CEATECで三菱自動車 益子社長と日産 志賀COOによるゲストスピーチ
「時代を変えることに貢献していきたい」

「新しいエネルギー、EV」と題したゲストスピーチ

2011年10月4日開催



 10月4日、IT・エレクトロニクスの総合展示会「CEATEC JAPAN 2011」が幕張メッセ(千葉県千葉市美浜区)で開幕した。今年のCEATECは、東京モーターショーと連携しており、会場の各所でクルマに関連する展示、とくに電気自動車(EV)に関する展示を見ることができる。会場の出展内容は追ってお届けするが、本記事では基調講演に続いて行われた、「新しいエネルギー、EV」と題したゲストスピーチの模様をお届けする。

今年のCEATECでは、各所にEV、EV関連技術の展示が行われている

EVで世界をリードする三菱自動車と日産
 ゲストスピーチは、世界で初めて量産EV「i-MiEV」を市販した三菱自動車工業 代表取締役社長の益子修氏と、同じく量産EV「リーフ」を発売する日産自動車 代表取締役COO(最高執行責任者)の志賀俊之氏、モデレーターは、自身も電気自動車を所有するというジャーナリストの木村太郎氏が努めた。志賀氏は現在、自工会(日本自動車工業会)の会長にも就任しており、その立場からの発言も見られた。

モデレーターの木村太郎氏三菱自動車工業 代表取締役社長 益子修氏日産自動車 代表取締役COO(最高執行責任者)志賀俊之氏。自工会会長も努める

 木村氏はまず、「3.11の東日本大震災の後、EVはどう変わってきたのか」と両氏に質問。益子社長は、「3.11の直後にEVを被災地に送ってほしいという要望があった。『なぜEV』と思ったが、よく聞くとガソリンスタンドは流され、残ったスタンドにもガソリンが届かない。電力の復旧のほうが早い地域があり、手持ちのクルマや試乗車を集め、89台を現地に送った」と言い、医療関係者や福祉事務所の人達に使われていたのだと言う。そろそろ返却されるかなと思っているが、なかなか帰ってこないので寄付するしかないだろうと、その現状を語った。

 その上で、3.11後エネルギー問題が注目されていることから「EVから電気を取り出そうとしている。2012年3月までには、電気を取り出せるようにして、家電に使っていただく」と、具体的なスケジュールを口にした。

 志賀COOは、「益子社長の言われるように、被災地ではいつガソリンが来るか分からない状況だった。日産もすぐにEVを被災地に送った」とやはり支援について語った上で、「3.11以降はエネルギーというものに対して考えるきっかけになった。ガソリンや電気は届くのが当たり前だったが、そうではなくなった」という認識を示した。日産はこのCEATECで、スマートグリッドや、EVと電気をやりとりできるスマートハウスの展示を行っており、そこでは、リーフから電気を取り出し、約2日間の家庭電力がまかなえるという展示を行っている。


EVは家電になったのか?
 木村氏は、i-MiEVがヤマダ電機で売られていることや、CEATECでEV関連の展示が多いことから「EVは家電になったといえるのではないか?」と両氏に質問を投げかける。

 益子社長は、「自動車ディーラーは、クルマを買う方が入ってくる。一方家電量販店は、家族連れなど非常に多くの方が訪れる」と、ディーラーと家電量販店の客層の違いに触れ、異なった層への展示の意味で販売提携をしたものの、3.11後は実際に家電量販店で買う人が増え、EVの販売が予想外に伸びていると言う。

 日産はCEATECには積極的に取り組んでおり、2007年に初出展。EVの主要部品となる電池に関しては、「携帯用のビデオカメラに開発したものから始めた」(志賀COO)と言い、そこから家電メーカーのつきあいが始まっている。とくに志賀COOが強調していたのが、「クルマがインターネットとつながる」という個所で、リーフに関してもインターネット接続の仕組みを持ち、充電スタンドなどさまざまな情報の提供が始まっている。

スマートグリッドの時代はいつ頃来るのか
 EVというと、EVに蓄電した電池を地域で共有して利用するスマートグリッドが話題となっている。CEATECにおいてもスマートグリッド関連のハードウェアやエネルギーマネジメントソフトウェアの展示などが行われていた。

 木村氏は、現在展示や実証実験段階にあるスマートグリッドの時代がいつごろ到来するかを質問。志賀COOは、「スマートグリッドという言葉は、3年ほど前に出てきたが、日本は当時電力供給がきちんとしているため、遠い言葉だった。震災以降それは代わり、電力を上手に使っていくことが求められている」とその必要性が高まっていると言い、「自然エネルギーを(EVや電池に)ため、地域で共有し、街全体がEVを共有していくスマートグリッドになるのないか」と、その将来像を示した。


将来、EVはどうなっていくのか
 では、そこで使われるEVはどうなっていくのだろう。両氏とも、電池の進化による航続距離の増加を予測しつつ、次の技術トピックはインホイールモーターにあると言う。現在、i-MiEV、リーフとも車体内にモーターを搭載し、駆動システムを介してタイヤを駆動している。インホイールモーターは、ホイール内にモーターを内蔵し、駆動ロスの小さいEVが実現できる。「i-MiEVは、当初Mitsubishi in Wheel Motor EVの略だった。あの時点では、インホイールモーターを製品化できないため、iはイノベーティブ(Innovative)という位置づけになった」(益子社長)と、インホイールモーター車の開発が進んでいることを示唆。志賀COOも、「インホイールモーター車は、デザインの可能性がある」と言い、次世代EVとしての可能性を認めた。

 木村氏が問題にしたのは、かつて日本が世界の最先端を走りながら、グローバルスタンダードを得られなかったために、外国勢に逆転されてしまった分野が多いこと。木村氏の「EVに関しては、三菱自動車と日産の2社が世界をリードしているが、同様の可能性はないのか」という質問に対し、志賀COOは「リーフはインターネットで常時接続して、使われ方の情報を記録している。最初にEVを普及させ、お客様のデータをベースにして、次の技術革新をしていくことで、競争上の優位性を保っていけると思う」と言い、益子社長は欧州でのシトロエンとの提携に触れ、欧州でのEV普及を図っていくとした。

 志賀COOは、「日本だけにこもっていては、ケータイのようにガラパゴス化という道がある。ただ、自動車というものは化石燃料に依存する以上、地球環境に負荷をかけている。どこかで再生可能エネルギーを使い、EVを世界的に普及させるというのは、自動車に携わる人の共通の思い」とし、EVの普及は世界的な流れにあり、そこで先行して製品を出し続けることで、リードは可能であるとした。

 また、EVが普及していくためには、充電器のコネクターや充電マネジメントシステムなどの共通化が求められるが、それに関しても日本のCHAdeMO(チャデモ)を、世界中の国際標準にできないかという活動をしているとし、「米国カリフォルニア州では日本と同じタイプの急速充電器が普及し始めている」(志賀COO)と語った(志賀COOは、9月1日よりチャデモ協議会の会長に就任)。

日本の復旧・復興のためのEV
 3.11以降、日本ではエネルギーが大きな問題となり、東北では復旧・復興へ向かっての取り組みが始まっている。志賀COOは、「EVでは、クルマ、バッテリーを含め、現在世界の先頭を走っているが、たとえばリチウムイオンバッテリーでは他国の生産量が増えている。ガラパゴスになるのではなく、日本のEVが世界の標準になっていく、日本の成長の原動力になっていく。そういうお役に立てればなと思っている」と言い、EVを進めていくことが日本の復旧・復興にもつながっていくのだと語る。

 益子社長は、「i-MiEVの発売は、T型フォードの生産開始から100年目だった。20世紀は石油の世紀だったが、環境問題、石油エネルギー問題が出てきた。今後も新興国ではクルマは増えて行かざるを得ないが、脱石油エネルギーを図っていく必要がある」と言い、「EVを生み出したが、改めて今大きなものにチャレンジし始めたのだのだな」と語る。志賀COOは、「世界中でEVへの開発の波が起こっている。EVを出したが、21世紀に入っての大きな変化のスタートに立っているんだなと。そういう意味で、スマートグリッド、スマートハウスなど時代を変えることに貢献していきたい」と語るなど、EVへの取り組みが時代の変革につながるという認識をともに示した。

(編集部:谷川 潔)
2011年 10月 4日