メルセデス・ベンツ、安全技術の過去と未来が分かる「TecDays」開催
安全技術を体験できるシミュレーターが六本木ヒルズに出現

テックデイは六本木ヒルズで行われている

2010年11月12日、13日開催



 メルセデス・ベンツ日本は、11月12日、13日の期間、同社の安全技術についての講義やシミュレーターを使った体験プログラムを用意する「TecDays(テックデイ)」を、東京 六本木ヒルズで開催した。事前予約が必要だが、応募はすでに締め切られている。

 テックデイは、同社の「安全」にまつわる歴史から現在市販車に投入されている最新技術、そして将来の導入に向けて試験段階にあるさまざまな技術を紹介するイベント。独ダイムラーAGの研究開発部門で安全技術の研究に取り組む研究者らが講義をし、その後展示物を使っての安全技術の紹介、シミュレーターを使った体験プログラムなどが行われた。

会場にはメルセデスの最新ラインアップのほか、先日日本でも実証実験を行うと発表された電気自動車「smart fortwo electric drive(スマート電気自動車)」(写真右)も展示

ダイムラーAG プロダクトイノベーション プロセステクノロジー部門 副社長 バラート・バラスブラマニアン氏

過去と未来の安全技術への取り組み
 始めに、ダイムラーAG プロダクトイノベーション プロセステクノロジー部門 副社長のバラート・バラスブラマニアン氏が、これまで同社が安全技術に対して取り組んできた歴史や、将来的に導入される最新技術を紹介した。

 過去を振り返ると、同社はABS(アンチロック・ブレーキング・システム、1978年)、エアバッグ/ベルトテンショナー(1980年)といった安全技術を他社に先立ち導入してきた。こうした安全技術の開発をスタートさせたのは1939年で、1959年には本格的な衝突実験を、また1968年にはドイツ地元警察の了承を得て事故現場でのクルマの被害状況などを調査し、事故原因を分析・研究する事故調査活動を始めた。この調査活動によって約4000件以上のデータを蓄積しており、衝撃吸収構造ボディーやABSなどは、こうした調査活動の結果。導入された国内外を問わず、他の事故調査機関とも密接な協力体制を敷いていると言う。

 同社の調査によると、交通事故による死亡者数は日本、EU27カ国、イギリス、ドイツでは減少傾向にあると言い、ドイツでの人口10万人あたりの死亡者数で見ると、1990年に14人だったのが、事故を未然に防ぐためのアクティブセーフティ分野(ABS、ESP、ブレーキアシスト、ナイトビューアシストなど)と、起きてしまった事故の被害を最小限にとどめるためのパッシブセーフティ分野(エアバッグ、シートベルト、セーフティセル)の進化により、2007年ごろには6人を切るまでに至ったと言う。

過去50年にわたって研究・開発してきたさまざまな安全技術2001年以降、事故件数は世界的に減少しているドイツでの人口10万人あたりの死亡者数も減少
事故原因の一番はスピードの出し過ぎ同社は事故現場でのクルマの被害状況などを分析・研究する事故調査活動を行ってきた同社における安全性開発の主な目的

 しかし、事故件数は減っているものの、1人あたりのドライバーの走行距離が増えており、そうした中での重大な交通事故の主な原因は「スピードの出し過ぎ」によるものだと言う。そのほかにも「右左折や交差点での操作ミス」「通行優先権の無視」「短すぎる車間距離」「飲酒運転」など、ドライバー自身の問題点が数多く挙げられる。

 こうした現状を踏まえ、メルセデス・ベンツはクルマを“考える”パートナーとして位置づけ、77GHzのミリ波レーダーで前方を監視し、前走車との車間距離を自動で保って走行する「ディストロニック・プラス」や、前方の障害物を発見するとドライバーに急ブレーキ操作を促し、最大限の制動力を出せるようにブレーキを準備する「ブレーキアシスト・プラス」、歩行者を検知するとフレームで知らせる「歩行者検知機能付ナイトビューアシストプラス」など、多数の安全技術を開発するとともに、市販車に投入している。

 現在はステレオカメラやミリ波レーダーを用いた技術研究を中心に行っており、これについては「未来のドライバーアシストシステムの中心的存在になる」と、バラスブラマニアン氏は言う。

 ステレオカメラを用いた技術は、主に歩行者保護を目的とした技術「歩行者回避アシスタンス」で活用されており、例えば見通しのよい交差点において、歩行者を早期に発見した場合は急ブレーキで衝突を回避、遅い段階で発見した場合は反対車線にはみ出さない範囲(およそ80cm)で車体をずらして衝突を回避するというもの。歩行者の発見が遅れ、さらに対向車がいることで回避スペースがない場合は、急ブレーキを踏み衝突エネルギーの緩和に注力する。

 また、交差点での事故の緩和と回避を目的とする技術「インターセクションアシスト」では、短距離レーダー、長距離レーダー、ステレオカメラを活用して右左折する際に接近する他車に反応し、急ブレーキを作動する。ブレーキが作動することで20km/hまで速度は落ち、事故の被害を軽減または回避すると言う。

現在はステレオカメラやミリ波レーダーを用いた技術研究を行っている周囲の環境を察知するステレオカメラは、セーフティシステムに幅広い技術的な可能性を与える交差点でのアシスト機能「インターセクションアシスト」

乗用車開発部門 アクティブセーフティ担当責任者 ヨルク・ブロイアー氏

レーダーセンサーとカメラを採用した新しい支援システム
 次に、乗用車開発部門 アクティブセーフティ担当責任者のヨルク・ブロイアー氏が、アクティブセーフティ分野についての説明を行った。

 同分野の研究開発は、実験車やシミュレーターを用いて行われている。同社では良好な視認性を確保してドライバーの疲れを最小限に抑えることをもっとも重要視しており、走行中の快適性や走行時の静粛性、ヘッドランプのシステムが重要な役割を果たすと言う。

 現在、アクティブセーフティ分野では、先に述べたとおりレーダーセンサーとカメラを採用する新しい支援システムの開発を積極的に行っている。レーダーセンサーは短距離レーダー(レンジ0.1m~30m)、中距離レーダー(レンジ60m)、長距離レーダー(レンジ200m)の3つで、これに最大視程500mのカメラを組み合わせた運転支援システムを開発中だ。

 そのうちの1つである「自動フルブレーキング機能」は、衝突の約2.6秒前に警告と制動支援を、約1.6秒前の段階でドライバーが反応しない場合は自動パーシャルブレーキが作動、さらに衝突の約0.6秒前の段階でドライバーが反応しない場合は自動非常ブレーキが最大で作動し、衝撃の軽減を図るもの。

 この自動フルブレーキング機能の目的は、あくまで衝撃の軽減で、事故を未然に防ぐものではないとの説明があった。

各レーダーセンサーとカメラの対応範囲自動フルブレーキング機能についてPRE-SAFEブレーキは大幅な衝突エネルギーを軽減する

 カメラを活用した「アクティブレーンキーピングアシスト」は、自車が走行する車線を逸脱した際にステアリングが振動して警告するとともに、片側の車輪にブレーキをかけ、元の車線への復帰をサポートする。

 レーダーを用いる「アクティブブラインドスポットアシスト」は、車線変更の際に変更先の車線を走行中の車両が、自車の死角に入って衝突の危険性があった場合、ミラー内に赤いシグナルを表示。この際に方向指示器が出た場合はドアミラー内に警告灯が点滅し、警告を行う。さらに車両同士が接近すると、システムが介入して反対側の車輪にブレーキをかけて車線変更を抑制する。

 カメラを活用したそのほかの事例として、「アダプティブハイビームアシスト」の紹介もあった。これはカメラが検出した前方車両や対向車との距離に応じてヘッドライトの視程を調整するもの。これにより、常にハイビームにしていてもヘッドライトビームは他車の手前で途切れ、相手に眩しいと感じさせない。手動でロー/ハイの切り替えをしなくてもよいので、ストレスの少ない走行が可能だと言う。

 そのほか、赤外線ヘッドランプによって前方約200mまで視認が可能な「ナイトビューアシストプラス」、ステアリング操作に異常を検知すると作動し、居眠り運転を防ぐ「アテンションアシスト」などの紹介も行われた。

アクティブレーンキーピングアシストアクティブブラインドスポットアシストナイトビューアシストプラス
アダプティブハイビームアシスト

3台の展示車両を紹介
 座学のあとは、展示物が紹介された。紹介されたのは、オフセット衝突の実験を実際に行った「クラッシュドカー」のほか、高張力鋼板を活用したボディーを紹介するための「セーフティボディー」、歩行者保護を目的とする「アクティブボンネット」を採用したEクラスカブリオレ。

 クラッシュドカーは、新型Eクラスが64km/hでオフセット衝突したものだと言う。フロントメンバーやボンネット、フェンダー、ラジエーターなどなど、フロント部は大破状態。しかし、キャビンを見るとエアバッグは展開しているものの、何事もなかったように元の状態を維持している。また、前後ドアも普通に開くことから、衝撃がキャビンに伝わらないような構造であることが伺える。

 こうした衝突実験は50年前から行われているそうで、この新型Eクラスを使った衝突実験は、すでに150回以上実施していると言う。

64km/hでオフセット衝突したクラッシュドカー
エアバッグは展開しているものの、フロント部と打って変わって室内側に衝撃があったことを感じさせない

 セーフティボディーは、どの部分にどのような材料が使われているか一目で分かる展示物で、ボディー全体の72%に高張力鋼板/極超高張力鋼板が使われていると言う。このモデルでは、バルクヘッド部、フロア構造部、ルーフフレーム部で高張力鋼板/極超高張力鋼板が使われ、サイドメンバーは高張力鋼板を、Bピラーは極超高張力鋼板を使用する。

セーフティボディー。赤色が高張力鋼板、紫色が極超高張力鋼板、水色がアルミ材、銀色が一般的な鋼板

 すでに新型Eクラスセダン、クーペ、カブリオレに標準装備されるアクティブボンネットは、歩行者と衝突した際に衝撃後の数ミリ秒でボンネット後端が50mmせり上がる仕組みを持つ。衝撃の感知はバンパーに2つ、クロスメンバーに1つ設けられる加速度センサーが担う。

 ボンネットのヒンジ部は、あらかじめテンションのかかったスプリングアクチュエーターを内蔵する電磁石を搭載しており、せり上がった後は手動で元の位置に戻すこともできる。

アクティブボンネットを採用した新型Eクラス カブリオレ。衝撃後の数ミリ秒でボンネット後端が50mmせり上がる。その後手動で元の位置に戻すことも可能

2つのシミュレーションを体感
 次に行われたのは、4つの機能をシミュレーターを使って体験できる「シミュレーター アシスタンス システム」、衝突時の安全技術を体験できる「PRE-SAFE シミュレーター」、上記で紹介した最新技術を搭載する「ESF 2009」の技術説明。

 シミュレーター アシスタンス システムでは、ディスタンスコントロール、レーンコントロール、アダプティブハイビームアシスト、ブレーキングアシストをシチュエーション別で体験できる。

 このシミュレーターは、Sクラスの前方に大型モニターが3面置かれたもの。実際にハンドル握って説明員の指示に従いながら車両を操作すると、操作に対して車両が連動して動くので、実際の車両に乗っているかのような感覚になる。

 ディスタンスコントロールでは、高速走行から低速走行まで自動で速度調整を行っていることを体感できるほか、レーンコントロールでは左右白線を認識して走行レーンの調整を、アダプティブハイビームアシストでは対向車を感知したときのハイビームの照射範囲調整を、ブレーキングアシストでは前方障害物と衝突する前の警告や、衝突時にどのくらい速度を落とせたかを体感できた。

シミュレーター アシスタンス システムでは、実際にSクラスに乗って体感する高速/低速時に自動で速度調整を行ってくれるディスタンスコントロール
アダプティブハイビームアシストは前方車両を検知して照射範囲を変えていた
ブレーキングアシスト機能の体験もできる。このときは速度が45km/hで目標物に向かうが、9km/hまで減速できたと表示されていた

 PRE-SAFE シミュレーターでは、正面衝突、側面衝突、スピン、リアエンド衝突時の安全技術を実際に体験できる。体感できる安全技術はシートベルトの予備的な巻き上げや、後方からの一定以上の衝撃を受けるとヘッドレストが前上方向へ移動するネックプロ機能、衝突時にシート座面が空気で膨張し、乗員とシートを密着させるシート膨張式サイドボルスターだ。

 シミュレーターはリニアモーターを採用し、クルマのキャビンを4mの範囲で最大16km/hまで加速させることが可能で、これは2Gの重力加速度に相当すると言う。実際に乗り込んでから約1秒後に特別設計の油圧ダンパーに衝突し、その衝撃をPRE-SAFE機能あり/なしで体感できた。

PRE-SAFE シミュレーターは左右に車体が動く。写真左の向きのときに正面衝突とリアエンド衝突時の、写真右の向きのときに側面衝突とスピン時のPRE-SAFE技術を体験できる

 また、最新技術を搭載したESF 2009の前では、現在試作中でシートのすき間に備わるヒンジに直接固定するチャイルドシートのほか、衝突時に特定のあばら骨に力が集中しないよう力を分散させる新しいシートベルト、前席のシートポジションによって展開する範囲を調整するエアバッグシステムの紹介が行われていた。

ESF 2009側面衝突をセンサーが感知するとドアに内蔵される補強剤がふくれあがり、乗員の安全性を高める
側面衝突の検知に使われるセンサーはフロントフェンダーにあるヒンジに直接固定するチャイルドシート衝突時に特定のあばら骨に力が集中しないよう、力を分散させる新しいシートベルトを開発中

(編集部:小林 隆)
2010年 11月 12日