クリーンディーゼル連絡会、ディーゼルの現状を伝えるセミナー 2010年はディーゼル元年 |
クリーンディーゼル連絡会は2月15日、「進化するディーゼルエンジンの現状」と題したプレスセミナーを、都内で開催した。後援は経済産業省、共産は次世代自動車振興センター。
クリーンディーゼル連絡会は、クリーンディーゼルの普及促進を努める組織で、有識者、業界団体、企業等で構成される。発起人は、本イベントの講演とパネルディスカッションに登壇した、慶應義塾大学大学院 政策メディア学科の金谷年展 教授。
セミナーには金谷教授のほか、モータージャーナリストで、前経済産業省クリーンディーゼル普及検討会メンバーの清水和夫氏、経済産業省 製造産業局 自動車課の三浦一将 係長(環境・技術担当)が参加した。
金谷氏 | 清水氏 | 三浦氏 |
■欧米では急速に伸張、日本では……
セミナーは、金谷教授による、日本と欧米の乗用車におけるクリーンディーゼルの状況と、クリーンディーゼルのメリットの説明から始まった。
これによると、欧米では1990年代半ばからディーゼルエンジンのシェアが拡大、もっともシェアが大きい仏では77.3%に、もっとも小さい独でも44.1%に達した。また米国でも、2009年にはディーゼルエンジンの比率が急速に増え、フォルクスワーゲンの2009年7月の米国での販売では、半数以上をディーゼルが占めた。
しかし日本では、逆に右肩下がりを続け、現在のシェアは0.1%となっている。
欧州では急速にシェアを拡大するディーゼルだが、日本では絶滅寸前 | 米国でもディーゼルが増えてきた |
メルセデス・ベンツのクリーンディーゼル搭載車「ML350 ブルーテック」。この車両はテストのために持ち込まれた |
■電気自動車だけでCO225%削減は無理
このように日本では「ほとんど絶滅の危機に瀕するという、欧米と対照的な状況」のディーゼルエンジンだが、鳩山政権によるCO2の25%削減といった状況を考えると、ディーゼルエンジンの環境性能の高さは魅力的だ。
ディーゼルエンジンは、人体に有害なNOx(窒素酸化物)やPM(Particulate Matter:粒子状物質)が多く、環境負荷が高いと考えられてきたが、2009年から新車に適用が始まった日本の「ポスト新長期規制」(平成22年排出ガス規制)ではNOx、PMが大気に与える影響は「ないに等し」く、「環境汚染の元凶だったディーゼルとはまったく違うものになった」とアピール。
その一方で「Well to Wheel」、つまり燃料製造時から自動車走行時まですべての過程を含んだライフサイクルでのCO2排出量は、ディーゼルはガソリンより約3割少ない。ディーゼルエンジンをハイブリッド車に使えば、化石燃料ではもっとも排出量が少なくなる。日本の乗用車の30%がディーゼルになると、実に635万tのCO2が削減できると言う。
ポスト新長期規制でNOxもPMも非常に少なくなった | 燃料製造時から自動車走行時までのCO2排出量を、燃料ごとに比較 | |
日本の乗用車の30%がディーゼルになると635万tのCO2排出量を削減できる | ディーゼルはバイオマスとの相性もいい |
またバイオマス(化石燃料以外の再生可能な生物由来燃料)をガソリンや軽油の代替とするときも、ディーゼルは相性がよいと言う。同じバイオマスでも、ライフサイクルで見ると、ガソリンに使われるトウモロコシ起源の燃料が軽油と同程度のCO2を排出してしまうのに対し、軽油の代替に使われるサンディーゼルは非常にCO2が少ないからだ。
金谷教授は、「ディーゼルは実は日本のバイオマス事情に適した燃料であり、CO2の25%減は、ディーゼルの普及なくして、ハイブリッド車、電気自動車だけでは難しい」とした。
■2010年はディーゼル元年
続いて登壇した清水和夫氏は「2003年にクリーンディーゼル普及検討委員会を始めた頃、20数名の委員のうち、ディーゼル推進派は数人しかいなかった。しかし、ディーゼル乗用車の試乗会をやったら、ほとんどが推進派になった」「ディーゼルは、コモンレール、ターボ、直噴といった技術が折り重なって生まれ変わった」「新型A8の4.2リッターV8ディーゼル搭載車は最大トルクが800Nm。電気自動車なのかと思うくらい、静かなうえにトルクが大きかった」「メルセデス・ベンツのディーゼルSUVであるML350ブルーテックで、東京から白川郷の往復1031kmをワンタンクで走った。燃費は10.8km/L」と、ディーゼルの魅力を援護射撃。
ディーゼルは欧州の高級車では普及率が80%以上となっていても、安価な車にはなかなか搭載されず、「低コスト化」が課題と言われてきた。こうした状況も、インドのマルチスズキやタタが1.4リッターの小型ディーゼルエンジンをライセンス生産し、欧州に輸出するようになって、変わりつつあると言う。
また、「欧州でのディーゼルの普及率は、10年で50%を超える勢い。エアバッグやABSが50%を超えるには、10年以上かかった」とし、その理由を「ディーゼルが高速長距離移動に向いていることが分かったから」とし、日本でも2012年に三環状が開通するなど、都市内中心であった車の使い方が多様化し、ディーゼルのポテンシャルが見直されるだろうとした。
ディーゼルはSULEVに対応できるかどうかがカギ |
ディーゼルはポスト新長期規制やカリフォルニアのLEV2規制に対応できるめど立ったが、カリフォルニア大気資源局(California Air Resource Board:CARB)の将来の排ガス規制案では、2020年にSULEV(Super Ultra Low Emission Vehicle)が70%ほどを占めることを目標としている。ディーゼルがSULEVに対応できるめどが立てば、将来にわたって使い続けることができる持続可能な「“あがり”のエンジン」になる。
1970年代のマスキー法にいち早く対応することで、「日本のメーカーはその後30年間、世界に強いポジションを築けた」こと、日本のメーカーが水面下で非常に積極的にディーゼルに取り組んでいることを挙げ、ディーゼルが自動車産業のグローバル展開に欠かせない技術であるとし、2010年を「ディーゼル元年」と位置付けた。
■ディーゼル以外の燃料を含めた議論を
続いて行われたパネルディスカッションでは、金谷氏と清水氏に三浦氏が加わり、エネルギーセキュリティやユーザーニーズといったさらに多くの視点が提示された。
まず清水氏は「ル・マン24時間レースでアウディが3年連続ディーゼルで優勝し、2009年はプジョーのディーゼルが優勝した。何年もレースを撮っているプロカメラマンは、最初、ディーゼルのレーシングカーを写せなかった。ディーゼルは回転数が低く、静かすぎてエンジン音が聞こえないため、シャッターが押せなかった」「F1ドライバーのプライベートの車はほとんどメルセデス・ベンツSクラスのディーゼル。モナコからホッケンハイムまで、無給油で200km/hで飛ばしていけるから」とモータースポーツを引き合いに、さまざまなディーゼルの魅力を挙げた。
さらに、熱効率のほか、「長持ちする」「“ブタの胃袋”と呼ばれていたように、質のわるい燃料も使える」といった側面も紹介。
また「これまでのディーゼルは規制に対応するため、燃費はわるくなっていた。規制をクリアして、これから燃費がよくなってくる」と伸びしろのある技術であるとした。
一方、ディーゼルが抱える問題としては「先進国はポスト新長期規制に対応したディーゼルエンジン車を作れるが、BRICsでは難しい。50万円で乗れるBRICsの国民車にどうやってディーゼルを載せるか。エコカーの南北問題になってしまう」と、ディーゼルが高コストであることを挙げた。しかしこれも「1気筒400cc程度のモジュールにして、安価な2気筒エンジンと、高価な8気筒エンジンを作る」といったローコストディーゼルの考え方もあるとした。
金谷氏はエネルギーセキュリティの問題に言及。「日本はエネルギー自給率4%。アジア各国はシビアに考え始めている」といったところからも、ガソリン以外の燃料が重要であるとし、「石炭から作る石油代替燃料や天然ガスもディーゼルとの相性がいい」とした。さらに「ディーゼル関連の日本の特許数は増えている。日本の今後の企業活動、経済活動にもメリットが大きい」とした。
清水氏も「欧州ではディーゼルの人気が出すぎて、軽油が足りなくなり、遠隔地から軽油を運んで、逆にCO2排出量を増やすことになった」という問題を指摘。そのため現在は、ガソリンエンジンにターボを付けて低速トルクを増やしたり、CNGに移行したり、北ドイツなどではLPGをガソリンエンジンにレトロフィットさせている。大事なのはディーゼルのみの元年でなく、ガソリンやEV、ハイブリッドを含めた議論」とした。
クリーンディーゼルの普及促進策 |
また「日本でディーゼルが受け入れられないのは、AT比率が高いのにディーゼルの大トルクに耐えるトランスミッションがMTしかないこともある。ディーゼルを見据えたトランスミッションを開発していない。商品企画を含めて、日本のお客さんが何を求めているか、マーケティングサイドの声もしっかり聞いて、お客さんが欲しくなるクルマを作る必要がある」とした。
三浦は「今、やっと排ガス規制を達成できるディーゼルエンジンが世の中に出てきたところ。これからディーゼルがどんどん出てくる。電気自動車とガソリン車の価格差より、ディーゼル車とガソリン車の価格差のほうが小さい。ディーゼルは汚いというイメージを払拭していく。電気自動車だけが行政の施策ではない」と述べた。
(編集部:田中真一郎)
2010年 2月 16日