日産「2010年度 先進技術説明会」リポート【第1回:安全技術】
60km/hから追突回避支援を行うオートブレーキシステムを動画で紹介

先進技術説明会が開催された追浜グランドライブ

2010年7月27日開催



 日産自動車は7月27日、神奈川県横須賀市内の追浜グランドライブにおいて「2010年度 先進技術説明会」を開催した。

 先進技術説明会は、同社が現在開発している、または実用化されたばかりの先進技術を報道陣やジャーナリストに向けて紹介する体験会。今回は今夏に発売される新型「エルグランド」や、今秋に発売される「フーガ ハイブリッド」などに搭載する先進技術についての説明会&体験会が行われた。

 同社は「環境」「安全」「Life on Board」「Dynamic Performance」の4つの領域ごとに独自の先進技術を開発している。今回はこの4つの領域に基づき、数回に分けて説明会の模様をお伝えする。

企画・先行技術開発本部 車両性能開発部 エキスパートリーダー 岡部友三朗氏

事故そのものを減らすさまざまな安全技術
 安全領域については、企画・先行技術開発本部 車両性能開発部 エキスパートリーダー 岡部友三朗氏から説明があった。

 日産は、2015年までに日産車1万台あたりの死亡・重傷者数を1995年比で半減させることを目標にした安全ビジョン「Vision2015」を掲げている。すでに2008年の時点で英国、米国、日本で半減することに成功しており、2015年度の達成はほぼ確実なところまで来ていると言う。しかし、最終的な目標地点は“半減”ではなく“実質ゼロ”としており、「事故があったときにユーザーを守るだけではなく、事故そのものを減らす取り組みが重要」だと岡部氏は言う。

 同社では2004年から、「セーフティ・シールド」という通常運転から衝突後まで、クルマの状況に応じてさまざまなバリア機能を働かせ、少しでも危険に近づけないようサポートし続けるという考え方で技術開発を行っている。バリアは車両への危険度(リスク)の低い順に「危険が顕在化していない」「危険が顕在化している」「衝突するかもしれない」「衝突が避けられない」「衝突・衝突後」の5段階に分けられ、それぞれの状態で発生する危険に対して最適な技術を機能させることで、より危険な状態に進むことを回避するというもの。

 例えば「衝突・衝突後」の技術群に位置するゾーンボディー、ポップアップエンジンフードなどは1997年から導入されているが、近年では「危険が顕在化していない」「危険が顕在化している」に属するDSSS(安全運転支援システム)やアラウンドビューモニター、レーンデパーチャープリベンションといった、危険度の低い領域での安全技術を積極的に開発・実用化している。

 また、事故は車両正面のみならず、側面、後方でも起こることから「車両全方位にわたって技術を投入し、ぶつからないクルマを目指さなければならない」と、岡部氏は言う。

 すでに車線変更の際に他車との接近を感知すると、警告を発するとともに元のレーンに戻るサポート機能である「BSI(ブラインドスポットインターベンション)」や、4個のカメラから得た画像を、車両上方から俯瞰で見るような映像を表示する「アラウンドビューモニター」、アクセルペダルからブレーキペダルへの踏み替え操作を促し、先行車両との車間距離維持を支援するDCA(ディスタンスコントロールアシスト)など、車両の全方位における危険に対して、危険回避操作を支援するこうした機能は実用化または実用化直前まできている。さらに今回の先進技術説明会では、安全性能をさらに高める新しい2つの技術が発表された。

 それが、先行車両との車間距離の維持を支援するインテリジェントペダル(ディスタンスコントロールアシスト)の進化版となる「衝突回避支援コンセプト」と、アラウンドビューモニターを進化させ車両周囲の移動物を検知する運転者支援技術「MOD(ムービングオブジェクトディテクション)」だ。

クルマの状況に応じてさまざまなバリア機能を働かせ、少しでも危険に近づけないようサポートし続けるという考え方のセーフティ・シールド“ぶつからないクルマ”の実現に向けてさまざまな安全支援システムが開発される
アクセルペダルからブレーキペダルへの踏み替え操作を促し、先行車両との車間距離維持を支援するDCA(ディスタンスコントロールアシスト)
ドライバーが意図せずに車両がレーンマーカーに近づくと、車線内に戻す支援をするLDP(レーンデパーチャープリベンション)
隣接するレーンを走行するクルマに近づかないようにドライバーの運転操作を支援するBSI(ブラインドスポットインターベンション)
自車が後退する際、進路に車両が進入しようとすると自動的にブレーキを作動させ、ドライバーの危険回避操作を支援するBCI(バックアップコリジョンインターベンション)

衝突回避支援コンセプトに基づく新技術を搭載したフーガ

インテリジェントペダルの進化版「衝突回避支援コンセプト」
 衝突回避支援コンセプトは、ボルボの安全技術「歩行者検知機能付きフルオートブレーキシステム」や、富士重工業(スバル)の運転支援システム「EyeSight(アイサイト)」と基本的に同じ機能を有するオートブレーキシステムで、60km/hという速度域から追突回避を行う特徴を持つ。

 前方車両との距離計測にはミリ波レーダーセンサーが用いられ、前方車両との距離や相対速度を監視。システムの作動はおよそ60m手前から始まり、前方車両を発見すると警告表示および「ピッピッピ」と警告音でドライバーに危険を知らせるとともに、0.4Gという減速度で制動し、アクセルペダルを押し戻すことでドライバー自身が危険回避行動を行えるように支援する。さらに追突の危険があると判断すると、「ピーピーピー」と警告音を発するとともにシートベルトを巻き上げて乗員の拘束性を高め、前方車両の5m手前で急制動をかけて前方車両の1m以内で停止する。

衝突回避支援コンセプト。早期に警報を行い、始めに緩制動をし、ドライバーが安全に減速できなかった場合に急制動を実施する衝突回避支援コンセプトの回避限界速度は60km/h

 今回、実際に衝突回避支援コンセプトに基づく新技術を搭載したフーガに同乗し、オートブレーキの制動力を体感することができた。以下の動画がその模様で、前方車両を模したクッションに60km/hで向かっていく。あらかじめ聞いていた説明どおり、途中で「ピッピッピ」と警告音が鳴るとともに緩制動がかかる。さらに障害物に近づくと急制動となる。正直、緩制動や急制動がどのタイミングでかかったかははっきりと覚えていない。それよりも目の前のクッションが近づいてくるスピードが速いことへの恐怖感のほうが強いためで、「ああっ、やばい」とぶつかる覚悟をした瞬間に急制動がかかり、無事衝突を回避することができた。

 日産によれば、実際に起こった事故を分析したところ、「認知の誤り」が原因の大半なのだと言う。ドライバーが危険を認知していれば事故は当然防げるわけで、いかにドライバーに危険が迫っていることを知らせるかが事故を防ぐ鍵になる。

 今回の衝突回避支援コンセプトのキモは“ドライバーが回避行動をとること”に主眼が置かれていることだ。60km/hという高速走行でシステムが作動すること自体もすごいが、それはあくまで予備要素であり、重要なことは1回目の警告の時点でドライバーに危険を察知させることだと言う。

 なお、衝突回避支援コンセプトでは現時点で前方車両以外の認識は行わない。自転車や歩行者の認識は今後の課題としている。

フーガでの実験の様子。前方車両を模したクッション直前で止まることができたが、実際にこうしたシチュエーションに遭遇したときに100%作動するとは限らない。こうした機能に頼るのではなく、日頃からドライバー自身が細心の注意を払って運転することが前提となる


実験の様子を室内から


実験の様子を外から


移動物検知(MOD: Moving Object Detection)機能を搭載したスカイライン クロスオーバー

自車周辺の移動物を検知するMOD
 MODは、自車周辺の移動物を検知して運転者に知らせるというもの。詳細は関連記事に詳しいが、フロント、サイド、リアに設けられる4個の広角高解像度カメラを用いて車体2~3m以内の移動物をモニターに表示する。見通しの悪い交差点や、狭い駐車場から出庫する際などにドライバーの視界確保を支援してくれ、見落としによる事故を防ぐ機能だ。

 表示方法については、停車時は車両を俯瞰表示するトップビュー画面、前進時はフロント周辺を表示するフロントビュー画面、後退時はリア周辺を表示するリアビュー画面の3パターンとなる。

停車時で車両を俯瞰表示するトップビュー画面。移動物を検知すると赤い枠と警告音でドライバーに知らせる

(編集部:小林 隆)
2010年 7月 28日