志賀自工会会長、「今回の円高はまったく違う」
9月度の定例会長記者会見より

志賀俊之会長

2010年9月16日開催



 自工会(日本自動車工業会)は9月16日、9月度の定例会長記者会見を開き、志賀俊之会長は日本における自動車産業が直面している課題、その解決策について見解を述べた。

 はじめに、9月14日に行われた民主党代表選で菅直人氏が再選したことについて触れ、「国内外から信頼される政権運営を務めていただくとともに、日本経済の回復・成長等により国民生活の安定に向けて迅速かつ果敢に取り組んでいただきたい」と、政府・与党への要望を述べた。

 日本の自動車産業は、生産、販売、整備、輸送などさまざまな関連産業を持つ総合産業で、今後も日本経済の基幹産業であり続けるためには、いくつかの課題があると言う。それが「為替の安定化、円高の是正」「補助金制度終了後の反動減への対応」「法人実行税率の引き下げ」「自由貿易体制の推進」「CO2削減の目標値設定」「その他の課題」の6項目となる。

為替の安定化、円高の是正

為替の安定化、円高の是正
 「為替の安定化、円高の是正」については、急激な為替変動は企業活動に大きな影響を与えるもので、グローバルに事業展開を行っている自動車業界にとって「その影響が極めて大きい」と語る。昨今の主要各国通貨に対する円の為替水準は、想定を超えた円高状況にあるとし、「日本で生産する自動車のコスト競争力は確実に失われている」「雇用にも影響を与えかねない」と危惧する。

 過去にも円高に直面しているが、絶え間ないコスト削減などの企業努力によって、日本での自動車生産台数を維持してきたと言う。しかし、「今回の円高は従来とは全く違う状況」と述べ、この状況が続くと為替リスクを回避するため自動車メーカー、部品メーカーは海外工場での生産量を上げていかざるを得ない状況にあると言い、それによって「日本の自動車産業が得意とするモノ作りの現場が海外に移ることで、日本の中での産業をどう維持していくかだけでなく、本質的なモノ作りの強さを弱めてしまうのではないか」との懸念を示した。

 また、9月15日に政府・日銀が行った為替介入によって85円台に戻しているものの、自工会は8月9日に円高に対する懸念表明を行っており、この時点で85円台だったことから「我々としては円安に戻ったという認識はない」と述べるとともに、「引き続き政府・与党においては円高対策を断固たる決意の元に継続してほしい」と、期待感を語った。

補助金制度終了後の反動減への対応

補助金制度終了後の反動減への対応
 「補助金制度終了後の反動減への対応」については、エコカー補助金(環境対応車普及促進対策費補助金)が9月7日に終了したことによる需要減退が懸念されており、これについては2011年度まで実施されるエコカー減税(環境対応車普及促進税制)を引き続きアピールしていくとともに、新車投入などの積極的な販売活動を行い、その影響を最小限にとどめるとの対応策が述べられた。

 また、政府に対しては引き続き円高対策を実施するとともに、回復基調にある景気の腰折れにならないよう、環境・エネルギー大国を目指し、2020年までに普通通充電器200万基、急速充電器5000基設置、新車販売における次世代自動車の割合を最大で50%にすることなどが盛り込まれた「新成長戦略」を迅速かつ着実に実行していただきたいと述べた。

法人実行税率の引き下げ
 「法人実行税率の引き下げ」では、現在の日本の法人税の実効税率(約40%)は、20~30%が中心のEUやアジア諸国と比較して極めて高いものとし、法人実効税率の引き下げは企業の競争力強化や活動の活性化を図るとともに、活動拠点の海外流出を抑制することによって国内の空洞化を防ぎ、雇用の確保が図れることから、「国際水準である25~30%を目処に早急に引き下げていただきたい」「まずは来年度に5%の引き下げをお願いしたい」と要望を述べた。

自由貿易体制の推進
 「自由貿易体制の推進」については、WTO(世界貿易機関)交渉やEPA(経済連携協定)/FTA(自由貿易協定)の推進は、グローバルに展開する自動車産業にとって事業を推進するにあたって大きな課題で、韓国をはじめ各国がFTAを積極的に推進していることから「他国に劣後することのないよう、関係諸国との積極的な交渉を進めてもらいたい」と述べるとともに、政府に対して協力体制を敷いていきたいとした。

CO2削減の目標値設定
 CO2削減の目標値設定は、鳩山政権時に2020年までにCO2排出量を1990年比で25%削減すると掲げられており、この目標値について「さまざまなデータと照らしても、極めて厳しいもの」「今後長きにわたって国民生活や経済・雇用に大きな影響を及ぼすもの」と、難色を示す。

 今後も自動車業界として、地球温暖化対策は最重要課題として取り組み、燃費改善や次世代自動車の開発、自動車生産時の省エネに最大限の努力をしていくとしたほか、「政府は今後、目標達成に向けた具体的な政策を立案する際は、想定される経済や雇用に及ぼす影響、国民負担の増加などを提示した上で、国民や各界の意見を反映していただきたい」との見解を述べた。

法人実行税率の引き下げ自由貿易体制の推進CO2削減の目標値設定

(編集部:小林 隆)
2010年 9月 16日