【2010 International CES】
フォード、アラン・ムラーリ社長兼CEO基調講演リポート

タッチベースの新ユーザーインターフェイスを持つ「My Ford Touch」

アラン・ムラーリ社長兼CEO

2010年1月7日(現地時間)
Las Vegas Convention Center



 米フォードのアラン・ムラーリ社長兼CEOは、デトロイトショーに先駆けて米ラスベガスで開催された家電向けの展示会「International CES」の基調講演に登場し、同社が推進するテレマティックスのソリューション「SYNC」に関する説明を行った。

 International CESの主催者でありCEA会長兼CEOのゲリー・シャピーロ氏に「ビッグスリーの中で唯一会社を破綻させなかった経営者」として紹介されたムラーリ氏は、「昨年のCESで2010年には100万台のSYNC搭載車を出荷するとしたが、それは今年の5月には実現できるだろう」と述べ、フォードの推進するSYNCの計画が順調に進んでいることをアピールした。

 また、フォードはこの中で、新しいタッチベースのユーザーインターフェイス(UI)である「My Ford Touch」の構想やSYNC向けのアプリケーションを作成するためのSDKを公開することを明らかにし、同社のカーナビで動作するアプリケーションをサードパーティが作成できるようになったことを明らかにした。

SYNCの新しい機能は、タッチやボイスを備えた新UIとWebサービスへの対応
 ムラーリ社長兼CEOは「我々の調査によれば、フォードの自動車を購入した32%の消費者がSYNCを理由だとしている。さらにSYNCのヘビーユーザーを調べたところ81%が満足しており、77%が友人に勧めるとしている」と述べ、フォードのSYNCが顧客満足度も高く、フォードの自動車を選択する理由の1つになっていると説明した。

 今後SYNCの拡張を続けていく上での鍵として「新しいタッチUI、ボイスコマンド、とシリコンバレー発のサービスへの対応」を挙げた。ムラーリ氏によればSYNCの顧客の多くがタッチUIやボイスコマンドの装備を求めており、それらへの対応が重要だと指摘する。

 また、ムラーリ氏はFacebook(米国でメジャーなSNSサービス、日本で言えばmixi)やTwitterなどのWebサービスの名前を挙げ、「これらのサービスは昨年急速にユーザーを増やした。そしてこれらに対応したモバイル向けのアプリケーションは1年前にはまったく存在していなかったのに、今では実に多くのものが登場している」と述べ、そうしたWebサービスやモバイルアプリケーションへの対応が重要だという認識を明らかにした。

新しいWebサービスが、急速に普及しているSYNC搭載車の100万台出荷は、今年の5月には成し遂げなれそうだと言う

グラフィックス、タッチ、ボイスの機能を備えた「MyFord Touch」
 そうしたフォードの方針の具体例として、「MyFord Touch」と呼ばれる新しいUIが紹介された。フォードモーター エレクトリックエンジニアリングディレクター ジム・ブコウスキー氏は「パソコンが成功したのはマウスがあったからだろう。じゃあ、車載情報システムに必要な“マウス”"はなんだ?ということをよく同僚と議論している」と述べ、フォードがこれまで社内で車載情報システムに適したUIを議論してきたことを明らかにした。

 ブコウスキー氏によれば、その解答となるものがフォードがMyFord Touchとよぶ新しいUIだと言う。MyFord Touchは、フォードがこれまでさまざまなユーザーを調査してきた結果を基に作られたUIで、GUI(Graphics User Interface)、TUI(Touch User Interface)、VUI(Voice User Interface)の3つを融合させた操作体系を持っていると語る。

 グラフィカルな画面に、タッチ操作と音声操作を組み合わせたUIで、画面もオーディオ操作時ならこの色、ナビ操作時ならこの色などユーザーに分かりやすい仕組みが採用され、初めて操作するユーザーでも簡単に操作できるように配慮されている。

 なお、オーディオまわりに関してはソニーとの協業が発表された。音作りに関してはソニーが担当し、ソニーのデザイナーがシステムのデザインにも協力するなどの協業を行う。ブコウスキー氏によれば、MyFord Touchはまず2010年モデルのリンカーンに「MyLincoln Touch」として搭載され、今年リリース予定の「エッジ」に搭載されるほか、2012年には「フォーカス」に搭載され、今後順次搭載されていく。

新しいUIはGUI、TUI、VUIを融合させるMyFord Touchはエッジなどに搭載され、順次搭載車を拡大していくMyFord Touchのデモ。写真はメーターに搭載されるLED。メニューはメーター内に表示される
マルチ表示画面。エアコンやオーディオ、ナビなどのメニューが1画面に表示されている電話をかける画面各メニューの色を設定する画面
HDD内の音楽を再生しているところ

SNYCがMapQuestやBlackberryと連携する
 フォードはSYNCユーザー向けにTDI(Traffic Directions Information)と呼ばれるネットワークサービスを提供している。日本で言えばVICSのようなサービスをフォード単体で、ネットワーク経由で提供しているのだ。

 そのサービスの拡張として、米国の地図サービス「MapQuest」との連携サービスを開始することが明らかにされた。MapQuestは、GoogleがGoogle Mapのサービスを開始する前からWeb経由の地図を提供していた地図サービスの老舗で、米国ではショップやレストランが店舗の地図を表示するときなどにMapQuestのサービスが利用されることが多い。フォードはこのMapQuestと連携し、MapQuest上でユーザーが指定した地点をネットワークを経由してSYNCのカーナビに転送し、ユーザーは車に乗るとすぐに目的地を指定できるようになる。

 また、カナダのRIMが提供するスマートフォン「BlackBerry」と連携し、受信したSMSやメールなどをSYNCのテキストスピーチ機能を利用して読み上げたりなどの機能が可能になると言う。このほか、フォードはGoogleと協力していることも明らかにし、近い将来にGoogleのモバイル向けのアプリケーションがSYNC上で動くようになるという見通しを語った。

MapQuestのメニューからSNYCへ位置情報を転送できるBlackBerryとの連携機能が追加され、携帯電話内のメッセージにカーナビからアクセス可能になる

SYNCカーナビ向けのAPIを開発者に公開
 最後にフォード SYNCプロダクトマネージャのジュリアス・マーカウイッチ氏が、それらの新しい機能を提供する車載システム向けのAPI(Application Program Interface)について説明した。マーカウイッチ氏は「我々の車載情報システム向けのAPIをSDK(Software Development Kit)の形で公開する。このSDKを利用することでアプリケーション開発者はSYNC向けのアプリケーションを作成することができる」と述べ、今後スマートフォンで利用しているようなモバイルアプリケーションが、SYNCベースのカーナビ上で動くようになると説明した。

 その具体例として、インターネットラジオ「Pandora」のスマートフォン向けアプリケーションをSYNC用に修正したものをデモし「このようにSYNC向けのUIを追加するだけで、簡単にカーナビ上で動かすことができるようになる。この開発にかかった時間はわずか3日だった」と言い、スマートフォン向けのモバイルアプリケーションがすでにあるならば、プログラムの簡単な修正でSYNC向けのアプリケーションが作れるようになると説明した。

 これが可能ならば、例えばiPhone向けに作られているアプリケーションを、UIの部分だけをカーナビ用に修正するだけで、車の中でも簡単に使えるようになるということだ。今後TwitterのようなWebサービスをカーナビから利用して、車に乗っているときもTwitterでつぶやいたり(ボイスコマンドを使えばまさにつぶやきだ!)、逆に他人のつぶやきを読み上げてもらったりという応用が考えられるだろう。

 講演の最後にムラーリ氏は「こうした技術は今後はプレミアムカーだけでなく、普及価格帯の車にも積極的に搭載していきたい。テーマは簡単に、安全に、そしてよりスマートに、だ」と述べ、今後もSYNCの改善を続けていくことを講演のまとめとした。

Pandoraという米国のインターネットラジオのモバイルアプリケーションがカーナビ上で動くようになるスマートフォン向けなどに提供されているアプリケーションを、カーナビに移植することが容易になる

(笠原一輝)
2010年 1月 18日