日産車体九州、新工場の稼働開始式を実施
「パトロール」に次いで新型「エルグランド」や「インフィニティQX56」などを生産

日産車体九州新工場稼働開始式

2010年2月24日開催



 日産車体の子会社である日産車体九州は2月24日、日産自動車九州工場敷地内にある新工場の稼働開始式を実施した。式には日産自動車 CEOのカルロス・ゴーン氏や、福岡県知事 麻生渡氏などが来場し、お祝いの言葉を述べた。また、同工場で生産される中近東向け輸出車、新型「パトロール」の第1号車ラインオフも行われた。

新工場で生産する新型「パトロール」。中近東向け輸出車で、日本での発売はない
日産車体と日産車体九州の社長を兼任する渡辺義章氏によって、新工場の概要の説明が行われた

 稼働開始式の前に、新工場の説明会が行われた。新工場は、2007年2月に建設が発表され、2009年4月に竣工、1月から量産を開始していた。日産車体と日産車体九州の社長を兼任する渡辺義章氏によれば、日産車体の持つ湘南工場の老朽化が進んでいることから、九州の地に新工場を建設し、また湘南工場を再編成すると言う。

 新工場の建設場所を九州にした理由として、九州地区には多くの自動車メーカーやサプライヤーが集まっていること、福岡県、苅田町の協力を得られたこと、また、日産自動車九州工場の敷地内に作ることでインフラ整備が少なくて済むことや、専用埠頭を有し物流面でも有利なことなどを挙げた。

 世界的な経済環境の悪化により、新工場建設の中止や延期といった話も出たと言うが「すでに建屋の建設も終了しており、また、早期に新工場によるクオリティの高い製品を市場に送り出すことが、競争力の強化になると考え建設を続行した」と言う。車体館、塗装館、組立館と本社機能を持つ事務棟からなり、圧造、樹脂部品は敷地内の日産自動車九州工場から供給を受ける。建屋の一部は日産自動車九州工場の既存のものを活用し、建屋面積は7万5500m2となる。

 渡辺氏は新工場で「日本でのものづくりを追求し、品質、コスト、納期の総合力でベンチマークになる工場を目指す」と言う。品質面では、インフィニティも生産する上で、高級車にも対応する高い品質が求められ、また、コスト面では作業効率の向上などにより徹底的に高効率化。太く短い生産ラインとすることでリードタイムを短縮、湘南工場と比べ作業効率を15%向上している。

日産自動車九州工場の敷地内に造られた日産車体九州工場多車種混流生産が可能な生産ライン。5300mm×2050mm×2300mm(全長×全幅×全高)までのサイズのクルマの生産が可能

車体館

車体館では、巨大なアームが軽々とボディーを持ち上げる
工場内はAGVと呼ばれる無人搬送車が走り回り、ボディーやパーツが自動で運ばれる自動溶接機でただのフロアからボディーにまで組み立てられていくAGVで運ばれるボディー。後席ドアまで取り付けられている

組立館

組立館では、塗装されたボディーに内外装やガラス、フレーム、パワートレインなどを組み付ける1台ごとに仕様は異なるが、一緒に流れてくるカートに、それぞれに取り付けるべき部品が入れられているダッシュボードまわりを装着。モジュール化することで作業工程を減らし、また助力装置により重作業を軽減する
ボディーとフレームのドッキングも組立館で行われるタイヤの組み付けも助力装置を使って行われる全車で行われる完成テストの1つの4輪加振機。4輪それぞれの乗ったフロアが、ゆっくり、時には早く上下し、クルマに不具合が出ないかをチェックする

 環境面にも配慮し、新工場ではVOC(揮発性有機化合物)排出量を35g/m2、CO2排出量も0.23t/台としている。これは世界中の日産グループの工場の中でもトップレベルだと言う。環境面で大きく貢献しているのが塗装工程。自動車工場全体のおよそ1/4のCO2を排出するのが塗装工程とのことで、それを削減するため新工場では3WET塗装を採用したと言う。

 日産車体の車両技術部主管 菅原晋太氏によれば、自動車の塗装は一般的な物で、電着、中塗り、上塗り、クリアーの4層の順に塗り重ねられており、電着、中塗り、クリアーの工程ではそれぞれ乾燥させるための焼き付けが行われる。しかし3WET塗装では、中塗り・上塗り・クリアーの3層をまとめて1度で焼き付けることで、焼き付けの工程を減らしCO2の排出を削減する。ただし、3WET塗装の場合、中塗りと上塗りの層の間に混じり合いが起きてしまい、従来は高級車で求められる塗装品質は確保できなかったと言う。今回新開発の中塗り塗料を用いることで、その問題を解決し、高級SUVのパトロールでも採用している。

 また、上塗り塗装には水性塗料を採用し、溶剤系塗料と比べVOCを約27%低減。しかし水性塗料の場合、水分を蒸発させるための乾燥設備によってCO2排出量が増加してしまうため、塗装ガンに乾燥装置を一体化させた「塗装機一体型エアシールド」を採用。これは、塗装ガン周辺を高温・低湿度にすることで、ガンから出た塗料がボディーへ付くまでの間に水分を蒸発させるというもの。この技術により、乾燥時間を半減。CO2排出量を16%削減している。

環境負荷を減らし、高級車にも対応した新型塗装については、日産車体の車両技術部主管 菅原晋太氏が解説した通常中塗り後に行う焼き付け乾燥を廃止しCO2を削減焼き付けによる塗装面の平滑化が1回減ることで、従来の3WET塗装では高級車向けの塗装はできなかった
関西ペイントと共同開発した吸水性中塗り塗料の採用により、高級車にも使える平滑性とツヤを実現VOCを減らすため上塗り塗装に水性塗料を使用大気社と共同開発した塗装機一体型エアシールドによって、塗装時に水分を蒸発させ、塗装後の水分蒸発時間を短縮

塗装館

上塗り塗装の様子。ガンのまわりに付いた白い部品がエアシールド上塗り塗装後の水分蒸発装置。この後クリアーを塗装し、焼き付け乾燥を行う
従来の3WET塗装と新型WET塗装の比較新型(写真左)のほうが、ザラツキ感が少なくなめらかな塗装になっている
平らな面での比較。左が新型、右が従来の3WET塗装右側(従来型)のほうが、映り込んだ光の輪郭部分の凸凹がより明確に分かる

 新工場では、コンパクトカーから大型車、モノコック構造やフレーム構造の車種まで混流生産が可能。特にフルサイズの大型SUVや大型ミニバンが生産可能な日産グループで唯一の国内工場だと言う。現在パトロールの生産を行っているが、2010年度には国内向け「エルグランド」と、主に北米向けのミニバン「クエスト」と高級SUV「インフィニティQX56」の新型車4車種の生産を開始すると言う。

 現在の従業員数は360名程度で、そのうち約340名が湘南工場からの配置転換。今後自動車市場が回復すれば、従業員数1000名で、年産12万台を実現するとしている。

 稼働開始式では、ゴーン社長が日産グループを代表してすべて日本語であいさつした。ゴーン氏は「日産車体九州は日産のグローバル生産体制にとって重要な拠点だ」と述べ、新工場がさまざまな車種を生産できること、日産の約束である環境にも配慮した工場であること、また熟練した従業員がそろっていると説明。

 「日産車体九州はパトロールを含む4車種の新型車をわずか1年の内に出すという大きな目標にチャレンジしています。10日前、中東で私は新型パトロールの発表会に出席しましたが、このクルマは非常に高い評価をいただきました。従業員とサプライヤーの皆さんの高いモチベーションがある限り、日産車体九州は、お客様に喜んでいただける高品質のクルマ作りを続けられると信じています」とエールを送った。

 さらに来賓代表として福岡県知事の麻生氏が祝辞を述べた後、テープカットが行われ、パトロールの量産1号車のラインオフ式が行われた。パトロールは2009年度中に約5000台を生産する予定だと言う。

日本語であいさつをする日産自動車CEO カルロス・ゴーン氏来賓代表として福岡県知事の麻生義章氏があいさつ。湘南工場から移動してきた従業員を歓迎するとともに、日産車体九州の発展を祈願した北九州市長 北橋健治氏や行橋市長 八並康一氏、苅田町長 吉廣啓子氏なども加わりテープカットが行われた
新型パトロールの量産車第1号が登場式後、麻生知事らによる工場の視察も行われた

(瀬戸 学)
2010年 2月 25日