日産車体九州、北九州に新工場を竣工
「パトロール」を量産、「エルグランド」「クエスト」も来年生産へ

日産車体の新工場が竣工される福岡県の日産自動車九州工場

2009年4月22日会見



 日産車体九州は、日産自動車九州工場敷地内に建設中だった新工場を竣工。4月22日、竣工披露パーティーを、福岡県苅田町の同工場で開催した。

 日産自動車常務執行役員の酒井寿治氏、日産自動車九州工場長・児玉幸信理事、日産車体の高木茂社長など幹部が出席。また、来賓として、福岡県・麻生渡知事、北九州市・北橋健治市長、行橋市・八並康一市長、苅田町・吉廣啓子町長などが出席した。

午前10時から開催された神事には関係者など80人が出席神事に出席した(右から)北九州市・北橋健治市長、苅田町・吉廣啓子町長、経済産業省九州産業経済局地域経済部部長・笹岡賢二郎氏、国土交通省九州運輸局・福本啓二局長、福岡県・麻生渡知事玉串奉てんの儀に臨む日産車体の高木茂社長

 日産車体の高木社長(日産車体九州の社長を兼務)は、「日産車体の創立60周年という節目の年に竣工したことを感慨深く思う。この地は、多くの自動車関連サプライヤーが進出していること、中国、アジアに近いこと、日産自動車九州工場のインフラ設備を利用でき、設備投資を最小限にでき、短期間で進出できたこと、埠頭を持つなど物流面でのメリットが大きいこと、そして、福岡県をはじめとする地元から全面的な支援をいただけたことが大きい。世界的な景気低迷の中、自動車産業も厳しい状況が続いているが、新工場は、日本でのモノづくりを追求する工場となる。グローバルに展開する日産グループにおいて、品質、コスト、納期の総合力でベンチマークとなる工場、環境と働く人にやさしい工場を目指し、より効率的な生産体制を構築する。企業競争力の強化とともに、地域との共生を図り、地域経済に貢献したい」と語った。

 また、日産自動車の酒井寿治常務執行役員は、「九州工場は累計1100万台の生産実績を持つ。新工場は、その実績をもとに、我々が持つ競争力を具現化し、モノづくりの強みを発揮できる工場になる。環境、品質、コストでナンバーワンを目指す」などとした。

 来賓の挨拶に登壇した福岡県・麻生渡知事は、「工場を見学したが、さすがに迫力がある工場。日産自動車九州工場は年間53万台を生産し、これに新工場の年間12万台の生産能力が加わり、65万台の生産体制となる。これだけの規模を1つの工場で生産している自動車工場はほかにないのではないか。埠頭を有していることも世界に向けた大工場であることを痛感した。世界最大の工場だと言える。広大な敷地の中に、整然と、機能的に工場が配置され、また、働く人に対して工夫し、やさしい工場を作る努力をしていることがわかった。今後、日産車体の活力を高めることに期待している」とした。

 福岡県では、アジアの自動車産業をリードする「北部九州自動車150万台生産拠点推進構想」に取り組んでおり、福岡県には、日産自動車のほかに、トヨタ自動車、ダイハツ工業の工場が進出している。

新工場内をお払いする新工場内を視察する関係者。左が福岡県・麻生渡知事、右が日産車体の高木茂社長竣工披露パーティーで挨拶する日産車体の高木茂社長
日産自動車常務執行役員の酒井寿治氏「150万台生産拠点の重要なエンジンが日産自動車」と語る福岡県・麻生渡知事安全協議会分科会幹事会社7社に感謝状を授与。代表して挨拶するフジタの上田卓司社長
乾杯の音頭を取る苅田町・吉廣啓子町長

 麻生知事は、その点にも触れて、「北部九州における自動車生産の出発点は、34年前にこの地に進出した日産自動車。北部九州において、150万台の生産が可能な拠点として、それに伴う部品産業、研究開発施設などの総合的集積地域を目指したい。この最も重要なエンジンになるのが、日産自動車である。自動車産業は低迷しているように見えるが、9億台の自動車が世界で利用されており、7、8年という寿命を考えれば、毎年1億台の買い換えが見込まれる。さらに新興国を中心に新たな市場が拡大しており、自動車の技術も途上段階にある。新たな魅力を作る努力も進んでいる。自動車産業は力強い産業になることは間違いない」などとした。

 新工場の建屋面積は7万5500m2。従業員は1000人を予定。すでに100人が新工場の稼働準備に取りかかっており、また、地元から30人の新入社員を採用し、神奈川県の湘南工場で研修中だと言う。

 5月末までに生産設備を整えた後、6月末から試作を開始。今年末から300~400人体制として、「パトロール」(SUV「サファリ」の海外向けモデル)の生産を開始するが、2009年度は数1000台規模の生産に留まる。なお、パトロールは湘南工場との並行生産となる。

 また、当初の計画では、「エルグランド」と、北米向けの「クエスト」を生産するとしていたが、これら車種については、今後の需要動向を見ながら、2010年度の生産開始を目指すと言う。

 生産能力は年間12万台。「2010年度にはフル稼働を目指したい」(日産車体・高木社長)としている。

日産自動車九州工場の全体図。右側に日産車体の新工場がある5月に設備導入が完了する。自動搬入装置などはこれから導入することになるため空きスペースが目立つ北九州にはトヨタも生産拠点を設けている

 新工場は、2万5000m2の車体工場、1万7000m2の塗装工場、3万300m2の組立工場、および事務棟から構成されており、すべての生産工程を同期させる日産生産方式(NPW=ニッサン・プロダクション・ウェイ)を基盤としたベンチマーク型工場として、また日産車体が特徴とする大型車から小型車までの生産が可能な多品種混流生産ラインとしている。

 「工程数は3分の2。湘南工場に比べて15%の効率化が可能となっており、太くて短いラインとなっているのが特徴。当初は建屋で100億円、設備で200億円を考えていたが、最終的には2割程度削減できそうだ」(高木社長)としている。

 車体工程では、シンプルでコンパクトな生産ラインを目指し、無人搬送車による部品物流の最適化や、ボンネットやドア部品の自動取り付け機器を導入。難作業を大幅に低減することに成功していると言う。

 また、塗装工程では、クリーン、クリア、コンパクトによる「3Cな生産ライン」をコンセプトに、クリーンルーム化とともに、水性塗料を採用することで、VOC(揮発性有機化合物)排出量を削減し、環境にも配慮していると言う。室内のパネルあわせ部の塗装と車体底面の塗装を同時に行うことで、湘南工場に比べて50%の効率化を達成しているほか、外観検査装置の導入による自動化も行っている。

 組立工程では、人にやさしい作業ラインおよび効率のよい物流導線をコンセプトとし、無人搬送車による部品物流の最適化、昇降機能付きトリムラインの採用、重量物運搬時の助力装置の設置などを行っている。さらに、モノコック車とフレーム車とを混在で生産できる体制としているのが特徴で、途中でそれぞれをメインラインから分岐して、また合流させるという仕組みを採用している。

 写真で、工場の様子を紹介しよう。

 なお、ラインではまだ自動車の生産が開始されておらず、機械だけが導入されている状態であることをお断りしておく。

車体館(車体工場)

車体館の外観の様子プレス成形された部品を溶接する溶接ロボット。350台が導入されている
1台の自動車で4000点の溶接箇所があると言う。部品は無人搬送車で動かす溶接工程の98%が自動化されている今後新たな車種が追加された場合の空きスペースもある

塗装館(塗装工場)

塗装工場は内部の写真撮影はできなかったが、塗装エリアと熱源エリアを分離するなど作業環境の効率化を実現上塗り工程で24台、シーリング工程で10台の塗装ロボットが導入されていると言う

組立館(組立工場)

組立館の外観の様子階上を移動しながらモノコック車とフレーム車が途中で分岐し、またラインは統合される
内外装を取り付けるトリムメインライン。トリムラインでは60cm上下することで作業をしやすくし、難作業を約20%削減した。前後にも780mm移動し、大型車から小型車まで対応できる
ファイナルライン。タイヤが付いた状態でシート、ドアの取り付けのほか、燃料、ブレーキオイルなどが充填される検査工程ではフリーローラーを使用し、走行検査などを行う
シャワーブースでの検査。1時間で約2000mmの水を使用。北九州の年間降水量に匹敵する。水はリサイクルして使用するドアにミラーを取り付ける工程この空きスペースは、今後、部品を置く倉庫スペースとなる

 

(大河原克行)
2009年 4月 24日