【特別企画】高橋敏也のプリウスPHVに乗ってみました!!【後編】
プリウスPHVで名古屋にスマートハウスを見に行こう!!


 尾張名古屋は城で持つ。伊勢音頭はいいとして、こちらは「尾張名古屋をプリウスPHVが往く」。私と編集さん、おっさん2人を乗せたプリウスPHVは東名高速を快走し、一路名古屋へと向かったのであった。ガソリン消費ゼロ通勤に挑んだ前編と異なり、目的は2つ。まず第1に高速道路を含めてプリウスPHVの走行性能を試すこと(というほどではない。ドライブ気分)、そして名古屋の住宅展示場を訪問するのも重要な目的である。

 「住宅展示場ぐらい東京にもたくさんあるでしょう」という声が聞こえてきそうだが、実はこの訪問には大きな意味がある。我々が向かった住宅展示場は、昨年の10月にできたばかりの「スマートライフ・コンシェル CBCハウジング名駅北」。そこにはトヨタホーム名古屋の展示住宅があり、さらに「HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメントシステム)」があるのだ。そのHEMSを見学しなくては、プリウスPHVのリポートは完結しないのである。

 もちろんHEMSとプリウスPHVには、切っても切れない関係がある。まあ、HEMSに関してはおいおい説明するので、まずは話を先に進めよう。とにかくHEMSが見たい、HEMSは名古屋にある、だったらプリウスPHVで名古屋に行けばいいんじゃないの? プリウスPHVで高速道路の走行体験もできるんだから、ということで話がまとまった。

 同行するのはCar Watchの編集さん、もちろんおっさんである。おっさん2人を乗せて、プリウスPHVは名古屋へ向かう。会話もおっさんくさければ、車内で聞く音楽もおっさんくさい。新車のプリウスPHVが可哀想とか、思ったり思わなかったり。とにかく名古屋へ向かうのだ、おっさん2人を乗せたプリウスPHVは。

ガソリン満タン、バッテリーは空のまま名古屋へゴー!
 名古屋行き当日の早朝、プリウスPHVをフル充電の状態にして自宅からスタート、編集さんとの待ち合わせ場所にEV走行で向かう。この季節の早朝ということもあり、気温はかなり低かったが、とりあえずシートヒーターのLowで寒さをやりすごす。待ち合わせ場所までは約6kmほどの距離、1度もエンジンを使わずに編集さんと合流、名古屋へ行く前に、記事で使う写真撮影を行う。この撮影作業中にEV走行は終了、ここからはHV、すなわちハイブリッド走行となる。

 実はここがプリウスPHVのツボである。EV走行であたかも電気自動車のように走り、ガソリンを使わず、CO2も出さない。しかし、電気が足りなくなった際には、HV走行で省燃費な車としてガソリンエンジンとモーターを併用して走る。要するにプリウスPHVは、電力切れを気にする必要がないのだ。

 完全な電気自動車の場合、電力がなくなれば充電するまで走ることができない。この特性をちゃんと理解して、それに合わせた運用をすれば問題はない。しかし、長距離を走りたい、例えば今回のように名古屋まで行きたいとなるとどうだろう? 現在、市販されている電気自動車の航続距離から考えて、途中で充電することを考えなくてはならないだろう(東京~名古屋間は300km以上ある)。

 プリウスPHVであっても省燃費ということを第一に考えるなら、長距離移動の際にもタイミングを見て充電したほうがいいのだ。しかし、それが難しい場合であっても、プリウスPHVなら気にする必要はない。この安心感というか、いい意味でのゆるさはPHVならではのものだ。同時にEV走行が終わるときのガッカリ感も、PHVならではと言えるのだが。

 さて、掲載用の写真撮影を終え、プリウスPHVは東名高速道路へと向かう。その途中、今回のドライブで、どれぐらいガソリンを使うか調べるため、プリウスPHVを満タンにした。トリップメーターをリセットして、いざ名古屋へと出発である。こういった流れなので、名古屋行きの往路、その燃費はHV走行、しかも高速走行がメインのデータとなる。ちなみにプリウスPHV、SグレードのHV走行カタログ燃費は31.6km/L(JC08モード走行ハイブリッド燃料消費率)だ。果たしてその結果は……。

 などと考えつつ入った東名高速道路だが、予想していた地点で若干の渋滞があったものの、全体的にはスムーズに流れていた。制限速度内で一定のスピードを保つ運転を心がけ、例えば100km/h制限の区間なら、90km/h近辺をキープする。何もプリウス、プリウスPHVに限った話ではない。高速道路での走行で燃費を向上させたいなら、一定の速度を保ち、安定したアクセルワークが重要となる。これは普通のガソリンエンジン車でも同じだ。

 若干の渋滞、後は快晴のもと、プリウスPHVはひたすら名古屋へと向かう。ドライバーが2人(おっさんが2人)いるので交代で運転し、実に快調である。日差しもあったのでプリウスPHVの車内はオートエアコンをOFFにしても快適そのもの、シートヒーターも使わなかった。

 途中、浜名湖SA(サービスエリア)に寄って食事をとったが、もちろんメニューはウナギである。何やらSAではバレンタインデーがらみのイベントもやっており、土曜日ということもあって賑わっていた。だが、我々の興味は別のところに向いていた。そう、編集さんは新東名高速の動向、そして私は浜名湖SAにあった「電気自動車用急速充電器」スタンドに興味津々である。

 浜名湖SAの電気自動車用急速充電器は、NEXCO中日本(中日本高速道路)が低炭素社会の実現を目指し、試行的に提供しているものだ。その名のとおり、電気自動車に対して急速充電が行えるスタンドで、利用登録をしている人が有料で使用できるようになっている。プリウスPHVは電気がなくなればハイブリッド車として走ることができるため、急速充電に対応していない。そのため急速充電スタンドで充電することはできないが、こういったサービスが拡大して行けば、急速充電だけでなく、通常の充電サービスもさまざまな場所で受けられるようになるだろう。

 そんなことを考えつつ、おっさん2人は浜名湖SAを後にして、ひたすら名古屋へと向かったのであった。

名古屋へ向かう前、掲載用写真の撮影をしているおっさん。早朝なので表情が硬い東名高速に入る直前、給油を行う。東京~名古屋間の往復で、どれぐらいガソリンを使うものだろうか? 距離的には700km弱だと思うのだが……出発前にトリップメーターをリセット。東名高速、東京IC(インターチェンジ)間近のガソリンスタンドがスタートとなる。写真がぼけているのは、気にしないでください
高速道路に入った直後の燃費、そうわるくない。まだ7.2kmしか走ってないけど渋滞は短いものだった。いくらPHVとはいえ、渋滞にはうんざりする一休みの浜名湖SAで記念撮影。やっぱりおっさん嬉しそうだ。自分で書いてて、ちょっと恥ずかしい
「電気自動車用急速充電器」を発見して興奮しているおっさん。東名高速の全SAには設置されているが、全国的に見ればまだまだ少ない。プリウスPHVは、旅行途中の充電を必要としないので、長距離走行の不安もない名物「ひつまぶし」を美味しくいただくおっさん。どうして嬉しそうなんだ? だんだん腹が立ってきた近くでバレンタインデー企画の絶叫大会をやっていたので、とりあえずおっさんも叫んでみる。「青春を返せー!」はい、返せません
ここまでの燃費、決してわるくはないが、すごくよいという訳でもない。プリウスとしては普通といったところ目指せ名古屋! 味噌カツとか、手羽先とか、コメダ珈琲店のシロノワールとかが待ってるぞ! ちなみに左の看板は、4月14日に開通する新東名の案内用

トヨタ博物館でプリウスPHVのご先祖と対面
 事前の打ち合わせで、名古屋の住宅展示場には、18時以降に入るようにしていた。18時で営業が終了するので、一般のお客さんに迷惑をかけないようにしようということだ。一方、おっさん2人旅は想像以上にスムーズで、このままだと18時よりかなり早く、現地に到着してしまう。住宅展示場に入ること以外、特に予定はなかったので、はてさてどうしたものか……。

 ここで編集さんから「トヨタ博物館に寄っていきませんか?」という提案が。というのもトヨタ博物館は我々が進むルート近辺にあるだけでなく、ルートの途中にある長久手ICからわずか400mの距離にあるからだ。「博物館も観光名所だから、おみやげとかもありますかね?」という私の問いに、頼もしく「あるでしょう」と答えた編集さん。ならば途中下車のつもりで寄りましょうか、トヨタ博物館に。

 「おみやげ」である。出張ともなれば、おみやげを買うのは義務である。車にほとんど興味のない嫁へのおみやげと言えば、食べ物で決まりだ。すでに浜名湖SAでは、定番のウナギパイを購入済みである。トヨタ博物館に寄って、まんじゅう(博物館にあるのか? まんじゅう)あたりを買っていけば、家庭内で常に危うい私の地位も安泰だ。編集さんの興味は展示車両、私の興味はまんじゅう。両者の利害が一致したところで、プリウスPHVはトヨタ博物館へと向かった。

 入館料は大人1000円だが、JAF会員割引きで800円。まんじゅうの有無に関しては写真を参照してほしいが、トヨタ博物館では嬉しい出会いがあった。そう、展示車両の中にプリウスPHVかあったのだ。展示されていたのは2007年製のプリウスPHV、車両デザインから見て2代目プリウスをベースにしたものだ。スペックを見ると現行のプリウスPHVと比較して、エンジンのパワーが小さく、モーターのパワーが大きいようだ。

無事、トヨタ博物館に到着。おっさんの表情が硬いのは、運転に疲れてきたから。まあゴールは近いのでいいんだけどプリウスPHVのご先祖様と記念撮影。2代目プリウスをベースとした車両だと分かる。市販はされていない(はず)デカールが派手なのは、広報などに使われたからだろう。エコをイメージしているように思える
このモデルの充電リッド(蓋)は四角、充電コネクターの形状も、現在のプリウスPHVとは異なっているトヨタ博物館でゲットしたおみやげ。トヨタ自動車まんじゅう(あった!)はトヨタのクラシックカーを模したもの。あっさりした甘みで美味しくいただきました。トヨタ2000GTクッキーは、すべて嫁が食ってしまったので味は不明。嫁が食い尽くしたということは美味しい“はず”

 何やら感慨深いなあなどと思いつつ、時間もちょうどよくなったので、トヨタ博物館を後にして目的地へと向かう。往路のゴールは「スマートライフ・コンシェル CBCハウジング名駅北」、トヨタ博物館からさほど遠くない。休日とはいえ大都市名古屋、市街地の渋滞を抜けると、そこにゴールとなる住宅展示場があった。

名古屋行き、往路の走行状況
 とりあえず到着したその日は、プリウスPHVをトヨタホームの方に預けるだけ。おっさん2人はホテルへ直行、もちろんホテルに荷物を置いて、駅前で手羽先を楽しんだのはまた別の話。それより気になるのが、東京~名古屋間の往路、燃費データはどうなったかである。

 詳細は写真を参照してほしいが、走行距離は356.3km、燃費はプリウスPHVのエコドライブモニターだと26.3km/Lだ。平均速度が66km/hと高いのは、走行した356.3kmのほとんどが、高速道路の走行だったからである。

 燃費に関して言えば、エンジンとモーターを組み合わせたHV走行としては可もなく不可もなく。私のプリウスと比較しても、ごく普通の結果である。高速走行の場合は、エンジンが動いている時間が長く、ブレーキを使うことは少ないので、回生エネルギーを得る機会は少ない。ハイブリッド車らしい、飛び抜けた省燃費にはならない場合が多いのである。プリウスPHVのカタログによれば、ハイブリッド燃料消費率は31.6km/L(Sグレード)だ。26.3km/Lなら、83%ほどなのでそうわるくはない。

 一方、高速走行のドライブフィーリングだが、実に快適と言える。空気抵抗の低減を追求したボディーは、風の影響を受けにくく、走行は安定している。低速からのトルク感は、さすがにモーターを搭載しているだけあって快適だ。スピードにのってからはエンジンが主役になるのだが、レスポンスは決してわるくない。プリウスPHVは、快適に高速走行できるクルマだと思う。

 これは復路の課題となるのだが、プリウスPHVはEV走行モードでも100km/hを出せる。高速道路での走行を想定したものだが、仮に100km/hでEV走行ができたとしても、バッテリーはすぐになくなるだろう。それでもバッテリーだけで100km/hを出してみたいとは思う。

 ちなみに100km/hのEV走行が実現した背景には、プリウスPHVがリチウムイオンバッテリーを搭載したことがある。高容量、高エネルギー密度、そして大出力。よりパワフルなEV走行、モーター走行を実現するには頼りになる存在なのである。これはあくまで個人的な印象なのだが、ニッケル水素バッテリーを搭載した私のプリウスよりも、プリウスPHVのほうが心持ちパワフルなような気がした(カタログスペックは同じなんだけどね)。

 ここで前編の積み残しを1つ解決しておきたい。前編において100VでプリウスPHVを充電したが、カタログスペックだと3時間で充電終了となるはずだ。ところがスマートフォンのeConnect経由で充電状況を確認すると、3.7時間といった表示が見られた。その後、何度か充電を行ったが、基本的にカタログスペックの3時間より長い時間が必要だった。

 プリウスPHVは常にバッテリーの状況を監視し、もちろん充電時もバッテリーの状況をチェックする。バッテリーユニットは「セル」と呼ばれる小さなバッテリーの集合体なのだが、このセルをバランスよく安全に充電しなくてはならない。セル間のバランス、気温やバッテリー自体の温度、さまざまな要素で充電時間は変化する。経験上、基本的に理想値である3時間よりも長くなるようだ。なお、カタログ上では200Vだと約90分でフル充電だが、これも状況によって変化する(少し長くなると思ったほうがいい)。

 バッテリーの状況によって充電時間が変化するのと同様、バッテリーのみを使用するEV走行可能距離も変化する。カタログ値では26.4km(Sグレードの場合)だが、回生ブレーキの状況や気温など、状況によって短くなったり長くなったりする。下り坂が多いルートを走れば回生ブレーキが有効に働くので、EV走行可能距離は長くなる。実際、EV走行中にブレーキを踏んで回生エネルギーが発生すると、100mぐらいEV走行可能距離が伸びたりして面白いのだ。

 話を往路のデータに戻そう。プリウスPHVにはエコドライブモニターやeConnectなど、走行状況やエコ状況を知るためのツールが用意されている。さらに対応カーナビを搭載していれば「情報」メニューから「エコ情報」を表示することができる。これがプリウスPHVの走行状況、そしてエコへの貢献度を、グラフィックスで分かりやすく表示してくれる優れものなのだ。

 さらにプリウスPHVがG-BOOKの契約をしていれば、「ESPO(エスポ)」のエコドライブ情報を見ることができる。ESPO? という疑問はごもっとも。これは「ECO(エコ)+PASSPORT(パスポート)」、2つの言葉を組み合わせた造語で、G-BOOKの提供するエコドライブ・サポートシステムなのである。

 ESPOではドライブ情報がG-BOOKセンターに送信され、全国の利用者とエコ度が比較できたりする。また、そのエコ度合いに応じてランクが表示されたりする。エコドライブと言われても、比較対象がないとピンと来ない、エコドライブをもっと楽しみたいという人にはピッタリのプログラムと言えるだろ。実際、私もプリウスPHVに乗っている間、このESPOの情報を見て「ランクが!」「順位が!」と楽しんだ(一喜一憂した)ものだ。

 楽しみながらエコ、エコドライブを楽しむ。そして積極的に楽しむことが、さらなるエコに繋がる。それをサポートするのがG-BOOKであったり、ESPOであったりするということだ。まだ試してないという人は、ぜひチャレンジしてみてほしい。

東京~名古屋間、往路の結果。多少寄り道があって約350kmの道のり、燃費はメーター読みで26.3km/Lカーナビの「情報・G(G-BOOK)」ボタンを押して表示されるメニュー。ここの「エコ情報」をタッチまずは「毎分燃費」。住宅展示場に入って数分してから撮影したので、その数分間がブランクになっている。このあたりの燃費データは、市街地を走行したもの
ESPOの表示。「エコ運転スコア」が47点というのは厳しい。プリウスPHVを借りてる間に、どこまで伸ばせるか……このように全国の登録ユーザーと、エコドライブ度を競うこともできる。後でトヨタの人に聞いたら、この時点ではプリウスPHVの登録が少なかったので上位に行けたのではとのこと(プリウスPHVは特に燃費がいいので、黙ってても上位に行けるらしい)エコドライブに対するアドバイス。まあ、これはたまにチェックすればいいか
エネルギーモニターは、プリウスPHVのセンターメーター「エネルギーモニター画面」の高解像度版。バッテリー容量が結構残っているように見えるが、これはHV走行用の残量だただプリウスPHVを置いておくのもなんなので、展示住宅にある200Vの充電スタンドを使って、充電させてもらった充電中のセンターメーター表示。さすが200V、フル充電までが速い!

HEMSって何だ?
 翌朝、さっそく「スマートライフ・コンシェル CBCハウジング名駅北」へと向かう。広い敷地にはハウスメーカー各社が誇る、最新の展示住宅が並ぶ。我々が目指したのはもちろんトヨタホーム名古屋の展示住宅、エスパシオEF3。ここに、あの「HEMS」があり、そのHEMSを見るために、我々は名古屋まで来たのだから。

 我々を展示住宅で迎えてくれたのは、トヨタホーム名古屋、名駅北営業所所長、木下直樹さんである。一級建築士の資格を持つ木下さん、知識は豊富だし物腰も柔らかく、トークもうまい。私自身が自宅建て替えのため、さまざまなハウスメーカーの人と話をしたが、もし仮に木下さんにメーカー選定時に会っていたら、我が家は間違いなくトヨタホームになっていただろう。

「スマートライフ・コンシェル CBCハウジング名駅北」。12棟の展示住宅、すなわちモデルハウスが集まっているトヨタホーム名古屋の展示住宅、エスパシオEF3。新・鉄軸工法を採用しているとのこと。トヨタホームの住宅は、鉄骨をカチオン塗装(クルマでよく使われる)したり、自動車の技術が応用されていることで有名展示住宅を案内してくれたトヨタホーム名古屋の木下さんと、HEMS解説パネルの前で記念撮影
HEMSを使うと住宅内のエネルギーの流れや消費状況などを瞬時に把握できる。そんな説明をiPad2でスマートに行う木下さんスマートハウス自体、比較的新しい概念なので、分かりやすく説明しなくてはならない。こういった説明用のツールが必須という訳だ展示住宅の屋上にあった太陽光発電パネル。発電量が充分な時は売電もできるし、太陽光で発電した電気を優先的にプリウスPHVや電気自動車の充電に使うこともできる。このあたりがスマートである

 そんな木下さんに展示住宅を案内していただき、いよいよHEMSである。HEMS、「ホーム・エネルギー・マネジメント・システム(Home Energy Management System)」。「ヘムス」と呼称されているこのシステムは、単語の羅列を見ただけでも想像できるとおり「家庭で使用するエネルギーを管理するシステム」を意味する。トヨタホームの提案するスマートハウスの中核であり、プリウスPHVとも密接に連動する。

 ちなみにHEMSはトヨタホームだけでなくハウスメーカー各社、家電メーカーなどから、さまざまなコンセプトのものが発表、発売されている。もちろんプリウスPHVはトヨタ車であり、トヨタホームのHEMSとの相性、連動性は折り紙付きということだ。

 さてこのHEMS、プリウスPHVのモニタリングや管理は、その機能のごく一部である。HEMSでは太陽光発電、エコキュート(給湯システム)、家庭用蓄電池、ドアの施錠といったセキュリティなどを一元管理することが可能だ。もちろんそれらの情報には、トヨタスマートセンターを介して、スマートフォンなどからアクセスすることができる。

 トヨタスマートセンターを介するということは、モニターやコントロールは、スマートフォンに限られた話ではないだろう。将来的にはインターネットを経由して、さまざまなデバイス、そして環境からHEMSの情報を見たり、操作できるようになると思う(そうなるとセキュリティが重要になるなあ)。

 HEMSの情報を家庭内で確認する場合は、たぶん居間がいいと思うのだが、コンパクトなモニターを使用する。もちろんタッチ操作可能、子供から大人まで、誰でも簡単に使えて情報も一見して分かるようになっている。というか見ていて楽しいので、用もないのに触ってしまいそうである。

 スマートフォンの次はスマートハウス、一部のメディアではスマートハウスを「スマハ」と略して呼んでいるようだ。スマートフォンが「スマホ」だから、「スマハ」ってのもありなんだろうが、なんだかねえ。

 さて、取材先は展示住宅である。たまたまそこに発売されたばかりで、まだ日本にも数台しかないプリウスPHVが来ている。ならばお客さんの反応はどうだろうかと、少し離れたところから観察してみた。やってきたのは若いご夫婦(と思われる)、新居を建てるのにちょうどいいぐらいの年代だ。しばらく内部を見学した後、女性の方が担当者とともにガレージスペースへと向かい、プリウスPHVと充電ケーブルの説明を受けている。あの、そのプリウスPHV、私が東京から持ってきました!(心の叫び)

 木下さんによれば、現時点ではスマートハウスに対する認知度は、それほど高くないとのこと。しかし、スマートハウスは販売が始まっているし、日本各地でスマートハウスの実証実験も行われて結果も出している。また、木下さんの言葉で印象的だったのが「スマートハウスに関心のあるお客さんは、ものすごく事前に調べられていて、こちらが答えに困るほどよくご存じです」というものだ。関心の高いコアな人がいて、そこからスマートハウスの輪が広がっていくのだろうか。

 それでも気になって、「今後、スマートハウスというのは普及して行くと思われますか?」と木下さんに質問してみた。すると間髪入れずに、確信を持った答えが返ってきた。「必然だと思います。普及して行くというより、新しい住宅はスマートハウスになっていくはずです」。

 その昔、パソコンや携帯電話は、ごく一部の限られた人のツールだった。それが今や持っているのが当たり前のツール、珍しくもなんともない存在である。ハイブリッド車もそうだ。珍しかったハイブリッド車が、今や数台に1台はハイブリッドという時代である。そう遠くない将来、新築はスマートハウスが当たり前、既存住宅は「スマートハウスにリフォーム」といった具合になるかも。

スマートハウス、HEMSとプリウスPHV
 HEMSの解説パネルを見て気づいたことがある。外に置かれた「プラグインハイブリッドカー」とスマートハウスが、2本のラインで接続されているのだ。1本はもちろん充電のためのライン、ではもう1本のラインは、いったい何を意味するのか? 実はここにプリウスPHVがスマートハウスと連携する、重要な機能が隠されている。

 「H to V」と「V to H」。Hはホーム(Home)を意味し、Vはビークル(Vehicle)、すなわちクルマを意味している。ちょっと格好をつけて「H to V」をH2V、「V to H」をV2Hといったように表記する場合もある。もちろん私も格好をつけたいので、以後はH2V、V2Hと書かせていただく。

 字面からなんとなく意味が見えてくるのだが、要するにこれらはエネルギーの流れる方向を意味しているのだ。充電の場合は、家からクルマへ電気が流れるのでH2Vとなる。するとV2Hの場合は、クルマから家へ電気が流れるのか? そう、そのとおり。停電や災害時に、電気自動車やプリウスPHVのようなプラグインハイブリッド車に蓄えられている電気を、家に流して使おうというのである。

 この機能、すでに実用化されており、製品化も近いと聞く。だからこそトヨタホームのHEMS解説パネルには、2本のラインが書かれているのだ。電気の流れはHEMSで管理され、緊急時には安全に車載バッテリーの電気を家庭内で使うことができる。電気自動車にしろPHVにしろ、それほど大きな容量ではない(家庭用電源としては、の話)が、それでも間違いなく貴重な存在になるだろう。

 なお、トヨタホームの展示住宅には、家庭用蓄電池も設置されていて、緊急時にはそちらも利用できる。緊急時だけでなく、安い深夜電力の時に充電し、それを昼間に使うといった利用方法もあるのだが。

 深夜電力で思い出したが、HEMSでは先ほども書いたとおり、太陽光発電の電気を優先してプリウスPHVの充電に回す設定が可能だ。さらにタイマー機能を利用して、深夜電力で充電することもできる。エコのみならず、家計にも優しい運用がスマートハウスで実現する訳だ。

 このほか展示住宅には、さまざまなタイプの充電環境が用意されていた。屋外に設置するスタンド型から、ガレージなど屋内に設置するタイプ、そして簡素なコンセント型(この場合はプリウスPHVに付属する充電コネクターを使用する)。ニーズや状況に合わせて、設置することができるのである。また、住宅展示場の駐車スペースには、野外設置型の充電スタンドも用意されていた。

 最後におまけという訳でもないが、住宅展示場で興味深いものを発見した。なんと先代のプリウスPHV、官公庁などにリースされていたものが住宅展示場事務局に置いてあったのだ。何でもこのプリウスPHV、箱根駅伝で先導車を勤めた由緒正しい(?)車両だとか。市販前のものということで、この車両で得た利用者の意見が、現在のプリウスPHVに反映されているのだという。

 この市販前のプリウスPHVは、EV走行を行う容量を稼ぐため、重量なんと160kgのリチウムイオンバッテリーを搭載している。バッテリーを搭載するスペースを確保するため、ラゲッジスペースも小さくなった。初代のプリウスPHVをトヨタ博物館で発見し、そして取材先の住宅展示場では先代のプリウスPHVを発見。プリウスPHVづくしの名古屋出張である。

スマートハウスの解説コーナー。もちろんここでHEMSも紹介されているHEMSで家庭内の大まかな電気の流れを表示する。一目で概要が把握できる。ちゃんとプリウスPHVも入っているタッチでプリウスPHVの充電状況を詳しく表示。「ピークカット設定中」のピークカットとは、家庭内の電気使用率が高くなった際には充電をいったん停止し、ブレーカーが落ちないようにする機能
プリウスPHVの充電時間帯をタイマーで設定できる。深夜電力を使うということ以外、出発前に充電がちょうど終わるようにして活用できる(フル充電直後にスタートすると効率がいい)家庭内の電気使用状況を、細かく調べることもできるまさに家庭内のエネルギー管理システム! 調べようと思えば、さまざまな視点から家庭内で消費されるエネルギーの状況を把握できるのだ
ちゃんとプリウスPHVが、HEMSの管理下にある。すぐ近い将来、家からプリウスPHVへ、プリウスPHVから家へと、エネルギーの双方向なやり取りが可能になる屋外に設置されたカバー、ケーブル装備の高級充電スタンド。確かに高級感がある
こちらはガレージの中などに設置するタイプ。やはりケーブルが装備されているシンプルなコンセントタイプ。写真は100Vのものだが、プリウスPHVのために用意するなら200Vにしたい住宅展示場で見つけた赤レンガ壁のモニュメント。なんとこの住宅展示場は、自動織機などの発明で知られる豊田佐吉氏の試験工場跡地だったのだ!
住宅展示場の駐車スペースに用意されていた「PHV・EV用充電スタンド」。公共施設の駐車場に、こういったスペースが増えてくるのだろうかそしてこれが充電スタンド。ICカードで利用者を識別し、充電できるようになる住宅展示場事務局にあった先代プリウスPHV。ベース車両が3代目プリウスになっている。デカール(装飾)が派手だなあ
市販版プリウスPHVとの大きな違いを発見。充電ポートが給油口と同じサイドに設けられているしかも充電リッドの形状が四角く、位置も前輪近くだ。この状態で利用者の意見を募り、さまざまな改良が施された上で、市販版のプリウスPHVが誕生した

さらば名古屋よ、また来る日まで!
 復路、東京への出発は、やはり住宅展示場の営業が終了する18時。取材も終わり、出発まで時間があったので、展示場周辺をブラブラしたり、おみやげを買ったり……だけではあんまりなので、eConnectの機能を1つ使ってみようということになった。それが充電ステーションの検索・表示機能である。

 スマートフォンの位置確認機能で、利用者がいる場所を特定、その近辺の充電ステーションを地図上に表示してくれるという便利なもの。外出先で充電したい場合など、特に重宝するだろう。そこで住宅展示場でこの機能を使い、近くの充電ステーションを探してみた。すると歩いて数分のコインパーキングに、充電ステーションがあると出た。

 半信半疑でそのコインパーキングに行ってみると、ありましたがな充電設備が! シンプルなコンセントタイプだったが、確かにEV、PHVを充電できるコンセントだ。この調子で充電ステーションを見つけられれば、外出先での継ぎ足し充電にも、それほど困らないのではないだろうか。

 さて、18時になり、いよいよ名古屋を出発する時が来た。親切に対応していただいた木下さんにお礼を言い、また同時にプリウスPHVをフル充電させてもらったことにもお礼を言い、住宅展示場を後にする。この時、バッテリーはフル充電、高速道路の入り口はさほど遠くない。ついにEV走行で100km/h近くのスピードを体験できる時が来たのだ。

 心地よい緊張感を持ったまま、高速道路に入る。そして徐々にスピードを上げつつ、100km/hが出せる区間へと向かう。ところが高速走行の悲しさ、どんどんバッテリーの残量が減っていく……が、しかし。試せましたよ、高速EV走行! スムーズな加速の後にスピードは100km/h近くまで上昇、やがてエンジンがかかった。さらにそのすぐ後にはバッテリーの残量が足りなくなり、HV走行に移行した。

 それにしてもプリウスPHVが凄いと思うのは、ドライブフィーリングは一般道、高速道路に関わらず、キビキビ走るコンパクトな「クルマ」のように感じることだ。ドライバーはEV走行とか、HV走行とか、はたまたモーターが駆動しているとか、エンジンがかかったとか気にする必要がない(ノイズレベルが変わるのでエンジンがかかると分かるけどね)。普通に運転し、運転を楽しんでいればいいのである。

 そんないかにもクルマメディア的な話を、復路でした記憶は一切ない。私も編集さんもホテルで休養を充分取った後だったので、元気にドライブを楽しみ、途中休憩でいくつかSAに入り、往路と同じくスムーズに東京へと戻ってきた。一応、カーナビが「東京都に入りました」と言った際、「プリウスPHVよ、あれが東京の灯だ!」とか叫んでみたが、どっちらけだった。

 プリウスPHVによる、東京~名古屋間チキチキ出張往復の結果発表。走行距離は往路が約356km、復路が約361km、合計約717km。往路の燃費が26.3km/L、復路の燃費がなんと29.1km/L。この燃費データの違いはもちろん、復路ではバッテリーフル充電からスタートし、きっちりEV走行をした結果である。そして往復のトータル燃費は27.7km/L、正直わるくないデータである。

 満タンにして出発したので、最後にガソリンを入れてみた。入ったガソリンの量は、約26.4L。東京~名古屋間を往復して、700km以上走って、まだまだガソリンに余裕がある。ちなみにセンターメーターで表示できる推定可能走行距離(燃費やバッテリー、ガソリン残量から計算された値)は300km以上だった。やっぱりプリウスPHVは満タンで、感覚的には1000km走れるクルマなのだ。充電しつつ運用すれば、さらに延びるだろう。

発見した充電ステーションのあるコインパーキング。確かに「EV・PHV充電用コンセント設置」と書かれている発見、充電用コンセント! しかも200Vだ。こうした設備が、どんどん街中に増えていくだろう
名古屋出発直前のデータ。フル充電完了。EV走行は、21.2km可能だとある。これなら高速道路の100km/h区間まで保つはずだまだ制限速度的に、100km/hは出せない。しかし、60km/hでEV走行というのも凄い! 私のプリウスだと「約55km/h」がEV走行の上限だから、ここからは「未知の世界」!ついにやりました、100km/hのEV走行! カタログは本当だったんだ!(当たり前です、失礼な) ただしあと100m走ると、EV走行は終わってしまう
はい、EV走行終了、HV走行に移行しました。しかし、本当にフル充電のプリウスPHVは、EV車なんだなあと実感できた夜の高速をひた走るおっさん。前夜、ホテルで久々に心地よい睡眠をとったので元気東京到着後、嬉しそうに給油するおっさん。無事帰り着いてほっとしたというのが正直なところ。よかったね、おっさん
復路の結果。走行距離361.3km、燃費29.1km/L。高速道路での走行がほとんどだったので、平均車速が71km/hと高めだこちらは往復の総合結果。走行距離に若干の誤差があるのは、トリップメーターをリセットしたタイミングによるもの。往復でも燃費は27.7km/Lと好成績

約1週間の試乗を終えて
 約1週間、約1000km、プリウスPHVを試乗した。最初にその感想を、シンプルにまとめておこう。3代目プリウスを2年間運転してきたおっさんはプリウスPHVのことを「素晴らしい」と思う。もちろんクルマには、人それぞれのイメージがあり、好みがある。バリバリのスポーツカーが好きという人にとって、プリウスPHVがどう見えるか、想像するのはたやすい。とにかく低価格なクルマが欲しいという人が、プリウスPHVの値段をどう思うか、なんとなく想像できる。

 それを踏まえた上で走行性能、省燃費によるエコ、ネットワークを駆使したスマートな機能、そしてV2Hの将来性。「この性能、機能ならプリウスPHVの値段は安いもんだ」なんて白々しいことを言うつもりはない。だが、個人的にはやっぱり「素晴らしい」と思うし、人にもそう言うだろう。

 もっともシンプルなプリウスPHVの運用環境を考えてみよう。この場合はスマートハウスだのスマートフォンなどは一切必要ない。安全な電源、できれば200Vの電源と、プリウスPHVがあればそれでいい。後は寝る前にタイマーを活用して充電し、できれば外出先(勤務先でもいい)でも充電、EV走行をなるべく伸ばす。もしEV走行が終了したとしても、その後はHV走行をすればいい。充電という手間だけで、最高クラスの省燃費が実現する訳である。

ESPOのアドバイスに褒められたこともあった。結構嬉しいものだ「今月の平均燃費」で瞬間的に1位になったこともあった。すぐ落ちたけど

 一方、プリウスPHVをスマートハウスの一部として考えてみよう。HEMSを装備した住宅、そしてプリウスPHVがある。家にいる時はプリウスPHVを充電設備に接続し、充電のタイミングはすべて住宅からコントロールできる。また、太陽光発電が充分に行われている時には、その発電した電気を優先的にプリウスPHVの充電に割り振ることもできる。プリウスPHVがEV走行で使う電気まで、再生可能エネルギーでまかなうことができるのだ。もちろん外出先ではスマートフォンのeConnectで、プリウスPHVの状況を確認できる。

 ちょっとだけ先の未来を見てみよう。現在はH2V、すなわち家からクルマというエネルギーの流れのみだが、すでにV2Hは実証段階に入っている。クルマから家へ、必要に応じてエネルギー、すなわち電気を供給できるようになるのだ。非常時、災害時には、これほど頼もしい存在もないだろう。さらにもう少し未来に行けば、地域のエネルギーネットワークの一部に、プリウスPHVが組み込まれるかも知れない。いわゆるスマートグリッドに、プリウスPHVが組み込まれる未来も想像できる。

 また、クルマとしての完成度も見逃せない。よく「ハイブリッドは“つなぎ”」という言葉を耳にする。要するにハイブリッド車は、電気自動車が主流になるまでの“つなぎ”という訳だ。だがこれは、未来から見た話でしかない。給油というインフラが主流である現在、電気でもガソリンでも走るハイブリッド車はエコカーの主役というのは言い過ぎだろうか?

 しかもPHVともなれば、電気オンリーの走りもできれば、電気とガソリンの併用も可能なのである。充電できる所では小まめに充電して電気(モーター)だけで走り、電気が足りなくなったらガソリン(エンジン)と電気(モーター)を併用する。この結果、電気オンリーの自動車に現時点ではつきまとう「エネルギー切れ」のプレッシャーからドライバーは解放される。

 将来、ガソリンスタンドが電気スタンドへと置き換わり、どこへ行ってもちょい足し充電、あるいはフル充電できる環境が整った暁にはEV、すなわち電気自動車が主役になるだろう。だが現時点においては、電気とガソリンを賢く使い分けるPHVが理想型であることに間違いはない。

 近いうちに私はプリウスから、スポーツカーである86に乗り換える予定だ。これは単純に「一度はスポーツカーに乗りたい」という、ある意味おっさん的な欲求からである。だが、その後はたぶんプリウス、それもPHVに戻る。現在建て替え中の新居、そのカースペースには充電用の配線を用意した。もちろんその時、スポーツカーのハイブリッド車、しかもPHVがあったなら、それを選ぶということもあるだろうが。

 追伸。現在建築中の新居、そのガレージスペースに「プリウスPHV推奨工事仕様」の配線敷設を追加注文しました。今は使い道がないのだけど、近い将来、絶対必要になると確信したからです。とりあえず友人、知人がプリウスPHVで我が家にやってきたら「有料」で充電させてあげる予定。

車両返却数日前に撮影したPLUG-IN効果画面。EV走行によって減らせたガソリン消費量をCO2に換算、グラフィカルに「木」の数で表示してくれる。まだ1本も木が生えていない返却当日、グラフィック部分の左上、1本だけ木を生やすことができた。いい気分である約1週間、1000km以上お付き合いしたプリウスPHV。お疲れ様でした、別のところに行っても頑張ってね


(高橋敏也)
2012年 2月 27日