「第12回 組込みシステム開発技術展(ESEC)」リポート
富士通がAndroidベースのPNDの試作機などを展示

会期:2009年5月13日~15日
会場:東京ビッグサイト東ホール
入場料:5000円(Webより無料展示会招待券申込みあり)



 組み込みシステムとは、自動車やホームオートメーションなどの汎用機器に組み込むデジタル基盤などのことを意味しているが、ご存じのように自動車などにもデジタル技術が多数利用されるようになってきていることで、こうした組み込みシステムの展示会にも自動車関連の展示が目立つようになってきている。

 本リポートでは現在東京ビッグサイト(東京都江東区有明)で開催中の「第12回 組込みシステム開発技術展(12th Embedded Systems Expo:ESEC)」で展示された自動車関連の話題についてお伝えしていきたい。

富士通がGoogleのAndroidをベースにしたPNDの初期開発製品を展示
 富士通はOSにAndroid(アンドロイド)を採用したPND(Portable Navigation Device)のアーリーサンプル(初期段階の試作品)を展示した。Androidとは、Web検索で有名なグーグルが開発したOS(Operating System:基本ソフトウェア)で、現在ではスマートフォンと呼ばれる高機能な携帯電話で採用され、すでに米国などでは出荷されており大きな注目を集めている。Androidはライセンス料が無料であることもあって、組み込み機器メーカーなどから注目を集めており、現在各社が開発に積極的に取り組んでいる状況だ。

 そうした中、富士通が展示した製品では、アットマークテクノが開発した開発キットをベースにして、その上で地図アプリケーションを実行していた。ユニークなのは、この地図がローカル(機器内)にあるのではなく、ネットワーク上にあることだ。つまり、グーグルが提供するWeb地図サービス「Googleマップ」のように、常にネットワークにアクセスして地図データをダウンロードして表示する形になっているのだ。今回のデモで利用されていた地図はインクリメントPが提供する地図データベースで、そのデータベースに常にネットワークを経由してアクセスして表示していた。ただ、この形だと、ネットワークにアクセスできない場所では地図が表示できないことになるので、将来的には地図を先読みしてキャッシュしたりなどの仕組みを取り入れることになるだろうということだった。

 なお、説明員によれば、まずはPNDベースでの製品化を目指していく形になると言い、近い将来にはAndroidを採用した高機能なPNDというのが登場するのかもしれない。Androidでは、標準でGoogleのさまざまなサービスを利用するためのブラウザーなどの機能が標準で搭載されており、車内でもフルにインターネットが利用できる時代が近いうちにやって来るのかもしれない。

富士通のブースに展示されていたAndroidベースのカーナビのアーリーサンプル。アットマークテクノの開発キットが利用されていた地図はインクリメントPのネット上の地図にアクセスするという仕組みになっている。このため、常にネットワークが必要というのが特徴となっているAndroidカーナビの仕組みを利用するパネル

バッテリーと加速度センサーを搭載したAndroid搭載マシン
 アットマークテクノでは、前出のAndroidベースのPNDのデモにも利用された開発環境の「Armadillo-500」が展示された。Armadillo-500はCPUにFreescaleの「i.MX31」というARM11ベースのものが採用されており、メインメモリは128MBのDDR SDRAMが搭載されている。

 Armadillo-500自体はすでに出荷されているのだが、今回はバッテリーと加速度センサーを搭載した試作機が展示された。この加速度センサーはいわゆるジャイロセンサーであり、将来的にPNDなどにも転用が可能であるとしていた。ここのデモでもOSはAndroidが採用されており、GPSモジュールなどを実装すれば、すぐにでもPNDとして利用できそうな印象だった。

 ちなみに、この開発キットは5.7インチの液晶パネル付きで12万8100円の価格がつけられており、もちろんPNDとしては決して安価ではなく、説明員も「特定用途ならいけるかも」という認識のようだ。ただ、これはサンプル製品としての1台の価格であり、実際に量産した場合にはもっと安価になる可能性は高い。となれば、やはり近い将来にAndroidを搭載したPNDというのも十分ありなのかもしれない。

アットマークテクノのArmadillo-500加速度センサーを搭載した、Armadillo-500の試作品。デモでは玉が徐々に下がっていく様子などが確認できた

ルネサスは次世代のカーナビに利用されるSoCを展示
 マイクロソフトブースでは、以前の記事でも紹介したマイクロソフトのカーナビ向けOSであるMicrosoft AutoとWindows Automotiveに関する展示が行われていた。

マイクロソフトブースに展示されていたMicrosoft Autoのデモ。フォードのSyncのシステムを利用した、ナビと携帯電話などが接続できる様子などがデモされていた展示されたWindows Automotiveに対応した国内向けカーナビ

 なかでも注目を集めていたのは半導体ベンダーのルネサス テクノロジが展示した、カーナビ用の新チップだ。現在ルネサスはカーナビベンダーなどに「SH77721(SH-NaviJ1)」などを提供しており、実際市場に出回っている製品などに採用されている。SH-NaviJ1は「SH-4A」ベースのCPUを内蔵したSoC(System On a Chip、1チップですべての機能を実現するチップのこと)で、RGP(Renesas Graphics Processor)と呼ばれる地図の描画に優れたルネサス独自の2D/3D描画エンジンを採用していることが特徴となっている。RGPを利用し、OpenGLという3Dグラフィックスの世界では標準的に利用されているAPI(Application Program Interface)をベースに開発されたルネサスのAPIセットを利用してアプリケーションソフトウェアを作成することで、地図などの3D描画を高性能で行うことが可能になっている。

 5月7日にルネサスが発表したのは、この普及価格帯カーナビ向けチップSH-NaviJ1の後継となるSH77722(SH-NaviJ2)で、メモリのバスインターフェースが従来製品では16ビット幅だったのに対して32ビット幅に拡張され、メモリ性能が大幅に向上されている。そうした性能の向上により、WVGA(832x496ドット)画面を2画面同時に描画できるようになり、1画面の場合にはWXGA(1280x768ドット)までの描画が可能になっているのだと言うのほかCAN(Controller Area Network)との接続チャンネルが2チャンネルに増やされたり、21×21mmと従来よりも17%小型のパッケージが採用されたりするなどの特徴を備えている。ルネサスによれば、7月よりサンプル出荷を開始し、実際に搭載したカーナビやPNDなどの出荷は来年を見込んでいるのだと言う。

 新製品ではないが、1月にルネサスが発表したのが「SH7776(SH-Navi3)」で、こちらはよりハイエンドのカーナビ向けとなる。最大の特徴は内蔵されているSH-4Aのプロセッサがデュアルコアとなっていることだ。一般的にカーナビのプロセッサはシングルコアだが、このSH7776ではデュアルコアとなっており、メモリ空間も含めてパーティショニングすることにより、1つのシステム上で同時に2つのOSを走らせることができる。

 例えば、圧縮音楽再生などのエンターテイメント系の制御にはOSにWindows Automotiveを走らせ、CANなどの制御系にはOSにQNXなどの別のOSを走らせ、相互に影響を及ぼさないようなシステムを実現することができる。CANなどの車内LANに接続する場合には信頼性が何よりも重要になるので、制御系のOSをエンターテイメント系と切り離すことで高い信頼性を実現することができるのだ。

 さらに、SH7776はImagination Technologiesからライセンスを取得して「PowerVR SGX」の3Dエンジンを内蔵している。従来製品で採用されていた「PowerVR MBX」の倍近いポリゴン(3Dの物体を処理するための最小単位)を描画する性能が倍近くなっており、OpenGLなどのAPIを利用して3Dのユーザーインターフェースの描画などが可能になっている。

 なお、このSH7776は、2009年4月からサンプル出荷が開始されているが、ルネサスの展示員によれば、実際にカーナビなどに搭載されて出てくるのは2011年頃になりそうだと言う。デュアルコアになることで、ソフトウェアの側も大幅に直す必要があるので、それだけのリードタイムが必要ということなのだろう。

ルネサスのデモ。左がSH77721(SH-NaviJ1)で、右がSH7776(SH-Navi3)SH7776(SH-Navi3)、デュアルコアのSH-4A、PowerVR SGXの3Dエンジンを内蔵するなどハイエンド向けの仕様となっているSH7776(SH-Navi3)の画面。上が制御系のOSでCANなどと接続されている。下がWindows CEで、エンターテイメント系を対応している。下側のWindowsがクラッシュしても、上の制御系OSは落ちない様子などがデモされた
東芝の自動車メーカーなど向けの自動車シミュレータ「M-RADSHIPS」。車内LANなどを再現することができる。自動車の開発段階などで利用されるものだが、従来は完全に作り込んでいたため高コストだったものを、一部をパソコンのソフトウェアベースにすることで低価格を実現した製品

 

(笠原一輝)
2009年 5月 14日