ホンダ、2輪車用「デュアル クラッチ トランスミッション」を開発
カブタイプに搭載可能な新型ATも

2輪車用新型AT技術発表会にて

2009年9月8日発表



 本田技研工業は、2輪車用の「デュアル クラッチ トランスミッション」を世界で初めて開発し、9月8日に2輪車用新型AT技術発表会を開催した。発表会では、カブ系バイクに搭載可能なATである「CVマチック」についても発表された。

 代表取締役社長である伊東孝紳氏は「スポーツバイクを愛用されるお客様は、よりゆったりと、時にはよりスポーツ走行を楽しみたいと、趣向の多様化が見られ、加えてより高級で上級志向を求める声が高まっている。今回発表する大型2輪車用AT技術であるデュアルクラッチトランスミッションは、こういったお客様の要望にお応えする技術の第一弾と位置づけている」と述べた。続いて、本田技術研究所常務取締役の鈴木哲夫氏は、ホンダのこれまでの技術開発に対する取り組みについて説明した。

代表取締役社長 伊東孝紳氏本田技術研究所 常務取締役 鈴木哲夫氏
本田技術研究所 二輪R&Dセンター 小笠原敦氏

世界初の2輪車用デュアル クラッチ トランスミッション
 デュアル クラッチ トランスミッションについては、開発者である本田技術研究所 二輪R&Dセンターの小笠原敦氏が解説を行った。同様のデュアル クラッチ式ATを搭載する横置きエンジンの4輪車の場合、全長を短くするためにアウトプットシャフトを多軸化するなどしている。しかし、同じ横置きエンジンでも、2輪車の場合、車体を傾ける際にバンク角が必要になるなど、レイアウト的にもいっそう制約が厳しく、複雑で重量も重くなる4輪車用のような構造にはできなかったと言う。

 そこで、2輪車用にコンパクトでシンプル、軽量にするため、エンジンケースとトランスミッションケースを一体化。さらにメインシャフトを2重化し、奇数段をインナーシャフト、偶数段をアウターシャフトにつなぐことで、2軸レイアウトを可能とした。奇数段用と偶数段用のクラッチも同軸上に直列に配置し、クラッチディスクの内側に制御用油圧ピストンを設けることで、横方向の張り出しを抑えている。また、油圧回路はすべてエンジンカバーに集約し、軽量化とサイズダウンを実現たと言う。

4輪車のデュアル クラッチ式ATの例2輪車へ搭載するため、エンジンとトランスミッションのケースを一体化アウトプットシャフトを1本化
従来の2輪MT車同様シンクロ機構をなくすなど構造をシンプルにメインシャフトを2重構造とすることで2軸化を実現クラッチディスクの内側に制御用油圧ピストンを設けコンパクトに
油圧回路はエンジン右側カバーに集約

 変速機構については、従来の2輪車MTと同様にシフトドラムの回転でシフターギアを作動させるシフトドラム式を採用。2つのクラッチの変速切り替えはすべて1本のシフトドラムの回転で行われるため、シンプルでコンパクトな構造にできたと言う。また、シフトドラムの回転はモーターで行う。

 シフト操作は、ハンドルに配されたスイッチによって行うと言う。状況に応じて自動で変速する「ATモード」と、乗り手が任意で変速できる「MTモード」を持て、さらにATモードには、燃費走行からスポーツ走行までをカバーする「Dモード」と高回転をキープしスポーツ走行に適した「Sモード」が用意される。

2輪車用MT(写真右)と同様のシフトドラム式とすることで、構造をシンプルでコンパクトにした変速モードはMTと2つのATモードを持つ
変速の作動順序。まずはニュートラルシフターギアが移動し1速に入る奇数段用クラッチが作動し半クラッチ状態に
クラッチがつながり動力が伝わる偶数ギアのシフターが移動し2速に入る奇数段用クラッチが離れる
偶数段用クラッチがつながり2速へ変速する奇数ギアのシフターが移動しニュートラルになって変速終了動作が終了MT車とデュアル クラッチ トランスミッション車の変速時の様子を比べると、一度アクセルを戻す前者に対し、常に駆動力がかかる後者は姿勢変化が少ない
デュアル クラッチ トランスミッションのカットモデル2軸でコンパクトにまとめられた変速機構クラッチ部分の出っ張りも最小限に抑えられている
クラッチディスクの内側に油圧作動システムを持つクラッチを操作するソレノイドバルブはエンジンカバーに装着

 小笠原氏は、デュアル クラッチ トランスミッションのメリットとして、有段のままフルオートマチックにすることで、ダイレクト感のある走りが満喫でき、途切れのない変速により、ゴーストップの多い市街地走行でも快適。さらにMTモードやATモードによってさまざまなシチュエーションで楽しめ、最適な変速タイミングによりMT車と同等以上の燃費走行が可能だとした。テスト車ではMT車に対しモード燃費で5.5%向上したと言う。

カブタイプに搭載可能なVベルト式無段変速機
 新型AT技術として、コンパクトでカブタイプのエンジンにも搭載可能なAT、「CVマチック」についても発表した。CVマチックは、スクータータイプと同様のVベルト式無段変速機構を持つ。

 カブタイプのバイクは、アジアの新興国を中心に広く活用されていると言う。スクータータイプに比べ、エンジン搭載位置とチェーン駆動により、タイヤ径を大きくできるカブタイプは、新興国の舗装の行き届いていない道でもハンドルが取られにくいのがメリット。しかし一方で、運転が容易なスクータータイプのATへの要望も高いと言う。

「CVマチック」の解説は、開発者である本田技術研究所 二輪R&Dセンター 鍋谷真氏が行ったアセアン地域では、近年ATのスクータータイプの需要が伸びているチェーン駆動によりタイヤサイズを拡大できるカブタイプ

 今回開発したCVマチックは、従来のスクータータイプと比べプーリーの軸間を約半分にしたことでコンパクト化し、さまざまなカブタイプのフレームに搭載可能なサイズにしている。

 さらに従来のスーパーカブと同等の耐久性を確保するため、クラッチは湿式とし、また、従来より短くなり屈曲回数が多くなるベルトには、高弾性ゴムを採用、従来のスクーターと同等以上の耐久性を確保していると言う。

従来のMTモデルと比べ若干のサイズ拡大に抑えているクラッチはエンジンと同じオイル室内に配置した湿式温度が上がりやすい変速機室内は効率的に換気し、またオイルを冷却することでエンジン油温も下げる
CVマチックのカットモデルスクータータイプと比べ、プーリーの軸間距離を半減クラッチは耐久性の高い湿式クラッチを採用

(瀬戸 学)
2009年 9月 10日