浜松市、産学官で次世代環境車による走行実験を開始
フォルクスワーゲン「ゴルフ ブルーeモーション」日本初公開

走行実験開始の際にテープカットが行われた

2010年10月7日開催



セレモニー前。ゴルフ ブルーeモーションとスイフト レンジエクステンダー、奥に電動バイクが2台並べられている

 静岡県浜松地域の産学官による連携組織「はままつ次世代環境車社会実験協議会」は10月7日、電気自動車(EV)やプラグインハイブリット車(PHV)の走行実験を10月7日から開始した。同日、浜松市内においてセレモニーを行い、EV走行を前提とするスズキのシリーズ式PHV「スイフト レンジエクステンダー(SWIFT Range Extender)」や、フォルクスワーゲンのEV「ゴルフ ブルーeモーション(Golf blue-e-motion)」を公開した。

 はままつ次世代環境車社会実験協議会は、スズキやヤマハ発動機をはじめとした民間企業(産)、静岡大学などの学府(学)、浜松市や静岡県(官)といった、産学官の15機関から構成されている。次世代環境車(EVやPHV)の実用化に向け、共同研究開発や信頼性の確保、普及に向けた方策の検討やインフラ整備などに取り組むことで、産業振興による地域イノベーション、および低炭素社会の促進を目標としている。

 協議会は3つの部会から成っている。スズキをリーダーとする「車両走行実験部会」は、車両の開発と走行実験、データ収集や分析を担当する。「部品・制御技術開発部会」は「浜松地域テクノポリス推進機構」(http://www.hamatech.or.jp/)がリーダーとなり、車両やインフラ整備に関わる部品などを研究開発する。「インフラ整備部会」は浜松市がリーダーとなり、インフラの整備と運用実験を行う。

 この協議会は2010年5月に設立され、準備期間を経て10月7日より走行実験が開始されることになった。スタート時に用意されるのは、スイフト レンジエクステンダーが25台、ヤマハ発動機の電動バイク「EC-03」が8台。その後、ゴルフ ブルーeモーション、スズキの電動バイク「e-Let's」などが順次追加されると言う。2011年8月までを第1期実験に充てており、それを踏まえて第2期実験を行う予定。


走行実験のシンボルマークに選ばれた最優秀賞のほか、特別賞や佳作が展示されていた

 セレモニーは協議会関係者だけでなく、経済産業省や国土交通省からも来賓が訪れた。最初に挨拶を行ったのは協議会の会長も務める浜松市長の鈴木康友氏。「浜松はクルマなどの輸送機産業が活発ですが、次世代の環境車が求められている。産学官が連携して発展させていきたい」と語った。経済産業省の局長 内山俊一氏と国土交通省の部長 今田滋彦氏は、浜松という地域の特殊性や優位性を語った。「浜松には部品メーカーもたくさんあります。クルマが次世代にシフトしていく中で、新しい部品も必要になってくる。これを新しい開発に結びつけてほしい」(内山氏)。

 続いて走行実験のシンボルマークの表彰式が行われた。これは一般に公募されたもので、最優秀賞に選ばれた外山春一氏の作品は、すでに車両にシールとして貼られていた。

浜松市長 鈴木康友氏 (はままつ次世代環境車社会実験協議会 会長)経済産業省 関東経済産業局 局長 内山俊一氏国土交通省 中部運輸局 自動車技術安全部 部長 今田滋彦氏

 次に挨拶したのはスズキの会長兼社長の鈴木修氏。「当社のスイフトを使っていただいて感謝しております。すでにインドやハンガリーなど、世界中で実験を進めています。ただ、(開発を)私がやると間違えるので、技術者に任せておりますが……」と笑いを取ると、「クルマが電気になると部品メーカーが困るかもしれない。しかし自分の業種でどう展開できるか、どうやって部品を活かせるかを考え、ぜひチャレンジしてほしい」と、部品メーカーにエールを送った。会場で鈴木氏はたいへんな人気であり、セレモニーの後もカメラの列が付いて回るほどだった。

 EC-03を提供するヤマハ発動機の小林正典氏は、「輸送機産業が盛んなこの遠州の地域で(走行実験が)行われることに意義がある。ヤマハも参加させていただくことになりました。以前から電動バイクをやっていましたが、2008年以降はエコ意識の高まりを強く感じています。通勤や営業活動などの近距離移動なら、電動バイクの利便性が活きてきますし、すでに十分な実用性を備えています。今年のパリオートサロンでは、欧州メーカーから同種の電動バイクが出展されました。これからは四輪と二輪の使い分けが進むと考えています。こういった取り組みが浜松を中心に、全国に広がることを期待しています」と語った。

 そしてドイツのフォルクスワーゲンAGから、ブルーeモーションの開発リーダーであるカーステン・フレーク博士(Dr. C. Freek)が参加した。「フォルクスワーゲンは以前からCO2排出量の少ないクルマに取り組んできました。それは、すでにTSIエンジンやDSGトランスミッションで体験していただいています。同時に電気化にも力を入れており、今回お持ちしたブルーeモーションは、その最新の成果のひとつです。公道テストはアメリカ、ヨーロッパ、アジアで行いますが、日本ではパートナーであるスズキの地で参加できることに感謝しています」と語った。

スズキ代表取締役会長兼社長 鈴木修氏ヤマハ発動機執行役員 SP事業推進統括部長 小林正典氏フォルクスワーゲンAG ET(開発リーダー) カーステン・フレーク博士
走行実験のシンボルマーク表彰式。副賞として電動アシストサイクルなどが贈られたセレモニーの最後に行われた記念撮影セレモニーが終わり、試乗のためにナンバーを取り付けているところ
実験車両出発式のため整列。後ろにはクルマが準備している実験車両出発式スイフト レンジエクステンダーの出発
続いてゴルフ ブルーeモーション

 記念撮影のあと、ごく短時間ではあるが、各モデルに試乗できたので、簡単に概要と印象を報告しておこう。

 ゴルフ ブルーeモーションは完全なEVになる。エンジンは搭載しない。車両重量は1590kg(うちバッテリーが315kg)で、ゴルフ TSIハイラインに比べて250kgほど重くなっている。モーターの最大出力は85kW(115PS)、最大トルクは270Nm。TSIハイラインと最高出力はほぼ同じだが、トルクは一回り上まわっている。バッテリーは26.5kWhのリチウムイオンで、充電は8時間(200V)で終了する。フル充電での走行距離は約150km。3つのドライブモードや、回生ブレーキの効きを4段階に切り替える機能も備えている。

 走行感はしっとりしたもの。車重が重めのため軽快感は薄いが、その分乗り心地よく感じる。では遅いかというと、そうではない。アクセルを深く踏むと、音もなくグッと加速していく。ガソリンエンジンの引っ張る感じではなく、巨大な手で押し出されるような加速だ。

 ユニークなのは、操作がエンジン車とまったく同じだということ。キーを差し込み、回すと走行できる状態になる。あとはギヤを入れ、パーキングブレーキを解除すればよい。メーターパネルにも回転計のように見えるメーターがあって驚くが、これは電力計(kW)。どのくらい電力を消費しているかがひと目で分かるため、おのずとエコ運転を心がけるというわけだ。

 なお、フォルクスワーゲンが最初に発売するEVはゴルフではなく、コンパクトカーの「UP!(アップ)」になる。発売は2013年を予定している。

ゴルフ ブルーeモーション。外観は通常モデルと変わらないゴルフ ブルーeモーションと、開発リーダーのカーステン・フレーク博士通常モデルでエンジンのある位置には、インバーターやモーターが収まる
フロントの「VW」エンブレムを開くとと充電用のコネクターがあるメーター。左の回転計のように見えるのは電力計。回生ブレーキ時にはマイナス側に振れるインテリアは通常のゴルフと変わらない
トランクにはバッテリーとケーブルなどが入っている充電ケーブルはかなりの長さテスト車のためか、計測器のようなものを搭載していた

 スイフト レンジエクステンダーはエンジンを搭載するが、これは充電用。プリウスやインサイトのように、直接エンジンでホイールを駆動する訳ではない。EVに充電用エンジンを搭載することで飛躍的に走行距離を伸ばした、シリーズ式のPHVになる。

 バッテリーのみでの走行距離は約15kmだが、バッテリーの電気が少なくなればエンジンによる発電で充電される。また、エンジンを搭載することで、高価で重量のあるバッテリーを大量に搭載する必要がないというメリットもある。搭載されるエンジンは660ccの軽自動車のもの。通常の軽自動車エンジンにほとんど手を加えず、そのまま搭載していると言う。モーターの最高出力は55kW、最大トルクは180Nmと、通常のスイフトよりもはるかに高トルク。リチウムイオン電池の容量は2.66kWh。外部電力による充電時間は100Vで約1.5時間、200Vで約1時間とのこと。

 走行感は、モーター駆動車特有の重厚なもの。トルクは十分で、実用上まったく不足は感じない。もちろん無音のまま走っていく。エンジンが掛かれば音がするかと思ったが、試乗中はエンジンは停止したままだった。シフトポジションに「B」があり、このモードにすると、回生ブレーキを積極的に使うことで、下り坂などではエンジンブレーキの代わりになり、充電量を増やすことができる。ゴルフ ブルーeモーションにも同種のシステムはあるのだが、シフトレバーで操作するのが直感的で分かりやすい。

スズキのスイフト レンジエクステンダー後部に積まれるバッテリー。かなりの大きさだエンジンルームには660ccエンジンとインバーターが収まる
リアのバンパーにかわいいマークがあるマークの付いたフタを開けると充電用のコネクターが現われるメーター。左が電力計で、回生ブレーキ時には針が下を向く

 浜松市で始まったこの取り組みは、今後、三遠南信(愛知県東部の東三河、静岡県西部の遠州、長野県南部の南信州)地域へと活動エリアを広げていく予定だ。

(西尾 淳(WINDY Co.))
2010年 10月 7日