「ワゴンR」開発者に聞く「軽自動車の原点に帰った」コンセプト

(左から)スズキ四輪デザイン部カラー課の仲田公彦氏と、四輪トランスミッション設計部の杉本卓視氏


  スズキは、「ワゴンR」「ワゴンR スティングレー」の試乗会を実施。試乗会会場で、スズキ四輪デザイン部カラー課の仲田公彦氏と、四輪トランスミッション設計部の杉本卓視氏から、ワゴンRの開発コンセプトや特長などをお伺いした。

軽自動車の原点に帰った、一番標準的な車に

  ワゴンRの開発については、月間で約2万台近くの売上を誇る自動車であることからユーザー層も幅広く「歴史のある車でもあり、全方位的にあらゆるお客様がいるため、コアユーザーが設定できないところが難しかった」とのこと。また、「軽自動車のスタンダードとして、軽自動車の原点に帰った、一番標準的な車を作りたい」との思いで開発を進め、デザインスケッチ数も他の自動車の開発時に比べて約2倍~3倍に及んだという。

  その一方で、エクステリアについては、2008年1月にスペース効率を優先した新型車「パレット」を発売したことから、スペース効率を優先する製品との棲み分けができ、デザインに余裕が生まれたという。しかしながら、車内スペースを犠牲にしないよう、Aピラー(1番目のピラー)の傾斜を3代目よりも寝かせることで躍動感を強調しつつも、リア部分のルーフの高さを3代目と同様としてリアゲート開口部の広さを犠牲にしないデザインを採用。機能やデザインなど、さまざまな要素の両立が難しく、妥協の中からバランスを取るようにして開発を行ったという。

  また、スティングレーについては、初代ではあくまでワゴンRの派生車種として20代男性をメインターゲットとした製品として開発されていたが、今回3代目ワゴンRまで採用されていたスポーツモデル「RR(ダブルアール)」を廃止したことから、より幅広いユーザーに訴求でき、既存のRRユーザーも抵抗なく移行できるグレードに。また、近年ではより上位のクラスの自動車から軽自動車に移行するユーザーが増えたことから、上位クラスからのユーザーでも満足できる、上質感を強めたグレードに生まれ変わるよう開発したという。RRを廃止した理由については、RRが誕生した当時はスポーティな質感を持つ製品に需要があったものの、現在では自動車をファッションと捉え、上質感についてのニーズが増えてきているからとしている。

ワゴンR
ワゴンR スティングレー

ワゴンRだからこそ繊細に作り込んだ“日本人の心に残る”新色

  4代目ワゴンRではボディーカラーに新色が追加され、ワゴンRでは「ブリーズブルーメタリック」「ブルームピンクメタリック」の2色を追加している。仲田氏によれば、これら新色については「ワゴンRは日本代表する自動車」という気持ちから「日本人の心に残るような色にしたい」といったテーマを元に開発したという。 

  ブリーズブルーメタリックは「日本人が何かのときに見上げる空の色が、この車にふさわしいだろう」との思いから“日本の空の色”をモチーフに、ブルームピンクメタリックは「日本人は桜が咲いていない季節でも、桜の色を心に思い浮かべることがある」との思いから“桜”をモチーフにしたという。また、ブルームピンクメタリックについては、青空の下では白くあるいは青く見え、雨の中では赤みが増して見える桜の特長を再現するよう作り込んだとしており、「繊細な作り込みこそが日本の物作りであり、小さいながら質感を高めたワゴンRにもふさわしい」と新色開発への思いを語った。

■ワゴンRボディーカラー一覧

ブリーズブルーメタリックブルームピンクメタリッククリアベージュメタリック
アンティークローズメタリックジュエルパープルパールメタリックスペリアホワイト
パールホワイトシルキーシルバーメタリックブルーイッシュブラックパール3

  一方で、スティングレーでは「ルナグレーパールメタリック」の1色を新色として追加。ルナグレーパールメタリックについては、「本質的なもの」というテーマに基づいて“金属に月光が反射する様子”を表現したという。また、この色が若いユーザーには「月夜にわくわくするような感覚と、ストリートファッション的な感覚」で、年配のユーザーには「本質を持ち重厚な、自動車らしい感覚」で見てもらうことで、開発者側がコンセプトやキャラクターを設定せず、使い方も限定しないが、質感の高さを持つ製品であること表現している。

  なお、杉本氏によればワゴンRのみならず自動車全体で定番のボディーカラーであるシルバーの比率が減少傾向にあり、変わりに有彩色を採用したボディーカラーが上昇傾向だという。このことから、ワゴンRでは「次の時代をリードするワゴンR」として有彩色の多いカラーバリエーションを採用。一方スティングレーは、上質かつ特徴的なフロントグリルを強調できるダーク系のカラーバリエーションを採用したとしている。

■ワゴンR スティングレーボディーカラー一覧

ルナグレーパールメタリックミステリアスバイオレットパールスパークブラックパール
ノクターンブルーパールクラッシーレッドパールシルキーシルバーメタリック
パールホワイトブルーイッシュブラックパール3

“次の軽自動車はこうあるべき”というインテリア

  インテリアについては、内装や機能についての検討のためだけにインテリアモデルを作成し、多くの検討を重ねて現在の形を作りあげたという。この中でも特にデザインや内装色については「ワゴンRの本質を開発陣で話し合っている中で、作り手の事情でできるワゴンRではなく、次の軽自動車はこうあるべきであると提案するもの」という考え方に基づいて開発され、特に内装色のグレー系色の組み合わせについてはこだわりを持って開発したという。

  ワゴンRとスティングレーのインテリアデザインの違いも説明し、ワゴンRでは主に年配者のユーザーが多いことから、メーターデザインやスイッチ類、インパネシフトの配置や形状を分かりやすくシンプルなものに。スティングレーでは上質感を演出するために、ドアトリムとインパネ、スピーカーのブルーイルミネーションなどを追加装備している。イルミネーションで内蔵されているLEDはドアトリムやインパネごとの各ブロックにつき1個づつ、合計4個のみで発光させる設計となっている。開発にあたっては、イルミネーションの検討のためのモデルを作成し検討を重ねたが、ムラなく発光させるのに苦労したという。

  また、デザインによって機能が殺されないように検討を重ねてきたことも明らかにした。例えば、カップホルダーについてはインパネデザインの中心となっているT字型のラインを崩さないよう検討され設置されているほか、スピーカーに装備されたブルーイルミネーションは、ドア開閉時には足元を照らすライトとしても利用できるよう設計したとしている。

ワゴンRのインパネ。T字のラインを取り入れたデザインを採用しているワゴンRのメーターパネルカップホルダーは、インパネのT字を崩さず、かつ機能を損なわないよう設計された
スティングレーのインパネ。T字のラインを取り入れたデザインをもとに、上質感を向上させたスティングレーのメーターパネル。タコメータなどを追加した自発光式の3連メーターに変更され、ブルーのグラデーション照明などを付加して上質感を演出しているスティングレーはワゴンRと異なり、インパネトレーではなく2段式のグローブボックスを採用。「ワゴンRではさっと物を置ける手軽さ、スティングレーでは持ち物を外に見せたくない、という需要を見込んでいる」とのこと
ドアトリムとインパネのブルーイルミネーションスピーカーに内蔵されたブルーイルミネーションとその構造

スズキの軽で初のパドルシフトは使い勝手を追求

  動力系については、「基本的に3代目のものを踏襲している」としながらも、エンジンのシリンダーヘッド形状見直しで冷却効率の向上を図り、エンジン性能にCVTを適合させることで、3代目より低燃費を実現している。CVTモデルと4ATモデルを併売していることについては、価格面や、CVTに慣れていないユーザーを想定した結果だという。

  また、一部グレードに搭載されているターボエンジンでは、タービン形状から見直しを行った新開発のターボチャージャーを搭載しており、低速から高速までがスムーズにつながる出力特性を持ち、上位のクラスから軽自動車への移行の増加も踏まえて上質感を演出するセッティングを施したという。

  また、スティングレーではスズキの軽自動車では初めてとなるパドルシフトを採用している。パドルシフトの採用については、フロアシフトやインパネシフトにシフトチェンジ機構を搭載する場合と、パドルシフトを採用する場合とでのニーズの高さを比較し、検討したい結果採用したという。また、パドルシフトの形状や操作感についても試乗を重ね、よりよい使い勝手を実現したという。

  走行性能では、主にルーフを中心に軽量化を図ったほか、重心を下げることで、ハイト系ワゴンであっても不満のない走りを実現。さらに、スティングレーの一部グレードで装備しているフロントスタビライザーについても、スタビライザー取付位置を従来のロアアームからストラットバーに変更したという。これによって、アームのゴムブッシュを介さずにスタビライザーによる制御が可能となり、捻りに対する剛性の向上を図ることができたという。

  仲田氏と杉本氏は、常に「全方位、老若男女を問わずユーザーがおり、開発が難しかった」と語っていた。しかしながら、「他社製品を意識して開発したというわけでもなく、何かをベンチマークして真似することはなかった」とも語っており、日本を代表する自動車の開発に携わったことに対する誇りを感じられた。

ワゴンRに採用されたCVTパドルシフトフロントスタビライザー

URL
スズキ株式会社
http://www.suzuki.co.jp/
製品情報(ワゴンR)
http://www.suzuki.co.jp/dom4/lineup/wagonr/
製品情報(ワゴンR スティングレー)
http://www.suzuki.co.jp/dom4/lineup/wagonr_stg/
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【9月26日】写真で見る「スズキ ワゴンR&ワゴンR スティングレー」
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20080926_37777.html
【9月25日】スズキ、4代目となる新「ワゴンR/ワゴンR スティングレー」を発表
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20080925_37803.html

(編集部:大久保有規彦)
2008年10月10日