NEXCO東日本、関越トンネル防災訓練を実施
日本最長のトンネルを通行止にして大規模訓練

関越トンネル(新潟県側、上り線の入口)
 NEXCO東日本(東日本高速道路)は10月29日、関越自動車道の関越トンネルで総合防災訓練を実施した。

10年ぶりのトンネル内訓練
 関越トンネルは、群馬県と新潟県の境にある全長約11kmのトンネル(正確には下り線が1万926m、上り線が1万1055m)。関越道起点の練馬IC(インターチェンジ)から約146km、終点の長岡JCT(ジャンクション)から約89kmの地点にあり、関越道の施設でいえば、群馬県の谷川岳PA(パーキングエリア)と新潟県の土樽PAの間となる。キロポストは146.5~157.4(上り線は157.5)。

 道路用トンネルとしては日本最長とあって、防災設備も最高ランクのものを備えている。トンネル内には200mおきに監視カメラと非常電話を、25mおきに火災検知器、50mおきに消火栓と消火器を設置。上り線と下り線の間には避難用連絡抗があり、上り線は700mおき、下り線は350mおきに、避難用連絡抗への非常口を設けている。さらに、最高ランクの防災設備の条件である水噴霧装置が、5mに1つ用意されている。

200mおきに設置される非常電話。火災報知ボタンも併設される50mおきに設置される消火栓。いち早く到着した高速警察隊員とNEXCO職員が操作する関越トンネル内の設備(土樽PAの展示)

 関越トンネルでの防災訓練は、1985年の完成以来ほぼ毎年行われている。今年は20回目の節目にあたり、トンネルを通行止めにして、トンネル内で負傷者搬送、避難、消火、水噴霧の訓練を行った。

 同トンネルの通行を止めて、実際にトンネル内で訓練するのは10年ぶり。10年間トンネル内の訓練がなかった理由を「水噴霧装置の検査は実際に水を噴霧させる必要があったため、トンネルを通行止めにして行われ、防災訓練もこれに合わせて実施されていた。しかし10年前に通行止めにしなくても検査できる方法が開発された。通行止めは利用者に与える影響が大きいため、防災訓練も土樽PAに模擬トンネルを設けて実施するようになった」とNEXCO東日本では説明している。したがって、トンネル内の水噴霧装置が実際に動作する場面を目の当たりにすることは、NEXCO社員でもほぼないという。

 通行止めになったのは朝10時~10時半までの30分間。その間、上り線を通行する車両は塩沢石打SA(サービスエリア)に誘導され、同SAまたは土樽PAで通行止め解除まで待機するか、湯沢ICで一般道に迂回するかを選択した。

 訓練の参加者は40名以上。各種係員を含めると140名にのぼった。主催者であるNEXCO東日本新潟支社湯沢管理事務所のほか、関東管区警察局広域調整部の高速道路管理室、高速道路交通警察隊と消防本部が参加。2つの県にまたがる関越トンネルだけあって、警察と消防は新潟、群馬の両県からの参加となった(警察局広域調整部のみ、新潟と埼玉から参加)。実際の事故発生時も、両県の警察・消防がNEXCO東日本と連携、協力することになるという。
土樽PAに貼られた、関越トンネル通行止めの告知土樽PAに参加者が集合、訓練手順を確認したNEXCO、消防、警察が連携して訓練にあたる

トンネル内では水噴霧装置が動作

関越トンネル上り線内に3台の模擬事故車を設置して訓練した
 訓練はトンネル内での第1ステージと、土樽PAの模擬トンネルでの第2ステージに分けられた。どちらもシナリオは「関越トンネル内で前車を追い越そうとした普通乗用車Aが、ハンドル操作を誤り右側側壁に衝突。反動で戻ったところに普通乗用車Bが追突、さらに普通乗用車Cが追突した3台の事故」というもの。事故現場は上り線149.0キロポスト付近(新潟側から約2.5km、群馬側から約8.4kmの地点)とされた。ただし、土樽PAでの訓練のみ、普通乗用車Cが危険物を積載した貨物車に置き換えられ、危険物への対応訓練が行われた。

 訓練内容は、第1ステージが通報による初動対応、水噴霧と放水、負傷者搬送、避難。第2ステージが負傷者救出と車両火災の消火、事故車処理。

 第1ステージは、トンネル内に3台の模擬事故車両を置いての訓練。10時前に参加者はトンネル内に入り待機、通行止めを実施して最後の一般車両が通過してから、訓練を開始した。

 実際にトンネル内の非常電話から管制室に通報し、警察、消防に連絡。警察とNEXCOの車両が到着し、事故状況を確認した。

 続いて、高速警察隊員がトンネル内消火栓から放水して初期消火を行ったあと、水噴霧装置による延焼防止の噴霧が30秒間行われた。さらに救急車が到着、負傷者を搬送すうr訓練を行った。

 これらの終了後、参加者全員が非常口から避難用連絡抗に移動し、避難する訓練が行われ、10時30分には第1ステージが完了、通行止めが解除された。

 実際には事故関係者が水に濡れるのを防ぐため、負傷者搬送と避難が終わり、監視カメラで人がいないのを確認してから、管制室からの遠隔操作により水噴霧が行われるが、訓練では段取りの問題でこれが逆にされていた。
非常電話での通報から訓練が開始された通報により、高速警察隊とNEXCOが到着通報者に状況を聞く警察隊員
事故車内の当事者に事情を聞く。本番同様の手順で訓練が進む警察隊員による放水訓練天井の噴霧装置から、水噴霧を開始。10年ぶりの動作
噴霧中の様子。噴霧装置は50mが1区画の構成となっており、訓練では1区画分が噴霧した指揮車と救急車が登場
事故車内のけが人を救出、搬送した続いて避難訓練を開始。関係者が非常口から避難連絡抗に入る
非常口から避難連絡抗への通路避難連絡抗。緊急車両が通行できる大きさになっている避難連絡抗内の掲示。現在地点と避難の方法が表示されている
避難連絡抗を車両で移動した

土樽PAではレスキュー隊による救出など実施
土樽PAの模擬トンネル。左のラバーコーンと右のオレンジのコンクリートパネルの間がトンネル通路。手前が群馬側、向こうが新潟側の設定。トンネル内の3台の車両が事故車
 避難終了後、土樽PAでの第2ステージ訓練が開始された。土樽PAの一角にラバーコーンを設置し、これをトンネル内に見立て、3台の事故車両を置いた。事故車両は先頭から2台が普通乗用車、3台目はNEXCOの作業車で、これを危険物積載車に見立てた。なお、関越トンネルは規定以上の量の危険物を積載した車両は通行できないことになっており、訓練も規定内の危険物を積載した車両の事故が想定されている。

 第2ステージは、2台目の車両に閉じ込められた運転者を救出、搬送する訓練から開始。2台目の車両はドアが開かないため、レスキュー隊員が2つの油圧カッターで屋根を切り開き、救出した。

 続いて、危険物積載車の消火訓練。耐火服を着た職員2名が消化器で消火活動をすると同時に、危険物積載車のドライバーからイエローカード(危険物の内容と非常時の対策が書かれた書類)を受け取り、対策を確認。消防車が到着してから放水を開始し、消火訓練を行った。

 その後、警察と消防による現場検証が行われ、JAFがレッカーで事故車を移動して訓練が終了した。救出、消火ともに到着から撤収までが約15分ずつ、検証とレッカー移動が約10分で、合計40分ほどですべての活動が終了。この間、実際の事故ではトンネルが通行止めとなるわけで、通行止めの時間を最短とすべく、すべての活動が迅速に行われたのが印象的だった。
2台目の事故車は車体が変形し、ドアが開かず、ドライバーが負傷して出られない設定レスキュー隊と救急隊が到着2台目の事故車に救急隊員が乗り込み、応急手当てをする
油圧カッターを用意するレスキュー隊員油圧カッターで事故車のピラーを切断。車内のけが人は毛布で保護されている2台の油圧カッターで事故車の右側面のピラーをすべて切断する
ピラーを切断したら、ルーフを開く搬送用のオレンジ色の板を滑り込ませ、負傷者を救出ルーフが開けられた事故車
続いて消火訓練。3台目の事故車から発火した設定で、実際に火が焚かれた耐火服を着た職員が消火器で初期消火危険物積載車のドライバーからイエローカードを受け取り、危険物への対処法を確認する
消防車が到着、消火活動を開始する
消防と警察による検証JAFが到着、レッカーで事故車を移動。事故車が自走しているように見えるが、レッカー車のウインチからのワイヤーでけん引されて、スロープを上ろうとしているところ。運転台のJAF職員はハンドルを操作しているだけ
警察、消防、NEXCOによる講評が行われ、訓練が終了した


URL
東日本高速道路株式会社
http://www.e-nexco.co.jp/
ニュースリリース
http://www.e-nexco.co.jp/pressroom/press_release/niigata/h20/1010/
訓練内容(PDF)
http://www.e-nexco.co.jp/pressroom/press_release/niigata/h20/1010/pdfs/guidance.pdf


(編集部:田中真一郎)
2008年10月29日