「堺市ヒストリックカーコレクション」見学会リポート 珠玉のBMWコレクションを至近距離で堪能 |
堺市文化振興財団は3月15日、大阪府堺市が所蔵するヒストリックカーコレクションの見学会を開催した。
同コレクションは、カメラチェーン店「カメラのドイ」の創業者である故土居君雄氏が収集されたもので、BMWがその大半を占める。土居氏の急逝後1992年に、やはり氏が収集されたアルフォンス・ミュシャ作品のコレクションとともに、堺市に寄贈された。寄贈先が堺市になったのは、土居氏の妻・満里恵氏の意向によるもので、夫妻が新婚時代を同市で過ごした思い出からだと言う。
コレクションには、BMWファンにはおなじみの「2002」シリーズや、その元になった「1600TI」をはじめとするいわゆる“ノイエ・クラッセ”のスポーツセダンたちはもちろん、戦後BMWの礎となったマイクロカー「イセッタ」や、戦前のスポーツカー「328ロードスター」、BMW初の生産車「Dixi3」、BMW唯一の商用車「F79 スリーホイラー」など、貴重な車両が含まれている。
給食センターだった建物を倉庫として、ヒストリックカーコレクションを収蔵している。給食センターにはトラックのプラットフォームなどがあり、搬入・搬出に便利ということで使われている | 見学会のレイアウト図。別棟に非公開の車両がある |
■ヒストリックカーを至近距離で見学
コレクションは現在、堺市南区の倉庫に収蔵されており、一般公開はされていない。コレクションの一部がイベントなどに貸し出されるときと、年に1度の見学会が、一般の目に触れる機会にすぎない。
見学会は午前、午後の2回開かれ、各回、事前に応募した150名が見学した。参加は無料。
一部を除き、車両は収蔵されている状態そのままに展示されており、展示スペースの隅にはやはり土居氏が収集した補修パーツなども一緒に置かれている。
こうした歴史的車両の展示は、柵などで見学者が車両にさわれないようにしてあることがほとんどだが、この見学会では柵で仕切られているのは一部で、大半は車両にさわれるほど近くまで寄ることができる(ただし見学者が車両にさわることは禁じられている)。倉庫に収蔵した状態そのままなので、柵を設けるスペースがないのがその理由。倉庫なので照明も整備されておらず、コレクションを傷つけないように気をつける必要はあるものの、これほど近くで車両を観察できるのは得難い機会と言える。
また一部の車両は、メンテナンス業者の手によりエンジンルームの中などを見せてもらえたり、エンジンをかけてエンジン音を聞いたりすることもできた。
見学会の様子。車のすぐ近くでじっくり見ることができる。一部の車はエンジンルームを見せたり、エンジンをかけたりした |
■常設展示を目指して
一部の車両は貸出時に破損したため、レストアがほどこされているが、大半は寄贈されたときと同じ状態。ボディーにさびが浮いていたり、ヘッドライトなどがなかったりするものもある。コレクションは文化振興財団から委託を受けた業者がメンテナンスをしており、年に1度は動かせるものは走行させて動態チェックを行うと言う。
コレクションの維持には年間1000万円を超える予算が割り当てられている。同市市長公室の国際文化部 施設設備担当の辻村仁史課長によれば「たとえば収蔵しているときも、パーキングレーキをかけっぱなしではそれだけで劣化して、修理しなければならなくなります。そこで輪留めを使ってサイドブレーキをかけなくてもいいようにして、メンテナンスコストを下げるなどの効率化を図っています」とのことで、コレクションの状態を改善しつつ、予算を抑える方向でも動いていると言う。
これだけのコレクションなら常設展示にして、いつでも見に行ける状態になっていてほしいものだが、収蔵だけでも場所を取り、メンテナンスの手間もかかるだけに、今のところは実現していない。
土居氏が集められたパーツも、同じ倉庫にある | 辻村仁史課長 |
しかし、2007年度に策定された堺市の指針「自由都市・堺 ルネサンス計画」には、「ヒストリックカー展示施設の整備」が盛り込まれ、常設展示への道筋が作られている。辻村課長によれば、まだ展示施設の場所や、開設時期などは公表できる段階にないものの、常設展示を2010年度までの重要課題に位置づけ、検討を重ねていると言う。
「お茶の文化は京都などに移ってしまっていますが、発祥の地は堺です。ヒストリックカーコレクションはこうした堺の文化的な側面をアピールし、市民や観光客が文化を楽しむきっかけにしたい」と辻村課長は述べた。
堺市の貴重なヒストリックカーたちが、よりよい状態になり、多くの人の目に触れる機会を得られることを祈りつつ、展示された収蔵車両を紹介する。
■展示された車両
(編集部:田中真一郎)
2009年 3月 19日