日産、「NV200 “イエローキャブ”」を本社ギャラリーに展示 21世紀の新世代タクシーを創造 |
日産自動車は、「NV200 次世代ニューヨーク市タクシー」を、同社グローバル本社ギャラリーで展示する。期間は5月29日~6月10日。展示初日の29日、報道関係者向けにNV200 次世代ニューヨーク市タクシーを公開した。
同タクシーは、米国ニューヨーク市が2007年に開始した次世代タクシーの先行プロジェクト「タクシー・オブ・トゥモロー」向けに提案されたもの。米国フォード・モーター、トルコのカルサン・オートモーティブと最終選考を争い、2011年5月に次世代タクシーの座を射止めた。2013年10月から現行タクシーとの入れ替えが始まり、10年間にわたってニューヨーク・タクシーとして使われることになっている。
上映されたビデオから。現行ニューヨーク市タクシーとすれ違うNV200 ニューヨーク市タクシー | 同ビデオから。日産が次世代タクシーのメーカーに選定されたことを発表するブルームバーグ市長 |
パーマー副社長 |
■21世紀の新世代タクシーを創造
同社のアンディ・パーマー副社長は、ニューヨーク市があげた次世代タクシーの要件を「ニューヨークの象徴としてしっかりしたものにし、市の交通体系に取り組む」「ドライバーと乗客によりよい体験をもたらす」「最高の安全基準」「最高レベルの燃費」「道路上の専有面積の最小化」「ユニバーサルデザイン」と紹介。「要するに、21世紀の新世代タクシーを創造することが求められていた」(パーマー副社長)。
これに対し日産は、世界展開する小型商用車(LCV:ライト・コマーシャル・ヴィークル)「NV200」をベースにニューヨークタクシーを開発した。
パーマー副社長はその特徴を「圧倒的に広い足下スペース、抗菌仕様のシート、パノラミックルーフ、足下照明」といった快適装備、「前席後席カーテンエアバッグ、ビークルダイナミクスコントロール、ABS、リアビューバックアップモニター、タクシー専用装備を装着した状態で行った衝突試験」といった安全性への配慮、「(現行タクシーの)フォード・クラウン・ヴィクトリアより30%改善された燃費とCO2」といった環境性能をあげた。
とくにパノラミックルーフはニューヨーク市が特にリクエストした装備とのことで「ニューヨークは世界で最も美しい都市の1つ。普通のタクシーよりも広い視界で街並みを楽しんでいただける」(パーマー副社長)。
専有面積に関しては、「全台数を集めるとクラウン・ヴィクトリアより5エーカー(約2万234m2)減らせる」と言う。
もう1つ、日本のミニバンやLCVでおなじみのスライドドアは、乗降がしやすく、歩行者や自転車にとってもリスクを軽減できるとした。車椅子の乗客にも対応できると言う。
展示されるNV200 ニューヨーク市タクシー。右の写真で車体の塗装の一部(「NYC SF34」や後部のチェッカー模様)がストロボ光を反射していることにも注目 | ||
両側スライドドアを採用。格納式のステップ(中、右)も用意される。スライドドアのウインドーは一部が開く(展示車のものは開かない)。スライドドアはリモコンでは開かない(タクシーのドアを運転席から開けるのは、筆者の知る限り日本だけ) |
スチールホイールを履く。タイヤはミシュランのエナジーセーバーでサイズは195/65 R15 | 米国で普及している衛星ラジオを搭載 |
NV200がニューヨーク市タクシーに選定されるまで | ニューヨーク市による次世代タクシーの要件 | NV200のメリット。クラウン・ヴィクトリア(らしきクルマ)との乗客のポジションや空間の違いが明白 |
後席の特徴 | 前席の特徴 | 道路上の専有面積を削減し、燃費を改善 |
■EVタクシーもターゲットに
パーマー副社長は、NV200 ニューヨーク市タクシーのもう1つのメリットとして「EV(電気自動車)のオプション」を挙げた。同社はすでにNV200ベースのEV「e-NV200」の実証実験を日本で開始している。
ニューヨーク市のブルームバーグ市長も関心を寄せるというEVタクシーを、パーマー副社長は「都市のニーズに答えるうえで、非常に適切な回答」と言う。「2050年には世界人口の70%が都市人口になると言う予測がある。そうなると都市の大気の質を可能な限りよくすることは、人類にとって重要な優先課題になる」。
同社は数週間以内にニューヨーク市に6台の「リーフ」ベースのEVタクシーを導入、EVタクシーの可能性を探る。EVタクシーは、香港などほかの都市でも引き合いがあると言う。
LCV事業担当の村上秀人 執行役員と、NV200 バネット ユニバーサルデザインタクシー |
■LCVマーケットのリーダーに
1世紀以上の伝統を持ち、ニューヨーク市の象徴とも言えるタクシーだが、利用者数は60万人/日にのぼる。ニューヨーク市タクシーをきっかけに、他の都市でもタクシーとしての導入の話があるというNV200だが、これは日産にとって、単純にタクシー市場での成果が上がり、ブランドの認知度を高められるということにとどまらない。
NV200が属するLCVは「新興国ではまず最初のクルマ、最も重要なクルマ」(パーマー社長)だからだ。拡大する新興市場で販売台数を増やすことは、世界市場での日産のプレゼンスを上げることは当然ながら、スケールメリットが拡大することで1台あたりのコストを下げ、収益率が上がる効果がある。
同社のLCV販売台数は2002年で16万3000台だったのが、2011年には100万台を突破。中期計画パワー88においては2016年までにこれを2倍以上に引き上げ、LCVで世界No.1になることを目指している。同社の中期戦略にとって、非常に重要なカテゴリーなのだ。
ちなみにNV200は日本、欧州、中国、シンガポール、マレーシアで販売されており、年間販売台数は10万台。インドネシア、インド、アメリカへの投入が予定されているほか、インドでの生産が計画されている。
NV200はインド、インドネシア、米国にも投入 | LCV事業は2011年に100万台を突破 |
また日本では「NV200 バネット」として販売されており、セグメントでのシェアは約45%(2011年度)でトップ。NV200をベースとした「ユニバーサルデザイン タクシー」も2011年から導入されており、300台以上を販売、国土交通省のユニバーサルデザイン認定制度の第1号車になった。
EV版の「e-NV200」は、国内でテスト運用が開始されている。パーマー副社長は「LCVで最も重要なトータル・コスト・オーナーシップ(購入価格、ランニングコストを含めた費用)の点でEVは競争力があり、LCVとして十分成立できる。充電インフラの整備が課題だが、うまく行けば十分可能性がある」「もう1つのメリットは音が静かなこと。住宅街に荷物を配送するときに大きなメリットになる。またゼロ・エミッションなのでショッピングモールの中の店に乗り入れることもできる」と、EVのLCVの可能性をアピールした。
なお同社のLCV事業の今後のトピックとして、「NV350 キャラバン」が6月15日に国内発売されることが明らかにされた。
NV200 バネットのユニバーサルデザインタクシー。後部に車椅子用のスロープと固定装置、サイドに格納式ステップを備える | ||
(編集部:田中真一郎)
2012年 5月 30日