フォーミュラ・ニッポンで開発が進む電動アシスト機能「システム-E」
バッテリーメーカーの参入を歓迎


 国内最高峰レースとなるフォーミュラ・ニッポン。観客動員数はSUPER GTと比べ、大きく差をつけられているものの、レース内容は見応えのある戦いが続いている。そのフォーミュラ・ニッポンで開発を進めているのが、電動アシスト機能「システム-E」だ。

 このシステム-Eは、ドライバーが任意のタイミングでモーターを動作させ駆動をアシストする機構で、現実的には現在導入されているオーバーテイクシステムに近い運用になるだろう。エンジンの特性上、既存のオーバーテイクシステムでは必ずしも有効ではなかった一時的な高出力化を、電気モーターにより確実に得ることを目的としており、今まで以上のエキサイティングなオーバーテイクシーンやレース中の駆け引きの面白さを増すことが狙いとなっている。なお、電気モーターのため、燃費向上にもつながるシステムだが、フォーミュラ・ニッポンを運営するJRP(日本レースプロモーション)によると、このシステムをもってフォーミュラ・ニッポンを燃費レースに移行する意図は当面ないと言う。

 11月28日、29日に、このシステム-Eを搭載したフォーミュラ・ニッポンの車両のテストが富士スピードウェイで行われた。当初、今年の春からテストが行われる予定だったシステム-Eだが東日本大震災等の影響もあり第1回目の実走テストは9月中旬の鈴鹿で行われ、今回の富士は2回目となる。

 鈴鹿では主に走行中の振動やそのほかさまざまな負荷や熱対策のテスト、メカニズムの初期チェック等が行われたため、トヨタ、ホンダの開発を担う松田次生、道上龍、両ドライバーにとっても、モーターによるパワーアシストを体感する初めてのテストとなった。

トヨタのテストカーは松田次生選手がドライブホンダのテストカーは道上龍選手がドライブ

 今回はトヨタのテストカーに搭載された「システム-E」を簡単に紹介する。ベース車輌は2009年シーズンより導入している、スウィフト・エンジニアリング製「FN09」となり、右のサイドポンツーンにバッテリー、左のサイドポンツーンにインバーターを搭載する。重量は、バッテリーが20kg、インバーターが7kg。クーリングシステムや高電圧配線等も含めたシステム重量はトータル53kg程度で、ECUやシステム全体の冷却を行うラジエターは左側インバーター前部に配置されていた。

 モーターはZytek製でホンダと同じモデルを採用し、バッテリーはトヨタのみA123製リチウムイオンバッテリーとなっていた。

テスト車は既存のFN09にシステム-Eを搭載する。メカニックは300~400Vという高電圧に配慮し絶縁手袋での作業となるモーターはミッション左側に配置
右側のサイドポンツーン内に収められたバッテリー(黄色)左側にはインバーター(奥の青色部分)左側にはECUやシステム用ラジエターを搭載

 テストドライブを受け持った松田選手によると、FN09のサイドポンツーンの左右に大きな付加物が追加された空力特性の変化(悪化)の影響は大きい半面、4速~5速あたりでのモーターアシストは確実に効いているとのこと。なお現状では最大54馬力程のモーターを搭載しているが、バッテリー等の性能により実質的には25馬力程度のアシストしか得られていない。

ステアリング左上の緑のオーバーテイクボタンでモーターアシストが作動するテストを行うトヨタ自動車 モータースポーツ部グループ長の松浦幸三氏システム-Eの感想を語ってくれた松田次生選手

 2日間の合同テストを通して得られたタイムは、ノーマルカーのトップがJ.P.デ・オリベイラ選手(TEAM IMPUL)の1分23秒356に対し、システム-Eを搭載したホンダのテストカーが1分26秒739、トヨタのテストカーが1分27秒397と、まだまだその差は大きく、現時点で来シーズンの採用は難しそうだ。

 テスト終了後、JRP、トヨタ、ホンダの関係者による意見交換会が行われた。トヨタ、ホンダともにバッテリーがこのシステムの性能へのキーデバイスという点で一致しており、それは図らずとも量産EV(電気自動車)と同じ課題となりそうだ。なおJRPはシステム-Eで使用するバッテリーのワンメイク化を予定しておらず、新規メーカーの開発の場として活用してほしいとの意向がある。過酷なトップカテゴリーへのチャレンジはモータースポーツのみならず、これからの量産車のEV化に多大な影響を与える可能性もあり、そういった点においてもシステム-Eの開発状況には目が離せない。

テスト終了後、関係者を交え活発な意見交換が行われたJRP 代表取締役社長の白井裕氏本田技術研究所 フォーミュラ・ニッポン プロジェクトリーダーの坂井典次氏
ホンダ開発ドライバーは道上龍選手松田選手は自前のGPSロガーでの解析を披露

(高橋 学)
2011年 12月 14日