インテル、低価格・高機能カーナビを推進
「Embedded Technology 2009」招待講演より

招待講演を行ったインテル インテルアーキテクチャ事業本部 副社長 兼 エンベデッド&コミュニケーション事業部長のダグラス・デイビス氏

2009年11月19日講演



 半導体メーカーのインテルは、昨年の4月にAtomプロセッサーという低消費電力のプロセッサーをリリースして以来、積極的に組み込み機器市場への展開を目指している。今年の3月には自動車向けのAtomプロセッサを発表し、自動車向けの情報端末システム(IVI、In-Vehicle Infotainment)事業へ乗り出していくことも発表しており、その動向には大きな注目が集まっている。

 11月18日~20日まで開催された組み込み総合技術展「Embedded Technology 2009」の招待講演のステージに上がったのは、インテル インテルアーキテクチャ事業本部 副社長 兼 エンベデッド&コミュニケーション事業部長のダグラス・デイビス氏で、その講演の中でインテルの組み込み機器向けの製品展開などに関する説明を行った。デイビス氏によれば、本誌がカバーする自動車だけでなく、デジタルサイネージと呼ばれるいわゆるディスプレイ看板事業、産業用ロボット、パチンコなどのアミューズメント事業などの組み込み機器にインテルのプロセッサーが採用される可能性が出てきているのだと言う。

2015年には150億台の機器がインターネットに接続される
 デイビス氏はここ最近インテルが繰り返しメッセージとして利用している「2015年にはインターネットに接続されている機器が150億台を超える」という予想について触れ、今後組み込み機器にもコンピューティング、つまりは演算の機能を追加していくことが重要だと述べた。

 現在の家電やデジタル機器の多くは、アプリケーションプロセッサーと呼ばれるパソコンで言うところのCPUに相当するチップが搭載されていないか、搭載されていても低い演算能力しか持っていないことが多い。もちろん、そのままではインターネットに接続してWebサービスを利用したりということは難しく、何らかのアプリケーションプロセッサーを搭載していく必要がある。

 これまでこうした用途には、ARMがIP(知的財産)をライセンスして半導体メーカー各社が製造するARMアーキテクチャーのプロセッサーや、ルネサス テクノロジが生産するSHアーキテクチャーのプロセッサーなどが利用されてきたのだが、インテルは昨年低消費電力のAtomプロセッサーを開発したことで、こうした分野に参入し、今後市場での存在感を高めていこうとしているのだ。

 インテルがパソコン用のCPUなどに利用しているIA(インテルアーキテクチャー)のプロセッサーは、パソコン用のソフトウェアと親和性が高いことが特徴で、パソコンで利用されているアプリケーションソフトウェアをそのまま実行することもできる。実際にはOSと呼ばれる基本ソフトウェアが、パソコンと組み込み機器では異なる場合が多いのだが、それでもプログラマーはパソコン用のソフトウェアを少し手直しするだけで組み込み機器向けに転用することができる。

 実際、インターネットで配布するソフトウェアの大半もIAベースのものが多く、組み込み機器メーカーがインターネット上のサービスを利用できる機器を製造しようとするときに、IAを採用することで開発期間を短くすることが可能になるのだ。

今後、パソコンだけでなく組み込み機器を含めて150億台の機器がインターネットに接続されるようになると言うIAを採用するメリット。パソコンでも使えるような高性能なプロセッサーを組み込み機器に利用でき、インターネットとの親和性が高い

新しいプロセッサを武器に組み込み市場へさらなる参入を目指す
 デイビス氏によれば、今後もインテルは組み込み機器向けのCPUなどを投入していくと言う。2010年の第1四半期(1月~3月)にはWestmere(ウェストメア、開発コードネーム)とPineview(パインビュー、開発コードネーム)という2つの新製品を投入する。

 Westmereはハイエンドパソコン用のプロセッサーにも利用できる強力な処理能力が特徴で、32nmプロセスルールという最先端の製造技術を利用して製造されることになる。これに対してPineviewは、現在のAtomプロセッサーの後継となる製品で、1つのチップに統合する機能を増やすことで、同じ機能ながら消費電力を下げるなどの特徴を備えている。

 これらの新プロセッサーを武器にインテルは新しい組み込み市場に乗り出していく。デイビス氏はそのエリアとして4つの新しい市場を紹介した。1つは産業用機器の市場。「日本は産業用ロボットのリーディング市場。精密機器用の制御ロボットなどにはIAが最適だ」(デイビス氏)と、強力な処理能力を備えるIAのプロセッサーは産業用ロボットなどに最適な製品だと紹介した。

 2つめの市場として紹介されたのはデジタルサイネージと呼ばれるディスプレイ看板事業だ。山手線など車内のディスプレイに広告が表示されているが、それらのことを指している。そうしたデジタルサイネージでは、広告には文字や写真だけでなく、動画を利用しているので、より強力な処理能力が求められつつある。

 3つめの市場として紹介されたのはアミューズメント市場。日本ではアミューズメント市場で最大の市場となるのはパチンコ関連だが、パチンコ業界ではキャラクターを採り入れた機器が流行している。そのキャラクターを3Dで動かすために、裏側では強力なグラフィックスチップが動作しているのだ。

2010年第1四半期に新しいプロセッサーを市場に投入する。パソコンだけでなく、組み込み機器向けにもだ新しいPineviewチップのウエハー(チップに分割する前の状態)産業用のロボットなどでもIAのメリットはある
デジタルサイネージのデモ。カメラで人を認識して表示させる広告を瞬時に変更するアミューズメント分野。特にパチンコ市場などではより強力な3D表示性能などが要求されているアクセルと協業してアミューズメント分野への進出を目指す

GENIVIアライアンスに日本の5社が加盟、カーナビのオープンプラットフォーム化が進む
 デイビス氏が4つめの分野として紹介したのが、IVI(In-Vehicle Infotainment)と呼ばれる車載情報システム向けの事業だ。

 「IVI市場では、新しいサービス、付加価値機能、エコ、低価格などが新しいトレンドになりつつある。しかし、現在の自動車向けのカーナビはハード、ソフト共に複雑だったり、コンピューティングの処理能力が重要でなかったり、インターネットへの接続性に課題があったりした」(デイビス氏)と現在のカーナビ市場が抱える問題について指摘した。

 以前の記事「日本のカーナビ市場は第2のガラパゴス?」で述べたように、組み込み向けカーナビは、日本では市場に出荷されている自動車で70%の装着率を誇っているが、それ以外の国の市場ではいずれも20%以下と低いものにとどまっている。その最大の理由はコストと言われ、海外では組み込み型よりも圧倒的に低価格なPND(Portable Navigation Device)の普及率が高まっている。従って、今後は低コストでPNDよりも高機能な組み込み向けのカーナビを作ることが業界的には求められている。

 そうした低価格で高機能なIVI向けとしてインテルが提供しているのが、車載向けのAtomプロセッサー(別記事「インテル、車載/IPメディア・フォン向けCPU『Intel Atomプロセッサー』4製品」参照)だ。デイビス氏は「車載向けAtomプロセッサーを利用することでIAのエコシステムやリッチなインターネット体験をIVIでも利用できるようになる」と車載向けAtomプロセッサの採用を呼びかけた。

 また、同社が中心となり、IVI向けのオープンプラットフォームの構築を目指すGENIVIアライアンスについて触れ、「日本から新たに5社が加わった。GENIVIアライアンスは、今後もグローバルにオープンプラットフォームの構築を目指していく」と述べ、カーナビ市場ではキープレイヤーと言える日本の5社が加わったこと(別記事「GENIVIアライアンスに日産、パイオニアなど日本の5社が加盟」参照)で、カーナビの市場にオープンプラットフォームを導入していくというGENIVIアライアンスの取り組みがさらに加速していく見通しを明らかにし、それにより低コストな組み込み向けのカーナビを製造可能であることをアピールした。

IVIの新しいトレンド、低コストでかつ高性能な組み込み向けカーナビが必要とされている低コストで高性能なAtomプロセッサーを利用することで、高性能なカーナビを低コストで製造することができる業界団体のGENIVIアライアンスに、日本の5社も加盟し、より低コストなIVIを実現するための取り組みに参加する

(笠原一輝)
2009年 11月 25日