スズキ「スプラッシュ」チーフエンジニアインタビュー
「車好きが飛ばしても面白い車です」

スズキ「スプラッシュ」
123万9000円



チーフエンジニアの日比敏勝氏
 10月21日にスズキが発売した「スプラッシュ」は、ハンガリーにあるスズキの工場で生産され、日本に“輸入”される1.2リッターの小型車だ。もともとはヨーロッパ市場向けに開発、製造された製品で、オペルが開発に関与しており、オペルブランドから「Agila」(アギーラ)の名前で販売されている(イギリスではボクスホールブランドから発売)。

 スズキはこのクラスの国内市場には、すでに「スイフト」「スイフトスポーツ」というヒット作を持っている。国内市場のために作られたわけではないスプラッシュを、なぜわざわざ為替リスクをおかしてまで輸入するのか。スプラッシュのチーフエンジニアを務めた、同社四輪技術本部第四カーラインの日比敏勝氏にお話を伺った。

――スプラッシュは、最初からヨーロッパ市場だけでなく、国内投入を考慮して作られた車なのですか?

 いいえ、日本市場に持ち込む予定はありませんでした。しかし、日本でも燃料価格が高騰し、小型車志向が強くなり、国内の小型車カテゴリを拡充する必要が出てきたので、日本に投入することになったのです。

――国内にはスイフトがすでにありますが、スプラッシュはどのように棲み分けるのでしょうか。

 スイフトは背の低い、スポーティーな車ですが、スプラッシュは背を高くして実用性に振って、スタイリッシュでキュートな車として開発したので、十分に棲み分け可能と考えて導入しました。スイフトは男性ユーザーが7割を占めており、女性ユーザーに訴求したいということで、導入しました。色も女性好みのものを選んでいます。

――スイフトとプラットフォームを共用しているとのことですが、スイフトとの違いはどこですか?

 スプラッシュはスイフトと比べ、全高が+80mm、幅が-10mm、長さが-40mm、ホイールベースが-30mmとなっています。外寸を小さくする一方で、背を高くしてアップライトなポジションにすることでカバーしています。

 背を高くすると前方投影面積が大きくなって、走行抵抗的に不利になります。空力改善のため、ルーフ後端をなるべく下げ、空気抵抗を小さくするデザインを目指しました。このほかにも、リアホイール前にフラップを付けるなど、さまざまな空力的な工夫をしています。この結果、CD値は0.32になりました。あれだけ背が高くて、全長の短い車で0.32にするのはなかなか大変でした。

スイフトスプラッシュ
下がったルーフ後端、後輪前のフラップのほかにも、リヤランプクラスターに小さなフラップを付けるといった、細かい空力対策が施されている



――パワートレーンはスイフトと全く同じですか?

 パワートレーンはスイフトと基本的に同じ組み合わせのK12Bエンジン(1200cc4気筒DOHC16バルブVVT)+CVTですが、チューンが異なります。エグゾーストマニフォールドの形状を変えて、最高出力は90PSから88PSに下がりましたが、発生回転数を6000回転から5600回転に下げて、低回転域の乗りやすさを重視しました。

――ヨーロッパ仕様と日本仕様の違いを教えてください。

 この車は、ヨーロッパ車をそのまま持ってくるのがコンセプトでしたから、サスペンションもシートもヨーロッパ仕様のままです。日本仕様では、アンテナをルーフ前方から後方に移したのと、カップホルダーや後席パワーウィンドウ、電動格納ドアミラーなど日本で一般的な装備を追加しただけ、あとはサスペンションもシートもヨーロッパ仕様とまったく同じです。

 アンテナは、後方に移すとオーディオの位置から遠くなるので、アンプを追加する必要がありましたが、前方にあると背の低い人の手がとどかないということで、手の届きやすい後方に移しました。

 それからヨーロッパでは1リッター、1.2リッター、1.3リッターディーゼルの3種類のエンジンに、5MT、4ATのトランスミッションが組み合わされていますが、日本では燃費などを考慮して、1.2リッター+CVTのみとしました。

アンテナがルーフ後方に移されたエンジンはスイフトと同じK12Bだが、チューンが異なる

――日本にだけCVTが用意されているのはなぜですか。

 CVTは燃費に優れますが、変速感覚が独特です。ヨーロッパではまだCVTのフィーリングが受け入れられていないのです。ヨーロッパではCVTよりも、“ロボタイズドMT”(クラッチ操作と変速操作が自動制御されるため、クラッチペダルがないMT)へのデマンドが大きいのですが、スムーズさでCVTのほうが勝っています。

――スプラッシュの開発にあたって、オペルはどの程度関与しているのですか?

 評価はオペルと合同でやりました。ドゥーデンホーフェンにあるオペル本社のプルーピンググラウンドでも評価テストをしています。しかし、設計、解析、試作、開発のためのテストは全部スズキでやっています。

――スイフトよりも背が高く、幅が狭いのに、足回りの印象はヨーロッパ車らしくしっかりしていて、安定したコーナーリングができるのが印象的でした。

 重心が高くなったのに合わせて、ダンパーが高速に動くときの減衰力などをチューンしています。

 車の組成そのものは、男性にも受け入れられると考えています。足回りやステアリングのフィーリング、ハンドリングは、車好きな男性がワインディングを飛ばしても、面白い車になっていると思います。個人的には、MTを導入したかったくらいです。

 

URL
スズキ株式会社
http://www.suzuki.co.jp/
スプラッシュ特設サイト
http://www.suzuki-splash.jp/
スプラッシュ製品情報
http://www.suzuki.co.jp/car/splash/
Opel Agila
http://www.opel-europe.com/agila2008/
Vauxhall Agila
http://www.vauxhall.co.uk/vaux/home.do?referrer=http://www.opel.com/#vehicleTabs:NewAgila

【2008年10月22日】写真で見る「スズキ スプラッシュ」
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20081022_37964.html
【2008年10月21日】スズキ、ハンガリー産のコンパクトカー「スプラッシュ」を発売
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20081021_37962.html

(編集部:田中真一郎)
2008年11月13日