シムドライブ、EV開発プロジェクト第2弾を開始
車の素材を鉄から化学製品へ。EVならではの用途も模索

参加企業の代表。中央はシムドライブの清水社長

2011年1月26日発表



 シムドライブは1月26日、電気自動車(EV)開発プロジェクト「先行開発車事業第2号」の発表会を開催した。

 同社はEV技術の普及を目的として2009年に創設された企業で、各種企業の賛同を募ってEV開発プロジェクトを推進している。創設者は清水浩社長で、清水社長は高速EV「エリーカ」などの開発で知られる。

 参加企業は参加費として2000万円が必要だが、プロジェクトで得られた知見は「オープンソース」として参加企業間で共有し、試作車をベースとした量産車を発売するなど、それぞれのビジネスに自由に活かすことができる。シムドライブの役割は、EVを販売することではなく、開発を取りまとめ、EV技術を普及させることだ。

 2010年1月には開発プロジェクト第1弾となる「先行開発車事業第1号」を開始。自動車メーカーと自動車関連企業、新規参入企業、自治体を含めた34の機関が参加し、1号車の開発を進めてきた。1号車は3月29日に秋葉原で披露される予定で、2013年の量産を目指す。

清水社長(左)とエリーカシムドライブの目的はEVの販売ではなく技術の普及
シムドライブは先行開発車事業と量産車開発支援を繰り返す参加費は2000万円だが、成果は自由に利用できる

 

2号プロジェクトの参加企業

インホイールモーターなどを継承
 第2弾プロジェクトとなる先行開発事業第2号には、1号と同様に34の企業が参加し、2号車を開発する。期間も1号と同じく1年間だ。2012年2月をめどに完成させ、ナンバーを申請、2014年頃の量産を目指す。

 2号車がどのようなクルマになるかは未定で、これから参加企業のディスカッションにより決定する。清水社長によれば「乗用車、多目的車、びっくりするような高性能のスポーツカーになるかもしれない。ただ、大型のバス・トラックにはならない」とのこと。

 しかしそのメカニズムは1号車と同じく、各ホイールにモーターを内蔵する「インホイールモーター」と、車体床下に走行に必要なコンポーネントを収める「コンポーネントビルトイン式フレーム」を採用する。モーターを車体に搭載する方式に比べ、これらは航続距離の伸長、車内空間の拡大、軽量化、低重心化、優れた衝突安全性の面で有利としている。

化学製品でEVを改革
 2号車の狙いは「1号車を発展させたEVの試作」。信頼性、耐久性、安全性を追求し、「NVH」と呼ばれる音、振動、突き上げに対してより高い配慮を払う。さらに将来の大量生産に向け、生産性を重視した設計、材料、部品の見直しを図る。

 2号車でのもう1つの大きなテーマは、化学素材を用いて軽量化やコストダウン、リサイクル性の改善を図ること。このため2号車のプロジェクトには化学産業から多数の企業が参加しており、さらに「電気自動車化学産業研究会」を立ち上げ、化学産業がEVにどのように貢献できるかを検討する。これは「年度をまたがった継続的な研究」として続ける。

 清水社長は「大きなイノベーションが起きるときは、これまでになかった新しい技術が入ってくるチャンス。内燃機関は鉄が素材の主役だったが、EVは化学産業から出てくる新しい素材に置き換わる1つのチャンスだ」と、化学企業の参加への期待を述べた。

インホイールモーターとコンポーネントビルトイン式フレーム2号車がどんなクルマになるは未定
2号車の目標

EVでの新たなアプリケーションを模索
 2号車にはさらに、「新しい概念で開発」し「自動車の常識にとらわれない、これまでにない新しい機能」を付加するという目的がある。

 具体的な機能は開発の過程で生まれることになるが、その方向性は清水社長によれば「たとえば電話の時代は音を聞くだけだったが、携帯電話になって機械が電気になったとたんに(メールなど)あらゆるアプリケーションが入ってきた。それをヒントに、クルマが電気になるということは、乗り物としてのクルマが変わるというだけでなく、その他のアプリケーションも大きく広がっていくことになるだろう。新しいアプリケーションにも構想を巡らせていこうと考えている」というもの。

 その例として「(2号プロジェクトにはタクシー会社の)東京エムケイが参加しているが、タクシーに使うクルマとしての機能だけでなく、どんな新しい付加価値を与えていけるか、といったことを頭の中に入れながら開発していきたい」を挙げた。

清水社長はコンバートEVを手がけたこともある

コンバートEVにもシムドライブの技術を
 2号プロジェクトでは、シムドライブの自主研究として、2号車のダイレクトドライブモーターとインバーター、バッテリーを使い、既存のガソリン車をEVに転換する、いわゆる「コンバートEV」も研究する。シムドライブの技術を使うことでコンバートEVも「1回の充電あたりの効率がよくなり、3割程度は航続距離が伸びる」(清水社長)。

 シムドライブの福武總一郎会長(ベネッセホールディングス会長)は、EV普及協議会会長としてコンバートEVのガイドラインを作っているところ。「世界の9億台と言われる石化燃料のクルマを少しでもEVに変え、子供たちに美しい地球を残したいという思いを実現できると思う」とコンバートEVの可能性を語り、コンバートEVの世界標準作りへの意欲を見せた。

1号車はマルチリンクとサイドインパクトモール採用
 発表会で清水社長は1号車の進捗状況に触れ、「2010年12月に内装の組み立てを開始した」と、横浜の工場で組み立て中の1号車のボディー、コンポーネントビルトイン式フレーム、インホイールモーターの写真を見せた。どの写真も本体にボカシが入っており、「3月29日をお楽しみに」という状態だが、順調な仕上がりを感じさせるものだった。

 1号車の狙いは、「高加速、高度車両制御の実現」「広い車室空間の確保」「航続距離の伸長」。このため、サスペンションにマルチリンクを採用し、ボディーはスチールモノコックと、床下のコンポーネントビルトイン式フレームを融合した。

 ボディー形状にはサイドインパクトモールを採用し、空気抵抗を低減。清水社長は「EVの航続距離にとって、電池容量以上に大切なのは、走行の時のエネルギーをどれだけ減らすか。インホイールモーターで駆動系のエネルギーを最小限にし、小さいタイヤによって転がり抵抗を低減、さらにボディー形状で空気抵抗を減らした」とその狙いを説明した。

披露された1号車の写真1号車のコンポーネントビルトイン式フレーム
1号車のモーター1号車の成果
2号プロジェクトに参加しているPSAプジョー・シトロエンのイゴール・ディメ氏。「技術の知識を蓄えられるだけでなく、さまざまな企業と知識を共有でき、日本の新しいカルチャーを体感できる」とプロジェクトの魅力を述べた

(編集部:田中真一郎)
2011年 1月 26日