首都高、大橋JCTで多重衝突事故を想定した合同防災訓練
東京消防庁、警視庁などが参加し、ヘリコプターも出動

合同防災訓練の行われた首都高 大橋JCT

2010年3月10日開催



 首都高速道路は3月10日、東京都目黒区にある大橋JCT(ジャンクション)内で多重衝突事故を想定した合同防災訓練を実施した。大橋JCTは、3号渋谷線と中央環状山手トンネルの接続部で、3月28日16時に4号新宿線の西新宿JCTまでが開通する予定。その特徴は、地下の中央環状山手トンネルから高架の3号渋谷線を結ぶとあって、高低差約70mのダブルループ構造になっていること。首都高でも初めての構造を持つことから、開通前に合同防災訓練を行うことになった。

大橋JCT概要図。地下の中央環状山手トンネルから高架の3号渋谷線を結ぶ中央環状山手トンネル。左側の大橋JCT~西新宿JCT間が3月28日16時に開通する

 参加人員は、首都高および首都高の関連会社をはじめ、警視庁高速道路交通機動隊、東京消防庁、JAF(日本自動車連盟)などのスタッフ、計191名。車両は、消防車やパトカー、レッカー車など、43台が参加したほか、首都高の防災訓練としては初めてヘリコプター(東京消防庁の「ちどり」)が投入された。

 事故は「3号渋谷線から山手トンネルへと向かう乗用車がスリップ、次々に追突し、計6台の車による多重追突事故」を想定。車両火災が発生し、観光バスやマイクロバスなども含まれる重大事故のため、負傷者は約30名にも上るとの内容だった。事故現場は、大橋JCT内のループ部分で、ここに多数の車両を配備し、10時に訓練が開始された。

訓練開始直前の模様。3号渋谷線から山手トンネルへと向かう白い乗用車がスリップ。そこに軽自動車や観光バスが追突し、人が投げ出されて倒れているという状況非常ベルの音とともに訓練開始。白い乗用車で火災が発生し、煙が立ち上る
白い乗用車の運転手らが投げ出された人を抱え、壁際へとよせ安全を確保する
白い乗用車の運転手は、壁にある消火栓ボックスから消化器を取り出し、車を消火しようと努力
しかし、火災は収まらず、そうこうする内に白バイが到着パトカーも到着し、警視庁高速道路交通機動隊員が、消火栓から消火ホースを引き出す
消火ホースを引き出し、白い乗用車へ放水を行う交通機動隊員さらに交通機動隊員が増え観光バスの乗客の避難誘導を行う
火災はいよいよ激しくなってくる。首都高の交通管制センターのコントロールで天井部の放水装置から水噴霧放水が始まる
天井部の放水装置。左が放水前、右が放水中訓練のため1ブロックほど放水していたが、それでもこれだけの量の水が放水される。水はけのよい高機能舗装でも、水を吸収し切れていない
東京消防庁の赤バイ(消防活動二輪車)が到着。泡消化器で火災を消し止めようとする
消防車が到着。消防隊員が先ほどの消火栓へと急ぐ車の両側から放水し、火災は鎮火した

 火災の鎮火作業と並行して、救護活動も始まった。多数の救急車が到着し、救護所が大橋JCT内に設置される。消防庁のスタッフのほか、DMAT(災害派遣医療チーム)も2チーム参加するほどの大規模な救護活動が展開された。要救助者をその重傷度によって分別して適切な救急処置を施すトリアージも行われ、その判断を行うスタッフは「トリアージ担当」と書かれたベストを着用していた。

 また、車に閉じ込められた運転者(ダミー人形)などの救出作業も展開された。救出作業を行うのは、東京消防庁のレスキュー隊員で、エンジンカッターなどを用いて車の屋根を切断していた。この車から助け出された運転者は、大橋JCTの屋上に移送され、ヘリコプターで搬送された。

山手トンネル側から救急車が多数到着し、救護所が設置される。これは観光バスやマイクロバスの乗客に要救助者が多数出たため多くのストレッチャーが運び込まれる
同時並行で、指揮本部、消防団現場本部が立ち上がる。指揮本部からさまざまな指示がだされていた指揮本部の仮設テーブルに置かれていた、現場見取り図。左側が山手トンネル方向。1番の車の下に「鎮火」の文字が読み取れる同じく指揮本部に設置された現場概要を記したホワイトボード
前方の車に追突し、脱出できなくなった運転手。後席にも、もう1体のダミー人形が置かれていた。2人の要救助者が閉じ込められているということになる
閉じ込められた要救助者を救うため、車の屋根を取り去るための作業が始まる前方ではフロントガラスをのこぎりで切り、後方ではBピラーをカッターで切る
フロントガラスを四角く切っていく
ある程度切れ目が入ったら、手や道具を使って押し広げていくいつのまにかAピラーと屋根の接続部にも切り込みが入っていた
両側から屋根を持ち上げ、屋根を折り曲げる。ピラーの突起部は危険なので、カバーをかけ、ガラスも危険なので毛布がかけられた
現場で使われたエンジンカッター
車から助け出された要救助者は非常階段を使って、大橋JCTの屋上へと運び込まれたヘリコプター搬送用のベッドへと移される大橋JCTの屋上に東京消防庁のヘリコプター「ちどり」が近づいてくる
ヘリコプターから隊員が懸垂降下その後、無事要救助者をヘリコプターまで吊り上げていった
大橋JCT内では救護作業が続く
救助者のリストも傷病者一覧表によって管理続々と救急車に運び込まれていった

 鎮火作業が終わり、傷病者が搬送された後は、事故現場の復旧作業が始まる。首都高のレッカー車や、JAFのローダーが現場に到着し、事故車を撤去。その後、首都高メンテナンス西東京による、道路清掃が始まった。

鎮火作業が終わり、山手トンネル方向に走り去る消防車救急車も山手トンネル方向へと向かう消防車や救急車と入れ替わるようにレッカー車が到着
大型のレッカー車も到着した自走できる車は、そのまま退去
JAFのローダーも到着。可動式の荷台に、先ほど屋根を折り曲げれられた車を積み込む火災を起こした車は、前輪を持ち上げて、レッカー車による牽引が行われた
牽引され、事故現場から撤去される事故車を見守る指揮本部マイクロバスは、牽引ロープによる牽引で撤去
道路清掃のためのメンテナンス車両が到着道路清掃を行う。地味な作業だが、2次災害を防ぐための重要な作業
道路清掃が終わると、首都高バイク隊を先頭に、通行止めの解除が行われた首都高のパトロールカーの後に、警視庁のパトカーが続き、一般車を先導する

 およそ1時間ほどで合同防災訓練は終了。訓練後、東京消防庁第三消防方面本部長 長嶋俊昭氏、警視庁高速道路交通警察隊長 白石良三氏、目黒区長 青木英二氏、首都高速西東京管理局長 和泉公比古氏らによる講評が行われた。

 4名とも訓練に参加したスタッフをねぎらう内容であったものの、東京消防庁の長嶋氏は、大橋JCTが約70mの高低差を持つループ構造を持つことに触れ、「急カーブ、急勾配の連続する今までにない構造を持っているため、災害対応はどうなのかという面があった。いかに、火災などの延焼を短時間に抑えるのかが大切となる」「今日の時点では施設の構造について把握し、防災設備を最大限に活用することが必要」と述べ、結論として関係各所の連携がよく行われていたと講評。

 首都高の和泉氏は、「訓練を見て、防災対策が万全であるとの認識を得ることができた」と述べつつも、開通まで約2週間ほどとなった大橋JCTの防災能力の向上を目指すと結んだ。

東京消防庁第三消防方面本部長 長嶋俊昭氏警視庁高速道路交通警察隊長 白石良三氏
目黒区長 青木英二氏首都高速西東京管理局長 和泉公比古氏

 首都高によると、首都高のみによる防災訓練は何度も行っているが、関係機関と連携しヘリコプターまで活用する大規模な防災訓練は初めてと言う。このような災害が発生しないことが一番だが、事故発生の際の対応も図られていることを再確認できる合同防災訓練となっていた。

(編集部:谷川 潔)
2010年 3月 10日