【2月14日】 【2月13日】 【2月10日】 |
マイクロソフトは1999年頃からカーナビ用OSに積極的に取り組んできており、現在日本国内市場向けには「Windows Automotive 5.5」というOSをカーナビベンダーに対して提供し、実は結構なシェアを獲得している。今回、マイクロソフト OEMエンベデッド本部の清水尚利氏にマイクロソフトのカーナビ用OSの現状と、将来についてお話を伺ってきた。 ■あなたの車のカーナビにもWindows入ってます?
マイクロソフトのWindowsと言えば、知らない人はいないと思われるほど有名なパソコン用のOSだ。独自のOSを採用しているアップルのパソコンを除けば、ほとんどのパソコンがWindowsベースのものになっている。完全に32ビット化されたWindows XP以降、Windowsは非常に安定したOSとなっているが、その昔はWindowsと言えば“ブルースクリーン”(Windowsがクラッシュした時に表示される画面、青いことからこう呼ばれている)という言葉に象徴されるような不安定なことがよく揶揄されていた時代もあったので、“安定性”"どころか“安全性”が優先される自動車のコンポーネントに利用されるソフトウェアとしてはちょっとなというオールドユーザーも少なくないのではないだろうか。確かに、道を走っているときに“ブルースクリーン”が出て“ご不便をかけて申し訳ありません”と謝られても少々困る感じだ。
だが、心配ご無用。実はカーナビ向けに採用されているWindowsは、Windows Vistaのようなパソコン向けのWindowsではなく、Windows Embedded CEという民生機用の別系統のOSがベースになっているのだ。Windows Embedded CEは、民生機などにカスタマイズして組み込むことを目的として開発されたOSで、1996年に最初のバージョン(バージョン1.0)がリリースされ現時点ではバージョン6.0が最新版となっている。余談になるが、Windows CEがベースになっているOSとして、エンドユーザーにとって身近な製品と言えば、携帯電話のOSとなっているWindows Mobileがある。最近ではスマートフォンと呼ばれる高機能な携帯電話のOSとして注目を集めている。 マイクロソフトが主に日本のカーナビメーカーに提供しているのは、このWindows Embedded CEをベースとして自動車向けにカスタマイズが加えられたWindows Automotive 5.5で、前出のパイオニアのカーナビ以外にも複数のカーナビメーカーですでに採用されている。 ■増え続けるソフトウェア開発のコスト、その解決策として汎用OSが求められる
そこで各メーカーが目をつけたのがソフトウェアの開発にかかるコストだ。Windows Automotiveのような汎用のOSが普及する前は、カーナビメーカーはμITRON(マイクロアイトロン)などの組み込み向けのOSをベースに、各社で作り込んでいた。カーナビの機能が、単純にルート案内と、音楽CDやMDの再生程度でよかった時代には特にそれで問題なかったのだが、近年になりインターネットの機能を備えたり、音楽CDやMDだけでなく、MP3、AAC、WMAなどを再生できるようにしたり、さらには動画の再生までできるようにしたりするなど、カーナビに実装する機能は増える一方だ。そうした時代に自社で機能を作り込んでいくと、それだけソフトウェアにかかるコストが膨大になり、販売価格に見合わなくなってしまうのだ。 例えば、インターネットの機能を実装することを考えてみよう。この場合、Webブラウザーやメールクライアントというエンドユーザーの目の届くところにある部分だけでなく、TCP/IPというインターネットの標準で利用されている情報をやり取りする手順(プロトコル)の部分も自社で開発する必要がある。特にこの部分は複雑で、仮にゼロから開発する場合には膨大なコストがかかることになる。 それに対して、マイクロソフトのWindows Automotiveのような汎用OSの場合、TCP/IPはもちろんのこと、Webブラウザーやメールソフトのコア部分は標準で用意されており、カーナビベンダーはユーザーが実際に目に触れる部分であるUI(ユーザーインターフェース)の部分だけを作り込むだけでよくなり、開発費を削減できるのだ。要するに自社だけでそれを開発したら、それこそ汎用OSを開発するのと同じコストがかかるが、汎用OSをマイクロソフトなどから購入すれば、言ってみればその開発費をほかのカーナビベンダーと折半できる訳で、その効果は大きいことはすぐ理解できるだろう。 このため、2000年代に入り、急速にカーナビに汎用OSが採用されていくようになった。実際マイクロソフトでも、1999年にカーナビ用の部署が設立され、2002年に大手自動車メーカーの純正ナビに採用されて以降、カーナビベンダー各社などに採用される例が徐々に増えているのだと言う。
■カーナビベンダーの開発工程の50%を占めるUI開発を助けるAUITK
清水氏によれば、Windows Automotive 5.5の最大の特徴は、カーナビベンダーが容易に独自UIを開発できるようになっていることにあると言う。「現代のカーナビの開発に占める開発工程の50%はUIの開発です。同じプラットフォームのカーナビでも、各自動車メーカー向けに差別化しないといけないし、複数の言語や地域の特性にも対応する必要がある。また、自動車メーカーはカーナビの画面もインテリアの1つと考えているので、普及価格帯の車と高級車ではカーナビの画面を差別化する必要がある。このため、Windows AutomotiveではAUITK(Automotive UI ToolKit)という開発キットを用意し、できるだけカーナビベンダーが容易にUIを開発できるように配慮しています」とのとおり、カーナビベンダーの側も差別化の大きなポイントがUIになってきているため、その開発をより容易にするための開発キットであるAUITKを用意することで、Windows Automotiveの持つ高機能(例えばメディア再生機能やTCP/IP、カーナビのコントロール機能)を生かして、オリジナルの操作体系をカーナビベンダーが容易に開発できるようになっている。
■システムチューニングのツールにより、性能を上げていくためのお手伝いを
だが、それを実現するのは容易なことではない。「実際、カーナビに利用されているハードウェアを見ると、各社間でさほど大きな違いはない。しかし、実装しなければいけない機能は増えており、少ないリソースを効率よく使い切っていかにパフォーマンスを出すかが重要になっている。最近の例でも実際にサンプルのボード(試作品の基板)上で動き出すまでは早いのだが、その後実際にパフォーマンスを出すまでには時間がかかる」(清水氏)とのとおり、どのベンダーも似通ったハードウェアを利用しているため、その差を出すのは難しくなっているが、その中でも地道なチューニングを行っていき、最終的に性能を出すのだ。 そこで、マイクロソフトはWindows Automotiveの機能の1つとしてAST(Automotive System Tools)という仕組みを用意している。これは言ってみればマイクロソフト謹製のベンチマークプログラムのようなもので、これを利用してカーナビベンダーはさまざまな性能をチェックして、少しでも高速に起動したりすることができるようにしている。清水氏によれば、ASTにはCPU時間測定ツール、起動時間高速化のためのツールなどが用意されており、スレッドと呼ばれるソフトウェアの実行単位にかかる時間や、データをロードするまでにかかった時間などを計測していく。これらを利用して地道に計測していき、前述のような店頭のデモ(もちろん実際にも)でも高速な動作ができるようにしていくのだ。
■CANなどの車内ネットワークとの通信もReady Guardにより対応
しかし、CANなどの車内ネットワークに接続されるということは、カーナビで問題が発生したとしてもCAN側に影響を及ぼさないような設計にしておかなければならない。カーナビがパソコンとは異なる品質で作られているとはいえ、究極のカスタムコンピューターであるECUとは求められる信頼性のレベルが異なるからだ。 清水氏によれば「例えばCANでは100ms程度で起動しなければ切り離されてしまうので、カーナビではCAN用にサブCPUを用意して対応することになる。しかし、その場合はコストの問題が発生する」とのことで、こうした問題に対して何らかの回答を示す必要があるのだ。そこで、マイクロソフトはWindows Automotiveに「Ready Guard」という仕組みを用意している。Ready GuardではOSの中に小型のOSを起動するという手法を採り、ほかのソフトウェアを起動しても影響を受けないセキュアOSという小型OSをCANの通信用に起動する。これにより、メインのOSに何かがあっても100msの範囲内で小型OSのほうに切り替えて通信させることができるので、問題なく通信することができるようになっているのだ。
■Microsoft AutoとWindows Automotiveの違いとは?
清水氏によれば、Microsoft AutoとWindows Automotiveの違いは、両地域でのメーカーの考え方の違いだと言う。「Microsoft Autoの方はまずは標準化ありきという考え方で作られている。標準化のためのミドルウェアという考え方がMicrosoft Autoの方にある。これに対して、Windows Automotiveの方は現状のナビ製品というのがあり、それを作るためのOSとして考えられていて、標準化にはそれほどこだわらない」と、基本な考え方の違いがあるのだ。 この違いは一言でいえば、カーナビの歴史の違いだろう。欧米では、これまであまり純正品としてのカーナビはほとんど用意されてこなかった。このため、ゼロからカーナビを作ることになるので、カーナビの機能としての定義もまったくないところから始めることになる。マイクロソフト側にある程度定義してもらい、その上でユーザーインターフェースなどで差別化していくというのが基本的な考え方になる。このため、マイクロソフトは最新版のMicrosoft Auto 3.1においてメディア接続(iPodやZune[マイクロソフトの携帯オーディオプレイヤー、日本未発売]との接続)機能、Bluetooth機能、音声認識・操作、機能のアップデートといった機能を定義し、それらをミドルウェアとしてメーカー側に提供している それに対して、Windows Automotiveでは機能の定義というのは行われていない。すでにカーナビベンダー側に過去の製品があり、それを置き換える製品として利用されるのが主であるので、逆に言えば機能を定義する必要がないということなのだろう。つまり、そうした日本のカーナビベンダーのニーズを取り入れて作られたのがWindows Automotiveであるとも言える。 ■“Motegi”でWindows AutomotiveとMicrosoft Autoを統合
それが“Motegi(モテギ)”という開発コードネームで知られる次期製品だ。なお、昨年の11月に報道関係者向けに行われた「Microsoft Car Navigation Day 2008」ではMotegiのリリース時期が2009年中とされていたが、そのスケジュールは変更されたようで、取材時点ではリリース時期は未定となっていた。おそらく2010年あたりのリリースということになるのではないだろうか。 このMotegiではWindows AutomotiveとMicrosoft Autoの2つの製品の機能を統合した製品となる。また、ベースとなるWindows Embedded CEも次期バージョンになるほか、SMP(Symmetric Multi-Processing)の機能をサポートするなど機能の拡張も行われることになる。現在のWindows Embedded CE 5.0では、スレッド数と呼ばれるOSが処理できるソフトウェアの数が32に制限されているが、次期CEではそうした制限が取り払われることになり、SMPのサポートによりシステムのパフォーマンスを引き上げることも可能になる。 ちなみに、Motegiという開発コードネームはつい先日Moto GPが開催されたツインリンクもてぎに由来する。ツインリンクもてぎはロードコースとオーバルコースの2つのコースを持つサーキットであるので、現在のWindows AutomotiveとMicrosoft Autoが2つが1つになるということの意味を込めてつけられたものだという。 清水氏によれば、マイクロソフトの調布事業所にカーナビ専任の開発チームを用意しており、顧客のサポートやWindows Automotiveの開発を行ってきた。次期バージョンとなるMotegiでは、2つのOSは合併するが、調布の開発チームに関しては引き続き維持され、Motegiの機能のうちのいくつかは引き続き調布で開発されているのだと言う。そうした意味で、引き続き日本の要求に関してはMotegiに反映されることになるので、日本のメーカーも安心してMotegiを採用していくことができそうだ。
■URL
マイクロソフト株式会社 http://www.microsoft.com/ja/jp/ Microsoft オートモーティブ http://www.microsoft.com/japan/auto/default.mspx ()
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