BASFジャパン、自動車向け「エンジニアリングプラスチック」発表会
コスト削減と軽量化を両立する4つの新製品

2010年11月8日



 BASF(ビーエーエスエフ)ジャパンは11月8日、同社が開発した自動車業界向けエンジニアプラスチックの新製品発表会を都内で開催した。

 今回発表されたエンジニアリングプラスチックは、既存の金属の代替品として開発されたもので、高温時の耐久性に優れる「Ultramid Endure(ウルトラミッド・エンデュアー)」、金属に近いエネルギー吸収率を誇る「Ultramid Structure(ウルトラミッド・ストラクチャー)LF」、電子部品など高度な構造の薄肉部品をより簡単・確実に作ることができる「Ultramid High Speed(ウルトラミッド・ハイスピード)」、再生資源を材料にした「Ultramid S Balance(ウルトラミッド・S バランス)」の4つをラインアップする。

 発表会ではBASF サウス・イースト・アジア エンジニアリング プラスチック事業 アジア太平洋地域シニア・バイス・プレジデントのハーマン・アルトフ氏と、BASFジャパン プラスチック・コンストラクション統括本部 パフォーマンス・ポリマー営業 テクニカルサービスマネジャーの鈴木孝雄氏が、エンジニアリングプラスチックの開発経緯と製品概要の説明を行った。

BASF サウス・イースト・アジア エンジニアリング プラスチック事業 アジア太平洋地域シニア・バイス・プレジデント ハーマン・アルトフ氏BASFジャパン プラスチック・コンストラクション統括本部 パフォーマンス・ポリマー営業 テクニカルサービスマネジャー 鈴木孝雄氏

 はじめに、4製品を開発するに至った経緯を紹介した。現在、自動車メーカーは原油価格高騰によって低燃費自動車の開発が求められるとともに、低価格化の実現に向けた車両の生産コスト削減、そしてCO2排出量削減という3つの課題を抱えている言う。

 原油価格については、1バレルあたり137ドルを記録した2008年7月以降、2009年に最安値に到達したものの再び上昇傾向にあると言い、「新車を購入するユーザーにとって燃費性能はきわめて重要な購買基準にある」とアルトフ氏は言う。

 また、CO2排出量の削減については、日本はもとより欧州などで今後規制が強化されることからも重要な要件としている。特に日本と欧州は、過去10年間で平均CO2排出量を約14%程度削減しており、「こうした技術の開発は両地域がリードしているが、今後はこれまで以上に短期間での削減の必要に迫られるだろう」とアルトフ氏は述べる。

 材料の観点から見ると、CO2排出量を削減するのにもっとも効果的なのが軽量化であり、今回開発されたエンジニアリングプラスチックは既存製品から30%の軽量化を目標に掲げていることから、「自動車メーカーにとって自動車の軽量化が重要な開発目標であり続けるなか、その重要な役割を担うことができる」とアルトフ氏は自信を覗かせる。

自動車メーカーは低燃費自動車の開発、生産コスト削減、CO2排出量削減という3つの課題を抱える石油消費量の増加に伴い、燃料効率の高い自動車に対するニーズが高まった日本と欧州は過去10年間で平均CO2排出量を約14%程度削減したと言う
世界各地で生産される自動車のポリアミド使用量。もっとも高いのは欧州車の20kg/台で、次いで韓国、日本と続く。ちなみに新型BMW 5シリーズは33kg/台で、積極的にポリアミドを使用していると言う軽量化、CO2排出量の削減、生産コストの削減、燃料効率化を一挙に解決できるのが、今回開発された4製品と言う

 以下、4製品の特徴を紹介する。

ウルトラミッド・エンデュアー
 ウルトラミッド・エンデュアーは熱劣化に対する高い耐性を持つとともに、加工のしやすさが特徴と言うガラス繊維強化ポリアミドを原材料に使用する。220度での連続使用、最大240度のピーク温度に耐えることからレゾネータ、吸気パイプ、インタークーラーキャップ、スロットルバルブ、インテークマニホールドなどで使うことができると言う。

 特に近年、エンジンのダウンサイジングとともにターボチャージャーを採用するのがトレンド化しつつあるため、エンジンルーム内では圧力と温度が上昇し、ターボ付きディーゼルエンジンではターボチャージャーとインタークーラーの間の動作温度は最大で200度を超えてしまうと言う。

 同社では、従来型のポリアミド(PA 66)とウルトラミッド・エンデュアーを220度で1000時間処理したところ、従来型は内部まで酸化してしまったが、保護表面層を形成するウルトラミッド・エンデュアーは、3000時間経過した後でも引き続き保護能力を維持したとしており、上記のようなターボチャージャーとインタークーラー間といった高温にさらされる部分への使用も問題ないとしている。

長期使用温度220度、最高使用温度240と耐熱性に優れるとともにエンジンルーム内の軽量化に貢献するウルトラミッド・エンデュアーは220度で3000時間処理しても保護表面層によって高い保護能力を維持したと言う
220度で連続使用しても引張強度は一定する吸気系の金属代替事例

ウルトラミッド・ストラクチャー LF
 ウルトラミッド・ストラクチャー LFは、ガラス長繊維強化(LF)ポリアミドを原材料に使用する。低温時・高温時にかかわらず、部品の骨格を維持しつづける特徴を持ち、その特性は金属に近いと言う。

 使用用途としてはエンジンマウント、金属インサートを含むシートのほか、道路で使われるクラッシュアブソーバーなどが挙げられていた。

ウルトラミッド・ストラクチャー LFは灰化後も部品骨格を維持するエンジンマウント、シート、クラッシュアブソーバーのほか、他業界での用途も見込まれる

ウルトラミッド・ハイスピード
 ポリアミド6樹脂を原材料に使うウルトラミッド・ハイスピードは、高い流動特性が特徴となる。電子部品などで顕著に見られる高度な構造の部品を、より簡単・確実に充填できるとしており、製品不良率の低下、射出圧の低減、摩耗の抑制、保守コストの低減が図れると言う。

 具体的にはエンジンカバーやインテークマニホールド、ペダルなど大型部品での使用を目的に開発されており、高い流動性によって射出圧・充填圧が低下し、より小型の機械で部品を作ることができると言う。一般的に、射出成型機の動作コストとサイズは反比例するとしており、「小型機械で作れることは大きな付加価値になる」(鈴木氏)と言う。

ウルトラミッド・ハイスピードの特徴エンジンカバーやインテークマニホールド、ペダルといった大型部品での使用をイメージする

ウルトラミッド・S バランス
 ヒマシ油由来のセバシン酸が原材料の60%以上を占めるウルトラミッド・S バランスは、低密度・低吸湿性を特徴とする。

 標準的なポリアミド(PA 66 HR)と比べて、高温の水や蒸気に対して優れた耐性を持つほか、活性化学品に触れた際の耐性が高いと言う。また、同じ高機能ポリアミドに属するPA 12と比べ、強度・剛性に優れるとともに荷重たわみ温度が高いと言う。また、道路用塩に使われる塩化カルシウムや、塩化亜鉛への耐性にも優れるとしている。

 具体的にはオイルパンやオイルフィルターハウジング、ラジエーターキャップのほか、冷却回路などのコネクタ、配管、タンクでの使用用途をイメージしている。

ウルトラミッド・S バランスは再生可能原料を使用する他の高機能ポリアミドなどとの特性比較。「++」が二重丸、「+」が丸、「○」が三角をあらわすウルトラミッド・S バランスの用途

エンジニアリングプラスチックの採用に向けて国内メーカーと交渉中
 最後に、アルトフ氏は「我々は自動車業界が直面する課題に応える新たなソリューションの開発に成功した。高温向けのウルトラミッド・エンデュアーは高価な高性能プラスチックと十分に競合可能」と述べるとともに、最新のウルトラミッド・ハイスピードが先行製品との比較で50%以上流動特性が高くなったこと、ウルトラミッド・S バランスは卓越した化学安定性によって過酷な環境に適していることなど、それぞれの製品の特徴を述べ、今後自動車メーカーにエンジニアリングプラスチックが採用されることに期待を寄せた。

 なお、詳細は伏せられたが、エンジニアリングプラスチックの採用に向けて国内自動車メーカーと現在交渉中であることも明らかにしている。

(編集部:小林 隆)
2010年 11月 8日