきちんとしたプロセスを踏んで、持っている強みをより生かせる自治体を選んで進めていくという。

 モデルケースとしては、自治体が運営する施設、地域の企業、住民などに向け、BEVの導入やカーシェアを活用できる環境整備を実施。地域の移動手段における脱炭素化、最適化を支援。さらに再生可能エネルギー由来電力の活用も推進していく。

 目指しているのはBEVと再生可能エネルギーの組み合わせによる「地産地消型の脱炭素モデル」で、日産ではブルースイッチ活動のエリアを拡大し、充電マネジメントなどを通じてBEVの新たな価値を追求。住友三井オートサービスは車両管理のデジタルツールの提供、導入支援ソリューションなどによってBEVへの切り替えを促進する。住友商事は再生可能エネルギーなどを自治体に提供し、再生可能エネルギー取引のシェアリングプラットフォームを導入して地域内での電力循環を促進していくといった役割分担を想定している。

2050年にCO2排出を実質ゼロにすると表明している自治体は、日本の総人口の約9割となる約1億1227万人が住む492の自治体となっている
3社の知見やノウハウを持ち寄り、自治体の地産地消による脱炭素モデル実現を支援
それぞれに強みを持つ分野で役割分担して活動を行なう
住友三井オートサービス株式会社 代表取締役社長 露口章氏

 春山氏に続いてあいさつに立った住友三井オートサービス 代表取締役社長 露口章氏は「昨今、クルマ社会は急速に変化しており、気候変動対策も求められております。当社は従来の自動車リースにおけるノウハウ、地方銀行や地域に根ざした企業の皆さまとの取引経験を生かし、モビリティにおける新たな価値を創造することでクルマ社会の発展と地球環境の向上を目指しております」。

「現在、車両管理のDX化、効率化を推進したいという声を多くの自治体からいただいており、例えば石川県小松市では、運転日報の作成や車両稼働率の可視化ができるWebアプリサービスの『モビリティパスポート』や車両台数最適化サービスをご利用いただいており、確かにお役に立っていると自負しております」。

「今回、日産自動車と当社株主である住友商事から本取り組みへのお声がけをいただき、同じ志を持つパートナーとして連携して排出ガスゼロの移動手段と地産地消のエネルギーを提供してまいります。当社は自治体、地域社会の皆さまの実状に即したモビリティサービスの提供を通じて脱炭素化の取り組みを実行してまいります」とコメントした。

住友商事株式会社 代表取締役社長執行役員CEO 兵頭誠之氏

 また、住友商事 代表取締役社長執行役員CEO 兵頭誠之氏は「世界の気候変動問題に対する取り組みは大きく加速しております。カーボンニュートラル化社会の実現に向けて巨額のESG投資が動き、CO2排出量の大幅な削減が進んでいます。さらに、理想と現実のギャップを埋める法制度の改革も含めたゲームチェンジにより、ビジネス環境が大きく変わる節目となっています。この社会構造の変化は不可逆的なものであり、今後もさらに加速すると考えております。今、この変化の中で新しい価値創造が求められています」。

「当社では脱炭素、循環型エネルギーシステムによるカーボンニュートラル社会の実現に向け、今年4月に『エネルギーイノベーション・イニシアチブ』という新組織を発足いたしました。本組織では新たなエネルギーマネジメントサービスのビジネス創出に取り組んでおり、その1つとしてグローバルで地域に寄り添った地産地消型の脱炭素モデルの実現を目指しています。国内では多くの自治体さまと脱炭素に向けて取り組む中で、長年にわたって4RエナジーなどでBEVのバッテリリユース事業をご一緒させていただいている日産自動車さま、当社グループで脱炭素化に取り組む住友三井オートサービス、そして当社の思いが一致して、モビリティとエネルギー両輪で自治体の脱炭素化支援を発表するに至りました」。

「今回のパートナーシップで、自治体や地域企業の車両管理の効率化、モビリティ視点での脱炭素化の推進、各自治体や地域社会に合った再生可能エネルギーの開発・供給を行ない、地産地消型の脱炭素化に取り組んでまいります。さらにわれわれ3社のみならず、社内外のパートナーと共に広く連携、協力しながら、自治体の皆さまの脱炭素化実現に向けた支援をさせていただきます」とコメントしている。