日産、「the new action TOUR」の第1弾を神奈川県で開催【後編】
EV普及を進める神奈川県の松沢知事が基調講演

日産グローバル本社で行われた第1回「the new action TOUR」講演会

2010年7月31日開催



 日産自動車は7月31日、電気自動車(EV)の普及、啓発を目指した取り組み「the new action TOUR(ザ・ニュー・アクション・ツアー)」の第1弾を神奈川県で開催した。後編では、Webサイトから応募した600名が参加し、日産自動車 COO(最高執行責任者) 志賀俊之氏や、執行役員 渡辺英朗氏、そして神奈川県知事 松沢成文氏が登壇した講演会の模様をお届けする。

 12月にEV「リーフ」の発売を予定している日産は、ルノーとともにゼロ・エミッション車における世界のリーダーを目指すとしており、このツアーもより多くのユーザーにゼロ・エミッション社会の実現を実感してもらおうというもの。今回の神奈川県に続き、8月21日には埼玉県さいたま市で第2弾を予定。さらに宮崎県や北九州市などでの講演を予定している。

日産自動車 COO 志賀俊之氏

 講演会で登壇した志賀氏は、日産が今年12月に100%電気で動くEV「リーフ」を発売するとし、それに先駆けてEVを普及する思いでこの「ザ・ニュー・アクション・ツアー」を企画し、これから全国を回っていくと述べた。

 また、今回のツアーを企画した趣旨について、「この青い地球を将来の子供達に残していく。そういった持続性のあるモビリティ社会を作っていきたいと念願していた」とし、「EVはクルマですから、技術を蓄積していけば、クルマとしては作れます。ただ、我々がEVを作っても、それが普及して、たくさんの方々に乗っていただかなければ、意味がない。なんとかそうした普及をしていきたいということで、今回の講演を催した」と続けた。

 今回基調講演をお願いした神奈川県の松沢知事については、「日産は2008年5月にゼロ・エミッション車で世界のリーダーになると発表したが、松沢知事はそれよりもずっと前に、当時銀座にあった日産本社を訪れ、神奈川県でのEV普及のために、神奈川県にある自動車メーカーの日産にぜひ協力して欲しいと言われた」とエピソードを語り、松沢氏が早くからEVに注目し、普及に活動してきた人物だと紹介した。

神奈川県知事 松沢成文氏

神奈川県知事による基調講演
 続いて登壇した神奈川県知事の松沢氏は、神奈川県が6年ほど前からEVが地球温暖化の切り札になるとして力を入れてきたことを述べた。

 松沢氏によれば、神奈川県には、EVを作る自動車メーカーのほかにも、EVの動力源となるリチウムイオンバッテリーや充電器を開発するメーカー、そしてEVを研究する大学もあると言い、神奈川県はEVを普及させるためのすべてがそろっているとした。

松沢知事による基調講演EVの特徴神奈川県には電気自動車のバッテリーや充電器を開発する会社、電気自動車を研究する大学がそろっている

 2006年11月には神奈川県とそれら企業や大学が参加した「かながわ電気自動車普及推進協議会」を設立、2008年3月には「かながわ電気自動車普及推進方策」を策定し、2014年度までに県内で3000台普及させるという目標を立てた。そしてそのための方策としてEV購入時には、国からのほかに、県からも補助を出すことにした。これにより具体的には、リーフの場合で260万5000円程度になると言う。さらに税を軽減し、自動車取得税、自動車重量税、自動車税を免税。また燃料代と比べ電気代は5分の1、深夜の電気を使えば10分の1にもなるとした。

2006年11月に「かながわ電気自動車普及推進協議会」を設立2008年3月には「かながわ電気自動車普及推進方策」を策定

 ほかにもEVの優遇策として、県営の駐車場料金を半額、神奈川県内で高速道路に乗ったり降りたりした場合、ETCをつけているのが条件だが、高速道路代を半額に。また、現在県内に58基ある急速充電器を2014年度までに100基整備すると言う。

神奈川県のEVの優遇策は多岐にわたる神奈川県でのEVの実質的な購入価格急速充電器の配置を進める

 そのほか、EV普及のためには、まずはEVに触れてもらうことが大事だとし、タクシーとして今後の2年間で100台の普及も目指すと言う。このEVタクシーでは福祉のことも考慮し、通常1割引の障害者割引をEVタクシーは2割引にするとした。

 公共交通手段としては、ほかにEVバスの開発も進めている。これは同じく神奈川県に拠点を構えるいすゞ自動車や慶応大学などが協力して開発しているとのこと。

EVタクシーを2年間で100台導入電動バスの開発も行っている

 また、横浜のような都市部だけでなく、観光地でもEVを活用しようと「箱根EVタウンプロジェクト」を進めている。まずは箱根でEVレンタカーやEV観光タクシーの普及、さらにEVバイクや電動アシスト自転車を使ったパーク&ライドにより、駐車場渋滞を防ぐといった構想があると言う。

箱根をテストケースにEVタウンプロジェクトを構想これと合わせてEVバイクの普及も目指す都心部での普及のため、都市高速のEVの割引を前原国交相に提案
松沢知事は中国でも公演

 松沢知事は中国などでもEVに関する講演を行っているが、松沢氏によれば「現在中国と日本のクルマの普及台数はほぼ同じだが、人口は中国が10倍だ」とし、「今後中国の経済発展が進んだときに、それらの人たちが皆ガソリン車を買ったら、日本での努力など砂漠に水をまくようなもの」と言い、中国やインドでのEVの普及が重要だとした。

 そういう想いからも、まずはこの神奈川からEVを普及し、それが世界中に広まっていけばとした。

日産自動車執行役員 グローバル ゼロエミッション ビークル ビジネスユニットの渡部英朗氏

持続可能なゼロエミッション社会実現へ向けた取り組みとEVの可能性
 最後に日産自動車執行役員 グローバル ゼロエミッション ビークル ビジネスユニットの渡部氏が登壇し、日産の持続可能なゼロエミッション社会実現へ向けた取り組みとEVの可能性について述べた。

 気候変動に関する政府間パネル第4次リポートによれば、気温上昇を2度以内に抑えないと温暖化対策としては不十分とされており、それを実現するには大気中のCO2濃度を450ppm以下に抑える必要があるとした。そのためには、新車のCO2の排出を80~90%削減しないと達成できないという試算になったと述べ、そのためにゼロ・エミッション車の投入が不可欠だと、その開発に至った経緯を述べた。日産では約18年前からリチウムイオンバッテリーの開発を始め、2007年にはNECと合弁会社を設立。そこで開発されたバッテリーがリーフに搭載されていると言う。

ゼロ・エミッション社会実現のための取り組みについて日産の試算では2050年までにCO2排出量を90%削減する必要があると言う1992年よりリチウムイオンバッテリーの自動車での利用を研究し続けてきた
量販ゾーンのCセグメントから投入

 渡部氏はEVを、特定の人だけが所有するニッチな商品にしてはならないと述べ、そのためにシャシーは販売台数の見込めるCセグメントとし、それにより量産化を図ることで、さらにコストダウンを狙い、求めやすい価格を実現する必要があったとした。そうしてできたリーフは100%電気で動く自動車で、5人乗りの5ドアハッチバックと使い勝手にも優れる。値段も手頃に抑え、もちろん日産ならではの走りも実現していると言う。

 さらにEVならではとして、最新の充電スポットは自動的にカーナビにアップデートされるし、航続可能距離もカーナビに明確に表示されるとした。

 EVならではのライフスタイルとして、よくEVは充電に時間が掛かると指摘されることに触れ、「ガソリンスタンドなら15分で済むと言われるが、その分早く家に帰ってきてもらって、コンセントを繋ぐのは15秒でできる」とした。

 また、排気ガスの出ないEVならクルマをリビングにいれることもできると言い、そのような家を造れば、体が不自由な方やお年寄りが世界に出ていく助けになるとした。

 またリーフは携帯電話からも操作できると言い、たとえば充電ポートに接続されている状態で、エアコンをONにする。あるいは毎日8時に出発するならその30分前からエアコンを入れる設定にしておけば、バッテリー残量を気にせず電源ポートからの電気を使って車内を快適にしておくことができると述べた。

リーフについて手頃な価格と運動性能、専用ITによるサポートもEVならではの新しいライフスタイル

 続いて神奈川県のEV普及の取り組みについて、リーフの場合、政府から77万円の補助金が出るほか、神奈川県では38万5000円程度が補助され、横浜市ではさらに15万円補助されるとした。そのほか高速道路の割引や税金の割引などにより、EVの普及策が神奈川にとどまらずいろいろなところで行われていると言う。

 また、リーフはメイドイン神奈川だと言う。車体はもちろんモーターやバッテリー、インバーターなど主要部品はすべて神奈川県で生産されており、神奈川からリーフは世界に送り出されていくとした。

神奈川県の取り組み国の補助に加え、神奈川県や横浜市でも補助が出るリーフはバッテリーからモーター、インバーターまで神奈川産

 EV普及の課題となる充電ネットワークについては、「普通充電器を日産の2200のディーラーに配備していきたい。また急速充電器においても200基設置していきたい。そうすることによって、約40km四方に1台の急速充電器が全国で設置される環境を作れる。神奈川県においては普通充電器が118基、急速充電器が58基ある。それが2014年度には普通充電基が1000基、急速充電器が100基となる」とした。

日産のディーラーに普通充電や急速充電器を用意する神奈川県でも充電施設の充実が進められる

 最後に、持続可能なクルマ社会に何が必要かとして、「自動車メーカーとして魅力的なクルマを出していくのはもちろんだが、それだけではEVの普及は進まないだろうと思う。様々な活動をしていくことによってEVが受け入れられる社会ができるのだと思っている」と述べ、日産がバッテリーの開発だけでなくその二次利用、さまざまな部品のリサイクル、あるいは充電器の標準化、より廉価な充電器の開発、スマートグリッドの研究などを進めている。

 これからも新しいモビリティの構築、クルマ作りだけでなく、より持続可能な社会作りに社会の一員として取り組んでいきたいと述べ「ぜひ皆様にもEVサポーターになっていただき、EV普及に向けてお力をお貸しいただければと思っている」と締めくくった。

持続可能なクルマ社会に向けて持続可能なクルマ社会のためにはクルマの開発以外にもインフラの設備やバッテリーのリサイクルも必要リーフはほぼ100%リサイクル材を採用
充電器のコストを下げるため自社で開発EVのバッテリーをバックアップ電源として使ったスマートグリッドへの構想も

(瀬戸 学)
2010年 8月 2日