三洋電機のゴリラシリーズをレビュー<後編>
実売3万円台のエントリーモデル「ゴリラLite NV-LB50DT」

実売価格3万8000円前後を実現したエントリーモデル「ゴリラLite NV-LB50DT」。ワンセグ+5V型モニターを備えてお買い得感は十分

2010年11月5日発売
オープンプライス



 高機能タイプを好むユーザーが多い中で、価格を優先してPNDを選ぶユーザーも少なくない。三洋電機コンシューマエレクトロニクスが上位モデル「ゴリラ NV-SB541DT」とともにこの秋に登場させた「ゴリラLite NV-LB50DT」は、そんなユーザーを意識して徹底した低コスト化の下で普及価格を実現したエントリーモデルだ。前編ではNV-SB541DTのレビューをお届けしたが、今回は後編として、このゴリラLiteのレポートをお届けする。

 前編の導入部分で、NV-LB50DTはOSにWindows CEを使用していることに触れたが、三洋がこのOSを国内モデルに採用するのは初めてのこと。ただ、それは開発過程の話であって、画面を起動してしまえば表示される地図やメニューは「ゴリラそのもの」。主電源をOFFにしてから起動するまでの時間や操作した時の反応がやや緩慢に感じる以外はさほど違和感は感じない。

 本体を持って気付くのは徹底した薄型化と軽量化が図られていることだ。重量はわずか210gしかなく、厚みも18.8mmしかない。そのため、本体を胸ポケットにも楽に入れることができる。モニターのサイズを小さくすれば軽量化は簡単なわけだが、本機ではそれを上位モデルとさほど変わらない5V型で実現。また、吸盤式車載スタンドを標準で付属しており、取付け性の高さはもちろん、クルマからクルマへの載せ替えも簡単だ。普及価格であるエントリーモデルであっても、見やすさや操作性を犠牲にしないという開発陣のこだわりが見えるモデルと言える。

本体背面に折りたたみ式のGPSアンテナを装備。使用時はこのようにアンテナを起こして使うが、畳んだ状態でも測位に大きな変化はなかった本体の右側側面に用意されたワンセグ用アンテナとSDカード用スロット

 さて、上位機のNV-SB541DTが本体内に備えたジャイロ&加速度センサーを併用していたのに対して、NV-LB50DTはGPSだけで測位を行う。それだけにビルが建て込む都市部ではマルチパスの影響を受けやすい。走行中は安定していても、信号待ちなどで停止すると自車位置をまったく別の位置に飛ばしたり、向きを変えたりすることがある。これはビルなどに反射したGPS信号が遅れてカーナビに届くことが原因。これをマルチパスと呼ぶが、とくにビルが多く建ち並ぶ都市部ではこの影響が大きくなる。

 一応、GPS信号をロストした時もそのまま継続して測位する「推測航法」を搭載するものの、マルチパスに対しては無力だ。高架下を走行した時の影響も大きく、並行する道路があったりするとそっちへ何度も移動したりする。都市部で使うには少々心細くなるのは避けられない。ただ、トンネル内へ進入した際は推測航法がGPS信号をロストしてからある一定時間まで測位を継続。トンネル内に入ったらまったく動かなくなるということにはならない。

 一方で郊外では安定した測位能力を発揮する。郊外では都市部に比べて道路の密度がそれほど高くないということもあると思うが、私が住んでいる千葉市郊外では自車位置がずれて表示されることはほとんどない。分岐点もほとんど誤差なく誘導するし、向きに対しても少し走るだけできちんと追従してくる。使うエリアの中心が郊外であるなら本機の測位能力でも十分役に立つことは間違いないだろう。

都市部を走行するとマルチパスの影響を受けて方角が安定しなくなることもある。とくに停止中は不安定になりがち郊外を走行している分には測位は安定しており、問題はほとんど感じなくて済む目的地検索メニュー。カテゴリー分けは比較的分かりやすい

 メモリー容量は4GBとなる。上位機のNV-SB541DTに比べると容量は半分。この違いは主に市街地図の表示ができるかどうかが大きい。本機は最も詳細なスケールにしても表示されるのは、いわゆる線だけの地図表示となってしまう。家の形を1軒ずつ表示することもない。

 一方で、目的地検索能力では、上位機に劣る点はなかった。電話番号検索では個人宅も対象となる約4500万件を収録し、住所検索は「~丁目~番~号」だけでなく「大字」エリアであってもピンポイントで対象地を絞り込める。ジャンル・周辺検索が約450万件を対象としているのも変わりがない。また、NV-SB541DTで搭載されていた「まっぷるコード」機能や、「いつもドライブ」リンク機能にも対応しているなど、目的地を探す能力についてはエントリーモデルとは思えない充実ぶりと言ってよい。ただ、50音検索で「あいまい検索」に非対応なのも同じとなっており、この部分の改善はぜひ図ってもらいたいところだ。

50音検索で目的地を絞り込む際は、対象となる施設名を頭から正確に入力する必要がある目的地となる施設に出入口情報や駐車場情報があると、それぞれの位置情報を表示することができる住所検索は「~丁目~番~号」までピンポイントで絞り込める。「大字」地域も対象としていた
電話番号検索は個人宅までも対象に探し出せる。電話番号を入力した後で相手の姓を入力し、両方が一致すればピンポイントで場所が表示できる周辺検索を実行すると企業ロゴマーク付きでリストを表示するが、地図の同時表示は行わないネットで探す「いつもドライブ」に対応。収録データにない新規スポットもこのように目的地や登録地点として設定できる
複数ルートは最大5ルートまで条件別に探せるが、同時表示は行わない。探索に要する時間もややかかる印象だ

 操作していて感じるのは冒頭でも述べたように、入力に対して全体に動きが緩慢なことだ。目的地を探すために各項目を選択する際はそれほどでもないが、処理を実行させる場合はその動作に移る際に一瞬のラグを感じる。NV-SB541DTでは入力に対してスムーズに反応していたが、本機ではこの辺りに“低コスト”を感じてしまう。入力した際のアラートもないなど何の反応もないものだから、つい2度押ししてしまうのだ。入力時に項目が反転するなどの配慮があればまだよかったのだが……。

 さらに大きな差となるのがルート探索を行った時の所要時間だ。千葉市から栃木県那須町までの約230kmのルートを探索すると、NV-SB541DTがわずか5秒以下で結果を出したのに対し、本機は約15秒程度かかった。これは複数ルート探索を行った時に大きな差となって現れる。条件別のルートを同時表示しないのはNV-SB541DTと同様だが、結果を出すまでの所要時間は少々待たされる。これは再探索時にも同様の傾向として現れ、NV-SB541DTがルートを間違えてもアッという間に新ルートで案内しているのに対し、本機の場合は一瞬「どうしたのかな?」と思った頃に新ルートを案内する感じだ。そんなに急いでいなければあまり問題になることではないと思うが、どこまでもサクサクと動いたこれまでのゴリラに対して、「Lite」ではその辺りに違いが出てしまっているようだ。

 ただ、地図の描画ではそれほどプアな印象はない。一般道の3Dリアル交差点ガイドを政令指定都市で行うほか、都市高速入口案内、方面案内標識といった表示を実現。2画面表示では、ルート情報やエコドライブ情報、ハイウェイモードを指定でき、ルート案内中には次の分岐点を表示するガイド機能も備える。これらはほぼ上級機・NV-SB541DTに準じて装備されたものだ。地図への割り込みも極めてスムーズに行わ
れ、これらの表示でストレスを感じることはほとんどない。ただ、市街地図の表示ができないので、3D表示に切り換えてもビルが立ち上がるようなことはないし、2画面表示では異なったスケールやアングルの同時表示もできない。このあたりに上級機との違いが現れていると言える。

3D表示・ゴリラビュー一般道・3Dリアル交差点方面案内標識
都市高速入口案内一般道・ルート情報一般道・交差点拡大図
高速道・JCT(ジャンクション)ガイド次交差点案内

表示可能な全スケール

25m50m100m
200m500m1km
2.5km5km10km
25km100km250km
付属の吸盤式車載スタンド。本体は上下のブラケットで挟み込む。後端のレバーを下に押し下げることでロック。レバー左右のツマミをスライドさせるとロックが外れる

 付属する車載スタンドは流行の吸盤式を採用する。NV-LB50DTを取り付けるブラケットは本体の上下を挟み込む簡単なものだが、吸盤のサイズはNV-SB541DTと同サイズ。ロック機構の形状が違っているが、本機に添付のスタンドはロック時に「カチッ」と音がしてロックできたことを実感できる。アングル調整もしやすい。

 エコドライブ情報は、画面右側にアイコンを表示させて急加減速をしたり、長時間アイドリングが続くと警告音とメッセージでそれを警告したりする。走行を終えた後に運転状況を判定する機能も備えられ、自車マークをゴリラに変更した時はより愛らしい判定画面に切り替わる。デフォルトではOFFとなっており、使い始めはうるさく感じるものだが、使っているうちにエコドライブが身についている自分に気付いたりする。メニューで簡単にON/OFFできるのも使いやすい。

エコモードで動作中に警告が発せられた画面。急加減速をしたり、長時間アイドリングが続くと音声を伴ってこのようなメッセージが表示されるエコモードは画面右側に表示していなくても動作可能。警告が発せられるほか、その状況は左下の葉っぱの色で表示される1日単位でエコドライブをA~Eの5段階で判定。日付ごとの結果は履歴として最大50件まで保存できる。表示は自車位置マークをゴリラにしている時のもの

 また、連動はしないものの、ETCへの対応も図られている。スマートICにはメニューの任意設定で可能となるし、ETCのある料金所ではレーンをガイドする機能までも備える。ETC利用者にとっては重宝する機能となりそうだ。

 ほかのゴリラと同様、全国27府県で盗難多発地点の警告機能も備える。目的地の周辺に盗難多発地点があると、ルート探索を設定する際に音声を伴ったメッセージを表示。事件の発生頻度に応じて赤/黄/青の3段階で表示する。一方で渋滞をガイドするVICS機能には、FMも含め一切対応していない。

ETC対応料金所に近づくとETCレーンを表示して誘導。ETC車載器との連動には対応していない盗難多発地帯は発生件数が多い順に赤/黄/青で地図上に表示。対象は27府県(愛知県、青森県、石川県、大分県、大阪府、沖縄県、鹿児島県、岐阜県、京都府、群馬県、埼玉県、佐賀県、滋賀県、静岡県、島根県、千葉県、鳥取県、長野県、奈良県、兵庫県、広島県、福島県、三重県、宮城県、山口県、山梨県、和歌山県)目的地を設定した付近に盗難多発地帯があると、自動的にこのようなメッセージが表示される

 本機で特筆すべきは、電子コンパスを使った歩行ナビ機能の搭載だ。GPS信号だけでは、一定の距離を移動しなければ正しい向きに切り替わらなかったが、電子コンパスを備えたことで、本体を水平にして使えば向きを変えるだけで忠実に追従する。歩行時は向きそのものが分からず困ることがよくあるが、この機能があるだけで少なくとも方角はすぐに把握できるというわけだ。歩行モード時はルート案内がキャンセルされ、マップマッチング機能もOFFになるので、目的地までの方向を示す「行き先ビーム」を頼りに歩いていけばよい。さらに歩行モード時は画面をタテ表示に切り換えることも可能。進行方向をより広くして見ることが可能になるというわけだ。

 歩行モードを使う時は、本体を車載スタンドから取り外してバッテリー駆動状態にし、「歩行モード」をON→電子コンパスONにすればOKだ。内蔵バッテリーで約3時間20分の利用が可能ということだが、テストではフル充電して3時間を過ぎたところでバッテリー残量不足の警告が現れた。NV-SB541DTのようにバッテリーの交換はできないので、ボディー背面にある主電源を上手に使ってバッテリー節約につとめるとよいだろう。

歩行モードに切り換えると、目的地までが「行き先ビーム」と呼ばれる実線で示される。目的地の方向を確認しながら歩けばよい表示をタテに切り換えると、詳細な地図スケールのままでも目的地までを一気に見通せるようになる
歩行モードを使うには、このメニュー画面で電子コンパスをONにする必要がある。ワンタッチで切り換えられるとよかった本体の背面に用意された主電源スイッチ(背面右下)。通常はON位置で使用するが、ハンディ利用時にはバッテリーの節約に役立つ

 AV機能は比較的シンプルだが、ワンセグ放送が見られるし、MP3/WMAの楽曲再生、MPEG-4動画再生、JPEG静止画像の再生が可能など、ひととおりの機能を備える。ただし、ナビ機能と同時利用はできず、ナビを使いながら音声だけを聞くということもできない。ワンセグに切り換えても起動までに時間がかかるほか、音声は内蔵スピーカーで再生はできるものの、FMトランスミッター機能は備えていないなど機能面ではいま一歩。ただ、ヘッドホンをつないで直接プレーヤーとして利用でき、その意味では必要十分な機能を搭載したモデルと言ってよいだろう。

ワンセグチューナーは、データ放送の受信や録画機能も備えていないが、音声や字幕の切り替え機能も備える。「自宅」を押せばワンタッチで自宅周辺の番組が視聴可能となるナビ機能をはじめ、ワンセグTVや動画/静止画/音声ファイルの再生は「モード」切り換えメニューで行う動画はMPEG-4(Simple Profile Level3まで)で記録した映像は再生できるが、ファイルサイズは最大512MBまで
静止画像はスライドショーとして楽しむことが可能。画像のタテ/ヨコ変換は左端のボタンを押せばワンタッチで切り替わる再生可能な音声フォーマットは圧縮フォーマットとして一般的なMP3/WMAに対応。選曲はタッチパネルで簡単に行える

 測位をGPS信号だけに頼るエントリーモデルという位置づけだけに、NV-LB50DTの実売価格は3万8000円前後と比較的身近な価格に推移しているようだ。その価格を踏まえれば本機は機能面で十分な内容を備えていると言ってよいだろう。目的地検索のデータが充実しているし、画面サイズも見やすさを感じさせる5型を確保。市街地図が表示できないのは残念に感じるが、郊外をメインに使うのであれば十分な実用性を発揮してくれることだろう。

(会田 肇 /Photo:安田 剛)
2010年 1月 28日