アルファ ロメオのデュアルクラッチAT「TCT」を開発者が解説 MTとコンポーネント共有。小型軽量かつ大トルクに対応 |
ミトのパワートレーン。1.4リッターマルチエアターボエンジンにデュアルクラッチAT「TCT」を組み合わせる |
いよいよ12月に国内でデリバリーが開始されるアルファ ロメオ「ミト」のデュアルクラッチAT搭載モデル。トランスミッション以外にも、可変バルブリフト機構「マルチエア」を装備した1.4リッターターボエンジンや、アイドリングストップ機能も搭載するなど、ガソリンエンジンの最新技術がてんこ盛りされていることでクルマ好きには話題だ。これまでMTモデルしかなかったミトだが、デュアルクラッチATの搭載により国産車ユーザーや女性など、これまでトランスミッションを理由にミトを敬遠してきた層の取り込みが可能になった。国内でアルファ ロメオブランドを扱っているフィアット グループ オートモービルズ ジャパンにとっても、期待のモデルと言える。
そのデュアルクラッチAT「TCT」のチーフエンジニアが来日、10月12日に東京 青山のフィアットカフェで、報道関係者向けにアルファTCTの詳細を解説した。
フランチェスコ・チミノ氏 |
■小型軽量、高効率、低コストで乾式クラッチを選択
TCTを開発したのは、アルファ ロメオが属するフィアットグループで、パワートレーン関連の開発・製造を担う関連会社フィアット パワートレーン テクノロジーズ(FPT)。来日した同社のフランチェスコ・チミノ氏は、「ノンMTチーフエンジニア」という肩書きを持つ。つまりMT以外のトランスミッションすべてを、チーフエンジニアとして担当しているのだ。
MT以外のトランスミッションと言えば、もっともメジャーなのがトルコン式AT、次いで欧州車に採用例が多いシングルクラッチのATがある。トルコン式ATはコストが高く、重量が大きいうえに効率は低く、燃費制御のためにパワートレーン毎に専用設計をする必要があるが、駆動力が途切れず快適。一方シングルクラッチATはコスト、質量、効率、パワートレーンへの適合性のすべてでバランスがよいが、その構造上、変速時に駆動力が途切れざるを得ず、快適性に劣る。
そこで同社が選んだのがデュアルクラッチAT。コストと質量はトルコン式とシングルクラッチATの中間で、パワートレーンへの適合性も良好で、効率も高く、駆動力が途切れない。チミノ氏は「将来のクルマのトランスミッションとして最適な解」と言う。
さらに、デュアルクラッチには乾式(ドライ)を選んだ。湿式(ウェット)を選ばなかったのは、システム全体の質量やコスト、燃費効率で勝るからだ。一方で乾式は、トルク容量やクリープ機能の再現といった点で湿式に劣る。
特に難関になるのは、350Nmのトルク容量を実現すること。TCTはミトより1クラス小さいBセグメントの車両への搭載も狙っており、このサイズの乾式クラッチでトルク容量を確保するのは難しい。
ちなみに量産デュアルクラッチATの先駆とも言えるフォルクスワーゲンの「DSG」には湿式と乾式の2タイプがあり、「ゴルフ」以上のセグメントに搭載されている湿式はTCTと同じ350Nmのトルク容量を確保しているが、「ポロ」に搭載されている乾式は250Nmにとどまっている。小型の乾式クラッチでトルク容量を増やすことの困難がこれだけでも伺える。
デュアルクラッチユニットはフォルクスワーゲンも採用している独LuK製。材質も同じだが、TCTでは独自のクラッチの温度管理と制御により、トルク容量やクリープの問題を克服した。5度の誤差でクラッチの温度を推定し、最適なクラッチ温度を実現していると言う。
デュアルクラッチATとそれ以外のトランスミッションの、FPTによる比較 | 乾式と湿式クラッチの比較 |
■MTとコンポーネントを共有
FPT内でのTCTの呼称は「C635」ファミリー。「C」はイタリア語のトランスミッション「Cambio」(カンビオ)、「6」が6速、「35」が最大トルク容量350Nmを表す。
実はC635という型番のトランスミッションにはMTもある。ミトにマルチエアエンジンを搭載した「クアドリフォリオ・ヴェルテ」の6速MTがC635だ。“ファミリー”と呼ばれる所以だが、これはC635のデュアルクラッチATとMTが元を辿れば同じトランスミッションであり、共有するコンポーネントも多いことを表す。先ほどの乾式を選択した理由には、MTと共通性が高いから、というのもある。
これにより、開発コストをMTとデュアルクラッチATで分散することで、低コスト化に貢献する。また、1つの生産ラインでMTとデュアルクラッチATを生産して、需要に応じて柔軟に生産比率を変えることもできる。さらに搭載性はMTとデュアルクラッチATで完全互換を実現しており、様々な車両に適合させやすい。
このほか、7速化や4WDへの対応、LSD付きFF、アイドリングストップ機能の内蔵が可能だ。なおミトのTCTが6速にとどまっているのは「シミュレーションにより、マルチエアエンジンとの組み合わせでは7速にする利点がないと判断した」からだと言う。
C635ファミリーのMT(左)とデュアルクラッチAT | C635デュアルクラッチATの内部構造。右側が入力側(エンジン)。赤い部分が奇数段クラッチとギア、青が偶数段 |
1.4リッターマルチエアターボとTCTの組み合わせはジュリエッタにも搭載 |
■トランスミッションがエンジンに指令
前述のようにC635デュアルクラッチATは、Bセグメントへの搭載も考慮されているため、小型軽量化が重要なテーマになっている。デュアルクラッチユニットはコンパクトで、1つだけのベアリングでハウジングに懸垂状態で支持されている。
C635デュアルクラッチATのクラッチユニットは、奇数段用と偶数段用のクラッチを持ち、油圧で制御されるが奇数段用は「ノーマルクローズ型」、つまり普段は繋がっているが油圧で離すタイプだ。小型軽量化のためにアクチュエーターをクラッチハウジング内に入れることができなかったため、プライマリーシャフト内の同軸型プルロッドで奇数段用クラッチを“引き”、エンジンから切り離す。これはアクチュエーターを作動させるエネルギー量の低減や、内部パーキングブレーキが不要になるというメリットもある。
偶数段は「ノーマルオープン型」、つまり普段は離れているが、アクチュエーターで“押す”ことでエンジンと繋がる。
シフトチェンジにはコンパクトな電子制御油圧システムが採用されている。電動油圧パワーユニットは、ポンプが作動している時間が25%未満で、これも作動エネルギー量の低減に繋がっており、シフト時間の短縮にも貢献している。
「出力比例型」と呼ばれるECU(エンジンコントロールユニット)との協調制御もC635デュアルクラッチATの特長だ。発進や変速を円滑にするため、エンジンを制御することだが、これをチミノ氏は「ガスペダルがエンジンが発生するトルクを決めるのではなく、トランスミッションがどのくらいのトルクが必要だとエンジンに伝達する」と表現した。「エンジンがトランスミッションに従うとも言えるが、エンジンの担当者は気に入らないだろうね」。
デュアルクラッチユニット。奇数段はノーマルクローズ型なので、図のK1と書かれた矢印の方向に引いてエンジンから切り離すよう動作する。偶数段はノーマルオープンなので、K2の矢印の方向に押してエンジンと接続して動作する | ギアチェンジのための電子制御油圧アクチュエーター。専用オイルを使用する |
(編集部:田中真一郎)
2010年 10月 13日