新体制でSUPER GTに挑む「エヴァンゲリオンレーシング」 初号機&弐号機でチャンピオンを目指す |
5月1日、富士スピードウェイ(静岡県駿東郡小山町)で2011 AUTOBACS SUPER GT第2戦「FUJI GT 400km RACE」の決勝が開催された。レース結果などは既に別記事で紹介しているので、本記事ではCar Watchの読者に人気の高い、エヴァンゲリオンレーシングの各セッションの詳細、マシン、ドライバー、レースクイーンのフォトギャラリーなどをお届けする。
2010年、鮮烈なデビューをしたエヴァンゲリオンレーシングは新体制で2011年もSUPER GTに参戦することになった。昨年は31号車 エヴァンゲリオンRT初号機aprカローラとして参戦したが、今年は毎年シリーズチャンピオン争いを行ってきた強豪マシン「紫電」とタッグを組むことになった。
エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電 |
紫電は“違いのわかる男”レーシングカーデザイナーの由良拓也氏がデザインを手掛け、独特のフォルムで個性を放つ人気マシンだ。GT300クラスのドライバーズポイントで2006年 2位、2007年 2位、2008年 4位、2009年 6位、2010年 4位と常に優勝争いしてきた、人気、実力ともトップクラスのマシン。偶然なのか宿命なのか、その車両の名前とも共通する「紫」色の初号機にカラーリングを一新し「エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電」に生まれ変わった。
余談だが、レースファンでも若い方は由良拓也氏のキャッチフレーズとしてよく登場する“違いのわかる男”という意味が分からないであろう。“違いのわかる男”は1984年にネスカフェ ゴールドブレンドのCMに登場して以来、由良氏のキャッチフレーズとなっている。ちなみに1980年代にはファッションデザイナーのやまもと寛斎氏、俳優の高倉健氏、シンガーソングライターの小田和正氏などがこのCMに登場している。YouTubeで「1984 Nescafe Gold Blend」で検索すると、若き日の由良氏、3年後にF1デビューする中嶋悟氏、日本のレース史に残るGCマシンが映る当時のCMを見ることができる。
エヴァンゲリオンRT弐号機DIRECTION |
当初はエヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電だけの参戦と思われたが、開幕直前に弐号機の参戦も発表された。弐号機はPORSCHE 911 GT3Rによる「エヴァンゲリオンRT弐号機DIRECTION」。ポルシェカレラカップ ジャパンにて豊富なキャリアを持つDIRECTION RACINGとタッグを組み、ベースマシンはFIA-GT3新型車両「PORSCHE 911 GT3R」という強力な布陣だ。
エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電のドライバーは加藤寛規選手と高橋一穂選手。加藤寛規選手はル・マン24時間、フォーミュラ・ニッポン、FIAスポーツカー選手権、F3マカオGPなど豊富な経験を持つドライバーで、2006年の紫電デビューからずっとステアリングを握っている。
高橋一穂選手は実業家兼レーシングドライバー。ホンダベルノ東海(現:Honda Cars 東海)を興し、その後事業を拡大。現在はHonda Cars 東海、静岡日産、長野日産、J-netレンタカーなどを傘下に収める年商900億円、従業員1900名のVTホールディングスの代表を務めている。2001年から全日本GT選手権に参戦、2006年から加藤寛規選手とともに紫電のステアリングを握り、2009年、2010年は本業に専念するため1戦のみのスポット参戦だったが今年はフル参戦する。
エヴァンゲリオンRT弐号機DIRECTIONのドライバーはカルロ・ヴァン・ダム選手と水谷晃選手。カルロ・ヴァン・ダム選手はオランダ出身で、2007年ドイツF3選手権、2008年全日本F3選手権でシリーズチャンピオンを獲得している。水谷晃選手は輸入車販売を行うディレクションの代表で、自らポルシェカレラカップに参戦、ステアリングを握っている。DIRECTION RACINGとしてはSUPER GT初参戦となる。
今年もエヴァンゲリオンレーシングを応援する個人スポンサー「EVA RACING SUPPORTERS 2011」の募集を行っている。ホワイトコースからブラックまで5つのコースがあり、コースによって金額と特典が異なっている。エヴァンゲリオンレーシングの公式サイトから申し込みが可能だ。
特典の数々 | エヴァレーシング2011 キャップ | エヴァレーシング2011 リストウォッチ |
SUPER GTは、本来4月2日、3日に岡山国際サーキットで第1戦が行われる予定だったが、震災の影響で延期となり第2戦の「FUJI GT 400km RACE」が開幕戦となった。レースタイトルは「FUJI GT 400km RACE」となっているが、距離は300kmに短縮されている。
■習熟走行(4月29日)
通常は土曜、日曜の2日間で行われるSUPER GTだが、今回は震災後のテストが中止になったことにより金曜日に習熟走行が行われ、12時から1回目の走行が始まった。2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電は加藤寛規選手が先にコースイン。12周を周回し10周目に1分45秒568のベストラップを叩き出した。続いて高橋一穂選手がコースイン。ピットインを繰り返しながら22周を行い,
20周目に出した1分47秒376ベストラップとなった。加藤寛規選手のタイムは参加した22台中9位とまずまずのタイムだ。
7号車 エヴァンゲリオンRT弐号機DIRECTIONはカルロ・ヴァン・ダム選手からコースイン。3回のピットインを行うなどセッティングを変えながら19周を周回。14周目に1分44秒825のベストラップを記録した。水谷晃選手はピットインは行わず16周を連続周回、11周目の1分47秒400がこのセッションのベストタイムとなった。カルロ・ヴァン・ダム選手のタイムは22台中3位とSUPER GT初参戦でいきなり実力の片鱗を見せた。ちなみにセッション1位は33号車 HANKOOK PORSCHE、2位は25号車 ZENT Porsche RSRとポルシェ勢がトップ3を独占した。
走行を開始した初号機、弐号機 |
15時半から行われた2回目のセッションも、2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電は加藤寛規選手が先にコースイン。1回目のタイムを上回る1分44秒340を記録し、この時点でGT300クラスの最速ラップを叩き出した。続く高橋一穂選手も1分46秒986とを1回目のタイムを短縮した。
7号車 エヴァンゲリオンRT弐号機DIRECTIONもカルロ・ヴァン・ダム選手が先にコースイン。1回目の走行で安定しなかったリアまわりのセッティングを見直し、さらなるタイムアップを狙ったが4周目に悪夢が発生した。7号車 エヴァンゲリオンRT弐号機DIRECTIONはエンジンブローを起こし、エンジンブロックにこぶし大の穴が開く甚大なるダメージを負った。マシンサプライヤーと通じ、ドイツのポルシェAGとも協議を行うが、レースウィーク中のマシン修復は不可能と判断、予選、決勝への参戦を断念することになった。
2回目のセッションは加藤寛規選手の出したタイムを上回るチームはなく、この日のトップは2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電となった。7号車 エヴァンゲリオンRT弐号機DIRECTIONのリタイヤはあったが、エヴァンゲリオンレーシングとしては予選、決勝に期待のできる結果となった。
■公式練習(4月30日)
土曜日、今年のSUPER GTが開幕を迎えた。天候は晴れ、しかしサーキットはテントが飛ばされるほどの強風が吹き荒れた。この日も2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電は加藤寛規選手からコースイン。9周目に前日を上回る1分44秒243を記録、続く高橋一穂選手も1分46秒602とタイムアップを図るが、この日はFIA GT勢が43秒台を続々と記録、上位8台にフェラーリ、ポルシェ、BMW、アストンマーチン、ランボルギーニが名を連ねた。結局このセッションは10位にとどまることとなった。
■公式予選(4月30日)
今回の予選方式はスーパーラップ。1回目の予選で10位以内に入ったマシンが1台ずつタイムアタックを行い決勝のスターティンググリッドを決める方式だ。まずは公式予選で10位以内に入ることが重要だ。
このセッションは高橋一穂選手からコースイン。GT300、GT500の混走時間にタイムアタックを行い1分46秒389を記録。ストレートに強い追い風が吹いているのでセッティングを変更し加藤寛規選手にステアリングを譲った。一度ピットインしNEWタイヤに交換、GT300占有走行にタイムアタック。1分43秒850と43秒台に入れてきた。結果は10位、ギリギリでスーパーラップ進出を果たした。
ライトを点けスーパーラップのタイムアタックを行う加藤選手 |
■スーパーラップ(4月30日)
スーパーラップは公式予選10位のマシンから1台ずつタイムアタックを行い、最後に1位のマシンが登場する。公式予選10位の2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電は一番最初に登場した。テーマ曲「残酷な天使のテーゼ」がサーキット内に響く中、加藤寛規選手がタイムアタック。1分43秒814を記録し残り9台のアタックを待つことになった。
続いてタイムアタックした11号車 JIMGAINER DIXCEL DUNLOP 458、その次の43号車 ARTA Garaiyaも2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電のタイムを上回れず8位以内が確定。続いてアタックした87号車 リール ランボルギーニ RG-3はスピンしてノータイムとなり7位以内。もしかすると……と思いかけたが27号車 PACIFIC NAC イカ娘 フェラーリが1分43秒181を出しあっさり2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電のタイムを上回った。
その後は続々とタイムを更新されたが、25号車 ZENT Porsche RSRがスピン、トップタイムを叩き出した88号車 JLOC ランボルギーニ RG-3が車両規定違反で失格となり、最終的に5番手ポジションを獲得することができた。直線が速いFIA GT勢が有利な富士スピードウェイでは上々の結果だろう。
■ピット&イベント
SUPER GTではピットウォーク、キッズウォーク、グランドスタンド裏のステージなど数多くのイベントが行われている。土曜、日曜に行われるピットウォークには溢れるほどの人がピットレーンに集まった。
昨年同様エヴァンゲリオンレーシングの人気は高くカメラの砲列が集まっていた。2台体制で参戦することになり、昨年まで3人だったレースクイーンが今年は5人となっている。昨年に引き続き綾波レイ役は水谷望愛さん、式波・アスカ・ラングレー役は千葉悠凪さんが登場、新たに真希波・マリ・イラストリアス役は水乃麻奈さん、さらに碇シンジ役として清水恵理さん、渚カヲル役として采女華さんが加わりエヴァンゲリオンレーシングを盛り上げることとなる。
綾波レイ役は水谷望愛さん | アスカ役は千葉悠凪さん | マリ役は水乃麻奈さん |
シンジ役は清水恵理さん | カヲル役は采女華さん | キッズウォークの様子 |
土曜のピットウォークから多くのファンがエヴァンゲリオンレーシングのピットに集まった | 日曜は小雨の中でピットウォークが行われた。レースクイーンにカメラの砲列 | グランドスタンド裏のステージに登場したレースクイーン。多くのファンが詰めかけた |
■決勝(5月1日)
決勝が行われた5月1日は、午前中から弱い雨が降っていた。午前中に行われたフリー走行は水煙が上がらない程度の路面。レーススタート1時間前に行われる8分間のウォームアップ走行も同様でスリックタイヤでも走れる程度の路面コンディションだった。
決勝日の朝は小雨、路面もそれほど濡れていなかった | いよいよ決勝に向けてピットから出陣 | 残念ながら決勝へ進むことができなかった弐号機 |
8分間のウォームアップ走行はピットインを繰り返しタイヤをチェック |
5番グリッドに並んだ初号機 |
ところが、グリッドにマシンを送り出す頃から強い雨が降り出し、マシンがグリッドに並ぶ頃には完全なウェット路面へ急変した。だが最終コーナー側の空はやや明るく、スタート後に雨が止み路面が回復する可能性もあり、タイヤ選択が難しい状況でレーススタートの14時を迎えた。
2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電の作戦は、もし路面が乾いても、それほどグリップは高くならないと判断、ローブリップ路面に対応したマシンセッティングで臨むこととなった。タイヤはヘビーウェットからドライまで4パターンを想定することになった。
スタートを努めるのは加藤寛規選手。速さを活かし規定周回数ギリギリの2/3まで引っ張り、残りの1/3を高橋一穂選手が担当する。
スタートは5位をキープ |
通常はセーフティーカーが先導して1周のフォーメーションラップが行われ、セーフティーカーがピットに退きローリングスタートとなるが、セーフティーカー先導中にもスピンするマシンが出るほど路面コンディションは厳しく、5周に渡りセーフティーカーが先導、6周目から実質的にレースはスタートした。
1コーナーは各車順調に抜けていったが、66号車 triple a Vantage GT2がヘアピンでスピン。これで2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電は4位にポジションアップ。だが、続く7周目の1コーナーでは25号車 ZENT Porsche RSRが2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電のインに飛び込み2台はサイド・バイ・サイドでコーナーを抜け立ち上がりで25号車 ZENT Porsche RSRが先行、5位に後退した。さらにダンロップコーナー手前で62号車 R&D SPORT LEGACY B4にも抜かれ6位に。
7周目の1コーナー。25号車と競り合い5位に後退 |
しかし、8周目のダンロップコーナー進入で27号車 PACIFIC NAC イカ娘 フェラーリのインに入り再び5位へ順位を戻した。ところが9周目。1コーナーを過ぎたところで突然スロー走行、ランオフエリアにマシンを停止した。
62号車に抜かれ6位へ後退 | 27号車を抜き5位へポジションを戻した |
加藤寛規選手から「エンジン止まった」と無線でが入る。再始動を試みるが、スターターモーターは回るがエンジンは始動しない。メカニックが、サブポンプの使用等、他の始動方法を伝えるがエンジンは始動せず、雨の降るコースサイドで加藤寛規選手はマシンを降りることとなった。実質わずか3周でリタイヤとなり、まずまずのポジションに付けていただけに悔やまれる開幕戦となった。
1コーナーを抜けたところでエンジンストップ。加藤選手はマシンを降りた |
●加藤選手のコメント
原因はまだ分からないですが、突然エンジンが吹けなくなってしまいました。車が調子よかっただけに勿体ないと思ってるんですが、これもレースなんで仕方がないと思います。かなり手応えもあったし、次戦で挽回するよう頑張ります。
●高橋選手のコメント
もし走ってれば、後半ボクが頑張って表彰台は固かったっでしょう。次戦の岡山で頑張ります。
●渡邊エンジニアのコメント
かなり雨量が多くても走れる様にセットアップを施し、スタートして混乱のある中、比較的いい場所にいて、タイヤも暖まってきて、これから順位を上げていこうと思ったところで突然エンジンが止まってしまった。まだはっきりした原因がまだ分からないが、加藤選手もすごくよいバランスだったと言うことで残念でした。細かい原因を探求して次の岡山に挑みます。
次戦、次戦は震災で延期となった第1戦「OKAYAMA GT 300km RACE」が、岡山国際サーキットで5月21日、22日に行われる。
■エヴァンゲリオンレーシング フォトギャラリー
以下に、エヴァンゲリオンレーシング関連の写真をフォトギャラリー形式で掲載する。画像をクリックすると、フルHD解像度(1920×1080ピクセル)などで開くので、その迫力の写真を楽しんでほしい。また、拡大写真については、Tv(シャッター速度)、Av(絞り数値)などのEXIF情報を一部残してある。撮影時の参考にしていただければ幸いだ。
(奥川浩彦)
2011年 5月 17日