ケンウッドの2DIN一体型ナビ「HDV-909DT」を徹底チェック<後編> 基本機能とカーナビ性能を検証する |
システムコンポやポータブルオーディオプレーヤーなど、音質を重視したオーディオ商品でコダワリ派に人気のケンウッド。そんな同社が手がけたカーナビが「AV Master HDV-909DT」だ。このモデルは「HDD[Sma:t]Navi」シリーズとして“誰でもカンタンに操作できる”を基本コンセプトに、充実したAV機能と高音質再生を目指しているのが特長。
前編ではオーディオ&ビジュアル機能を紹介したが、今回は基本機能およびナビゲーション機能についてのインプレッションをお届けしよう。
■メニュー表示以外はタッチパネルを利用
基本的なスタイルは2DIN一体型カーナビに共通したもので、7.0V型ワイドモニターの下部に操作用のハードキーが並ぶデザイン。ハードキーの数は少なめで左からAVソースを切り替える「SRC(ソース)」、「ボリューム」、ナビモードからAVモードに切り替える「AV」、メニュー画面を表示する「MENU」、AVモードからナビモードに切り替える「NAVI」、モニターをオープンする「イジェクト」となっている。一番左端の逆三角形の赤LEDはセキュリティインジケーターで、電源オフ時に点滅することで盗難を抑制するもの。
これらハードキーのイルミネーションはユーザーによる設定が可能。RGBそれぞれ16段階、計4096色から選択できるため、クルマのメーターなどのイルミネーションカラーにあわせたり、カーナビ以外の機器とコーディネートしたりすることも可能だ。
「イジェクト」キーを長押しすると、モニターの角度を調整できるモードになる。一般的には画面下部をせり出させるチルト機能のみだが、このモデルは画面上部がせり出す「逆チルト」機能も用意。2DINスペースが上向きになっているクルマや、フロントウインドーからの光で画面が見にくい、なんて場合に有効だ。数多い2DIN一体型ナビの中でもケンウッドだけが採用しているが、実用性はとても高く便利な機能だ。
■タッチパネルの特性を活かしたわかりやすい入力方法
ハードキー以外の操作は、すべて画面上に表示されるボタンを押すことで行う。タッチパネルのボタンデザインは「単なる四角い枠と文字」だったりすることが多いが、本機は各項目をイメージしたイラスト付きで、サイズも画面一杯を利用してかなり大きくデザインされている。加えて選択時にはそれぞれの絵柄がアニメーションする「モーションGUI」を採用。サイズや形状を自在に設定できるという、タッチパネルの特性を活かしていないメーカーが多い中、この工夫はポイントが高い。分かりやすさはもちろん見ているだけでも楽しく、「地図を押して」とか、「観覧車を押して」とか言うだけで、子供でも操作することができそうだ。
50音検索や電話番号検索などには専用の画面を用意。数字は一般的なテンキー。文字は左から50音が横に並ぶタイプ。各行の先頭文字を色付きにするなど工夫されているが、慣れないとちょっと迷ってしまいそうだ。
地図画面上での操作に便利なのが、画面右端中央に用意された「SC」ボタン。いわゆる「ショートカット」キーだが、通常と異なるのが使用頻度の高い3つの機能を自動的に登録する点。自分で設定する手間がいらず、「慣れてきてナビの使い方がちょっと変わった」なんて時でも自力で変更しなくて済む。とくに深い階層にあるメニューを多用する機会が多いなら、ワンタッチでスピーディに項目を選択できるのは便利だ。
画面下部、両サイドに用意されているのは「サウンド切り替え」と「くるくる」ボタン。「サウンド切り替え」ボタンは、わざわざAVメニューを表示しなくても、地図画面上でソース選択を可能にするもの。「くるくる」ボタンは、各ソースごとの操作をナビ画面上で行うためのもの。押すたびに操作可能な項目が変わり、「NAVI」表示時は「広域/詳細」「自宅」「VICS」情報など、AV系表示時は「ソース情報」を表示するほか、「選曲/再生」などの操作が可能になる。これらの表示は消すこともできるから「周辺の地図を広く見たい」なんて時にも便利。最初は取っつきにくいかもしれないが、いちいちメニュー画面を表示させる必要がないため、スピーディにナビやAVの操作が行えるようになる。
■シンプルながら道路が見やすいマップデザイン
地図は道路を重視した割とシンプルなデザイン。モニターの解像度が最近増えつつある800×480ピクセル(ワイドVGA)ではなく480×234ピクセルと低いため、道路のジャギーが目立つほか、複雑な文字はつぶれてしまう。実用上はさほど気にならないとはいえ、美しさという点で物足りなさを感じてしまうのも事実だ。価格が安い分、妥協すべき点だろうか。
と、先に不満を述べたがよい部分も多い。まずは100m/50mスケールに用意されている信号機アイコン。ほぼすべての信号を画面上に描いているため、助手席に座っているナビ役がドライバーにルートを説明する際、「3つ先の信号を右折ね」なんて説明も可能になる。
次に旺文社の「渋滞ぬけみちデータ」。画面上でピンク色で示されている道路がそれで、メインルートが渋滞している際にサブルートとして活用できる。もっとも「ぬけみちルート」も渋滞していることがあるが、それは運次第の面もあるのでカーナビには責任のない部分だ。
もうひとつ嬉しいのが都心部に多い「ボトルネック踏切」の表示。ルートを選ぶときに見ておけば「裏道だと思っていたら踏切が開かず、余計に時間が掛かった」なんて事態が避けられる。ただ、残念なことにルート探索時に自動的に避けてくれるようなアルゴリズムは用意されていない。地図を見つつ自分で避ける必要がある。
地図画面のバリエーションは、建物を立体的に表現する「バーチャル3Dマップ」のほか、縮尺や2D/3Dの異なる地図を2画面表示するモードなどを用意。50mおよび25mスケールには建物の形状や一方通行など詳細な情報表示を行う、いわゆる市街地図表示も用意されている。動画などハデな案内は用意されていないが、分かりやすさを含めて十二分に実用的といえる内容だ。
■充実したジャンル検索は目的地探しがスピーディ
検索方法は「50音」をはじめ「ジャンル」「周辺」「住所」「電話番号」など基本的な方法を網羅。収録データも住所データの約3400万件を筆頭に充実したもの。
特筆したいのはジャンル検索で53ジャンル、897項目を用意している点。「食事」や「買い物」といった一般的な項目はもちろん、「理容&美容」ジャンルからは「ネイルサロン」や「ペット美容室」まで探し出せる。また、「喫茶」からインターネットカフェ、「緊急施設」から公衆トイレが探せたりするのもユニークだし実用的だ。検索した項目は「50音」「近い順」「住所」で絞り込めるため、目的の施設を見つけ出すのがカンタンだ。
ルート探索は標準的なオススメルートを示す「標準」のほか、ルートの距離を短くした「距離」、有料道路を優先的に使う「有料」、一般道を優先的に使う「一般」の4パターンを用意。所用時間や料金に応じて、好みのルートを選ぶことができる。また、全国31カ所のSA(サービスエリア)やPA(パーキングエリア)に設置されたスマートIC(インターチェンジ)を利用したルート探索にも対応。ロードマップに慣れていてもこういったルートは見つけにくいため「カーナビを使っていてよかった」と感じられるハズだ。
ただ、ルート探索に要する時間は最近のカーナビとしては長め。各種操作時のレスポンスも入力に対してワンテンポ遅れる感じだ。DVDナビやPNDほど遅くはないためイライラするほどではない。
■ハデさはないものの分かりやすい一般道での案内
一般道でのルート案内は交差点拡大図が基本。曲がる交差点を拡大図で表したもので、ランドマークや距離なども表示される。見た目はシンプルだが、都市部でない限り拡大図自体は必要十分な内容。必要以上にイラストを用いたり、ムダに詳細な表示を行ったりと、ゴテゴテとした表現よりは分かりやすい。気になるのはレーンガイドが拡大図とは逆の画面右端に表示されていること。これでは常に画面の両側を確認しなければならない。拡大図の中(もしくは上や下)に表示されればより便利だろう。
ただし、このシンプルな拡大図だけでは、複雑に車線が絡み合うような場所では力不足なのも事実だ。そこで用意されているのが実写ベースのイラストによる拡大図。俯瞰視点からのイラストのため、レーンや周囲の状況をひと目で掴むことができる。こちらも少しだけ難点を言えば、現状では収録個所が政令指定都市、合計1711か所に限られている点。確かに都心部を走っていると「こんなところでも?」という場所で表示されることもあるが、ぜひ今後の地図データ更新では、政令指定都市に限定することなくもっと増やして欲しいところだ。
そのほか、道路上にあるモノと同意匠の方面看板も用意されている。案内にはそれほど影響を与えないが、表示されることによる精神的な安心感は高い。この方面看板とレーンガイドはルート案内を行っていないときでも表示される。
同社のカーナビとしては初となる3Dジャイロの搭載も案内面でプラスポイント。これは回転方向に加えて傾斜角にも対応したセンサーのこと。GPSでは判断しづらい上下方向の移動を検知できるため、一般道と都市高速が平行しているようなシーンで威力を発揮する。実際に国道20号線と首都高速4号線が平行している場所でテストしてみたが、キチンと都市高速への移動を認識し、以降は都市高速を利用した案内を行ってくれた。最近人気のPNDの場合、こうしたシチュエーションでは一般道を高速と認識してしまったり、逆に高速を一般道と認識してしまうことも多い。細かい部分ではあるけれど、慣れない場所を走っているときはけっこうストレスを感じることも。こうした精度の高さは安心感につながり、据え置き型ならではのメリットを感じさせてくれる。
■入口や施設、ジャンクションなどの案内も充実
一般道ではシンプルな案内が多かったが、高速道路での案内は充実している。
都市部に住むドライバーにとって、まずお世話になるのが都市高速(首都高速や阪神高速など)だ。これらの道路は場所の制約が大きいこともあって、入口が中央車線寄りだったり、狭い路地に入ったところだったりと、分かりづらい場所にあることが珍しくない。初めての場所だったりするとカーナビがあっても悩んでしまうことがあるけれど、そんなところに用意されているのが実写をベースにしたイラスト。これなら初めての道でも、どう進めばよいのかが一目瞭然だ。
高速道路に入って次の関門となるのが料金所。本機にはETC車載器との連動機能は用意されていないが、ETC/一般レーンを色別で表示する機能を搭載。一般的に料金所のレーンガイドを表示するためにはカーナビと同じメーカーのETC車載器(高い)と専用の接続ケーブル(これも高い)を購入する必要があるが、これなら他社製や純正のETCでも表示可能。料金や履歴表示はできないが、実用上はこれで十分と言ってよい。
高速道路走行中は専用のハイウェイモードを表示。画面左側に前方3カ所のICやJCT(ジャンクション)、SA/PAを表示し、同時に距離と予定通過時間も見ることができる。VICS交通情報を利用することで施設間の渋滞状況やSA/PAの混雑状況がわかるのも便利だ。
■オプション装着でより便利に
都市部を走ることが多いなら、ぜひ欲しいのがVICSビーコンユニット(VF-M99/価格2万6250円)。価格は少々高めだが一般道の光ビーコン、高速の電波ビーコンを利用して渋滞情報を入手できるほか、一般道では情報を元に渋滞を回避するルートを自動的に選択したり、自車位置の補正も可能になる。
ミニバンなど車高の高いクルマならバックカメラ(CCD-2000/価格2万5200円)も便利。リバースギア連動で自動的にナビ表示からカメラ映像に切り替えることができる。
VICSビーコンによる渋滞情報表示。オプションだが都市部を走ることが多いなら手に入れておきたい | |
2009年の新保安基準に適合した小型バックカメラ。夜間でもバックライトの明かりだけで十分に周囲を確認できる |
■お買い得度は?
AVに関しては独自機能によりオリジナリティが高かった本機だが、ナビに関してはどうだろう。充実したデータによるジャンル検索、3Dジャイロによる据え置き型ならではの精度、さらに必要十分な案内能力などを持っていることは確か。だが、液晶モニターが480×234ドットと低解像度なことや、処理速度が遅めなことなど、全体的にはエンタテインメント性より実用性重視といった印象になる。
とはいえ、本機は実売価格を考えればエントリー~ミドルクラスの位置付け。それでいてナビに加え独自機能満載のオーディオ、さらにはフルセグ地デジチューナーまで搭載していることを考えれば、お買い得度はかなり高い。
また、一般ユーザーが購入すると取り付け費用も必要となるが、地デジ用アンテナはフロントで完結、B-CASカードリーダーも内蔵と、最小限の費用で済む。オーディオ重視派はいわずもがな、加えてお手頃価格で、でも充実した機能が欲しいなんて欲張りな人にもピッタリだ。
(安田 剛)
2009年 7月 31日