スバル、「インプレッサ WRX STI tS」に採用のカーボンルーフ説明会
ルーフ取付時で4kgの軽量化、ヨーモーメントも減少

展示されたカーボンルーフ(手前)。塗装は関西ペイントと共同開発の特殊クリアコート。カーボン地を見ることができる

2010年12月3日発表



 スバル(富士重工業)は12月3日、報道発表を行ったカーボンルーフの説明会を開催した。このカーボンルーフは、12月下旬発表のSTIコンプリートカー「インプレッサ WRX STI tS」に採用されるもので、東レとの共同開発製品になる。

富士重工業 スバル技術本部 車体設計部 車体構造設計第2課 課長 渡辺淳氏

 カーボンルーフに関する説明を行ったのは、富士重工業 スバル技術本部 車体設計部 車体構造設計第2課 課長の渡辺淳氏。渡辺氏は冒頭、スバルの軽量化の歴史に触れ、スバル360(1958年)で先進的なモノコックボディーの採用や、FRP(Fiber Reinforced Plastics)のルーフパネルを採用してたこと、先代レガシィでは80kg~100kgの重量低減を実現したことなどを紹介した。

 このカーボンルーフは、炭素繊維に東レのT300-3Kを使用。炭素繊維は比重が1.4前後で、引張強度がスチールと同等以上であるため、比重7.85のスチールと比べると、はるかに軽いものを作ることができる。今回は、200g/m2平織りにしたクロスを4層にしてエポキシ樹脂で補強し、板厚を1.6mmにしたことで、引張強度255MPa以上としている。


カーボンルーフのカットモデル。左がフロント方向で、前端が丸められている。これは雨の進入などを防ぐ構造のためカーボンルーフのサイド部。車体に取り付けるための穴が用意されている

 開発には、スバルの航空宇宙部門である航空宇宙カンパニーの知見を活用。このカンパニーは、カーボンを多用する次世代旅客機 ボーイング 787 ドリームライナーの中央翼を生産しており、カーボンに対する高いノウハウを持っている。

 渡辺氏は、航空宇宙カンパニーから得られた知見として、「ボルト・ナット締結部の電気腐食回避」「締結部周辺の強度確保」「スチールとの熱収縮率差吸収構造」を挙げ、この知見により開発速度の向上が図れたと言う。

 カーボンルーフは東レの技術であるVaRTM(Vacuum assisted Resin
Transfer Molding)工法によって製造されており、同種の技術(A-VaRTM)は次世代国産旅客機「MRJ」での利用も予定されているほど。工程としては金型に炭素繊維を敷きバギングフィルムでカバー。真空ポンプで気圧を低くしたところに樹脂を流し込む。この圧力差により、樹脂を含浸させる。

 その結果ルーフ単体で5kgの軽量化を実現。ルーフ取付時でも4kg軽量となる。重心高もルーフ単体で2.1mm下がり、ロール慣性モーメントの低減に寄与すると言う。車体との接続は、ナット締結8点(左右4点ずつ)とボルト締結8点(前後4点ずつ)。ほかに全周で接着剤を用いている。

スバルの軽量化の歴史炭素繊維の特長航空宇宙カンパニーから寄せられた知見によって、開発速度を向上
カーボンルーフの製造方法。世界トップクラスのカーボンメーカーである東レの技術を使用カーボンルーフの取り付け方法フロント部の締結構造
カーボンルーフを採用するにあたっては、コンピューターによるシミュレーションも実施シミュレーションだけでなく、実車によるテストも実施カーボンルーフの採用により、ロール慣性モーメントが低減すると言う。重心位置はルーフ単体で2mm低下。車体全体で3.9mm下がった

 軽量化され、運動性能が上がるのはよいことだが、気になるのは剛性や寿命。剛性に関してはスチールと同等以上と言い、側面衝突試験なども実施して、スバル車ならではの安全性を実現しているとする。耐候性や寿命に関しては、関西ペイントと特殊な塗料を開発。10年以上の耐候性は確保していると語った。

 このカーボンルーフを採用した車は、STI(スバルテクニカインターナショナル)からインプレッサ WRX STI tSとして発売が予定されている。STIではすでに一部情報を公開しており、12月3日~21日まで先行予約キャンペーンを実施している。STIのサイトでは、4ドアの写真が使われ、そしてWRX STI tS/WRX STI A-Line tSと記載されていることから、MT車だけでなく、AT車も予定していると思われる。

 また、カーボンルーフに関しては、ほとんど手作業のような状態で作られているとのこと。STIコンプリートカーは、これまで限定車として発売されており、WRX STI tS/WRX STI A-Line tSも限定車となるのだろう。

STIのWebサイトではすでに予約を受け付けている先行予約をするとカーボンキーホルダーがプレゼントされる。WRX STI tS/WRX STI A-Line tSの文字が読み取れる

(編集部:谷川 潔)
2010年 12月 3日