【2009 International CES】 |
1月8日~11日(現地時間)
米国ネバダ州ラスベガス
Las Vegas Convention Center
International CESは、“Consumer Electronics Show”というその名のとおり家電のトレードショー。主催はCEA(The Consumer Electronics Association:全米家電協会)で、家電関連では米国最大のショーとなる。毎年1月上旬にラスベガスのLas Vegas Convention Centeで開催され、大きなホールの1つであるNorth Hallには英語で“Mobile”、日本語に直せば自動車向け製品とでもいうべきテーマが掲げられており、多数の自動車のアフターマーケット向け製品も展示されている。
そうした状況を反映して、基調講演と呼ばれる、業界のリーダーによる講演のうち1つは自動車メーカーが占めており、昨年はGM(General Motors)会長兼CEOのRick Waggoner氏が講演を行っていた。今年はFord Motor Company社長兼CEOのAlan Mulally氏が、初日(1月8日)の夕方の基調講演に登場し、Fordの考える通信を利用した新しい車のあり方についてのビジョンを説明した。
■Fordの基調講演なのに、一番多かったのは
「SYNC Powered by Microsoft」のロゴという不思議
家電と自動車、相反するテーマのように思えるが、家の中で利用して快適に過ごすための道具という意味での家電、同じく移動時に快適に過ごすための車、という観点で考えれば消費者の生活を豊かにするための道具という意味での共通点は多い。特に、家電にもITの技術が活用されて通信の機能を持ち、インターネット経由のさまざまなサービスを受けられるようになったり、同じく自動車の側にも“テレマティクス”という言葉に代表されるようなカーナビゲーションが通信機能を持ち、インターネット経由のサービスを受けられるようになっている。家と車という異なる場所がインターネットという共通のインフラの上で相互に接続されるような状況が現出しているのだ。
日本でも、自動車メーカーはテレマティクスに積極的に取り組んでおり、トヨタ自動車のG-BOOK、日産自動車のカーウイングス、本田技研工業のインターナビなどがすでに純正カーナビに組み込まれており、携帯電話のIPネットワークを経由して利用できるようになってきている。
米国でも同じような取り組みは進められているのだが、日本と異なるのは日本の自動車メーカーは自社でインフラを含めて開発しているのに対して、米国では積極的にITの企業と提携を行い、インフラはITの企業が開発して自動車メーカーに提供するという形が取られていることだ。今回のFordの基調講演は、まさにそれを反映していると言ってよい。というのも、Fordの社長兼CEOのAlan Mulally氏が登場すると、すぐにMicrosoftのCEOであるSteve Ballmer氏が壇上に呼ばれ、2人の挨拶から基調講演がスタートしたのだ。Ballmer氏は「自動車業界と働くことは私の長年の夢でした。MicrosoftはFordと同じビジョンを共有しており、自動車の中でユーザーが快適にさまざまなデバイスを接続することをサポートしていきたい」と述べ、今後もFordと共に自動車向けのソリューションを拡張していきたいと語った。
それだけではない、Fordに対してテレマティクスの基本部分としてMicrosoftが開発・提供している「SYNC Powerd by Microsoft」のロゴが、それこそFordのロゴよりも多く基調講演のスライドに登場したのだ。正直に言えば、聞いているこちらからすれば、Fordの基調講演なのか、Microsoftの基調講演なのか、分からなくなるほどだった。逆に言えば、それほど自動車メーカーにとれば、テレマティクスは重要であり、Microsoftとの関係を重視しているということなのだろうか。
■Microsoft SYNCを利用したさまざまなテレマティクス機能
今回の基調講演ではほとんどの時間がSYNCに関する説明に費やされた。実際Mulally氏は講演の最初に出てきて、Fordが英語でConnected Carと呼ばれるテレマティクスに力を入れていると語ったぐらいで、あとはFordの関係者が次々と舞台に立ち、SYNCにより実現することなどを説明していった。
とはいえ、言っていることは特に難しいことではなく、SYNCを利用すると、携帯電話を車に持ち込んで、Bluetoothやケーブルなどを利用しカーナビに接続できることやiPodのようなポータブルミュージックプレイヤーを接続して車のスピーカーから再生できるといった、言ってみれば日本で言えば“当たり前”の機能を淡々と説明していた。
もっとも、ユニークな機能もいくつかあり、「MYKEY」と呼ばれる機能を利用すると、鍵の個体に設定情報を持たすことができ、例えば子供に車を貸し与えるとき(米国では16歳から自動車運転免許を取得できる州が多い)に、最高時速を制限したり、オーディオのボリュームを制限したりなどという設定ができるのだと言う。また、米国特有の機能として、Siriusが提供するデジタルラジオの機能を利用して、カーナビゲーションに天気予報、渋滞情報、ガソリンスタンドの価格情報、映画の予告編などを配信する機能などが、2009年モデルに搭載されることなども明らかにされた。
さらに日本ではあまり注目されていない分野だが、インダッシュコンピューターというカーナビをPCのように使えるソリューションが紹介された。これは、GARMINのカーナビに、ワープロソフトや表計算ソフト、PDFビューアなどの機能を追加したもので、ユーザーはワイヤレスキーボードやタッチパネルなどを利用して、車の中にいてもオフィスと同じように仕事ができるというものだ。移動しながらも仕事をする必要がある営業職や配送業などへの応用が考えられると言う。
また、「911ASSIST」と呼ばれる機能も搭載されている。これは日本でもレクサスの車などでも採用されている機能で、ドライバー自身に何か問題が起こったときなどに、あるボタンなどを押すと自動で911(日本で言うところの119)に電話することなどが可能になる。
いずれも日本ではこれといって目新しいものはないが、米国ではこうした機能を搭載したカーナビゲーションの普及率はまだ低く、来場者の注目を集めていたようだ。
■2010年に登場する予定のFord Fusion Hybirdでカムリ・ハイブリッドを上回る燃費を実現
講演の最後のほうに登場した、Ford電気設計担当ディレクターのJim Buczkowski氏は、Fordのハイブリッド車に関する説明を行った。Fordが導入する予定のSMARTGAUGEというインパネでは、ドライバーに対して現在の燃費や、運転がどれだけエコであるかなどをグラフィックで分かりやすく表示するのだと言う。さらに、それを利用したハイブリッド車として、2010年にFordが投入を計画しているFord Fusion Hybirdが紹介され、「我々のFord Fusion Hybirdは41MPG(1ガロンあたり41マイル)を実現した」とのべ、トヨタのカムリ・ハイブリッドやホンダのアコード・ハイブリッドなどを上回り、高速道路走行時で41MPG、街乗りで36MPGを実現することを明らかにした。ちなみに、Ford Fusionは米国で中級クラスのセダンで、トヨタのカムリはそのクラスのベストセラーカーになっている。そのカムリを上回る数値を実現できることは、Fordにとって販売戦略上大きな意味があることなのだ。
さらに、Buczkowski氏はFordの将来のテレマティクス戦略についても触れ、同社がMicrosoftと協力して「SYNC 2.0」と呼ばれる次世代のSYNCを計画していることを明らかにし、その概要を説明した。Buczkowski氏は「将来のSYNCでは情報にさらにシームレスにアクセスできるようになる。車の中から自分のスケジュールにアクセスしたり、自分のいるロケーションから近くにある好みのレストランを検索したりすることが可能になる」と述べ、将来のSYNCで実現する近未来をビデオで紹介した。
その後、再び壇上に登場した社長兼CEOのAlan Mulally氏は「SYNCを利用することで、ユーザーは家、車、会社それぞれの場所でシームレスに情報にアクセスすることができるようになる」と述べ、今後もSYNCのソリューションを拡張していくと強調した。その一環として、2010年からはSYNCを欧州市場に投入し、その後にはAPAC地域(アジアやオセアニアなど)へも拡大していくという方針を明らかにしたほか、SYNCの技術サポートに、家電などの販売大手「BestBuy」と契約したことを明らかにし、ユーザーの使い勝手の向上に今後も取り組んでいくと結んだ。
■URL
2009 International CES
http://www.cesweb.org/default.asp
CES日本語サイト事務局
http://biz.knt.co.jp/pm/ces/
Ford Motor Company
http://www.ford.com/
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http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2009/0109/ces06.htm
(笠原一輝)
2009年1月13日