FN第4戦富士で語られたFNエンジン開発秘話
トヨタとホンダのエンジン開発者で座談会


フォーミュラ・ニッポンのエンジン開発の裏話を明かす、トヨタの永井洋治氏(左)とホンダの坂井典次氏(右)

 富士スピードウェイで開催されたフォーミュラ・ニッポン(FN)第4戦ではさまざまなサブイベントが組まれていたが、その中でとくに興味深かったのが、メインステージ裏のイベント広場に設けられた特設ステージで行われた「FNエンジン開発秘話」というプログラム。

 FNエンジン開発秘話は座談会形式で行われ、フォーミュラ・ニッポンで使われているレーシングエンジンを開発するトヨタ自動車モータースポーツ部主査の永井洋治氏と、本田技術研究所MSブロック主任研究員の坂井典次氏の2人が、それぞれの立場からフォーミュラ・ニッポンのエンジン開発の秘話を明かしてくれた。

 「今年のエンジンを開発する上で重視したことは?」という司会の質問に、トヨタの永井氏は「今年は排気量が3リッターから3.4リッターに増え、オーバーテイクボタンのシステムを採用したことで1万700rpmまで回せるようにした上で、4レースを1エンジンで戦う必要がある。パワーを引き上げながら距離(寿命)を伸ばすという相反する2つのバランスを取るのが大変だった」と述べ、今年のレギュレーションが変わったことで新しいエンジンを設計するのが難しかったと言う。これに対してホンダの坂井氏は「昨年までの3リッターのエンジンは外部に委託していたのに対して、今年の3.4リッターのエンジンはホンダ自身で開発したので大変だった。特に時間のない中での開発となったため、時間を効率よく使い、かつ信頼性の確保が大変だった」と語った。

 司会者から今はやりの“エコ”に少しでも貢献するために、今年からサイレンサーに触媒を付けたことについて質問されると、ホンダの坂井氏は「触媒を付けると一言で言ってしまうとおしまいなのだが、その構造をどうするかなど実に開発は大変だった。厚さをコンマ数ミリ程度にしたいところなのだが、そうすると振動で壊れたりする。あるいはアフターファイヤーが盛大に出るときに壊れたりする。実際スタート時のテストをしていて、サイレンサーが文字どおり爆発したこともあった」と言い、その開発の苦労などについて語ってくれた。

 さらに、それぞれがお互いに質問するコーナーでは、トヨタの永井氏は「なぜナカジマ(NAKAJIMA RACING)だけあんなに速いんですか?」という質問をぶつけられると、会場は爆笑の渦に包まれた。質問された側のホンダの坂井氏は「実は我々にも分からないんです(笑)。もちろん他チームにも同じエンジンを供給していますので、ナカジマだけがなぜ速いのか、実は私も教えて欲しい。ただ、カウルを開けると、すぐ隠してしまうので、足まわりとかそのあたりに秘密があるのかもしれませんね」と述べた。これに対してトヨタの永井氏が「みなさんピットウォークとかで、その辺りの写真を撮れたら私に教えてください」とジョークで返すと、会場に詰めかけた熱心なファンは大笑いしていた。

 ホンダの坂井氏からトヨタの永井氏には「前回のツインリンクもてぎでこうした座談会を行ったときに、エンジンを開発する上で車全体でのパッケージに注意されているということで、油水温の耐久性をさらに上げたと言っておられましたが、それが今の車にはどういう影響を与えているのか?」という質問が投げかけられた。永井氏は「去年のローラは冷却と空力の感度が非常に高い。去年のローラでは温度を上げると空力に悪影響があり、かといって下げすぎてもだめだった。最適値があってそのバランスを見つけるところが重要だった。それに対して残念ながら今年の車はあまり感度が高くない。サイドポンツーンが大きく空いているので、冷却をあまり行わなくても影響がない」と述べ、エンジンの設計にもシャーシーが変わったことの影響が及んでいるのだと説明してくれた。

 なお、会場からも質問を受け付けたところ、「今年の車にはオーバーテイクボタンが付いており、それを押したときに1万700rpmになるが、ギア比をそれにあわせて設定するのか、それとも通常の回転にあわせて設定するのか、エンジニアの立場からはどう考えるのか?」というマニアックな質問も飛び出した。それに対してトヨタの永井氏は「私がチームオーナーならそう(1万700rpmにあわせる)します。なぜなら、(富士スピードウェイでは)抜くところはほとんどない。スリップストリームに入ってもほとんどの場合リミッターに当たってしまう。その場合、横に出てもリミッターに当たってしまい抜けなくなってしまうからだ。これに対してオーバーテイクボタンを利用すると、(最高速が)16km/hぐらいは上がるので、これを上手く使えばオーバーテイクすることができる。ただ、各チームともエンジニアには考え方の違いがあって、実際にはそうではない場合もあると思う」と説明した。

 ホンダの坂井氏は「フォーミュラ・ニッポンでは2007年から各ギアにリミッターを効かせてスピードをコントロールするシステムを装着している。表のストレートで1万300rpmでピタピタになるよりも、裏のストレート(編集部注:ダンロップコーナーにかけての部分かと思われる)で1万300rpmでぴったりあたるようなギア比にして、表のストレートは加速を重視する設定にする。最高速は若干犠牲になるが、その方が1周の速さという意味ではエンジンのパワーを使い切るというシミュレーション結果が出ています。その上でギア比を設定すると、今度はオーバーテイクが難しくなる。だったら、オーバーテイクボタンで1万700rpmに上げてみよう、という発想からこのオーバーテイクボタンができた。これを有効に使ってもらうのがよいセッティングだと私は考えています。もう1つはここのコーナーは100Rへはリミッターに当たった状態で入っていくのだが、100Rで上手く(先行車に)つけると、F1のときにライコネン選手がやったみたいに、ヘアピンでブレーキ勝負に持ち込むことができるようになる。ここ(100R)でも4速か5速でリミッターが当たった状態で入っていき、もうひと押しとしてオーバーテイクボタンを使ってもらえば、ヘアピンでも抜けるという使い方が可能になる。ここはエンジニアなり、ドライバーの腕の見せ所になる」と言い、オーバーテイクボタンを利用することで、よりおもしろいレースが実現可能になるはずだと述べた。

 また最後にホンダの坂井氏からは「せっかく現場に来ていただいているので、両社のエンジンの音の違いを聞いていってほしい。エンジンにはいくつかの音をかなでる部分があるが、その部分の設計が違うため、エンジンの音は異なって聞こえるはず。そこはぜひ楽しんでいってほしい」と来場したファンに呼びかけた。これに対してトヨタの永井氏からは「ちなみに、ホンダさんのエンジンはうちと点火順が違うような気がするんですけど」と突っ込まれると、坂井氏が苦笑してノーコメントで通す場面もあるなど、興味深い話がいくつも飛び出し、来場者はまさに食い入るように聞いていたのが印象的だった。

 ツインリンクもてぎでの第3戦から始まった、トヨタとホンダのエンジン開発者による座談会だが、フォーミュラ・ニッポンを運営するJRP(日本レースプロモーション)によると、第5戦の鈴鹿でも行われる予定とのこと。レースファンにとっては、非常に興味深い内容が次々に語られるプログラムなので、今後の内容が楽しみだ。

(笠原一輝)
2009年 6月 30日