日本EVクラブ、「ミラEVチャレンジ1000」開催
途中無充電で1003.184kmを走破

2010年5月23~24日開催
茨城県下妻市 オートレース選手養成所オーバルコース



 日本EVクラブは5月22~23日の2日間、茨城県下妻市にあるオートレース選手養成所のオーバルコースで「ミラEVチャレンジ1000」を開催した。

 日本EVクラブ製作による電気自動車「ミラEV」を使用して、ジャーナリストや編集者を集めた17名のドライバーが途中ドライバー交替を繰り返しながら、1周689mのオーバルコースを1456周し1003.184kmを走行、EVによる1充電航続距離の世界新記録を達成したのである。

 チャレンジは22日の11時にスタートし、およそ27時間半後となる23日14時17分に1000kmの走破を達成、その後1000km走破達成を祝したウィニングランをしてチャレンジを終了した。

ゴール直後に土砂降りの雨となるチャレンジ成功のフォトセッションミラEV
スタート前、補機用の12Vバッテリーと駆動用バッテリーに最後の充電
スタートドライバーは館内氏ライトを点灯する夕方まで、60Wh/kmを切る電費を記録するなど、順調に周回を重ねたiPhoneを使って中継されていた

 EVによる最長航続距離は、日本EVクラブがギネス認定を受けた、2009年11月の東京~大阪を走行した距離555.6kmや、市販モデルを使用したものとして2009年10月にテスラモーターズ「ロードスターEV」が達成した501kmなどがある。

 今回のチャレンジは、同クラブの記録を超える1000km走破を目指したもので、今回のチャレンジによる記録をギネスに申請する予定だ。

 今回このチャレンジに参加したドライバー(敬称略)は、舘内端(日本EVクラブ代表)、明村馨(東京中日スポーツ)、坂上洋一(Tipo編集部)、丸茂亜希子(自動車ジャーナリスト)、竹岡圭(自動車ジャーナリスト)、太田力也(ドライバー編集部)、熊倉重春(自動車ジャーナリスト)、鳥塚俊洋(JAF Mate編集部)、片岡英明(自動車ジャーナリスト)、大砂重美(東洋ゴム工業)、斎藤聡(自動車ジャーナリスト)、吉川雅幸(ドライバー編集部)、都丸満(東京中日スポーツ)、石井昌道(自動車ジャーナリスト)、横山真和(カートップ)、池之平昌信(週刊プレイボーイ)に、筆者も含んだ17名となる。25回のドライバー交代を繰り返し、およそ27時間半を走りきった。

タイヤで走行抵抗を低減
 チャレンジに使用した車両のミラEVは、通常のガソリンエンジン車からエンジンやガソリンタンクを取り除き、モーターやバッテリーを搭載してEVに改造したもの。電池は前回チャレンジで東京~大阪を走行した時と同じリチウムイオンバッテリーが搭載されており、バッテリーの容量は7万4000Wh。

 2009年12月の時点では、車速40km/hで省エネ運転を実施しても通常のクルマの燃費にあたる電費は85Wh/kmと、そのままでは、1000km走破に129km足りない状況で、1000km走破のためには車両の電費を74Wh/km以下にしなければならなかった。

 そこで今回、トーヨータイヤはこのために開発したスペシャルタイヤを用意。このタイヤのポイントは、コーナリング性能を保ちつつ、タイヤのサイド部を削って接地面積を小さくすることで走行抵抗を減らしたこと。また、タイヤの収縮によるロスを減らすため、空気圧は3kg/cm2に高めている。

 このタイヤによる走行抵抗の低減により、テスト走行でおおむね70Wh/kmを切る電費を記録、ベスト記録は60.5Wh/kmとなり、この電費だと計算上1223km走れることになったのだ。

トーヨータイヤが用意したスペシャルタイヤサイド部を微妙に削り接地面積を小さくしているノーマルのエコウォーカー
スペシャルタイヤと比較するとサイドがつるんとしていることが解るフロントとリアタイヤは特性を変えている電池は前回チャレンジとおなじバッテリーを搭載

目標70Wh/kmの省エネ運転
 車両の走行抵抗低減に加えて、ドライバーによる省エネ運転が今回の記録達成のカギであった。バッテリーの総電力量は74kWh(7万4000Wh)で、ドライバーには目標電費70Wh/kmを切る省エネ運転が求められた。70Wh/kmは、1km走るのに必要な電力量が70W電球を1時間使用した電力量と同じということになる。

 今回のチャレンジでは1000kmの走破を目指しているが、加減速がある公道での挑戦では600kmが限界。そのためオートレース選手養成所のオーバルコースを使用し、コースにある白線をまたぐ様に走行すると1周689mで、1000km走破には1451周以上の走行が必要になる。コースは路面が何処も微妙に内側に傾斜しているすり鉢状となっている。

 そんなコースでチャレンジは開始された。スタートから夕暮れまで各ドライバーは目標とされる電費70Wh/kmを下回る60Wh/km台の電費で周回を重ねた。中でもTipo編集部の坂上洋一氏は56.6Wh/kmを記録するなど電費は良好であった。ライトを点灯する夜間走行になってからは60Wh/km台で推移し、そのままラストまで60Wh/km台の電費を維持することができたのである。

 チャレンジ前の挨拶で館内氏は、電費を悪化させる要因となる雨が降ることを心配していたが、チャレンジ開始後の天候は曇り。気温の上昇が抑えられクルマやドライバーには優しい状況だった。終盤にパラパラ雨が降り始めたが、雨脚が強くなったのはアンカードライバーを務めた館内氏がゴールしてからであった。好電費を維持できたのは、終止天候に恵まれたことも一因といえる。

運転席と助手席は、前回のチャレンジから軽量な素材のものに交換運転席用のレカロシートは、一脚3kg車内には、人間の熱さ対策のため団扇が用意される。もちろんエアコンは使用しない
オーバルコースは、内側にかけて若干傾斜している
本部では周回数、積算電力消費を集計、ドライバーにペースを指示するコースに引かれたラインをまたいで走行する
夜間も走るミラEVを見守る館内氏夜間は昼間と違いライン取りが難しくなるコースには照明灯も用意されたが、真っ暗である。
翌朝も順調に周回するミラEV途中、補機用12Vバッテリーを交換するアクシデントも発生したアンカードライバーとして乗り込む館内氏

チャレンジに参加
 今回、この挑戦に筆者もドライバーとしてエントリーさせていただいた。担当した時間帯は22日22時~23時で57周をおよそ1時間かけて走行し、平均電費は64.6Wh/km、使った電力は2580Whであった。

 ドライバーに伝えられた主な注意点は「車速は40km/h」と「アクセル一定」の2つ。加減速がもっとも電費を悪化させる原因で、アクセルを一定に保つことが優先される。

 ミラEVには5速MTが組み合わされているのだが、発進時はエンジン車と違いエンストの心配はないので半クラッチの必要はない。2速発進をして、車速20km/hあたりで3速にシフトアップ、その後は速度40km/hで一定に保つよう指示された。

 コースは真っ暗で、世界記録のかかったチャレンジ。緊張のあまり、はじめはラインに沿って走行することにだけ気を取られてしまい、計器類を確認しながら操作ができるようになったのは10周を超えるあたりからだった。

 電流計に目を移すと、アクセルの微妙な踏み具合で数値が変化しているのが確認できる。ステアリング操作や走行ラインに無駄があると、アクセルを一定に保っていても車速が落ち、それを取り戻そうとアクセルに力を入れると電費は悪化する。周回を重ねていくと電流計の数値一定で1周回ることもできたのだが、集中力を保てず細かな加減速を繰り返してしまった。

 振り返れば、電流計の数値に意識を集中するよりは、タイヤの音やインバーター音(モーター音?)に感覚を集中させたほうが、よい状態をキープして走行することができたのではないか。

 運転中は10周ごとに無線で積算電力消費計の数値を報告するなどやることがそれなりにあり、運転中の1時間は、待機中の1時間と比べるとあっという間に過ぎてしまった。無線により停止の案内が伝えられたため、停止する心構えに移る。ミラEVは減速時に回生ブレーキが働くため、ブレーキをほとんど踏まずに停止しようと考え、停止ポイントを予測してアクセルをOFFにしたが、停止ポイントまで距離が伸びそうになかったので途中でクラッチを切ってしまうという結果になってしまった。

ドライバー席はレーシング用とあって、がっちり体をサポートしてくれるドライバーは、10周ごとに積算の電力消費量を無線で本部に伝える。電流計を見ながらアクセルを調節、上手に運転すると数値を一定にして1周回ることができた。

DC/DCコンバーターが爆発
 1000kmを走破という結果となったが、27時間半ノントラブルではなかった。23日深夜には、駆動用バッテリーからワイパーやライトなどで使う補機用のバッテリーに電力を送るDC/DCコンバーターが爆発した。残念ながら筆者は、その時間帯にお休みをいただいていたので現場を確認していないのだが、DC/DCコンバーターの残骸を見せてもらったところ、ヒートシンク状の筐体に穴が空き、中は真っ黒な状態であった。

 これによるものか、しばらくして補機用のバッテリーにも不調が見られバッテリー交換をしている。原因は明らかになっていないが、館内氏によれば、このDC/DCコンバーターの不具合はEVクラブ会員の改造EVでよく見られる症状で、このチャレンジにおいてもこういった事態を予測して、事前に準備しておいたのでことなきを得たと言う。ただ、このバッテリー交換がギネスの認定に響くかは、いまは何とも言えない状況だ。

取り外されたDC/DCコンバーター筐体に開いた穴中はカーボンのようなススで真っ黒

そんなに走ってどうするの?
 前回のチャレンジでは、電気自動車の適正な航続距離について問う「そんなに走ってどうするの?」が裏テーマとしてあったが、今回は純粋な記録達成へのチャレンジであった。館内氏はゴール後の記者会見で、ハードウェアでの挑戦には一区切りつけ、今後についてはEVを使う側への提案としてEVで旅をするラリーを計画していると言う。充電スタンドなどを結んだ「電気の道」を示すことで、EVでも旅ができることを証明したいと語っていた。

走行距離1003.184km最後の平均電費を入力する館内氏前回のチャレンジでギネスブックの認定を受けた証書のコピー
チャレンジはオートレースの選手養成所で行われ、普段近くで見ることができないオートレースのマシンを見ることができた。マシンは、フレームとエンジンがむき出しでブレーキはついておらず、そのスパルタンな仕上がりを見ると、これもモータースポーツと言えるものであった

ドライバー(乗車順)

周回氏名(所属/職種)消費電力(Wh)電費(Wh/km)
1~59舘内端(日本EVクラブ代表)2387Wh59.7Wh/km
60~118明村馨(東京中日スポーツ)2401Wh59.1Wh/km
119~176坂上洋一(Tipo編集部)2262Wh56.6Wh/km
177~234丸茂亜希子(自動車ジャーナリスト)2288Wh57.3Wh/km
235~291竹岡圭(自動車ジャーナリスト)2272Wh56.9Wh/km
292~349太田力也(ドライバー編集部)2390Wh59.8Wh/km
350~407熊倉重春(自動車ジャーナリスト)2440Wh61.1Wh/km
408~465鳥塚俊洋(JAF Mate編集部)2520Wh63.1Wh/km
466~523片岡英明(自動車ジャーナリスト)2530Wh63.3Wh/km
524~581大砂重美(東洋ゴム工業)2600Wh65.1Wh/km
582~639椿山和雄(自動車ジャーナリスト)2580Wh64.6Wh/km
640~697斎藤聡(自動車ジャーナリスト)2620Wh65.6Wh/km
698~755吉川雅幸(ドライバー編集部)2550Wh63.8Wh/km
756~813鳥塚俊洋(JAF Mate編集部)2530Wh63.3Wh/km
814~871片岡英明(自動車ジャーナリスト)2559Wh64.8Wh/km
872~929斎藤聡(自動車ジャーナリスト)2567Wh64.2Wh/km
930~987熊倉重春(自動車ジャーナリスト)2589Wh64.8Wh/km 
988~1045都丸満(東京中日スポーツ)2665Wh66.7Wh/km
1046~1103石井昌道(自動車ジャーナリスト)2510Wh62.8Wh/km
1104~1162横山真和(カートップ)2570Wh64.3Wh/km
1163~1220池之平昌信(週刊プレイボーイ)2620Wh65.6Wh/km
1221~1279丸茂亜希子(自動車ジャーナリスト)2570Wh64.3Wh/km
1279~1336竹岡圭(自動車ジャーナリスト)2520Wh63.1Wh/km
1337~1394石井昌道(自動車ジャーナリスト)2510Wh62.8Wh/km
1395~1456舘内端(日本EVクラブ代表)2950Wh69.1Wh/km

(椿山和雄)
2010年 5月 26日