フォルクスワーゲン、「ゴルフEV」の試乗会を開催(後編)
「1つだけのソリューションで世界の顧客の需要を満たすのは不可能」

ゴルフ ブルーeモーション

2012年5月30日開催



 フォルクスワーゲン グループ ジャパンは30日、報道関係者向けに電気自動車(EV)「ゴルフ blue-e-motion(ブルーeモーション)」の試乗会を開催し、独フォルクスワーゲンの電動モビリティ戦略を説明した。

 前編ではゴルフ ブルーeモーションの試乗インプレッションを、後編ではエレクトリック・モビリティ戦略についてリポートする。

Dr.クレープス

多様なパワートレーンで環境・エネルギー問題に対応
 このイベントのためにわざわざ来日した独フォルクスワーゲンのDr.ルドルフ・クレープス 電気駆動担当グループ執行役員は、実は、いまやダウンサイジングエンジンの代名詞とも呼べるTSIエンジン(直噴ターボエンジン)の生みの親の1人でもあると言う。パワートレーンの最先端を切り開く人なのだ。

 G8諸国が2050年までにCO2排出量を90%削減するというターゲットを掲げている現在、環境問題やエネルギー問題への対応策としてフォルクスワーゲン グループは、いくつかの自動車メーカーグループと同様に、多様なパワートレーンや燃料を用意している。

 高効率の内燃機関(ICE)は、前述の直噴ガソリンターボや直噴ディーゼルターボに加え、CNG、LPG、「サンフューエル」と呼ばれるバイオマスなど、多彩な燃料に対応する。電動パワートレーンは100%バッテリーとモーターで動くEVのほかに、マイルド・ハイブリッドからフル・ハイブリッド、プラグイン・ハイブリッド、レンジエクステンダー付きEVといった各種ハイブリッドシステムを用意している。

環境エネルギー問題への対応にはエレクトリックモビリティが必要

 具体的には、前編にもあるように2013年に「up!」と「ゴルフ」のEV版を発売するし、ハイブリッドはすでに「トゥアレグ」やポルシェ「ケイマン」「パナメーラ」、アウディ「Q5」「A6」などが発売されている。2012年中には米国で「ジェッタ」のハイブリッド版を発売する予定だ。

 同社は現在のところEVを、「都市内のドライブに最適なソリューション」と位置づけている。一方で、長距離走行を重視する人もいれば、1台のクルマで都市内も長距離もこなしたい人もいる、と認識しており、後者にはプラグイン・ハイブリッドが最適と考えているようだ。

 フォルクスワーゲン グループは、2020年までに全世界の販売台数の3%を、こうした電動パワートレーン車両にすることを目標としている。

さまざまな電動パワートレーンを用意長距離・短距離双方に対応できるのはプラグイン・ハイブリッド。プラグインハイブリッド車「ゴルフ ツインドライブ」による実証実験も行っている技術革新が続く内燃機関も「未来は明るい」と言うDr.クレープス。もっともこの気筒休止システムについては「8気筒ならともかく、4気筒で成功するとは思わなかった」とのこと。1.4リッターツインチャージャーエンジンに気筒休止システムを装備した「ポロ ブルーGT」が発表されている

 

一握りのコンポーネントで、最大の多様性
 多様なパワートレーンを準備する同社だが、それに加えて、現代の自動車市場は、中国向けや北米向け仕様といったように、地域によって異なる製品が要求される。また周知の通り、フォルクスワーゲン グループには乗用車だけでも8つのブランドがある。つまり、非常に多品種を用意する必要があるわけだ。Dr.クレープスは「カスタマーの要求が多様化している。1つのソリューションで世界の顧客の個々の需要を満たすのは不可能になるだろう」と言う一方で、「この複雑性が自らの首を絞めることになる」とも言う。多品種の開発製造には、膨大なリソースとコストが必要になるからだ。

 また、電動パワートレーンのコストは、従来型パワートレーンの約5倍と言う。パワートレーンの電動化を進めるにあたっては、コストの壁も高い。

パワートレーンでなく、車両の形態も多様電動パワートレーンのコストは内燃機関の5倍
車種、パワートレーン、市場とブランドの数が増えていけばコストがかさみ「自らの首を絞めることになる」

 こうした状況に対応するのが新世代プラットフォーム「MQB(モジュラー トランスバース マトリクス)」だ。詳細は関連記事に譲るが、MQBは1つの横置きFFプラットフォームで「ポロ」から「パサート」までのセグメントをカバーし、パワートレーンやカーエレクトロニクスまでモジュラー化を進め、フォルクスワーゲン グループの全ブランドで使用する。

 Dr.クレープスによれば「ごく一握りのコンポーネントで、最大の多様性を生み出す」のがMQBだ。「パワートレーンのほぼすべて、ガソリン、ディーゼル、ハイブリッド、電動、さらにはサンフューエル、CNG、エタノール、LPGといったいろいろなエネルギー貯蔵システムが必要なものにも対応できる。ほんの少し変更を加えることで、ゴルフでも、全く異なるパワートレーンを搭載したモデルを提供できる」。

 また「グループの異なるブランドを横断的にカバーできるよう、モジュールを集約する。コストカットの最良の方法は、モジュラーシステムをすべてのブランドで使うこと」。その結果「1つのコンポーネントをすべてのブランドで共有することで、スケールメリットを活かす。大量生産により、コスト削減が可能になる」。これにより、高価な次世代パワートレーンも導入しやすくなる。それがMQBの狙いだ。

MQBはシャシーだけでなく、パワートレーンなどもモジュール化し、柔軟に対応するMQBのモジュールはグループ横断で使用し、コストを下げる電動パワートレーンもシンプルにし、コストを下げる

 

インフラにも目配り
 さてEVやプラグイン・ハイブリッドのような電動車両には、インフラの問題がつきまとう。ブルーeモーションのフィールドテストでも、平均的な1日の走行距離が50~60kmであるにも関わらず、ブルーeモーションの150kmの航続距離に懸念を持ち、航続距離の伸長と合わせて、充電設備の拡充を求める声が多かったと言う。

 さらに、発電の方法も問題になる。いわゆる「ウェル トゥ ホイール(油田から自動車まで)」を通してみた場合のCO2排出量は、風力などのグリーン発電や原子力発電なら1gですむのに対し、天然ガスで95g、暖房用油で152g、石炭で190g、褐炭で219gと言う。

フィールドテストで収集した、ブルーeモーションの満足と不満インフラ整備が重要ウェル トゥ ホイールでのCO2排出量の比較

 とはいえ福島の事故以来、原子力発電からグリーン発電への流れは世界的に進んでおり、フォルクスワーゲン グループとしても、グリーン電力を利用するための投資を行っていると言う。「福島の事故は日本だけのことではなく、世界への影響も大きかった」(Dr.クレープス)。

 グリーン電力の問題は安定供給に難があることだが、これを補う製品として、フォルクスワーゲンは「EcoBlue」という家庭用小型コージェネレーションシステムを開発、販売している。

 EcoBlueは2リッターのCNGエンジンによる発電ユニットで、エンジンの排熱を暖房や給湯に利用する。熱効率が高く、CO2排出量の少ないこのユニットで、グリーン電力が少ない夜間などの電力需要を補うのが狙い。

 Dr.クレープスはEcoBlueについて「コージェネレーションシステムは、自動車のようにたくさんのパーツを使い、自動車に似ていることに注目した。エンジン、排気処理、熱交換システムなど、自動車業界が得意としてきた技術が含まれている」と述べた。

CO2を排出しない発電方法を目指すグリーン電力のムラをなくすため、電力を水素やメタンにして貯蔵するアイデア
グリーン電力が不足する時間はEcoBlue(右)で補う

(編集部:田中真一郎)
2012年 5月 31日