トヨタ、「プリウス V/プラス」の国内版「スペースコンセプト」を公開
広い室内とハイブリッドの走りを両立

2011年3月8日



 「プリウス派生のワゴンが出るらしい」「いや、3列シートミニバンかもしれない」……かねてからこうしたウワサはあとをたたなかったわけだが、いよいよ現実味を帯びてきた。

 2011年初頭のデトロイトショーで披露された「プリウスV」、そして3月のジュネーブショーで話題騒然となった「プリウスプラス」。これらをベースとするプリウスから派生した新型車の、ほぼ市販レベルにある試作車「プリウス スペースコンセプト」に、一足早く触れることができた。

 このクルマには、ワゴンに相当する5人乗りと、ミニバンに相当する3列シート7人乗りがあり、双方の基本骨格は共通。4615×1775×1575mm(全長×全幅×全高)というボディーサイズは、プリウスよりも155mmも長く、30mmばかり幅広く、85mmも車高が高い。ホイールベースも2780mmと、80mm長くなっている。

 ただしこのクルマ、単にプリウスの室内と荷室を広くして、5人乗りと7人乗りを用意して、デザインをちょっと変えた、というわけではない。現行プリウスでは見送られたというか、次期プリウスまでおあずけにされてもおかしくない新たなアイテムが、少なからず投入されているのだ。

プリウス スペースコンセプト(7人乗り)

プリウスとの共通部品はごく少ない
 それについてはおいおい伝えするとして、まずは内外装から。エクステリアでのプリウスとの共通部品は、ドアハンドルとドアミラーとアンテナ程度で、ボディーパネルやガラスウインドー、ランプ類などは全面的に変更されている。

 サイドビューは、プリウスを象徴するトライアングルシルエットを継承しながら、ルーフ後方に居住空間を確保するためのフォルムを融合させ、広いスペースと空力性能を両立。

 大型のアンダーグリルや特徴的なデザインのヘッドランプを持つフロントも、プリウスと似て非なる。縦基調のターンランプを一体化したバンパーサイドのエアロコーナー部も印象的で、アッパーグリルまわりには、最近発売されたラクティスやヴィッツとの共通性も見受けられる。

 リアまわりでは、ターンランプ部分を左右に突出させてワイド感を強調し、安定感を演出。バックドアの面構成には独特の抑揚が与えられている。もちろん、一連のデザインは空力性能にも大いに配慮したものであり、Cd値は0.29を実現している。

 また、17インチアルミホイール、ホイールキャップ付16インチアルミ、16インチホイールキャップという3タイプが用意されるホイールのデザインも一新されている。ボディーカラーは、新色「クリアーストームメタリック」を含む全8色が用意される。

こちらは5人乗り。外観から7人乗りと見分けがつかない
プリウスに似ているが、まったく異なる前後ランプクラスタ
トヨタの他のハイブリッド車にならって、青いトヨタのエンブレムと「ハイブリッドシナジードライブ」のバッヂを付けている

質感が高まったインテリア
 インテリアは全体的に質感が高まっており、要所にソフトパッドを採用する点も特筆できるが、プリウスとの共通部分というと、ステアリングホイールとドアハンドルぐらいのもの。水平方向に通された、横の広がりを感じさせるインストゥルメントパネルは、センターメーターを踏襲しているものの、プリウスとは雰囲気がだいぶ異なり、よりオーソドックスにデザインされている。

 センターメーターには、運転に必要な情報の表示がドライバーに近くに優先配置されており、プリウスにはないEV走行インジケーターランプが追加されたほか、カーナビのディスプレイには新しい燃費表示機能が加わった。

 センタークラスターには運転操作に必要なスイッチ類をシルバーオーナメントパネルに集約させ、ナビやエアコン類の操作と区分する工夫もこらされている。

 また、特徴的な装備として、新たに採用されたワンダイヤルエアコンディショナーコントロールも挙げられる。これは見栄えがスッキリする上、とても使いやすく好印象だ。

 そしてプリウスのインテリアデザインは、センタークラスターからコンソールにかけてブリッジ状につながっているのが特徴だが、スペースコンセプトはデザイン的なつながりはあるものの、形状としては分断されている。

 センターコンソールは、5人乗りと7人乗りで位置や形状が異なり、7人乗りでは、後述する3列シートを実現するため、この中に新開発の小型リチウムイオンバッテリーが搭載される。

 また、オプションとして用意されるパノラマルーフが、軽量化のため樹脂製とされたのも特徴。外から見ると1枚の開口面積の大きいサンルーフだが、実際にはツインサンルーフであり、中央のバー内に収まる電動ロールスクリーンが備わる。

水平基調のインストルメントパネル。センタークラスターとコンソールはつながっていないセンタークラスター右のシルバーの部分はエレクトロシフトマチックやスターターボタンといった運転に関わる操作系、ブラックの部分はインフォテインメントとエアコンの操作系に区分されている。アームレスト前部にEVモード、エコモード、パワーモードの切り替えスイッチがある
ワンダイヤルエアコンコントロール。中央のダイヤルだけで風量、温度、吹き出し口を変更できる。ダイヤルを左右にスライドさせると、風量、温度、吹き出し口の操作を切り替えることができるステアリングホイールはプリウスと同じカーナビディスプレイにはおなじみのエネルギーモニターを表示できる
センターメーターの表示。ドライバー側にハイブリッドインジケーターなどを寄せている樹脂製のパノラマルーフ

ボディー拡大の恩恵を活かしたパッケージング
 パッケージングについては、5人乗りと7人乗りにおいて、1列目と2列目については基本的に同じと考えていい。1列目のヒップポイントは、プリウスに対し+30mmの605mmで、2列目が同+80mmの650mmとなっている。7人乗りの3列目のヒップポイントは、2列目に対して、1列目と2列目の差と同じ45mm高い695mmとなる。

 1列目シートは、基本骨格はプリウスと同じで、ヒップポイントを高めるとともに、サイドサポートをやや張り出させている。2列目シートは6:4分割可倒式で、180mmの前後スライドとリクライニング機構を持つ。ただし、7人乗りでは3列目へのウォークイン機構が備わる点が5人乗りと異なる。

 ヘッドクリアランスは、1列目がプリウスに対し+25mmの90mm、2列目が同+45mmの75mmと、全高の拡大の恩恵が如実に表れており、7人乗りの3列目でも10mmが確保されている。

 前後席間距離について、1列目~2列目間がプリウス比で+35mmとなる965mm、1列目~3列目間も1635mmと十分に確保されている。

7人乗りの室内。写真右のように2列目を3ノッチほど前に出した状態が、3列目シート乗車に最適
3列目シート。専用カップホルダーが備わり、リクライニングさせることもできる
7人乗りのカットモデル
7人乗り用リチウムイオンバッテリー。左右前席の間、センターコンソール部に収められる。5人乗りはプリウス同様に、後席背後にニッケル水素バッテリーを搭載する。どちらも出力や容量はほぼ同じ

 

5人乗りの車内

 ラゲッジスペースは、5人乗りと7人乗りでは当然作りが異なるわけだが、いずれも使い勝手がよさそうだ。5人乗りでは、奥行きは、プリウス比で+75mmとなる985mmもあり、容量は535Lを確保。9.5インチのゴルフバッグなら4セットの収納が可能と、かなり広い。

 7人乗りでは、3列目シートを使うと、荷室長は375mmで、容量は200リットルとなるが、3列目シートは5:5分割可倒式で、シートバックを前倒しすると連動して座面が沈み込むことで、フロア面が低くなり、5人乗りとそん色なく使えるような仕組みとなっている。

 7人乗りの3列目シートのあるスペースに、5人乗りではプリウス同様に駆動用のニッケル水素バッテリーがラゲッジスペース床下に配置される。

 ラゲッジ後端には双方とも60Lの容量を持つ大型のデッキアンダートレイを持つうえ、5人乗りにはさらに15Lの小型アンダートレイまで備わるので、必要に応じて使い分けることができる。

7人乗りのラゲッジスペース。デッキアンダートレイのカバーは立てて固定できる
5人乗りのラゲッジスペース。大小2つのデッキアンダートレイが備えられる

パワートレーンやサスペンションを最適化
 パワートレインは、プリウスと共通の「THS II」だが、約100kg増となる車重に合わせて、ローギアード化されている。さらに、モーターの発熱への対応として、新たに冷却を水冷式としたのもポイントだ。

 走行モードが、ノーマルのほかにエコドライブモードとパワーモード、EVドライブモードという3タイプが選べるのもプリウスと同じ。

 燃費については、開発者より「10・15モードで30km/L以上を目指す」というアナウンスはあったものの、具体的な目標値を教えてもらうことはできなかった。とはいえ、すでに燃費については突出したものをもっているプリウスのシステムを譲り受けているだけに、期待を裏切ることはないはずだ。

基本的にプリウスと同じパワートレーンだが、増えた車重に合わせて変更されているリアウインドーの燃費・排ガスステッカー

 サスペンション形式は、フロントがマクファーソンストラット、リアがトーションビーム式と、形式もジオメトリーの設定もプリウスと同じだが、味付けがだいぶ異なる。

 さらに、ばね上制振制御という新しいアイデアを投入していることに注目。これはモーターのトルク制御により、路面の凹凸に応じて、リアルタイムで路面入力によるピッチングの挙動を抑制することで、乗り心地と操安性を向上させようというものだ。

ばね上制振制御の効果は高い
 わずか3周ではあったが、東京 お台場のメガウェブの「ライドワン」のコースを走っただけでも、いろいろなことを感じ取ることができた。

 まず、車重が重くなったことは、やはり体感するのだが、動力性能面でのハンデは感じられず、これで十分。また、モード切り替えでは、ノーマルとパワーとの差がよりわかりやすくなっていたのも、味付けの表れであろう。

 そして、上限60km/h程度で走ったのだが、全体的に静粛性が格段に高くなっていることに驚いた。これは意外だったのだが、訊けば、吸遮音材の最適配置には、かなりこだわったとのことだった。

7人乗り

 フットワークについても、ステアリングフィールがしっかりとし、切り込んだときの反応がより素直になった印象。クルマの姿勢も終始フラットで、乗り心地が十分に快適でありながら、重心がそれなりに高くなっているにもかかわらず、ロールも抑えられているのだ。

 これらには、前述のばね上制振制御がかなり効いている模様。モーターの駆動力で車両の姿勢を制御するなんていうことができるのに、大いに驚かされた次第である。いずれリアルワールドで、いろいろな道を走って試してみたい。

 また、プリウスではなにかと指摘されることが多い、後席の乗り心地についても、念のため後席にも乗ってチェックしたのだが、こちらはいたって快適だ。居住空間もプリウスよりも格段に広く確保されているので、後席に人を乗せる機会の多いユーザーは、このクルマの発売を待ったほうが賢明かもしれない。

 ちなみに3列目については、さすがに広いとはいえないものの、平均的な成人男性であれば乗れなくはないだろう。フロアと座面の距離が近いので、太腿の裏は浮いてしまうが、2列目の下に爪先が入れられるようにされているあたり、ユーザーに配慮した細やかな心配りが感じられる。

 というわけだが、このクルマの発表は4月下旬の予定とのことで、待ち遠しい限り。正式な車名やグレード構成、価格についてはまだ明らかにされていないが、売れる要素の揃ったクルマだけに、プリウス大ヒット伝説の第2章の狼煙が上がる予感!?

5人乗り

(岡本幸一郎)
2011年 3月 9日